愛犬の目が赤く充血していると、飼い主さんは、「何かの病気なのか」「すぐに病院に連れて行くべきなのか」と不安になります。なかには、発見や治療が遅れると視力低下や失明につながる疾患もあります。愛犬の目の健康を守るためには、適切な判断と早期対応が重要です。本記事では、犬の目の充血の見分け方、受診すべきサイン、考えられる病気と原因、検査・治療内容、費用の目安を詳しく解説します。
犬の目が充血しているときのチェックポイント

愛犬の目が充血していることに気付いたとき、飼い主さんが行うべきは、冷静に目の状態を観察することです。本章では、飼い主さんがまず確認すべき内容について詳しく解説します。
充血と出血を見分ける
犬の目が赤く見える原因には、主に充血と出血があります。まずは違いを理解しておくことが大切です。
充血とは、目の血管が拡張して血流が増加し、目が赤く見える状態です。主に白目(眼球結膜)部分に、以下のような特徴が見られます。
- 細い血管が走って見える
- 血管が浮き出たように見える
- 白目の上に赤い筋が見える
一方、出血とは、血管が何らかの原因で損傷し、血液が血管の外に漏れ出した状態です。以下のような見た目の特徴があります。
- 白目の一部または全体がべったりと赤く染まっている
- 血のような色がにじんで見える
- 血が溜まっているように見える
- (充血と違い)血管の走行は見えにくい
一般的には、出血の方が犬の目にとって深刻な可能性があり、速やかに動物病院を受診し、獣医師による診察・治療を受ける必要があります。しかし、犬の目が充血なのか出血なのかを飼い主さんが的確に見分けることは簡単ではありません。そのため、異変に気付いた段階で動物病院に相談し、受診することをおすすめします。
赤くなっている部位を確認する
犬の目が赤くなっているとき、まずは赤くなっている範囲と部位を観察しましょう。例えば、目の表面が赤くなっている場合は、感染、アレルギー、刺激を原因とする結膜炎や角膜炎を起こしているかもしれません。目の中が赤い場合は、前房出血や網膜剥離などによる眼内出血を起こしているかもしれません。眼内出血は失明につながるリスクが高く、早急な受診が必要です。
これらはあくまで1例ですが、赤い部分や範囲を確認することは、原因の推測や緊急性の判断の参考になります。
犬の目が充血しているときの受診サイン

犬の目が赤くなっていることに気付いたときは、基本的には動物病院を受診し、獣医師の診察を受けることが望ましいです。また、動物病院のなかには、眼科を専門にしている動物病院もあります。犬の目が赤いときに同時に観察する項目を把握しておくことで、かかりつけ医ではなく、専門病院を受診するべきかの参考になります。本章では、目の赤みのほかに観察すべきサインについて解説します。
目やにや涙の量が増えた
目やには、涙に含まれるムチンという物質と、新陳代謝によって剥がれ落ちた細胞や老廃物が混ざり合ったものです。少量であれば生理現象ですが、普段より明らかに目やにや涙の量が増えている場合は、何らかの異常が起きているサインです。
特に、目やにが大量で、色が黄色や緑色の場合、感染を起こしているかもしれません。また、涙の量が増えているときは、角膜や結膜が外的刺激により傷つき、炎症を起こしていることも考えられます。
目をこすっている
犬が手や足で頻繁に目をこすっているときは、目に違和感を持っているサインです。
以下のような原因が挙げられます。
- ゴミ、花粉、逆さまつげによる刺激
- 結膜炎や角膜炎による痛みや痒み
- チェリーアイ(瞬膜腺と呼ばれる組織の脱出)
- 白内障や緑内障による目の見えにくさや違和感
また、しきりに目をこすり続けると、刺激によって角膜を傷つけてしまう可能性もあります。
まぶしそうにする、瞬きが多い
目が赤くなっていることに加え、犬の瞬きが多くまぶしそうにしているときは、ぶどう膜炎、緑内障、乾性角結膜炎や角膜潰瘍などで痛みを感じているかもしれません。これらの病気は、重度になると失明するおそれもあり、早急な受診が必要です。
目の開け方がおかしい、しょぼしょぼしている
犬が目をうまく開けられず、しょぼしょぼしているときは、単純に眠いだけという可能性もありますが、目の不調のサインかもしれません。不調の原因として以下のようなものが挙げられます。
- 眼瞼内反症(まぶたが内側に入り込む)による痛み
- 角膜の傷や潰瘍による強い痛み
- 緑内障による眼球内の圧上昇
- ドライアイによる不快感
片目だけの症状の場合は、緑内障や外傷の可能性もあり、早急に治療が必要な場合もあります。
元気がない、食欲不振など全身症状を伴う
一般的に、症状が目のみに限局している場合は、目の疾患や怪我を考えます。しかし、目の充血に加えて、元気がない、食欲が低下しているなどの全身症状を認める場合は、悪性リンパ腫や血液疾患などの全身疾患が原因かもしれません。
愛犬の仕草や症状だけで、原因を特定することは難しいですが、異変に気付くヒントになります。
犬の目が充血しているときに考えられる病気

