動物は種類によって多少前後しますが10歳以上になると高齢期に入ります。
近年の動物医療の発達と飼育環境の改善によってペットの平均寿命が伸びています。そのため、シニア期のペットのケアや介護をする機会が増えているでしょう。
ペットも人間と同様、加齢によって体の内外にさまざまな変化が起こります。その変化に合わせてケアをすることが重要です。
本記事では、ペットの高齢化のサインや、注意点、動物病院で行うケアについて詳しく解説します。
ペットの高齢期はいつから?
ペットの年齢は人間で例えると何歳か、何歳から高齢と呼ばれるのだろうかと疑問を持つ方は少なくないでしょう。
ペットは年齢や成長過程によって新生子期、若年期、成熟期、高齢期と分類されます。
ペットの種類によって多少異なりますが、犬の場合は大型犬8歳、中型犬10歳、小型犬12歳が人間の65歳程度と同じであり、この年齢を過ぎると高齢期に入るといわれています。猫の場合は、12歳を過ぎると高齢期に入るでしょう。
ペットの高齢化サイン
ペットも人間と同じように加齢によって体の能力や行動様式に変化が起こります。加齢による機能の低下は自然な現象ですが、さまざまな病気にかかりやすくなるので注意が必要です。
低下した機能をもとに戻すことは難しいですが、早期に発見して適切にケアをすると悪化を防ぐことができます。
ペットの生活の質を保つためにも、加齢による変化に気を配って適切に対応することが大切です。
加齢によって現れる症状は病気の症状と似ています。自然現象か病気かを見極めるために、日頃から動物病院で健康診断を受けておくとよいでしょう。
ペットの変化に早期に気付けるよう、加齢による外見や行動、体内の変化のサインを以下で詳しく解説します。
外見のサイン
加齢に伴う外見のサインは、見た目が変化するので気付きやすいでしょう。外見の変化がみられる部位は以下のとおりです。
- 毛や皮膚の変化
- 顔つきの変化
- 体型
- 歯の変色
白髪や抜け毛が増えたり、被毛や皮膚のツヤがなくなったりすることで見た目が変化して高齢期に入ったと感じる方は少なくないでしょう。
顔を見ると白いヒゲが増えたり、眼が白く濁っている場合もあります。加齢の影響で太ったり痩せたりして体型の変化がみられることもあるでしょう。
歯の変色は歯垢の蓄積による場合がありますが、歯の健康は食事による栄養摂取に影響を与えるので丁寧なケアが必要です。
ペットと一緒に過ごしていると小さな変化に気付きにくいことがあります。年齢が高齢期に入った飼い主さんは、写真を見返して現在と以前の外見を比較することで変化に気付ける可能性があります。
行動のサイン
加齢に伴う行動面の変化のサインは以下のとおりです。
- 活動量や運動意欲の低下
- 認知機能の変化
- 食行動の変化
- 排泄の失敗
全身の筋肉量の減少や関節の硬化、痛みによって寝ている時間が増えたり、散歩や段差を嫌がったりと運動意欲の低下がみられるようになるでしょう。
逆に、認知機能の変化によってずっと歩いていたり、落ち着きがなくなったりする場合もあります。
食欲の増加や低下、食べ物の好みの変化がみられることがあります。
排泄を普段と違う場所でしたり、間に合わない場合も加齢による変化の可能性があるでしょう。
体内のサイン
加齢に伴う体内のサインはさまざまですが、外見に現れにくいことがあるでしょう。ペットの行動をよく見て普段と違うことに気付くことが大切です。
加齢による体内の変化のサインは以下のとおりです。
- 視覚、聴覚、嗅覚、味覚の衰え
- 免疫力の低下
- 消化機能の低下
体内に変化が起こることで、ペットの行動も少なからず変化します。
感覚器が低下すると、物にぶつかりやすくなったり、呼んでも返事をしなかったりします。
味覚や顎の筋肉量が低下すると変化するとフードの好みが変わって急に食事摂取量が変化する可能性があるでしょう。
免疫力の低下が起こると、さまざまな病気にかかりやすくなります。
消化機能が低下すると下痢や便秘を起こしやすくなるので、便の状態を日頃から確認しておくとよいでしょう。
高齢ペットに対して気をつけること
