愛犬や愛猫が食べるべきでない物を飲み込んでしまった経験はありませんか?ペットの誤食は、飼い主さんにとって心配な出来事です。好奇心旺盛なペットたちは、時として思いがけない物を口にしてしまい、命に関わる深刻な状況を招くこともあります。本記事では、ペットの誤食を詳しく解説し、その危険性や受診の目安、動物病院での治療方法、そして日頃からできる予防策について説明します。
ペットの誤食とは

ペットの誤食とは、犬や猫が本来食べるべきでない物を誤って飲み込んでしまうことを指します。犬は特に幼少期においては、見るものすべてに興味津々で、食事以外のものも何でも口に入れてしまうことがあります。同様に猫も、狩猟本能や好奇心から思わぬ物を口にしてしまうことがあります。誤食する物の種類は多岐にわたり、食べ物から日用品、おもちゃまでさまざまです。この章では、誤食が危険な理由や注意すべき物について詳しく解説します。
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ペットの誤食が危険な理由
ペットの誤食が危険な理由はいくつかあります。まず、誤食した物が消化管内で詰まってしまう腸閉塞を起こす可能性があることです。腸閉塞になると食べ物や水分が腸を通過できなくなり、激しい嘔吐や腹痛、食欲不振などの症状が現れます。放置すると腸の組織が壊死してしまったり、腸が破裂し腹膜炎を起こし、最悪の場合は命を落とすこともあります。
次に、誤食した物自体に毒性がある場合の中毒症状も深刻な問題です。チョコレートやタマネギ、ブドウなどの食べ物から、洗剤や薬品といった化学物質まで、ペットにとって有害な物質は数多く存在します。
また、誤食した物が鋭利な場合は、口の中や食道、胃腸の粘膜を傷つける外傷を起こすリスクもあります。骨の破片や針、ガラス片などを飲み込むと、消化管に穴を開けてしまい、腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
誤食に注意すべきもの
誤食に注意すべき物は大きく分けて食べ物、日用品・化学物質とおもちゃ・小物の3つに分類できます。
食べ物では、チョコレート、タマネギ、ニンニク、ブドウ、レーズン、アボカド、キシリトール入りのガムなどが代表的です。これらはペットにとって毒性が強く、少量でも中毒症状を引き起こすことがあります。特にチョコレートの原料のカカオに含まれるカフェインやテオブロミンという成分は、犬や猫では人間と比べて代謝が遅く体内に残りやすく、心臓や神経系に深刻な影響を与えます。
日用品・化学物質では、洗剤、漂白剤、殺虫剤、除草剤、人間用の薬、化粧品などが挙げられます。これらは強い毒性を持ち、少量でも命に関わる中毒を起こす可能性があります。また、アルコール類も犬や猫には危険で、急性アルコール中毒を引き起こし、呼吸困難や意識障害を起こすことがあります。
おもちゃ・小物では、ボタン、消しゴム、コイン、ヘアゴム、糸、紐、靴下、おもちゃの部品などが問題となります。これらは消化管内で詰まりやすく、腸閉塞の原因となることが多いです。特に糸や紐によって腸が引き寄せられてアコーディオン状になり、腸が裂けてしまったり腸閉塞をきたしたりする危険性もあります。
ペットが誤食したときの動物病院を受診する目安

ペットが誤食してしまった場合、自己判断をせずすぐに獣医師に相談することが大事です。動物病院を受診すべきかどうかの判断は、誤食した物の種類と量、そしてペットの症状によって決まります。適切な判断を行うために、この章では緊急性の高いケースと様子見が可能なケースについて詳しく解説します。
すぐに動物病院に行くべきケース
以下のような場合は、迷わずすぐに動物病院に連絡し、緊急で受診する必要があります。
まず、中毒性の高い物を誤食した場合です。この場合は、症状が出る前でもただちに受診しましょう。中毒性のある物質は時間が経つほど体内に吸収され、症状が悪化する可能性があります。
次に、鋭利な物や大きな物を飲み込んだ場合も緊急性が高いです。針、釘、ガラス片、大きな骨、ボールなど、消化管を傷つけたり詰まらせたりする可能性が高い物を誤食した場合は、すぐに処置が必要です。
また、誤食後に激しい嘔吐や下痢、ぐったりして元気がない、呼吸が荒い、けいれんを起こしている、意識がもうろうとしている、お腹を痛がっている、よだれが止まらない、などの症状が少しでも見られたら、すぐに動物病院に連絡しましょう。
自宅で様子見をしてもよいケース
一方、以下のような場合は、注意深く様子を観察しながら自宅で経過を見ることも可能です。ただし、少しでも異常が見られたらすぐに受診することが前提です。
小さくて消化しやすい物や危険性のない食物を少量誤食した場合です。小さな紙切れや食べ物のかけらなど、自然に排泄される可能性が高い物であれば、様子を見ることができます。
ただし、様子見をする場合でも、以下の点に注意が必要です。誤食後しばらくは特に注意深く観察し、元気、食欲、嘔吐の有無や回数、排便・排尿の状況などをチェックしましょう。少しでも異常が見られたら、迷わず動物病院に連絡することが重要です。
受診前の準備のポイント

