すべての飼い主が愛犬に健康でいてほしいと願っていますが、言葉を話せない犬の健康維持は難しいことです。
飼い主は常に犬の状態に気を使い、病気のサインを見逃さないようにしなければなりません。
なかでも排便からはたくさんのサインを受け取ることができますが、その中の1つが痔のような症状が見られるかどうかです。
今回は犬の痔について解説していきます。
犬も痔になる?

犬は人間のように痔になることはありません。
2足歩行の人間は肛門に負担がかかりやすく、座ることで血液などの循環も悪くなります。
一方で4足歩行の犬はどのような姿勢でも肛門周辺への負担が少ないため、痔にはなりません。
しかし犬の肛門周辺にトラブルがないわけではないため、飼い主である以上、犬の健康に気を配る必要があります。
犬の肛門にはどのようなトラブルがあるのかを把握して、日常的に状態を観察すると犬の健康を守ることができます。
犬の痔の原因と治療方法

犬は痔に罹りませんが、痔のような症状が出てしまうことがあります。
痔のような症状が出ると犬は不快感を覚えて機嫌が悪くなったり、自分で対処しようとして肛門を床や地面にこすりつけたりします。地面に肛門を直接つけることで雑菌が侵入して感染症に罹る可能性があり注意が必要です。
肛門付近のイボ状のふくらみは、肛門嚢炎だけでなく肛門周囲腺腫瘍などの腫瘍性病変である可能性もあります。
飼い主は犬の異変を察知したら、早急な対応が求められます。
切れ痔の場合
切れ痔とは肛門付近の皮膚が裂けてしまった状態のことで、便に血が付着します。
犬も人間と同様に、硬便や下痢が原因で肛門周辺や肛門付近の腸壁が裂けて出血することがあります。犬の便に血液が付着しているときはまず、血液の色と量を確認しましょう。
鮮血と呼ばれる鮮やかな赤い血が少量付着している場合は経過を観察しますが、濃い赤色や黒色の血が見られるときは内臓出血の可能性があるため、すぐに獣医師に相談しましょう。
イボ痔の場合
イボ痔とは、肛門周辺の血管に瘤ができてイボのような状態になることです。
切れ痔は痛みや違和感を伴わないケースが主ですが、イボ痔は痛みを伴ったり排便時に肛門からイボが脱出したりして、不快感を覚えます。
犬にはイボ痔がありませんが、肛門嚢炎という似た症状の病気に罹ることがあるため、肛門付近にイボを発見したら注意が必要です。肛門嚢炎については後ほど詳しく解説していきます。
痔や便が硬い場合の飼い主の対処法

犬に痔のような症状が出たり、排便の状態がいつもと違ったりしたとき、飼い主はどのように対処すればよいのでしょうか。
犬の正常な便の状態は以下になります。
- 少し水分を含んでいるティッシュでつまめる硬さ
- 茶色~こげ茶色
- 1日1~2回
- 1回の排便で1~2本
黒色や白色などの色の変化や排便回数の増減、硬さの違いがある場合、犬の体に病気が隠れていることがあるため注意が必要です。
日頃から便の状態を観察すると、異変があったときに気が付くことができ、速やかな対応につながります。
また便に異常を感じたときは、携帯電話の写真機能で便の状態を記録しておくと、動物病院で診察を受けるときに獣医師に状態を詳しく伝えることができます。
水分摂取量を増やす
排便に水分がなく硬い状態であった場合、犬の体の水分量が低下していることが考えられます。特に夏は水分不足になることから、硬便だけではなく脱水や熱中症にも注意が必要です。
犬は基本的に汗をかきませんが、お口を開けて大きく呼吸して水分とともに熱を発散させています。
発散させることで水分が体から失われてしまうと排便が硬くなり、便秘の原因になったりして切れ痔のような症状が出てしまいます。
大量の飲水が苦手な犬にはこまめな水分摂取を促したり、犬用のスポーツドリンクや牛乳を飲ませたりして、犬に合った飲水方法を見つけましょう。
食事の内容を改善する
便の状態は食事の内容に左右されるため、食生活に食物繊維が足りていないと硬便になり、排便時の出血を引き起こします。
おやつのあげすぎを止めたり、ドッグフードを高繊維のものに変えたりして、健康な便を目指しましょう。
また繊維質が多すぎて下痢が続いてしまうと、脱水症状が出たり、腸壁が裂けやすくなったりします。
ドッグフードはさまざまな種類があるので、迷ったときはかかりつけの動物病院の獣医師に相談すると犬に合ったドッグフードを提案してもらえます。
適度な運動をさせる

