犬のリンパ腫とは?症状や治療法・早期発見のポイントについて解説

犬のリンパ腫とは?症状や治療法・早期発見のポイントについて解説

リンパ腫という病気を聞いたことがあるでしょうか? リンパ腫は、血液のガンと呼ばれる病気のひとつで、人間だけでなく、犬もなることがあります。中高齢の犬は特にそのリスクが高く、一度発症すると根治はとても難しいといわれています。この記事では、犬のリンパ腫の分類や症状、治療法などについて解説します。また、早期発見のポイントについてもご紹介しますので、愛犬がリンパ腫ではないかと心配な方は、ぜひ参考にしてみてください。

犬のリンパ腫とは

犬のリンパ腫とは

犬のリンパ腫とは、白血球の一種であるリンパ球が腫瘍化し、体内でコントロールができない程増殖する悪性腫瘍のことを指します。中高齢の犬によくみられ、一度発症すると根治が難しいとされています。

ある保険会社の調査によると、悪性腫瘍(ガン)は犬の死亡原因の第一位にあげられています。そのなかでも犬のリンパ腫は、悪性腫瘍全体の7〜24%を占めており、犬の腫瘍のなかでは発生頻度の高い病気といえます。

犬のリンパ腫の概要

一般的に白血球と呼ばれているものは、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球の5種類を総称したものです。この中のリンパ球が腫瘍化し、増殖してしまった状態をリンパ腫と呼びます。

発生年齢は6ヵ月齢から15歳齢と幅広い範囲で認められますが、一般的には中高齢(5〜10歳齢)の頃に発症します。性別差はありません。発生リスクの高い犬種は、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ボクサー、バセットハウンド、セントバーナード、シェルティ、シーズー、ダックスフンドなどが挙げられます。ただし、その他の犬種でも発症が認められています。

リンパ腫は全身をめぐる血液の細胞である白血球ががん化するため、体のほぼすべての組織に腫瘍が発生する可能性があります。発生場所によりいくつかの分類に分けられ、それによって症状も異なります。よくある症状としては、食欲の低下や体重減少、発熱、下痢、嘔吐、リンパ節の腫大などが挙げられます。

犬のリンパ腫の原因

犬のリンパ腫の原因は、いまだ解明されておらず、はっきりとしたことはわかっていません。現時点で可能性が示唆されているのは、特定の遺伝子変異が発症に関与しているのではないかという説です。また、遺伝的な要因や発がん物質の摂取などの可能性もあると考えられています。

犬のリンパ腫が見つかった場合の余命

犬のリンパ腫が見つかった場合の余命

リンパ腫は、基本的に完治することが難しい病気です。ではリンパ腫を発症した犬の余命はどのくらいなのでしょうか? 放置した場合と、治療をした場合についてご説明します。     

リンパ腫を放置した時の余命期間

ある研究によると、リンパ腫を発症した犬を治療せずに放置した場合、ほどんどの犬が4〜6週間後に死亡するとの報告があります。リンパ腫は一般的に進行の早い病気であるため、そのままの状態であればすぐに悪化して死に至るケースも少なくありません。ただし、なかにはまれに、とてもゆっくり進むタイプのリンパ腫も存在します。

リンパ腫を治療した場合の余命期間

では、リンパ腫の治療を行った場合は、犬の余命はどのくらい延びるのでしょうか? 犬のリンパ腫で治療を行なった場合、1年生存率が50%、2年生存率が20%、3年生存率が10%といわれています。ただし、これはいくつかリンパ腫の分類がある中の多中心型のリンパ腫の場合であり、タイプや悪性度、治療内容などによって予後が変わることに注意が必要です。

犬の多中心型リンパ腫に効果が高いとされているウィスコンシン-プロトコール(ウィスコンシン大学が提唱した抗がん剤の多剤併用療法)を行なった場合、寛解に持ち込めた犬に限れば平均余命は1年だったという報告もあります。ただし、この治療法は6ヵ月に及ぶ長い治療計画で、強烈な副作用が出ることもあり、実際には途中でリタイアした犬もいることを考えると、適切な方法というには賛否がわかれるかもしれません。

