ペットの健康や寿命を守るために食事は極めて重要な役割を担っています。特に病気を患っている動物は、市販のフードよりも療法食と呼ばれる動物病院の獣医師から処方されるフードを与えることで、病気の進行を遅らせて、症状の緩和が期待できます。
こちらの記事では、動物病院で取り扱っているフードの特徴をお伝えしたうえで、療法食の種類やメリット、注意点をわかりやすく解説します。
動物病院で取り扱っているフードの特徴

動物病院で取り扱っているフードは、療法食とも呼ばれており、ペットの健康維持や病気の治療を目的として開発されました。
ここでは療法食についてより詳しく解説します。
病気や体質に合わせて栄養設計されている
動物病院で取り扱っているフードは、ペットの特定の疾患や健康状態をサポートするために開発された専用フードです。消化器、泌尿器、皮膚、関節などさまざまな種類があり、それぞれの症状に合わせてたんぱく質、脂質、ミネラルなどの栄養素の含有量が調整されています。
また、特定の食材にアレルギーを持つペットに向けた低アレルゲンフードも用意されています。健康状態や体質、年齢など、ペットそれぞれの状態にあわせた柔軟な栄養設計こそが、療法食の持つ大きな特徴です。
獣医師の指示にしたがって与える必要がある
動物病院で取り扱っているフードは、動物の特有の病気や体質に対応するべく、一般的なフードとは異なる栄養バランスが綿密に調整されています。そのため、療法食は処方薬と同様に、治療の一環として、獣医師の診断と指示に沿って与える必要があります。
例えば、腎疾患の動物向けに開発された療法食は、たんぱく質やリンの含有量が制限されているため、健康なペットに与えるとかえって栄養バランスを崩す恐れがあります。また、病気の進行にあわせて療法食の種類や与え方の見直しが必要であり、継続的な診察と経過観察が欠かせません。飼い主さんの自己判断で市販のフードやおやつなどと併用すると、療法食が持つ本来の効果を妨げ、症状を悪化させる可能性があります。大切なペットの健康と寿命を守るためにも、必ず獣医師からの指示に従い、フード管理をしてください。
総合栄養食と療法食の違い

総合栄養食と療法食の違いは、以下のとおりです。
総合栄養食 | 療法食 | |
---|---|---|
対象の動物 | 健康を維持したい動物 | 病気や特定のアレルギーを持つ動物 |
目的 | 毎日の主要な食事として給与 | 病気の治療を補助栄養学的なサポート |
設計内容 | 当該フードと水だけで成長段階における健康を維持できるように設計されている | 病気や特定のアレルギーに合わせた栄養成分の量と比率が設計されている |
獣医師からの指導 | 不要 | 必要 |
上記の表からわかるとおり、総合栄養食と療法食は明確な違いがあります。総合栄養食は、病気や特定のアレルギーを持たない動物が1食で成長や健康を維持するために必要な栄養素をバランスよく摂取できるように設計されています。一方の療法食は、病気や特定のアレルギーを持つ動物のために動物医療の専門家である獣医師や栄養士が推奨する特別なフードです。
動物病院にて特定の病気やアレルギーがあると診断された動物に対しては療法食が必要になる場合がありますが、基本的な健康維持のためには総合栄養食が向いています。自己判断で療法食を取り入れることは危険なため、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
疾患・目的別に見る動物病院で取り扱いのあるフードの特徴

