愛犬や愛猫の健康を守るために予防接種は欠かせません。動物病院ではさまざまな感染症から大切なペットを守るワクチン接種を行っています。
一方で、初めて犬や猫を飼う方は、どのワクチンをいつ接種すべきか迷うケースも少なくありません。
本記事では犬と猫に必要な予防接種の種類や適切な接種時期、料金相場を詳しく解説していきます。
動物病院で行う予防接種の基本

予防接種は、ペットの健康管理に関して重要な医療行為の一つです。
動物病院では、獣医師がペットの健康状態を確認したうえで、適切なワクチンを選び接種します。
犬と猫では必要なワクチンの種類や接種時期が異なるため、それぞれの特性を理解しておくことが大切です。
予防接種の目的と必要性
予防接種の主な目的は、感染症の発症を防ぐか症状を軽減させることにあります。
ワクチンを接種すると体内に抗体が作られ、病原体が侵入してきた際に素早く対応できるようになるのが特徴です。
特に子犬や子猫は免疫力が未発達なため、母親からの移行抗体が減少する生後2〜3ヶ月頃からワクチン接種を開始する必要があります。
また多頭飼いやペットホテルの利用、ドッグランでの交流など、ほかの動物との接触機会がある場合は感染リスクが高まるため予防が欠かせません。
義務接種と任意接種の違い

犬の予防接種には法律で定められた義務接種と飼い主の判断で行う任意接種があります。
狂犬病予防法により、生後91日以上の犬には狂犬病ワクチンの接種が義務付けられており、毎年1回の接種と市町村への登録が必要です。
一方で混合ワクチンは任意接種ですが、パルボウイルス感染症やジステンパーなど致死率の高い病気から守るため、獣医師が接種を推奨しています。
猫の場合はすべてのワクチンが任意接種ですが、感染症リスクを踏まえて適切な接種計画を立てることが重要です。
犬に必要な予防接種の種類

犬の予防接種は、狂犬病ワクチンと混合ワクチンが基本です。
動物病院では生活環境や地域の感染症発生状況を考慮して、個々に応じたワクチンプログラムを提案してくれます。
室内飼いか屋外飼いか、散歩の頻度やほかの犬との接触機会などによって必要なワクチンが異なるため、注意が必要です。以下では、犬に必要なワクチンを説明します。
狂犬病ワクチン
狂犬病ワクチンは、日本で唯一法律により接種が義務付けられているワクチンです。
狂犬病は発症するとほぼ死亡する恐ろしい人獣共通感染症で、日本では1957年以降国内での発生はありませんが、アジア諸国では現在も感染例が報告されています。
生後91日以上の犬は飼育開始してから30日以内に初回接種を行い、その後は年に1回の追加接種を受ける必要があります。
接種後は市町村から交付される注射済票を保管することが法律で定められており、首輪などに装着することが望まれています。違反した場合は200,000円以下の罰金が科せられる可能性があるため注意が必要です。
混合ワクチン(5種・7種・8種など)

混合ワクチンは、複数の感染症を同時に防ぐことができるワクチンです。
5種混合ワクチンにはジステンパー・パルボウイルス感染症・犬伝染性肝炎・アデノウイルス2型感染症・パラインフルエンザウイルス感染症が含まれています。
7種混合ではこれらに加えてレプトスピラ感染症の2種類が追加され、8種や10種になるとレプトスピラの血清型がさらに増えるのが特徴です。
都市部で室内飼いの場合は5種混合で十分なケースもありますが、山や川などアウトドアに連れて行く機会がある場合は、レプトスピラ感染症も予防できる7種以上の接種が推奨されます。
追加で推奨されるワクチン
基本的な混合ワクチン以外にも、生活環境によって追加接種が推奨されるワクチンがあります。
一例として、ケンネルコフの原因となるボルデテラ・ブロンキセプティカに対するワクチンは、ペットホテルやドッグランを頻繁に利用する犬に推奨されるワクチンです。
追加ワクチンは動物病院で相談のうえ、必要性を判断して接種スケジュールを決めていきます。
猫に必要な予防接種の種類

