「最近、猫が食べ物を吐くようになった…」「食事の後すぐに嘔吐する…」など、猫の食事に関する悩みを抱える飼い主さんは少なくありません。
このような症状の原因の一つとして、食道炎が考えられます。食道炎は猫にとっても辛い病気であり、原因や治療法を飼い主さんが理解しておくことで、早期発見や適切な対応が可能になります。
本記事では、猫の食道炎の症状や原因・予防方法を解説します。
猫が食道炎にかかったときにみられる症状

猫の食道炎では、食べ物を飲み込む際に不快感や痛みを感じる可能性があり、さまざまな症状が現れることがあります。嘔吐や食欲不振、よだれの増加、痛みによる鳴き声の変化、そして体重減少などが主な症状として挙げられます。
ここでは、猫が食道炎にかかった際に見られる5つの症状を具体的に解説します。
食べた後すぐに吐く
食道炎を患った猫は、食べた後すぐに吐いてしまうことがあります。これは、喉頭から胃までをつなぐ消化管である食道の粘膜が炎症を起こして腫れているため、食べ物がスムーズに胃まで届かないことが原因です。
食道の蠕動運動が正常に機能しないと、食べ物が食道内に停滞するため嘔吐してしまいます。食べ物を飲み込む際の不快感も、嘔吐を誘発する要因となっていることがあります。食べたものが未消化のままの嘔吐物は要注意です。
食欲不振
食道炎では食べ物を飲み込む際に食道で不快感を感じる場合があるため、完全に食事を拒否する場合もあれば、少量ずつ慎重に食べる場合もあります。また、普段より食事時間が長くなったり、食事の途中で何度も休憩を取ったりする様子が見られることもあるでしょう。
長期間にわたって食欲がないと、猫の健康状態に悪影響を及ぼす可能性があるため、食欲に変化が見られた場合は、早めに原因を探る必要があります。
よだれが増加する
猫が食道炎になると、よだれの分泌が増加することがあります。吐き気により唾液の分泌が促進されることや、痛みによって食べ物を飲み込みづらくなるのが原因です。通常の透明な唾液だけでなく、粘り気の強いものや、血液が混じっている場合は、症状が進行している可能性があります。
食事以外の時間帯でも、よだれを垂らしたり、口を何度もゴックンと動かしたり、首を伸ばしたりする仕草が見られることがあります。これは食道の炎症による不快感を和らげようとする行動です。
うなり声や痛みの表現が増える
猫は食道炎になると痛みや不快感のために、普段とは異なる鳴き方をすることがあります。特に食事中や食後に、うなるような低い声を出したり、痛みを訴えるような鳴き声を発したり、首を伸ばすような不自然な姿勢をとる場合は要注意です。
甘えん坊な性格の猫でも、触られることを嫌がったり、一人になりたがったりするなど、行動の変化が現れることもあります。夜鳴きが増すように感じる場合もあるかもしれません。
体重減少
猫は食道炎による嘔吐や食欲不振が続くと、徐々に体重が減少していくことがあります。体重減少は緩やかに進行するケースが大半のため、定期的な体重測定を行うことで、早期発見につながるでしょう。
食道炎の原因

異物の誤飲
猫が食道炎を発症する主な原因の一つが、異物の誤飲によるものです。特に魚の骨や鋭利な物体を誤って飲み込んでしまうと、食道の粘膜に傷がつき、炎症を引き起こすことがあります。
猫は好奇心が強いため、口に入ってしまうサイズのものを猫の生活空間に置かないよう、飼い主さんは注意しましょう。紐や糸、小さなおもちゃのパーツ類でも誤食する可能性があります。食道の粘膜はデリケートなため、小さなキズでも炎症を起こす可能性があります。
誤食した異物が長時間食道にとどまったり、食事の刺激でキズがひろがったりすれば、影響は続きます。注意しましょう。
薬の副作用
猫が薬を服用する際、スムーズに通過できなかった薬が食道に影響を与えることがあります。特に、錠剤のまま飲み込むタイプの薬や、溶け出すときに酸性になりやすい薬などでは薬による食道の炎症がおこりやすいです。
食道粘膜を保護するために薬と一緒に水を摂取させたり、薬を与える方法を工夫したりすることで食道炎の予防につながります。錠剤を粉末にして水に溶かしたり、食事に混ぜたりするなどで、食道への刺激を軽減させることができます。
胃液の逆流
胃液が何度も食道を通ることで食道に炎症を起こします。麻酔やチューブの刺激による嘔吐、頻回の嘔吐などで起こるのが一般的です。たまにあるヘアボールのはき戻し程度で起こることはあまりありません。
加齢や肥満、食道と胃のつなぎ目の筋肉(下部食道括約筋)の機能低下も逆流を引き起こしやすい要因になります。これらのリスクを軽減するには、適切な食事管理や体重管理が効果的です。
食道炎の診断方法

