犬や猫のお口の健康を守るためには、歯磨きが重要です。飼い主さんのなかには、歯磨きをしなくてはいけないと思いつつ、自分ではできずに悩んでいる方も多いでしょう。犬や猫の歯磨きは、トリミングサロンにお願いする選択肢もあります。本記事は、犬や猫の歯磨きをトリミングサロンにお願いするメリットや注意点に加え、お家で歯磨きをできるようにするための3ステップなどをお伝えします。犬や猫の歯磨きに悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
トリミングサロンの歯磨きオプションの内容

トリミングサロンで歯磨きをしてもらいたいと思っても、トリミングサロン自体に行ったことがなく、どのようなところかわからず不安な方もいらっしゃるかもしれません。本章では、トリミングサロンで一般的に受けることができるメニューや、歯磨きオプションの内容について解説します。
トリミングサロンの基本的なメニュー
トリミングサロンは、見た目の美しさや清潔さ、健康維持を目的としたトリミングを行う施設です。基本的なメニューとして下記が挙げられます。
- ブラッシング
専用のコームやブラシで毛をとかし、毛の表面のほこりやもつれを取ったり、毛流れを整えたりします。ブラッシングには皮膚の血流を促す効果もあります。 - シャンプー
毛や皮膚の清潔のために、専用の薬剤を使用します。その子の毛質によって必要な子や、飼い主さんの要望に応じてリンスをすることもあります。一般的に、猫は自分で上手にグルーミングするため、シャンプーは必要のないことがほとんどです。 - カット
カットが必要な場合は、飼い主さんの要望に沿って、全身または部分的に毛を短くします。足裏などの細かい部分のカットはサロンによってはオプションになることもあります。 - 爪切り
爪が伸び過ぎていると、家具が傷ついたり、飼い主さんが引っ掻かれたりするリスクがあります。また、犬や猫自身も怪我をするリスクもあります。トリミングサロンでは、深爪にならないように慎重に爪切りを行います - 耳掃除
飼い主さんが掃除できる耳の外側だけでなく、イヤークリーナーなどを用いて耳のなかまで清潔にします。 - 肛門腺しぼり
肛門線に溜まった分泌物を押し出して清潔に保ちます。その子によって必要ない場合もありますが、体質や老齢によっては定期的にしぼってあげないと、肛門腺が破裂してしまうことがあります。 - 仕上げ
飼い主さんの要望に沿い、リボンなどの小物を使って見た目を美しく整えます。
トリミングサロンの歯磨きオプションの内容
最近のトリミングサロンでは、上記の基本的なメニューに加え、爪磨き、泥パックやハーブパックなどのパック系、マイクロバブルバス、肉球クリームなどさまざまなオプションが用意されています。
歯磨きオプションを導入するトリミングサロンも増えていて、自宅での歯磨きが難しい飼い主さんにとってはうれしいサービスです。
トリミングサロンでの歯磨きオプションは、ガーゼや歯ブラシでの歯磨きが一般的です。専用のペット用歯磨きペーストを使い、軽く歯を磨いて歯垢を落とすことを目的としています。しかしながら、一度ついてしまった歯石は歯磨きでは取れないので、無理な歯磨きは逆に歯肉を傷つけてしまい、炎症を起こしてしまう可能性があるため、注意が必要です。
口腔内へのジェルの塗布やスプレーなどのマウスクリーナーの塗布などを行うサービスや、歯磨きに慣れていない子向けに、歯ブラシに慣れる練習をしてくれるサービスもあります。
なかには、無麻酔での歯石除去サービスを提供するトリミングサロンもありますが、注意が必要なので後で詳しくお伝えします。
トリミングサロンで歯磨きをしてもらうメリット・デメリット