犬のリンパ腫における分類別の症状

犬のリンパ腫における分類別の症状

犬のリンパ腫にはさまざまな分類があり、タイプによって症状も異なります。ここからは犬のリンパ腫にはどのようなタイプのものがあるかをご紹介します。

多中心型リンパ腫

犬のリンパ腫のうち、80%を占めるといわれているのが多中心型リンパ腫です。これは、体の表面にあるリンパ節が腫大し、進行するにしたがって肝臓、脾臓、骨髄などにも広がっていくタイプの病型です。発症すると、下顎や浅頸(せんけい)、わきの下、足のつけ根、膝の後ろなどの体表リンパ節が腫大するのが特徴です。症状としては、リンパ節の腫大のほか、体重減少、食欲不振、発熱などが挙げられます。

縦隔型リンパ腫

縦隔型リンパ腫または胸腺型リンパ腫は、犬のリンパ腫のうち5%程にみられるといわれています。縦隔とは左右の肺の間の空間で、心臓や気管、食道、大動脈などがここに存在しています。この胸のなかにある前縦隔リンパ節や胸腺に腫瘤が形成される病型です。腫瘤によって圧迫されたり、胸に水が溜まったりなどして呼吸困難などの症状が出ることがあります。また、高カルシウム血症がみられることもあります。

消化器型リンパ腫

消化器型リンパ腫は、犬のリンパ腫の10%程を占めるといわれており、多中心型リンパ腫に次いでみられるタイプです。小腸や結腸、胃などの消化器に腫瘍が発生します。腸管に病変が広がっていると、食欲の低下、体重減少、慢性的な嘔吐、下痢、黒色便、低タンパク血症などがみられます。

皮膚型リンパ腫

皮膚型リンパ腫は、皮膚にしこりや腫瘍が発生する病型で、犬のリンパ腫のなかでは5%未満というまれなタイプです。発症すると皮膚や粘膜に腫瘤を形成したり、皮膚に炎症や潰瘍、かさぶたなどがみられることもあります。

その他のリンパ腫

上記に挙げた部位以外にできるリンパ腫を節外型と呼びます。部位は眼、中枢神経系、骨、精巣、鼻腔、腎臓、筋肉、肝臓などが挙げられます。症状は発生した部位によって、眼であれば失明、中枢神経系であれば神経症状、腎臓であれば腎数値の上昇など、さまざまです。どのタイプもとてもまれな病型といえます。

犬のリンパ腫の診断方法

犬のリンパ腫の診断方法

では、犬のリンパ腫はどのようにして診断されるのでしょうか? ここでは犬のリンパ腫が疑われる際に行われる検査についてご紹介します。

血液検査

血液検査を行うことで全身の状態をより詳しく知ることができます。犬がリンパ腫である場合、貧血や血小板の減少、高カルシウム血症などがみられることが少なくないようです。肝臓や腎臓などの臓器にリンパ腫が発生していれば、それらに関する項目の異常が確認されることもあります。

レントゲン検査:エコー検査

レントゲン撮影やエコー検査を行うことで、体表リンパ節や胸の中、お腹の中のリンパ節の腫れがみつかることがあります。

細胞診

リンパ節が腫大している場合、リンパ節に直接針を刺して細胞を採取し顕微鏡で観察することでリンパ腫であるかどうかを判断します。細胞診よりも太い針で病変を取り出す針生検もあります。お腹の中のリンパ節が腫れている場合は、エコーや内視鏡を使いながら実施することもあります。

病理組織検査

手術によりリンパ節を摘出し、病理組織検査を行うことでより正確に診断することが可能です。針生検でリンパ腫が疑われる場合に実施されることがある検査です。

犬のリンパ腫の治療方法

犬のリンパ腫の治療方法

現在のところ、犬のリンパ腫の治療の目的は、根治(完治)ではなく症状を緩和させることにあります。リンパ腫によって起こる悪影響や全身症状を改善し、できる限り生活の質を維持していくことが目標となります。

犬のリンパ腫の治療には、化学療法、外科療法、放射線療法の三種類があります。また、このほかに、ガンによって食事から栄養が行き渡らなくなる現象を防ぐための食事療法などもあります。

化学療法(抗がん剤治療)