運動量が不足すると筋力が低下し、排便時に力むことが難しくなるため、犬に合った運動を生活に取り入れて全身の筋力を維持しましょう。
運動には散歩やおもちゃ遊びなどがありますが、特に散歩は筋力維持効果のほかにもストレス発散や腸の活性化に効果を発揮します。
加齢や病気が原因で運動が難しい犬には、腹部をのの字の方向にマッサージして排便を促す方法もおすすめです。
マッサージはスキンシップを好む犬には効果的ですが、触られるのを嫌がる犬にはストレスとなり、便秘を悪化させるおそれがあります。
かかりつけの動物病院にも相談して、犬の状態に合った運動方法を見つけましょう。
肛門周りを清潔にする
硬便が続くと排便時に肛門周辺が傷付き、免疫力が低下していると細菌性皮膚炎や真菌性皮膚炎などの感染症にかかりやすくなります。
細菌性皮膚炎は主にブドウ球菌(黄色ブドウ球菌など)が原因で皮膚に炎症や膿が出たり、患部が腫れたりします。真菌性皮膚炎はマラセチアなどのカビが皮膚に付着して発症し、脱毛や強いかゆみが出る感染症です。
どちらも犬にとって不快な症状が出現するため、速やかに獣医師による診察が必要です。
菌の侵入を防ぐために、皮膚や体毛に付着した便をやわらかい布で拭き取ったり、肛門周辺をこまめにドライシャンプーで洗ったりして清潔に保ちましょう。
また、肛門周辺の毛は排便物が付きやすいため、長毛の犬はトリミング時に短く整えると清潔を保ちやすくなります。
痔以外で犬の肛門から出血する原因と症状

前述したとおり犬は痔に罹りませんが、出血が起きたり、イボができたりして痔に似ている症状が出現する場合があります。
症状を発見した場合は痔だから大丈夫だと放置するのではなく、病気の可能性を考えて状態をよく観察します。
出血やイボ以外にも肛門付近を床にこすりつけて痒がったり、肛門付近の腫れが見られたり、普段見られない行動が起きたら都度観察が必要です。
肛門周辺に異常が起きた場合、どのような病気が考えられるのか詳しく見ていきましょう。
肛門嚢炎
犬には肛門の左右に肛門嚢または肛門腺と呼ばれる器官があり、分泌物が溜まっています。
犬が犬同士でコミュニケーションを取るときに、臀部の匂いを嗅ぎ合うのは、分泌物の匂いを嗅いで相手を認識するためです。
分泌物は肛門嚢に溜まっていきますが、中型犬や大型犬は排泄物と一緒に自然に体外に排出できます。
しかし小型犬や排出が苦手な中型犬、大型犬は自力での排出が難しいため、トリミングなどで定期的に肛門嚢を絞って分泌物を排出させなくてはいけません。
排出がうまくいかずに分泌物が肛門嚢のなかに溜まってしまうと、細菌が繁殖して炎症が起こり、その状態を肛門嚢炎と呼びます。
肛門嚢炎を放置しておくと、溜まった膿が膿瘍というイボのような塊に変化することからイボ痔だと勘違いされてしまうことがあります。
しかし実際には肛門嚢内に膿が溜まった状態なので、イボを発見したら速やかに獣医師の診察を受けましょう。
また、肛門周辺のイボは肛門嚢炎だけでなく、肛門周囲腺腫瘍などの良性腫瘍であることもあるので注意が必要です。
大腸炎

排便に出血が混じっている場合は、大腸炎の可能性もあります。
大腸炎は大腸内で炎症が起こっている状態です。
- 下痢
- 嘔吐
- 食欲不振
- 腹痛
また、大腸炎の原因もさまざまです。
- 細菌感染
- 食事内容
- ストレス
- 冷え
大腸炎は短期間で終わる急性大腸炎が大半で、診察しなくても治ることがありますが、症状が激しかったり続いたりしていたら獣医師による診察を検討します。
症状が出ているときは、体を温めて水分を十分に与え、体調を整えることが大切です。
便秘
便秘のときにも肛門から出血します。便秘とは排便をスムーズに排出できていない状態のことです。
便が何日も出ないことだけが便秘ではなく、排便があっても少量だったり、硬便やスッキリしない感覚などで排泄時に困難を伴ったりする場合も便秘です。
便秘になると便が腸内に長く留まり水分を失って硬くなると、排出時に腸壁や肛門周辺を傷付けて出血が起こり、排便に鮮血が混じります。
また、便秘が慢性化するとまれに巨大結腸炎という結腸が拡張してしまう病気に罹ることがあります。
便の状態は毎回チェックしましょう。
痔以外で犬の肛門から出血したときの治療方法