犬の目の充血は上述のとおり、多くの眼疾患の症状として見られます。角膜炎やアレルギー反応のように軽症なものから、緑内障や網膜剥離のように失明のリスクがある病気までさまざまです。本章では、知っておくべき代表的な眼疾患を解説します。
網膜剥離
目の中には網膜という組織があります。目の内側に位置する薄い膜です。網膜はカメラに例えるとフィルム部分にあたり、目に入った光が網膜で像を結ぶことで脳へと信号が伝わり映像が映し出されます。網膜剥離とは、この網膜が何らかの原因により眼球から剥がれてしまった状態です。網膜剥離には剥離の仕方で以下のような種類があります。
- 裂孔原性網膜剥離:網膜に穴が開きその部分から目の中の水分が入り剥がれ落ちる
- 滲出性網膜剥離:高血圧や炎症によって網膜の下の部分に溜まった液体により剥がれ落ちる
- 牽引性網膜剥離:外傷などが原因で網膜が物理的に引っ張られることで剥がれ落ちる
網膜剥離は、物理的な刺激でも起こりますが、高血圧症、甲状腺疾患、腎疾患などが原因で起こるとされています。網膜の血管が破れると、目に充血を起こすことがあります。治療が遅れると失明することもある恐ろしい病気です。
以下のような症状が見られたときは、網膜剥離の可能性があるため、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
- 急に目が赤くなった
- 瞳孔の大きさが左右で違う
- ものによくぶつかる、階段の上り下りができなくなった
眼内腫瘍
目の中に腫瘍が形成される病気です。主にぶどう膜と呼ばれる、虹彩、毛様体、脈絡膜という目の中の組織が腫瘍の発症として多いとされています。悪性黒色腫、虹彩毛様体腫瘍、リンパ腫などがあります。目に見えない内部の部分で腫瘍が発生していると発見が遅れる傾向にあり、目の充血や眼球の拡大で検査をするなかで、偶発的に発見されることもあります。進行すると治療は眼球摘出を余儀なくされる疾患であり、早期発見が大切です。
結膜炎
まぶたの裏側に存在する結膜が炎症を起こす病気です。犬の目のトラブルとして頻度の高い疾患の一つです。結膜炎の原因には感染性のものと非感染性のものがあります。
感染性結膜炎の原因としては、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫が挙げられます。非感染性結膜炎の原因としては、アレルギー(花粉、ハウスダスト)、異物(砂、毛など)、乾燥(ドライアイ)、まぶたの異常などです。一般的には数日で軽快していきますが、症状が改善しない場合はほかの原因を考える必要があります。
緑内障
緑内障は、眼球の中に存在する房水という水分の循環異常により、目の圧力である眼圧が上昇する疾患です。進行すると視神経が損傷し失明するリスクがある病気ですが、初期には症状がみられないこともあり発見が遅れることが少なくありません。
目の充血、涙の増加、目を頻繁にこする、などを初期症状として認めることがあるため、疑わしいときは速やかに動物病院を受診しましょう。
角膜炎
角膜とは、目の表面にある透明な組織であり、黒目の部分にあたります。角膜が何らかの刺激や感染を原因として炎症が起きている状態を角膜炎といいます。目の充血のほかに、涙の増加、光をまぶしがる仕草などを認めます。
ブドウ膜炎
ぶどう膜に炎症を起こしている状態です。ぶどう膜炎は痛みを伴うため、犬が瞬きをしきりにするようになったり、目を気にして触ったりします。ぶどう膜炎は治療をせずにいると、白内障や緑内障などの重大な合併症を引き起こすため、早期発見・治療が大切です。
眼瞼内反症
眼瞼内反症は、本来外向きになっているまぶたが内向きになり目に刺激を与えている状態です。先天的なまぶたの構造が原因で起こることや、目やまぶたに怪我をした部位が瘢痕を形成する段階で起こることもあります。
アレルギー
花粉やハウスダストなどが目の刺激となりアレルギー反応を起こしている状態です。充血のほかに、涙の増加や、目を頻繁にこする仕草を認めます。毎年同じ時期にこうした症状を認めている場合は、特にアレルギーによる症状が考えられます。
犬の目が充血しているときに考えられる病気以外の要因