猫の食道炎を正確に診断するためには、複数の検査方法を組み合わせて診断します。一般的な検査方法は、飼い主さんからの詳しい症状の聞き取り、内視鏡による食道の直接観察、さらに血液検査による全身状態の確認などです。
それぞれの診断方法の内容を解説します。
飼い主さんへの問診
食道炎の診断において、まず重要となるのは、猫の暮らしぶりがわかる飼い主さんからの詳細な情報です。獣医師は、症状がいつから始まったのか、ほかにどのような症状が見られるのか、食事量の変化、異物を誤飲した可能性はないかなどを詳しく確認します。特に、嘔吐の頻度や他の症状の有無、体重の推移などは重要な情報となるため、飼い主さんはメモなどにまとめて伝えられるようにしておくとよいでしょう。
内視鏡検査
内視鏡検査は、食道炎の確定診断にもっとも有効な検査方法です。細い管状のカメラを口から挿入し、食道内部の状態を直接観察します。食道粘膜の炎症の程度、きずや潰瘍の有無、異物の存在などを詳細に確認することが可能となります。
内視鏡検査は全身麻酔下で行われるため、猫に負担をかけないように配慮が必要な検査です。検査結果は画像として記録され、治療効果の評価や経過観察にも活用されます。
血液検査
血液検査で、全身状態の評価を把握します。炎症の度合いは血液中の炎症マーカーの値で判断が可能です。感染症の有無や免疫状態、肝機能や腎機能など、健康状態を総合的に評価できます。特に、長期間の嘔吐や食欲不振による脱水や栄養状態の低下が懸念される場合は必ず行います。
食道炎の治療方法

猫が食道炎と診断されたときに行われる薬を解説します。薬が効くかどうかは個体差が出るため、症状の変化を観察しながら、個別に適切な投薬量や期間を調整していきます。
胃酸の分泌を抑える
食道炎の治療において重要なのが胃酸の分泌を抑えることです。胃酸過多の胃液が食道に逆流すると食道炎が悪化するため、制酸薬で胃酸の分泌を抑えます。
猫に投薬治療を行う際は、投薬スケジュールや用量を注意深く守ることも大切です。食欲が回復するまでは食事の内容を工夫し、消化によい食事を与えることも効果的といえます。
食道の粘膜を保護する
食道炎を起こした粘膜に慢性的な刺激が加わると、食道の狭窄やがんの原因にもなりかねません。食道の粘膜を保護する薬を内服し、回復を促します。
食道炎の予防方法

猫の食道炎を予防するためには、日常的な管理と注意が欠かせません。 適切な食事の選択と与え方・異物の誤飲防止に努めることで、食道炎のリスクを軽減できるでしょう。
ここでは、猫の食事を選ぶ際の注意点や異物の誤飲や誤食の対策を解説します。
食事選びに注意する
年齢や健康状態に合わせた適切なサイズのフードを選びましょう。大きすぎる固形物は食道をきずつける可能性があるため、必要に応じて小さく刻むなどの工夫が必要です。また、熱すぎる食事も冷ますなどしましょう。食事のときの十分な水分補給は、食道の通過をスムーズにして食道炎のリスクを低減するでしょう。
異物の誤飲・誤食に注意する
猫は好奇心旺盛な動物のため、さまざまなものを口にする習性があります。食道炎を予防するためには、異物の誤飲・誤食を防ぐ環境づくりが重要です。小さなおもちゃや紐、ビニール袋などは猫の手が届かない場所に保管しましょう。
食道炎を放置すると食道狭窄に

食道狭窄は、食道炎が重度になることで慢性炎症を起こした食道が肥厚したり、蠕動しにくくなったりすることで食物が物理的に通過しにくくなる病気です。固形物の飲み込みが難しく、流動食のような液状の食事以外は、呑み込めずに吐き出してしまいます。
食道炎は胃液による刺激や食べ物を何回も吐くことで傷をつけることで起こるため、早めの治療を心がけて食道狭窄をおこさないようにすることが大事です。
まとめ

食道炎の主な症状は、食直後の嘔吐、食欲不振、よだれの増加、うなり声や痛みの表現が増える、体重減少などです。原因として考えられるのは異物の誤飲や薬の副作用などであり、診断は内視鏡検査で行います。治療方法には、胃酸の分泌を抑える薬の服用や、食道粘膜を保護する薬の服用などがあります。猫の異変に気付いたら、飼い主さんはできるだけ早く獣医師に相談しましょう。