犬が肛門から出血しているとさまざまな病気の可能性が考えられます。
自然治癒することもありますが、様子を観察していつもと違うと判断したら、速やかに動物病院で獣医師の診察が必要です。
検査をしないとわからない病気が潜んでいることもあります。ここでは、前述のような診断が出た際の治療方法を紹介します。
肛門嚢炎の場合
肛門嚢炎の場合、炎症の程度によって変わりますが、どのような場合でも肛門に溜まった分泌物や膿を排出させることが重要です。
軽い炎症の場合は通常の肛門絞りに加えて、炎症の原因になっている細菌を倒すために数日間抗生物質を内服します。
しかしイボができたり、肛門嚢が破れたりしている重度の状態では内服での完治は困難です。そのときは肛門嚢を切開して膿を排出させる外科手術をします。
切開しても慢性的に肛門嚢炎を繰り返してしまう場合は、肛門嚢自体の切除を検討しますが肛門嚢をどの程度切除するかどうかは状況によって変化します。獣医師と相談して判断を仰ぎましょう。
大腸炎の場合

炎症を引き起こしている原因物質を体外に排出してしまえば、短期間で症状が改善することがあります。体温の保持や脱水症状に注意しながら排泄を促しましょう。
抗炎症薬などの投薬に関しては排便とともに体外に排出されてしまう可能性があるので、獣医師の指示のもとで行います。
特に下痢止めは大腸炎の原因を体に残してしまい、慢性化させてしまう可能性があるので慎重に使用します。
大腸炎を繰り返す場合は食事療法も有効ですが、フードに入った繊維が腸を刺激してしまうこともあるので、症状が出ているときの食事は獣医師の指示に従いましょう。
また、大腸炎にはアレルギーや腸疾患などの病気が隠されていることがあるため、続く場合はかかりつけの獣医師に相談が必要です。
便秘の場合
便秘を解消するには前述したように、運動による筋力の維持や食事管理などの飼い主による日常的なケアが重要です。
それでも便秘になってしまった場合は様子を観察します。
- 数日間十分な量排便がない
- 排便が硬い
- 腹部のハリ
- 食欲不振
- 不機嫌
以上の症状が見られたら、獣医師の診察を受けましょう。
動物病院ではレントゲン検査で腸の中の状態を確認できるため、犬の状態に合った診察が可能です。
軽めの便秘であれば食事や生活習慣の見直しで改善できますが、重度の便秘であれば下剤や整腸剤の内服や浣腸をする場合も少なくありません。
便秘が改善しても、生活習慣や体質によって再発することがあります。今後の生活管理については、獣医師の指導を受けましょう。
犬の肛門からの出血を予防する方法

犬の健康を守るためには飼い主による食事や排せつなどの日常的なケアが必要です。
生活空間を整えたり予防接種などの健康管理をしたりしていても、病気に罹ってしまうことはありますが、肛門からの出血に関しては予防もできます。
犬の肛門からの出血を予防するためにはどのようなケアが必要なのかを解説します。
肛門腺絞りをする
犬の肛門には肛門の左右に肛門嚢と呼ばれる袋があり、分泌液が溜まっています。
肛門腺絞りは左右の肛門嚢を人間の指でつまみ、分泌液を絞り出す作業のことです。
分泌液には独特の匂いがあり、量が多かったり排出する勢いが強かったりすると飛び散ったりします。シャンプーやトリミングのタイミングで行うとよいでしょう。
飼い主が絞ることが難しい場合は動物病院やトリミングサロンに依頼できます。特にトリミングサロンのメニューには肛門絞りが含まれているのでおすすめです。
分泌液が溜まると痒みや不快感があり、肛門を床にこすりつけるようになり、肛門周辺のトラブルの原因になります。
月に1回は肛門絞りを行い、肛門周辺の清潔を維持しましょう。
定期的に観察する
肛門周辺に傷や赤みはないか、排便に血液が混じっていないかを定期的に観察することも重要です。
肛門周辺の体毛には便が付いてしまうことがあり、皮膚炎の原因になるので、排便後は肛門周辺をやわらかい布などで拭くと清潔を保つことができます。
犬は自分の体に異変が起きても飼い主に伝えることができません。肛門以外にも、常に体の状態を観察しましょう。
まとめ

犬は痔に罹りませんが痔のような症状が出ることがあり、肛門から出血したりイボのようなものができたりします。
水分摂取や運動などの日常のケアで改善することもありますが、大きな病気が隠れていることもあるので、必要に応じてかかりつけの獣医師の診察を受けることも必要です。
犬は言葉を話すことができず体の変化を人間に伝えることができないため、飼い主は日頃から犬の状態に気を配らなくてはいけません。
愛犬の健康を守るため、肛門周辺について正しい知識を持ちましょう。
参考文献
