犬と暮らす飼い主さんや、新しく犬をお迎えした飼い主さんのなかには、愛犬をしつけ教室に通わせることを検討している方も少なくないでしょう。なかには、狂犬病ワクチンの接種を受けていないと、しつけ教室に通えないのかどうか気になる方もいるかもしれません。本記事では、しつけ教室に通う際に狂犬病ワクチンが必要なのかどうかや、飼い主さんが準備しなくてはならないことなどを解説します。
しつけ教室に通う際に狂犬病ワクチンは必要?

しつけ教室に通うためには、狂犬病のワクチンは必要です。ここでは、その理由を、法律の面、愛犬や周囲の犬を守るための飼い主さんとしてのマナーの観点から解説します。
狂犬病予防は法律で義務づけられている
日本においては、狂犬病予防法(昭和25年法律第247号)という法律において、犬の飼い主さんに、飼い犬に年1回の狂犬病ワクチンを受けさせることが義務付けられています。そのほか、同じ狂犬病予防法によって、
- 現在居住している市区町村に飼い犬の登録をすること
- 犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着すること(注射済票とは、狂犬病ワクチンを受けたという証明書のこと)
の二点も定められています。しつけ教室に通う際には、狂犬病のワクチンは法律の面から必須です。
なお、法律で定めるだけでは、狂犬病ワクチン接種がすべての飼い犬に行き届かない可能性もあるため、日本では、国、各自治体、動物病院が協力しています。
ひとつの取り組みとして、厚生労働省では、毎年4月、5月、6月を狂犬病予防注射月間としています。そして、各自治体が、この期間に先駆けて、飼い主さんにお知らせを発行するなどしています。同時に、動物病院も、飼い主さんに、狂犬病ワクチンのお知らせを発行したり、病院内にポスターを貼ったりしています。
なお2027年4月には、狂犬病ワクチンは1年をとおして接種可能になる見込みです。
ただし、健康上の問題などで、ワクチンを受けることができない犬もいます。獣医師によって、ワクチン接種ができないと判断された場合は、獣医師からその旨を記載した、狂犬病予防注射猶予証明書を発行してもらえば、ワクチン接種をしていなくても、法律違反にはなりません。
多くの自治体によって、狂犬病予防接種猶予証明書の提出や、根拠となる診断書の提出が求められています。提出の必要の有無や、診断書も提出しなければならないかどうかなどは、自治体によって異なるため、お住まいの自治体に確認しましょう。
参考:
『狂犬病予防法』(◆昭和25年08月26日法律第247号)
『狂犬病』(厚生労働省)
『令和7年度狂犬病予防注射及び注射済票の交付について』(板橋区公式ホームページ)
狂犬病予防が必要な理由
これほどまでに徹底して、日本が狂犬病ワクチンをすべての犬に受けさせるようにしている理由は、狂犬病が、犬にとっても人にとっても恐ろしい病気であることと、犬にワクチン接種を受けさせれば予防できる病気であることが挙げられます。
狂犬病は、犬だけでなく、人にも感染する病気で、現在、世界中のほぼすべての国で発生しています。人の年間死亡率は、推定59,000人とされ、ほとんどがアジアとアフリカです。
狂犬病は、狂犬病ウイルスを原因とする感染症の一種で、犬だけでなく、人を含むすべての哺乳類に感染する可能性があります。狂犬病ウイルスは、感染した動物の唾液中に含まれており、狂犬病にかかった動物に咬まれると感染しますが、人の狂犬病は、ほとんどが犬からの感染です。
犬や人が狂犬病ウイルスに感染し、狂犬病を発症すると、現在では治療法がなく、致死率はほぼ100%です。
このように恐ろしい狂犬病ですが、日本では国や獣医師の努力によって、現在は清浄国となっており、これを維持するため、すべての飼い犬に狂犬病予防が必要です。
なお、人の場合は、万一感染した動物に咬まれても、咬まれた後に暴露後免疫と呼ばれるワクチンを何度か受けることによって、発症の予防ができます。
参考:
『狂犬病に関するQ&Aについて』(厚生労働省)
『狂犬病の予防について』(国立国際医療研究センター病院)
『狂犬病(詳細版)』(国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)
初回接種のタイミングと有効期限
上でも解説した狂犬病予防法において、生後91日以上の犬の所有者は、その犬を取得した日から30日以内に、狂犬病ワクチンを受けさせなければならないと定められています。
つまり、もしも生後91日以上の犬をお迎えして、犬がまだ狂犬病ワクチンを接種していない場合、お迎えした日から30日以内に初回の接種を受けさせる必要があります。
ペットショップやブリーダーさんから購入する場合、ほとんどが初回の狂犬病ワクチンを接種しており、購入者に対して証明書を渡しています。飼い主さんは、もらった証明書によって、お住まいの自治体に犬の登録をするというのが一般的な流れです。
知り合いから個人的に犬を譲り受ける場合などは、狂犬病ワクチン接種の有無を確認する必要があるでしょう。狂犬病ワクチン接種済みだと聞いた場合は、必ず証明書も譲り受けましょう。
狂犬病ワクチンは、狂犬病法によって年に1回の接種が義務付けられており、有効期限は1年間です。
感染予防と飼い主としての責任とマナー
しつけ教室に通う際に、狂犬病ワクチンが必須な理由としては、法律面以外にも、感染症予防や飼い主さんとしての責任やマナーという点も挙げられます。
上でお伝えしたとおり、狂犬病は感染した犬に咬まれることで、犬や人に感染します。愛犬に狂犬病ワクチンを受けさせれば愛犬を狂犬病から守ることができます。さらに、愛犬が感染しなければ、ほかの犬に感染させるおそれもありません。
さらに、多くの犬や飼い主さんが集まるしつけ教室では、愛犬がほかの犬や飼い主さんを咬んでしまう可能性や、反対に、咬まれてしまう可能性があります。そういった場合、お互いが狂犬病の心配をしなくても済むように、飼い主さんの責任とマナーとして狂犬病ワクチンの接種が必要です。
狂犬病ワクチン未接種の犬はしつけ教室に参加できる?