ペットが誤食してしまい動物病院を受診する際は、獣医師が適切な診断と治療を行えるよう、事前に情報を整理しておくことが大切です。慌てがちな状況ですが、事前に準備すべき点についてこの章では解説します。
誤食した物や量を確認する
まず重要なのは、誤食した物の種類と量を正確に把握することです。可能であれば、誤食した物の一部やパッケージ、成分表示などを持参しましょう。薬品や化学物質の場合は、製品名や成分、濃度などの情報が治療方針を決めるうえで極めて重要になります。
量については、どのくらい、いつ頃誤食したかを記録しておきます。正確な量がわからない場合でも、半分くらい、ひと口程度などおおよその量を伝えることで、獣医師は適切な処置を判断できます。
誤食した状況を説明できるようにする
誤食した状況についても詳しく説明できるよう準備しておきましょう。いつ、どこで、どのような状況で誤食したかを時系列で整理します。例えば「散歩中に道に落ちていた物を拾い食いした」などの情報は、治療方針を決めるうえで重要な手がかりとなります。
また、誤食後のペットの様子についても記録しておきましょう。
ペットを無理に動かさない
受診前にペットを無理に動かしたり、吐かせようとしたりするのは危険です。特に鋭利な物や腐食性の物質を誤食した場合、無理に嘔吐させると食道や口の中を傷つけてしまう可能性があります。肛門や口の中から異物が見えていても無理矢理引っ張ることも危険ですのでしないようにしてください。
動物病院に向かう際は、ペットをできるだけ安静に保ち、ストレスを与えないよう注意しましょう。キャリーケースやクレートに入れ、揺れを最小限に抑えて連れていきましょう。
ペットが誤食したときの動物病院での検査と治療

動物病院では、ペットの状態と誤食した物に応じて適切な検査と治療が行われます。この章では動物病院において行われる検査や治療について解説します。
検査方法
動物病院ではまず、飼い主さんからの詳しい問診と、ペットの全身状態の観察が行われます。体温、心拍数、呼吸数などのバイタルサインをチェックし、意識レベルや症状の程度を評価します。
次に、画像検査としてはレントゲン検査が実施されることが多いです。金属や石、骨などレントゲンに写るものの場合、位置や大きさ、消化管が詰まっているかどうかを調べます。しかし、プラスチックやビニールといった素材のようにレントゲンでは写りにくいものもあります。その場合は、超音波検査や造影検査なども実施される場合があります。
必要に応じて、血液検査も行われます。血液検査により、中毒の程度や脱水状態、肝臓や腎臓の機能を評価します。
場合によっては、全身麻酔下での内視鏡検査なども実施されます。内視鏡では届かず急いで体内から取り除かないといけない場合は、その場で開腹手術が選択されることもあります。
治療方法
治療方法は、誤食した物の種類と症状の程度によって決定されます。主な治療法は以下のとおりです。
催吐処置は、毒性の物質を誤食した場合の初期治療として行われます。ただし、腐食性の物質や鋭利な物、石油製品などを誤食した場合は、催吐により食道や胃を傷つける可能性があるため実施されません。催吐処置は誤食後基本的には1時間以内(誤食した内容によっては2〜3時間以内であれば行うこともある)に行うのが効果的とされています。
内視鏡による異物除去は、主に食道や胃、十二指腸内にある異物を取り出す際に行われます。麻酔下で内視鏡を挿入し、鉗子やバスケットなどの器具を使って異物を摘出します。手術に比べて侵襲性が低く、回復も早いのが特徴です。
外科手術は、内視鏡で取り出せない異物や、すでに小腸まで進んでしまった異物に対して行われます。開腹手術により消化管を切開し、異物を直接取り出します。腸閉塞を起こしている場合や、腸管が損傷している場合は緊急手術が必要になります。
中毒に対する対症療法も重要な治療です。点滴により脱水を改善し、吐き気止めや胃薬、解毒剤などを投与します。活性炭の投与により体内の毒素を吸着させることもあります。重篤な中毒症状がある場合は、集中治療が必要になることもあります。
治療後の経過
治療後は、ペットの状態に応じて入院管理が行われることがあります。外科手術を行った場合は、術後の経過観察と合併症の予防が重要です。点滴により水分・電解質バランスを維持し、痛み止めや抗生物質を投与します。
食事の再開は、ペットの回復状況を見ながら段階的に行われます。まず水分から始め、次に流動食、そして通常の食事へと徐々に戻していきます。嘔吐や下痢がないか、食欲が戻っているかなどを慎重に観察します。
退院後も定期的な経過観察が必要です。傷の治癒状況や排便の状態、食欲や元気の回復具合などをチェックします。異常が見られた場合は、すぐに再診することが重要です。
ペットの誤食を防ぐ方法