トリミングサロンでの歯磨きサービスには、メリットもあればデメリットもあります。本章では、サロンでの歯磨きサービスを受けるかどうかを迷う飼い主さんにとって、判断材料のひとつとなることを目的に、メリットとデメリットを解説します。
トリミングサロンでの歯磨きのメリット
トリミングサロンでの歯磨きの大きなメリットは、自宅で歯磨きをできない犬や猫でも定期的に口腔ケアを受けられることです。
歯磨きを練習している最中の犬や猫の場合、慣れない飼い主さんによる歯磨きではなく、常日頃から犬や猫を扱うプロのトリマーによるスムーズな施術によって、歯磨きへの抵抗感を下げることができる可能性もあります。
また、被毛のケアと同時に口腔内のチェックもできるため、早期に口腔トラブルを発見できるメリットもあります。
トリミングサロンでの歯磨きのデメリット
トリミングサロンでの歯磨きのデメリットは、歯磨きの内容がサロンやトリマーの技術によって差があることです。施術時間が短いため、十分なケアができない場合もあります。
また、どうしてもお口を開けない子などは、安全のために対応が難しいこともあります。さらに、正しい歯石除去や治療が必要な歯周病などのお口のトラブルは、トリミングサロンでは対応できません。
トリミングサロンで歯磨きをオーダーする場合の注意点

トリミングサロンに歯磨きをオーダーする際、歯石取りの提案を受けることもあるかもしれません。しかし、獣医師不在のサロンで、歯石を取るサービスを受ける際は、リスクが潜む場合もあります。また、犬や猫の性格によっては、事前のコミュニケーションが大切です。本章では、実際にトリミングサロンに歯磨きをお願いするときの注意点をお伝えします。
獣医師が在籍していないサロンでの歯石取りは要注意
歯石は歯磨きのみでは取り除くことができません。そのため、歯石取りという特別な処置が必要になります。
歯石取りには、スケーラーと呼ばれる専門の機器が必要です。スケーラーを用いた歯石取りは、診療行為にあたるため、獣医師の資格を持っていないと行うことができません。また、歯石を正しく除去するためには、全身麻酔が必要ですが、獣医師が在籍していないトリミングサロンでの歯石取りは無麻酔で行われます。
麻酔をかけずに歯石が取れると聞くと、飼い主さんにとっては、手軽で安心だと感じられるかもしれません。しかし、無麻酔での歯石除去は、大きなリスクを伴う行為です。
まず、無麻酔での歯石取りでは、表面はきれいにできても、歯周ポケットまでは処置できない(痛みが伴う場合がある)ため、歯周病などの病気を根本的に解決することはできません。そのため美容目的の歯石取りにとどまり、治療としての役割は果たせません。
一方、全身麻酔下で処置を行う場合は、歯石の除去だけでなく、歯周ポケット内の洗浄、外科的な処置や歯石除去後の歯の研磨処置まで行うことが可能なので、歯周病という歯の病気の根本的な治療ができます。
また、歯や歯茎を傷つけるリスクや死亡事故につながる可能性もあります。犬や猫は、口の中を触られることに大きな抵抗を持つ子が多いです。無麻酔で犬や猫の口腔内を処置すると、逃げようとしたりトリマーへの攻撃行動が誘発されたりする可能性があります。
実際に起きたトラブルの報告のなかには、歯科領域にとどまらず、股関節脱臼や椎間板ヘルニア、心不全などの全身に関わる事故や、死亡の報告もあります。
飼い主さんとしては、せっかく歯磨きのオプションをお願いするのだから、歯石除去も頼みたい気持ちになるでしょう。しかし、獣医師不在のトリミングサロンでは、こうした危険性がゼロではない点を考慮して、慎重な検討をおすすめします。
不安が強い子は事前相談が必要
犬や猫によっては、知らない場所で知らない人に触れられることなどに、強い不安を持つ子もいます。そのような子にとっては、トリミングサロンでの歯磨きは大きなストレスになることがあります。
特に、普段からお口のまわりを触られることに慣れていない子は、パニックを起こすおそれもあります。
無理に歯磨きをすると、大きな恐怖体験となり、飼い主さんによる自宅でのケアにも支障がでる可能性もあります。
こうした事態を避けるために、トリミングサロンに歯磨きをお願いする際は、犬や猫の性格や過去の経験、不安の程度などを詳しく伝え、トリマーがどのように対応できるかを相談しておくことが大切です。
必要であれば、すぐに歯磨きをするのではなく、段階的に慣らしていくトレーニングを受けることもよいでしょう。
トリミングの歯磨きだけでは足りない?きれいにならないときの対処法