狂犬病ワクチン未接種の犬は、しつけ教室に参加することはできません。ほとんどのしつけ教室では、入会する際に、狂犬病ワクチンの証明書の提出を求められ、提出できない場合は入会をお断りされます。
ただし、病気などでワクチン接種ができない場合、その旨を証明するための、狂犬病予防接種猶予証明書があれば参加できることもあります。その際、犬が多頭飼いかどうか、完全室内飼育かどうかなど、犬の飼育環境を確認されることもあるでしょう。
狂犬病ワクチンを受けるときの注意点

自治体や動物病院などからお知らせを受け取ったら、狂犬病ワクチンを受ける準備をしましょう。本章では、ワクチン接種の前に飼い主さんが注意すべき点を解説します。
接種前に健康状態をチェック
狂犬病ワクチンを受けるためには、動物病院に行き、注射を受けなくてはなりません。犬にとっては、移動や動物病院での待ち時間も含めてストレスがかかる行為です。
接種前に、元気や食欲がいつもよりもなかったり、下痢をしているなど排泄物などの様子に普段と異なる点がみられたりしたら、無理にワクチン接種を行うのではなく、まずは動物病院で相談してみましょう。
また、定期的に健康診断を受けておくと、狂犬病ワクチンを受けることに適した状態かどうかも含めて獣医師の判断を仰ぎやすいため検討してみてください。
接種後は安静にし、当日のトレーニングは控える
狂犬病ワクチンだけでなく、ワクチン接種後は安静が大切です。副反応のなかでも、命に関わる可能性のあるアナフィラキシー反応は、接種後1時間以内に出ることがほとんどです。
そのため、動物病院では、接種後しばらくは院内で様子をみるように声かけしている場合が多いでしょう。
自宅に帰っても、2~3日は安静にして、激しい運動や入浴、シャンプーなどは控える必要があります。特に接種当日は運動を伴うトレーニングは控えましょう。
参考:
『狂犬病予防接種 』(公益社団法人 仙台市獣医師会)
『p124-128_解-日本の犬ワクチン:案』(神戸(7603))
副反応が心配な場合は事前に獣医師へ相談
狂犬病ワクチンは、ごくまれですが、副反応の可能性があります。副反応としては、下記のようなものが挙げられます。
- アレルギー反応やアナフィラキシー反応
- 接種部の痛み
- 元気や食欲の不振
- 下痢または嘔吐
副反応が発生する程度は、例えば、副反応の発生頻度を調べた調査において、10万頭あたり0.452頭とわずかであることがわかっています。同じ調査において、重篤なアナフィラキシー反応に関しては、10万頭あたり0.292頭とさらに少ない結果であることが報告されています。
しかし、飼い主さんとしては、少ない確率に自分の愛犬が含まれる可能性も否定できず、心配になることもあります。そうした場合、まずは獣医師に相談して、飼い主さんが納得したうえでワクチンを受けさせるようにしましょう。
しつけ教室で求められることが多い条件