ペットの誤食を完全に防ぐことは難しいですが、日頃から注意深く環境を整えることで、そのリスクを大幅に減らすことができます。予防こそが最も重要な対策です。この章では誤食を防ぐためにできることを解説します。
誤食の危険性がある物はしっかり保管する
まず、ペットが誤食する可能性のある物は、蓋をして手の届かない場所にしっかりと保管しましょう。人間用の薬は、必ず薬箱に入れて高い場所に保管しましょう。ピルケースや薬の袋をテーブルに置いたままにしておくと、ペットが誤って食べてしまう可能性があります。
洗剤や漂白剤、殺虫剤などの化学物質は、ペットが絶対に近づけない場所に保管します。できればペットだけでは開けられないような場所や、そもそもペットが入れない部屋に置くことが理想的です。
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家の中を整理整頓する
ペットが誤食しそうな小物を床に置かないよう心がけましょう。例えば、ボタン、消しゴム、コイン、ヘアゴム、クリップ、押しピンなどの小さな物は、ペットが飲み込みやすい危険な物です。
ゴミ箱にも注意が必要です。ペットが簡単に開けられないような蓋付きのゴミ箱を使用し、生ゴミや危険な物を捨てた後はすぐに片付けましょう。特にキッチンのゴミ箱は、食べ物の匂いに引かれてペットがあさりがちです。
靴下や下着、タオルなども、ペットが誤食しやすい物の代表です。洗濯かごに入れたり、クローゼットにしまったりして、ペットの手の届かない場所に保管しましょう。
観葉植物などはペットにとって中毒性がないか確認する
室内に観葉植物を置く場合は、ペットにとって有毒でないか事前に確認することが重要です。ユリ、ポトス、アロエ、ポインセチアなど、多くの観葉植物がペットにとって有毒です。
特にユリは犬や猫にとって極めて危険で、茎の部分や花粉を舐めただけでも腎不全を起こす可能性があります。ペットを飼っている家庭では、これらの植物は置かないか、ペットが絶対に近づけない場所に置くようにしましょう。
庭の植物についても同様の注意が必要です。アジサイ、スズラン、ツツジなど、庭によく植えられている植物のなかにもペットにとって有毒な物があります。散歩中にこれらの植物を食べないよう注意しましょう。
おもちゃは小さな部品などがないか確認する
ペット用のおもちゃを選ぶ際は、小さな部品が取れそうでないか、誤飲の危険性がないかをしっかりと確認しましょう。特に安価なおもちゃは、接着剤で貼り付けられた部品が取れやすいことがあります。
使用による劣化で部品が取れかかっていたり、破れて中身が出てきたりしていないかチェックしましょう。危険な状態になったおもちゃは、すぐに処分することが重要です。
人間用のおもちゃや小物も、ペットの誤食の原因になりやすいです。特に小さなお子さんがいる家庭では、ブロックやビー玉、小さなフィギュアなどで遊んだ後はすぐに片付ける習慣をつけましょう。
まとめ

ペットの誤食はときとして命に関わる深刻な事態を招く可能性があるため、日頃からの予防対策が何より重要です。万が一誤食してしまった場合は、慌てずに状況を把握し、必要に応じて迅速に動物病院を受診することが大切です。愛するペットの安全を守るため、普段から誤食の危険性を意識し、安全な環境づくりに努めましょう。
参考文献