歯石取りは獣医師による正しい処置を行わないと、本来のお口の健康にはつながりません。
無麻酔での無理な歯石取りは、口腔内を傷つけてしまい、逆効果な場合もあります。
トリミングサロンで歯磨きサービスを受けてもきれいにならない場合、歯石が十分取り切れていなかったり、すでに歯周病が進行していたりする可能性もあります。トリミングサロンでの歯磨きは、表面の汚れを落とす美容目的のケアであることを念頭に、こうした場合は迷わず動物病院を受診しましょう。
犬や猫の歯の健康のためには、トリミングサロンだけでなく、動物病院での処置や飼い主さんによる日々のケアが欠かせません。
口内を健やかに保つために飼い主ができること|歯磨きへの慣らし方3ステップ

犬や猫のお口の健康のためには、トリミングサロンでの歯磨きだけでなく、飼い主さんによる日常のホームケアも欠かせません。しかし、犬や猫の歯磨きは、飼い主さんにとっては簡単なケアではないでしょう。本章では、歯磨きのハードルを少しでも下げることを目的に、歯磨きへの慣らし方を3ステップに分けて解説します。ードルを少しでも下げることを目的に、歯磨きへの慣らし方を3ステップに分けて解説します。
歯磨きは最低でも3日に一度が基本
はじめに、歯磨きの頻度について解説します。歯磨きを初めから毎日しなくてはならないと考えると、難しいと感じてしまうかもしれません。慣れてしまえば毎日の歯磨きも負担にならなくなりますが、最初のうちは、3日に一度を目指すとよいでしょう。
なぜなら、犬や猫の歯に付着した歯垢は、2~3日で歯石に変わるといわれているからです。
歯垢のうちは、歯磨きでも取ることができます。しかし、歯石になってしまうと、すでにお伝えしたように、獣医師による処置が必要になります。
歯垢が歯石に変わる前に歯磨きで取り去るため、最低でも3日に一度の歯磨きをおすすめします。
ステップ1:口に触られることに慣れさせる
歯磨きへの最初のステップは、お口まわりを触れるようになることです。
お口まわりを触らせてくれるたびに、ご褒美のおやつを与えます。子犬や子猫の場合、抵抗が少ないため、子犬や子猫をお迎えした場合は、すぐにこうしたトレーニングをはじめるとよいでしょう。
成犬や成猫でも、ご褒美を与えながら慣らせば成功する可能性が高いです。お口まわりを触ることができたら、同じ要領で、ご褒美を与えながら唇をめくって歯や歯茎に触れる練習をしましょう。
ステップ2:ガーゼやシートで口内をきれいにする
ステップ1でお口のまわりやお口のなかを飼い主さんの指で触れるようになったら、指にガーゼや歯磨きシートを巻きつけて、指磨きをしてみましょう。指磨きでも表面の歯垢は取り去ることが可能です。このときに、シートなどを誤食してしまわないように注意しましょう。
また、犬や猫専用の歯磨きペーストなどを利用すると、口臭の改善なども期待できます。ただし、絶対に人用の歯磨き粉を使用してはいけません。人用の歯磨き粉に含まれることのあるキシリトールという成分が、犬や猫の健康を損なう可能性があるからです。
ステップ3:歯ブラシで磨く
指磨きだけでは、歯と歯の間の歯垢など細かい部分のお掃除ができません。指磨きに充分慣れたら歯ブラシでの歯磨きを練習しましょう。
歯ブラシは、犬や猫のお口のサイズに合ったものを選ぶことがポイントです。サイズが合わないと磨きにくく、犬や猫が痛みを感じることもあり、拒否感を持たれてしまいます。
はじめから歯磨きをするのではなく、まずは歯ブラシを噛ませてみましょう。犬や猫専用の味つきの歯磨き粉をつけておくと、好奇心で噛んでくれます。犬や猫の好きな味の歯磨き粉を探すとよいでしょう。
猫の場合、犬よりもさらに歯磨きが難しい場合があります。猫が活動的に遊んでいる時間ではなく、できるだけのんびりとまどろんでいるタイミングなどで挑戦するとうまくいくことがあります。
まとめ

本記事は、犬や猫の歯磨きに悩む飼い主さんに向けて、トリミングサロンでの歯磨きという選択について解説しました。本文中で触れたとおり、トリミングサロンでの歯磨きは、歯磨き習慣への第一歩として大変有用です。一方で、歯石取りには注意が必要ですし、トリミングサロンの歯磨きだけではケアが十分ではありません。飼い主さん自身による日頃のケアを行い、動物病院とも上手に連携して、犬や猫のお口の健康を守りましょう。
参考文献