愛犬をしつけ教室に通わせたいと考えても、しつけ教室に求められる条件がわからず心配な方もいるかもしれません。本章では、しつけ教室に通わせるために満たすべき条件についてお伝えします。
狂犬病ワクチン
ここまでもお伝えしたとおり、狂犬病ワクチンの接種は、すべてのしつけ教室で必須です。ただし、病気などでワクチンを受けられない場合は、狂犬病予防接種猶予証明書の提出をすればしつけ教室に入れることもあります。
混合ワクチン
狂犬病ワクチンのほかに、混合ワクチンの接種が必要なしつけ教室も多いです。狂犬病と同様に、ほかの犬からの感染、ほかの犬への感染の観点から、ほとんどのしつけ教室では混合ワクチンの接種証明も提出が求められます。
ノミ・ダニ予防や駆除
しつけ教室では、ノミ・ダニ予防をしていることが条件の教室もあります。また、ノミやダニに感染していないことを確認されたり、もしも感染したことがあれば、駆除済みであることを条件にされたりすることもあります。
月齢やお迎えからの経過期間
しつけ教室に通うことができる月齢は、それぞれの教室の方針によって異なりますが、犬の幼稚園と呼ばれる子犬向けの教室は生後2ヶ月くらいから入ることができます。成犬のしつけ教室は、生後半年くらいからが対象です。
お迎えからの経過期間に関しては、特に明記されることはありませんが、お迎え直後は新しい環境へのストレスも多いため、避ける方がよいでしょう。生活に慣れてきたら、まずは動物病院に行って健康診断を受けて、健康状態に問題がなければしつけ教室を検討するという流れをおすすめします。
しつけ教室に通う際に必要な準備

しつけ教室に通う際に必要な準備に関して、初回と2回目以降に分けてお伝えします。なお、教室によって、必要な準備は異なるため、実際の準備は、実際に通うしつけ教室から説明を受けるようにしてください。
しつけ教室の初回に必要な持ち物と準備
初回に必要な持ち物と準備は下記です。
- 狂犬病ワクチンの証明書など、教室から求められた証明書
- 各教室が用意している同意書など入会時に必要な書面
そのほか、しつけ教室から求められたものを持っていくようにしましょう。
持ち物のほかに、飼い主さんの服装なども確認して事前の準備を行いましょう。
しつけ教室に行く際の持ち物
2回目以降、しつけ教室に通う際に必要な持ち物は下記です。
- キャリーバッグなど愛犬を運ぶためのケージ
- 首輪やハーネス
- リード
- 水やおやつ(教室によって異なるため確認すること)
- ペットシーツ、タオルなど教室で排泄した際に必要なもの
- 歯ブラシトレーニングなど、内容によって教室から指示されたもの
- メモ帳とペンなどトレーナーさんから教えてもらったことをメモできるもの
しつけ教室に初めて通う際の注意点

しつけ教室は、犬にとってストレスであることも少なくありません。初めてしつけ教室に通うときは、犬がほかの犬や飼い主さんに神経質になり過ぎていないかどうか観察しましょう。
また、しつけ教室に通ったからといって、すぐになんらかの成果を求めるのは避けましょう。まずは犬が飼い主さんとの家庭以外の環境で過ごすことに慣れることからのスタートです。
犬のしつけ教室は、教室の方針によって、ほかの犬との接し方などへの注意が異なります。例えば、教室によっては積極的にほかの犬とのコミュニケーションを促す場合もあれば、指示があるまでほかの犬への挨拶や遊びを控えることを推奨していることもあります。教室の方針をよく理解して、指示どおりに動くよう注意しましょう。
まとめ

本記事では、しつけ教室に通う際に、狂犬病ワクチンが必要なのかどうかに着目し、法律に関わる点や、飼い主さんのマナーの点から解説しました。また、しつけ教室に通うための条件や、注意点もお伝えしました。しつけ教室を検討している飼い主さんは、ぜひ本記事も参考にしながら、事前準備を進めてみてください。
参考文献