目の充血は必ずしも病気が原因とは限りません。一時的な要因で充血することもあります。本章では、病気以外の充血の原因について解説します。
異物が入っている
ゴミ、埃、砂、まつ毛などの異物が入りとどまると、目は一時的に充血を起こします。異物が小さい場合は、涙によって目の外に排出されます。しかし、異物のサイズが大きい場合や、手や足で触った刺激によって、まぶたの裏側に入りこみ炎症を引き起こすことがあります。
一時的に興奮している
犬が興奮したり、怒ったりしているときに、一時的に目が充血することがあります。このときは、充血のほかに痛みや目の違和感は認めません。そのため、目をこすったり気にしたりする仕草はなく、時間経過とともに治ります。しかし、しきりに目を気にしたり、興奮がおさまって充血がおさまらなかったりするときは、別の原因を疑います。
犬の目が充血しているときに行われる検査と治療

上述したとおり、犬が充血する原因は多岐にわたります。視診だけで特定できない疾患も多く、動物病院では、必要に応じてさまざまな検査を行います。本章では動物病院で行う検査方法や治療法を解説します。
検査方法
まずは、問診、視診によって症状の詳細を確認し、必要に応じて以下のような検査を行います。
- 眼底検査
目の奥にある網膜、視神経乳頭、眼底の血管を観察します。 - 細隙灯顕微鏡検査
スリットランプという顕微鏡を使用し、主に結膜、角膜、水晶体、前房を観察します。角結膜炎、ぶどう膜炎、白内障などを疑う際に行います。 - フルオレセイン染色
特殊な染色液を用いて、角膜上皮の欠損や傷を調べます。健康な角膜は染まらないため、角膜潰瘍を疑う際に行います。 - 眼圧測定
トノベットと呼ばれる、動物用の特殊な機器を用います。角膜に瞬間的に機械が接触することで眼圧が測定できます。角膜への刺激は少なく、麻酔薬を使用せずに測定が可能です。眼圧が上昇する緑内障やぶどう膜炎を疑う際に行います。 - 涙液量測定
紙の検査紙を用いて、涙の量を測定します。涙の分泌異常をきたす結膜炎などの原因を調べる際に有効です。
このほかに、全身疾患を疑うときは、血液検査や画像検査を必要に応じて行います。
治療法
原因に応じて以下のような治療が行われます。
- 点眼薬:抗生物質、涙液補充、眼圧低下、抗炎症など、原因に応じた点眼薬を選択します。
- 外科的治療:異物の自然排出が期待できない場合や、悪性腫瘍などの場合に選択します。
- 内服治療:重度の感染性結膜炎やぶどう膜炎などで選択されます。
犬の目の充血で受診した際にかかる費用の目安

目の充血で動物病院を受診した際にかかる費用は、検査の内容や治療によって大きく異なります。診察にかかる費用には、初診・再診料、検査費用、治療費があります。
初診・再診料は、動物病院を受診した際にかかる費用です。診察料やカルテ作成料が含まれます。一般的に約1,500円〜3,000円が相場です。再診料は初診よりも少し安く、500円〜2,000円程度が相場です。
検査費用は、検査の種類によって大きく異なります。眼科疾患を疑った際に行う検査費の目安を挙げます。動物病院により異なりますが、以下が一般的な相場の目安です。
- 眼底検査:2,000円〜3,000円程度
- 細隙灯顕微鏡検査:1,500円〜3,500円程度
- フルオレセイン染色検査:1,000円〜2,200円程度
- 眼圧検査:1,500円〜2,500円程度
- 涙液量測定検査:800円〜1,500円程度
治療費用も、内容によって大きく異なります。以下にそれぞれの治療費の目安を挙げます。
- 点眼薬:1,000円〜2,000円程度
- 外科的治療:数万〜数十万円
- 内服治療:1日200〜300円程度×日数
目の充血の中で頻度の高い結膜炎では、治療費に約5,000円〜15,000円を目安と考えるとよいでしょう。また、ペット保険に加入している場合は保険が適用になる可能性があるため、動物病院で確認しましょう。
まとめ

犬の目が赤いときは、一時的で軽症なものから、失明リスクのある重症なものまで原因はさまざまです。充血と出血の違い、目の赤み以外にみられやすい症状を把握しておくことは、愛犬の異変に気付くヒントになります。重症化リスクのある疾患でも早期に動物病院を受診し治療を受けることで重症化を防ぐこともできます。本記事が愛犬の目の健康を守るために少しでもお役に立てば幸いです。
参考文献