高齢期のペットが快適に過ごすためには、ペットの体の状態に合った日々のケアが大切です。加齢性の変化は避けられないことですが、生活環境を工夫することで進行を遅くできるでしょう。
高齢期のペットが快適に過ごすための工夫は以下で詳しく解説します。
歩行や立ち上がり
高齢になり足腰が弱くなると、つまずきやすくなったり、滑って転びやすくなったりします。滑り防止マットや衝撃吸収マットを使用して転倒予防や転倒時にも衝撃が少なくなるように環境を整えましょう。
また、後退が難しくなったり、周囲の環境を把握することが難しくなったりします。部屋の角や隙間、段差が危険な場所になるので家具の配置を工夫したり、目が届かない時間はサークルに入れて行動を制限するのもよいでしょう。
食事
加齢によって感覚機能や消化機能が低下するため、年齢に加えて高齢化のサインが見られたら高齢期の食事に変更することをおすすめします。
高齢期の食事は低カロリーや低脂肪で消化がしやすく良質なタンパク質を摂取することが大切です。さまざまなメーカーから高齢期のフードが販売されているのでどれを選んでよいか迷うでしょう。フードを選ぶポイントは以下のとおりです。
- 良質な動物性タンパク質が含まれる
- 低カロリー
- ミネラルバランスが整っている
- 関節ケアに役立つ成分が入っている
- 消化吸収を助けるもの
フードを変更するときは、いきなり変更すると消化器官に負担がかかる場合があります。今食べているものに少しずつ混ぜて徐々に変更していきましょう。
歯や消化機能が弱っている場合は、ぬるま湯でフードをふやかしたり、ウェットフードを使用して負担を軽くする工夫をするとよいです。
食が細いペットには食事回数を増やして小分けにして与えて、1日に必要な量を摂取できるようにしましょう。持病の有無によって食事制限が加わる可能性がありますので、かかりつけの獣医師に相談することをおすすめします。
排せつ
高齢期のトイレの問題は、筋力や泌尿器機能の低下、認知機能の低下、病気などによって起こります。
トイレの失敗が見られる場合はトイレの数を増やしたり、広めのトイレシートを敷いたりなど工夫をしてみましょう。
足腰が弱ってくるので、トイレの段差をなくしたり、普段過ごす場所とトイレを近くしたりするとよいでしょう。ペットの状態に合わせてトイレの環境を調整します。トイレシートで滑りやすくなるので、滑らないようにすることが大切です。
トイレの失敗が増えると飼い主さんの負担が大きくなるので、外出時は紙オムツを使用するのもおすすめです。紙オムツは蒸れて皮膚病になりやすいので定期的に交換しましょう。
認知機能
高齢期のペットが夜に大きな声で鳴く、トイレの失敗が増える、睡眠のサイクルが変化する、遊ばなくなるなど普段と違う様子が見られる場合は認知機能の低下が考えられます。
認知機能の低下は、加齢によるものと病気によるものがあるので気になる場合は動物病院を受診しましょう。
認知機能の低下を防ぐ治療薬はないため、サプリメントや専用のフードを使用することがあります。
家のなかでも徘徊することがあるので、ぶつかったり転倒したりしてケガをしないように工夫をすることが大切です。マットやクッションを使用したり、サークルを使用したりするとよいでしょう。
昼夜逆転や認知機能の低下を防ぐために昼間に散歩をしたり、知育おもちゃで遊んだりして脳へ刺激を与えます。ペットへの声かけも刺激になるので、積極的に声をかけてあげましょう。
病気
高齢期のペットは免疫力の低下によりさまざまな病気にかかりやすくなります。特にかかりやすい病気は以下のとおりです。
- 心臓病
- 腎臓病
- がん
- 認知症
- 糖尿病
- 白内障
ペットは自覚症状を飼い主に伝えられません。症状が見られても高齢期のペットの場合は加齢による自然な変化だと考えられることは少なくないでしょう。症状を発見して受診したときには、すでに病気が進行している場合があります。
早期発見するためには、定期的に健康診断を受けることが大切です。早期に病気の発見ができると早期に治療ができたり、進行を遅らせたりできるのでペットの生活の質を保てるでしょう。
動物病院で行われる通常のケアと高齢ペットのケアに違いはある?