猫の予防接種はすべて任意ですが、感染力の強い病気から守るうえで重要な役割を果たします。
特に子猫の時期は免疫力が弱く重症化しやすいため、適切な時期にワクチン接種を行うことが大切です。
室内飼いか外出する猫か、多頭飼いかによって必要なワクチンの種類を選択していきましょう。以下では、猫に必要なワクチンを説明します。
猫ウイルス性鼻気管炎ワクチン
猫ウイルス性鼻気管炎は、猫ヘルペスウイルス1型による感染症で、くしゃみ・鼻水・目やに・発熱などの症状が現れます。
特に子猫や高齢猫では重症化しやすく、肺炎を併発すると命に関わることもあります。
このウイルスは感染力が強く、回復後も体内に潜伏して免疫力が低下したときに再発する点が特徴です。
3種混合ワクチンに含まれており生後8週齢頃から接種を開始し、初年度は3〜4週間隔で2〜3回接種したのち、年1回の追加接種で免疫を維持します。
完全室内飼いでも飼い主の衣服や靴を介して感染する可能性があるため、接種が推奨されています。
猫カリシウイルス感染症ワクチン

猫カリシウイルス感染症は、口内炎や舌炎を症状とする感染症で、発熱・食欲不振・よだれなどの症状が現れます。
重症化するとお口のなかに潰瘍ができて痛みのため食事ができなくなり、脱水や栄養失調に陥ることもあります。
このウイルスは変異しやすく、複数の株が存在するため、ワクチンを接種しても完全に防ぐことはできません。
しかし、症状の軽減効果は期待できます。3種混合ワクチンに含まれており、猫ウイルス性鼻気管炎と同様のスケジュールで接種します。
多頭飼いの環境では感染リスクが高まるため、計画的な接種が欠かせません。
猫白血病ウイルスワクチン
猫白血病ウイルス(FeLV)は、免疫不全・貧血・リンパ腫などを引き起こす重篤な感染症です。
感染猫との唾液や血液、母乳を介して感染し、一度感染すると完治が困難で3年以内に死亡するケースが少なくありません。
外出する猫や多頭飼いで新しい猫を迎える場合は、事前に血液検査でFeLV陰性を確認してからワクチン接種を行います。
初回は8週齢以降に2〜4週間隔で2回接種し、その後は年1回の追加接種を継続します。
完全室内飼いでほかの猫との接触がない場合は必須ではありませんが、脱走のリスクを考慮して接種を検討することも大切です。
動物病院で予防接種を受ける適切な時期

予防接種の効果を発揮させるためには、適切な時期に接種することが重要です。
特に子犬や子猫の初回接種は母親からの移行抗体の減少時期を考慮して計画的に行う必要があります。
成犬や成猫になってからも定期的な追加接種により免疫を維持し、旅行やペットホテル利用時には事前の接種確認が求められるため注意しましょう。以下で、詳しく解説します。
子犬・子猫の初回接種スケジュール
子犬の初回混合ワクチンは生後6〜8週齢から開始し、3〜4週間隔で合計3回接種するのが標準的なプログラムです。
最後の接種は16週齢以降に行うことで、母親からの移行抗体の影響を受けずに免疫獲得が期待できます。
狂犬病ワクチンは生後91日以降に接種し、その後は毎年の追加接種が必要です。子猫の場合も生後8週齢頃から3種混合ワクチンの接種を開始し、3〜4週間隔で2〜3回接種します。
初回接種期間中は免疫が不完全なため、ほかの動物との接触を避け、最終接種から2週間程度経過してから外出やほかの猫との接触を許可するのがよいでしょう。
成犬・成猫の追加接種と年1回のワクチン
初回接種シリーズが完了した後は、年1回の追加接種により免疫を維持します。
狂犬病ワクチンは法律により毎年の接種が義務付けられていますが、混合ワクチンに関しては、抗体価検査による接種間隔の調整も可能です。
WSAVAのガイドラインではコアワクチンの接種間隔を3年とする提案もありますが、日本の環境や製品の承認状況を考慮して動物病院では年1回の接種を推奨しています。
高齢になると免疫力が低下するため、健康状態を見ながら獣医師と相談して接種計画を立てることが大切です。
シニア期に入ったペットでは、体調を細かく観察しながら接種の可否を判断していきます。
旅行やペットホテル利用前のタイミング

ペットホテルやドッグランの利用時には、ワクチン接種証明書の提示を求められることがほとんどです。
施設によって要求されるワクチンの種類は異なりますが、狂犬病ワクチンと5種以上の混合ワクチンの接種から1年以内であることが一般的な条件です。
旅行やペットホテルの予約が決まったら、接種履歴を確認し必要に応じて2週間以上前に追加接種を済ませておきます。
初めてワクチンを接種する場合は、接種後2週間程度で十分な免疫が形成されるため、利用予定日から逆算して計画的に接種スケジュールを組むことが重要です。
急な外泊が決まった場合でも対応できるよう、日頃から接種記録を整理しておきましょう。
動物病院で行う予防接種の料金相場