化学療法とは、抗がん剤を使用した治療法のことです。リンパ腫は全身性の疾患であるため、全身に薬効が期待できる化学療法が一般的です。使用される抗がん剤は多種多様で、その時点の犬の状態やリンパ腫の種類(分化型、TあるいはB細胞性、解剖学的部位、臨床ステージ)によって使用が決定されます。

基本的には数種類の抗がん剤を組み合わせ、あらかじめ計画された間隔で薬剤を投与することになります。期間は半年間をひとつの目安として、1週間から2週間に1回、抗がん剤の注射を行います。ただし、かなりの場合、抗がん剤には副作用があります。リンパ腫の治療よりも副作用の体の負担が上回ると、結果的に犬を苦しめることもありえます。愛犬の体力や年齢なども考慮し、どこまで治療を続けるかという重い選択を飼い主が迫られることもあります。

現在では、なるべく重大な副作用が出ないように、予防をしながら治療を進めることもできます。副作用のコントロールも含めて、治療の計画は担当医とよく相談して決めるようにしてください。

外科療法(手術)

外科療法とは手術のことを指します。リンパ腫は全身性疾患ですので、一般的には手術を適用することはありません。しかし、リンパ腫が1箇所のみに発生している場合は行われる場合もあります。例えば、皮膚に孤立して腫瘤があったり、眼球や腹腔内に孤立した病変がある場合などは、手術で病変を取り除き、がん細胞の数を減らすことは有効です。ただし、このような場合も、外科手術のみで治療を終えず、化学療法や放射線療法を併用して全身に治療を施していくことが必要となります。

放射線療法

放射線療法は、リンパ腫の病変へ放射線を照射する治療法です。こちらも手術と同じく、犬のリンパ腫の治療法としては一般的ではありません。しかし、リンパ球は放射線に対しての感受性が高いことから、腫瘍の範囲が限られている場合や、全身性であっても特定の病巣によって生活の質が著しく低下している場合などには、局所への照射も効果的とされます。

犬のリンパ腫を早期発見するポイント

犬のリンパ腫を早期発見するポイント

リンパ腫は放置しておくと短命に終わる危険性のある病気です。少しでも早期に発見して治療につなげることが犬の健康にとって適切な方法です。ここでは、犬のリンパ腫を早期に発見するポイントについて見ていきましょう。

リンパ節に腫れがないか日頃からチェックする

犬のリンパ腫の大多数を占める多中心型リンパ腫では、体の表面にしこりや腫れといった症状が出ることが増えます。しこりはすべてが悪性腫瘍とは限りませんが、1cm以上の大きさだったり、赤みや腫れを伴っている場合は注意が必要です。愛犬の体のリンパ節にしこりや腫れがないか、日頃からチェックをしてあげるようにしてください。

食欲不振や体重減少などの異変を見逃さない

初期のリンパ腫の場合、全身状態は問題ないこともありますが、元気や食欲がなくなってしまうこともあります。日頃から食欲や排せつ、睡眠など体調の変化に注意をし、以前に比べて食欲不振や体重減少などの異変がないかどうかに気をつけてください。また、発熱や嘔吐、下痢などの症状があった際は、なるべく動物病院を受診するようにしましょう。

定期的に健康診断を受ける

残念ながら、現在のところ犬のリンパ腫を予防する方法はありません。リンパ腫などのガンを早期に発見するためには、1年に1回程度の健康診断がおすすめです。定期的に検査をしていれば、異変が見つかった場合も、迅速な診断と治療を行うことが可能です。また、かかりつけの動物病院を持つことで、リンパ腫だけでなく、その他の健康状態を診てもらったり、何か不安なことがあれば相談することもできます。

まとめ

まとめ

リンパ腫は、明確な予防法がなく、一度発症してしまうと根治が難しい病気です。また、治療をしないと余命もとても短くなってしまいます。しかし、早期に治療につなげることで、愛犬との日常生活を少しでも長く維持することが可能です。そのためにも、日々のちょっとした変化を見逃さず、愛犬の健康管理に気を使ってあげてください。そして、体のしこりや体重減少など、気になる症状があればすぐに動物病院で診てもらうようにしましょう。

参考文献