動物病院では、ペットの年齢に合わせたケアを行っています。ペットの平均寿命が伸びることで、動物病院でも高齢期のペット特有のケアが大切です。
動物も加齢によって体の機能が低下し、病気と麻酔のリスクの増加、認知症などさまざまな問題が起こります。そのため、成熟期とは異なり高齢期のペットに合わせて専門的なケアをする必要があります。
動物病院で行う高齢ペットへのケア
動物病院ではペットの体の状態に合わせて治療やケアを行っています。特に高齢期のペットは体の変化や症状がそれぞれ異なり、個別の対応が必要です。
高齢期の場合、生活の質の維持向上を目的としたケアをする場合があります。
動物病院が行うケアを以下で解説します。
日常生活の指導
飼い主さんに対して、高齢期のペットが少ないストレスで過ごせるように日常生活の指導を行っています。
加齢による変化に日常生活を合わせることが必要ですが、飼い主さんだけではペットの体の状態を知り、適切に生活を変更することは難しいでしょう。
動物病院では、体の状態に応じた食事管理や運動、口腔ケア、生活環境の整備などの指導を行っています。
また、免疫力の低下によって病気にかかりやすくなるため、健康診断を受けることをおすすめします。
病気に対する緩和ケア
緩和ケアは、治療が困難な状態のペットをできる限り快適に過ごせるようにするケアです。病気によって一生の終わりに近づいているペットの生活の質を向上させることを目的としています。
病気と診断されたときは、治癒を望む治療をするのか、緩和ケアに重点をおくのかを獣医師と話し合って治療方針を決めるとよいでしょう。
痛みや食事の管理、生活環境の整備、グルーミングが重要です。動物病院で行えるケアもありますが、緩和ケアは在宅で行われることも少なくないため、飼い主さんと協力して行うことが大切です。
飼い主の心のケア
ペットがシニア期に入ったり、介護が必要になったりすると今までと異なる状況に飼い主さんは戸惑うでしょう。
介護が大変で疲れてしまったり、別れの時が近づくと感じてストレスを感じるでしょう。
ペットだけでなく、飼い主さんの心のケアをすることが大切です。
ペットと飼い主さんが快適に高齢期を過ごせるよう、治療方針や介護の方法などの情報提供をしたり、アドバイスをしたりします。
ペットが高齢期に入る前から、かかりつけの動物病院があると相談しやすく、精神的に安定するでしょう。
高齢ペットのために動物病院が行っている取り組み
動物病院では獣医師による診察だけでなく、教室を開催している病院があります。高齢期のペットのことを学べる講座や、ペットの筋力向上や脳トレなどを行っており、内容は動物病院によってさまざまです。
実際に高齢期のペットと暮らす飼い主さん同士で交流し、情報交換ができる場があると相談しやすく、精神的に安定できるでしょう。ペットにとっても刺激になり、介護予防につながります。
教室の開催や、対象、費用などは動物病院によって異なるので気になる方は動物病院に確認しましょう。
シニアペットのためのクラス
高齢期のペットや飼い主さんのための教室を開催している動物病院があります。高齢期のペットに起こる変化や、環境整備、病気などを解説していただき、飼い主さんが心構えをできるような教室となっています。
教室では、同じ高齢期のペットと過ごす飼い主さんとの交流の場もあるでしょう。悩みを相談したり、情報交換をすることができます。
ペットの脳トレや運動も同時に行うことがあるので、ペットと一緒に参加するとよいです。
エイジングケアセミナー
エイジングケアは老化予防のことで、ペットの老化を遅らせて長生きできるようにエイジングケアを行います。エイジングケアのポイントは、食事や運動、生活環境です。
セミナーでは、自宅で行えるケアの指導や、ペットの運動などを行います。
高齢期のペットだけでなく、高齢期前からエイジングケアを始めると老化予防につながります。
動物病院でエイジングケアセミナーが開催されていれば、ペットが若いうちから参加することをおすすめします。
セミナーで学んだことで実践できることがあれば、積極的に行いましょう。
まとめ
本記事ではペットの高齢化のサインや、注意点、動物病院で行うケアについて詳しく解説しました。
ペットの平均寿命が伸びているので、飼い主さんが高齢期のペットと過ごす時間も長くなるでしょう。
高齢期のペットの体の状態やケアの方法などを知り、実践することでペットと穏やかな時間を過ごすことができるでしょう。
ペットの体に変化がみられた場合は、老化か病気かの見分けがつきにくいので、動物病院を受診して診察を受けるとよいです。
ペットの体に合わせたケアを行い、ペットと飼い主さんが健康で長生きできるように過ごしましょう。
参考文献