予防接種の料金は動物病院によって異なりますが、一般的な相場を把握しておくと役立ちます。
狂犬病ワクチンは3,000円前後が相場で、これに注射済票交付手数料550円が加わります。
犬の混合ワクチンは5種で5,500円、7種で6,600円、10種で9,900円程度が目安です。
猫の3種混合ワクチンは3,300〜6,600円、5種混合は5,500〜7,000円、猫白血病ウイルスワクチンは3,000〜6,000円程度です。
初診料や再診料が別途かかる場合もあり、健康診断を同時に行うと追加料金が発生します。
地域や病院の規模によって料金は異なりますが、極端に安い場合は保管状態や有効期限を確認することも大切です。
ペット保険は予防接種を補償対象外としていることがほとんどなため、年間の予防医療費として計画的に準備しておくことをおすすめします。
予防接種の前後で注意すべきポイント

予防接種を行うためには、接種前後の体調管理と観察が重要です。
ワクチンは健康な状態で接種することで効果を発揮し、副反応のリスクも抑えられます。
接種前の健康チェックから接種後の経過観察まで、飼い主が知っておくべきポイントを以下で解説するので確認しておきましょう。
接種前に健康状態を確認する
ワクチン接種は健康な状態で行うことが原則です。
接種前日から当日にかけて食欲や排便、排尿の状態を観察し、普段と変わりがないか確認します。
発熱や下痢、嘔吐などの症状がある場合は接種を延期し、体調が回復してからあらためて接種日を設定しましょう。
妊娠中や授乳中の場合も原則として接種を避け、出産後に体調が安定してから行います。
持病がある場合や投薬中の場合は、事前に獣医師に相談して接種の可否を判断してもらいます。
初めての動物病院では問診票に既往歴やアレルギー歴を正確に記入し、不安な点があれば遠慮なく質問する姿勢が大切です。
アレルギー反応のリスクを理解する

ワクチン接種後にはまれにアレルギー反応が起こることがあります。
軽度の反応として接種部位の腫れや発熱、食欲低下などが見られることがありますが、1〜2日で自然に回復するケースがほとんどです。
重篤なアナフィラキシーショックは接種後15分以内に起こることがあり、呼吸困難や虚脱、顔面の腫れなどの症状が現れます。
そのため接種後は30分程度院内で様子を見るか、すぐに病院に行ける場所で待機することが推奨されています。
過去にワクチンで副反応が出た場合は獣医師に伝え、ワクチンの種類を変更したり抗アレルギー薬を併用したりして対応してもらいましょう。
接種後は安静にして様子をよく観察する
接種当日は激しい運動を避け、安静に過ごすことが大切です。
シャンプーは接種前後2〜3日は控え、散歩も短時間で済ませるようにします。
接種後24時間は特に注意深く観察し、元気の有無・食欲の低下・嘔吐・下痢などの症状が現れた場合はすぐに動物病院に連絡しましょう。
接種部位を過度に舐めたりかいたりしないよう注意し、必要に応じてエリザベスカラーを装着する方法もあります。
多頭飼いの場合は接種した個体をほかから隔離して安静を保ち、ストレスを抑える環境を整えます。
接種後1週間程度は体調の変化に注意を払い、異常があればすぐに獣医師の診察を受けることが重要です。
まとめ

動物病院での予防接種は、愛犬や愛猫を感染症から守る効果的な方法です。
犬には法律で義務付けられた狂犬病ワクチンと、生活環境に応じた混合ワクチンの接種が必須です。
猫の場合はすべて任意接種ですが、3種混合ワクチンを基本として必要に応じて追加ワクチンを検討します。
子犬や子猫は生後6〜8週齢から計画的に接種を開始し、成犬や成猫になってからも年1回の追加接種で免疫を維持する必要があります。
接種前には健康状態を確認し、接種後はアレルギー反応に注意しながら安静に過ごすことが重要です。
定期的な予防接種により、大切な家族の一員であるペットの健康を長く守っていきましょう。
かかりつけの動物病院と相談し、それぞれのペットに合った予防接種プログラムを立てることが、健康で幸せなペットライフの第一歩です。
年間の予防スケジュールを立てて計画的に接種を進めることで、感染症のリスクから愛するペットを守り続けることができるでしょう。
参考文献