動物病院で取り扱うフードは、疾患の治療や健康管理などの目的に応じて、栄養素の含有量が細かく調整されています。
ここでは、ペットの代表的な疾患や症状別に処方される療法食の特徴について解説します。
消化器疾患
消化器疾患に対する療法食には、次のような特徴があります。
- 高消化性
- 高エネルギー
- 腸内細菌バランス
消化吸収を助けるためには、脂肪を減らして食物繊維のバランスを重視した含有量に調整する必要があります。腸内環境を整えるためには、厳選されたバイオティクスや可溶性食物繊維が配合されていることが一般的です。さらに、食欲が低下していてもできる限りエネルギーや栄養素を補給できるよう、市販よりも高エネルギーに設計されています。
泌尿器疾患
泌尿器疾患に対する療法食には、次のような特徴があります。
- ストルバイト形成を制限
- RSS(相対過飽和度)の維持
- 尿量調整
- マグネシウム制限
尿石(ストルバイト、シュウ酸カルシウムなど)の形成を妨げる目的で開発されました。尿のpHを調整することで、水分摂取を促し、膀胱炎や尿路結石などの病気リスクを軽減します。さらに、ナトリウムやリンなどのミネラル成分を調整した設計も特徴的です。これにより、結晶ができにくい尿環境を整える効果が期待できます。
腎疾患
腎疾患に対する療法食には、次のような特徴があります。
- 高消化性のたんぱく質配合
- リンの含有量を低減
- 高エネルギー
- 食物繊維のバランスを調整
- 独特の香り組成
腎機能への負担を軽減するために消化性の高いたんぱく質を取り入れ、リンの含有量を減らしています。代わりに、健康的な腎臓を維持するためにEPA+DHA、複数の抗酸化物質を配合しているのが特徴的です。
慢性腎臓病になると食欲低下・食物嫌悪などの症状が現れやすいですが、動物が好む香りや粒の形状に設計することで、食欲を刺激する効果も期待できます。また、食事量が減ってもできる限りの栄養素を補給できるようにエネルギー含有量が調整されています。
皮膚疾患
皮膚疾患に対する療法食には、次のような特徴があります。
- アレルゲンの制限
- 皮膚のバリア機能
- 特別な製造工程
食物不耐症と食物アレルギーによる皮膚トラブルを防ぐために、アミノ酸やオリゴペプチドを使用して、食物アレルゲンを排除できる特別な工程で製造されています。また、ビオチン、パントテン酸、ナイアシン、コリン、亜鉛、リノール酸(大豆油由来)などの栄養素を配合することで皮膚が持つ本来のバリア機能を維持します。バリア機能を正常に維持できれば、皮膚のかゆみ、脱毛、ふけなどの悩みの改善が期待できます。
心疾患
心疾患に対する療法食として、次のような特徴があります。
- タウリン、L-カルニチンを配合
- オメガ3系不飽和脂肪酸であるEPA+DHAを配合
- ナトリウム量を制限
心臓に負担がかからないよう塩分を制限し、心筋をサポートするタウリン、L-カルニチンなどを配合しているため、心臓のポンプ機能を維持するために役立ちます。また、オメガ3系不飽和脂肪酸は心血管の健康に配慮しています。心疾患は重症化するまで目立った症状が現れないこともあるので、早期治療が困難といわれていますが、適切な治療とともに食事管理をすることで症状の進行を遅らせる可能性があります。
関節疾患
関節疾患に対する療法食として、次のような特徴があります。
- 関節の健康管理
- 革新的なC2P+ ジョイントコンプレックス
- カロリー密度の調整
通常のフードと比べて関節の炎症を抑えるオメガ3系不飽和脂肪酸(EPA+DHA)の含有量が多く、痛みの軽減や運動機能を維持するために効果的です。加えて、ビタミンE、ビタミンCなどの栄養素を調整しています。また、関節の健康には肥満が大敵とされており、通常のフードよりもカロリーが控えめに設計されています。カロリーは減っても、ウコンエキス、加水分解コラーゲン、緑茶ポリフェノールなどの相乗効果の期待できる栄養素が配合されているため、関節軟骨の健康は維持されるでしょう。
糖尿病
糖尿病に対する療法食として、次のような特徴があります。
- 糖コントロール
- 高たんぱく
- 低炭水化物
食事による急激な血糖値の上昇を抑えるために、糖の吸収速度が遅い炭水化物(大麦)を配合し、可溶性食物繊維と不溶性食物繊維のバランスを調整しています。これにより食事のたびに血糖値が急激に上昇するリスクを軽減します。また、食事管理によって筋肉量が低下しないよう、たんぱく質含有量を通常よりも増やすことで健康を維持できます。
体重管理
体重管理に対する療法食として、次のような特徴があります。
- 低脂肪
- 高食物繊維
- 加水分解たんぱく
肥満気味のペットを放置すると、糖尿病、心疾患、関節疾患などの病気になる可能性を持ち合わせているので低カロリーで高たんぱくな栄養素の設計がされています。通常のフードと同じ量を食べていても、筋肉量を保ちながら脂肪の蓄積をおさえられるように開発されました。1回の食事で満腹感を得られるように食物繊維が豊富に配合されており、空腹によるストレスも軽減できます。
動物病院でフードを購入するメリット

健康なペットには市販のフードを与えて問題ありませんが、特定の病気やアレルギーがあるペットには動物病院で処方されるフードを与える方がメリットが得られます。
ここでは、動物病院でフードを購入するメリットを解説します。
獣医師の診断にしたがって適切なフードを選べる
動物病院でフードを購入すると、獣医師がペットの健康状態や体質を診察したうえで、適切なフード選びをサポートしてくれます。心疾患、腎臓病、皮膚疾患、消化器疾患などの病気を患っている場合、食事管理も重要視されていますが、飼い主さんが自己判断でフード選びをするのは困難です。動物病院を受診すれば、年齢、体型、生活環境など細かい部分まで考慮して適切なフードを提案してもらえるので、安心してフードを与えられます。
処方変更時に逐次アドバイスが受けられる
動物病院でフードを購入すると、療法食との相性が悪くても、その都度アドバイスを受けられます。症状に変化がでたり、効果が現れにくかったりした場合、見直しをして新しい療法食に切り替える判断をしてもらえます。病気で通院が必要であれば、そのたびに飼い主さんからのヒアリングやペットの状態を見て、スムーズな処方変更が可能です。飼い主さんが自己判断で選んでしまうと、フードの選択ミスや切り替えが遅れたことによる症状の悪化が懸念されます。専門知識を持つ獣医師にアドバイスを受けることで、飼い主さんが気付きにくい小さな変化にも対応できるため、より効果的な食事管理が期待できます。
体調変化に応じた検査・モニタリングが可能
動物病院でフードを購入すると、定期検診のたびに療法食がペットに適しているかどうかを数値から判断してもらえます。たとえフードの食いつきがよくても、体重増加などがみられると健康に悪影響を与える可能性があります。つまり、食いつきがよいからといって健康状態が維持されているとはいえません。獣医師の管理下でモニタリングをすることで、病気の進行やアレルギー反応の有無をみてフードの切り替えるタイミングを見逃さずに済みます。療法食がどのように作用しているのかを数値で可視化することは、ペットの健康を維持するために欠かせません。
動物病院のフードを与えるときの注意点

動物病院で処方されるフードの効果をできる限り発揮させるためには、今までとは違った食事管理が必要になる場合があります。飼い主さんが与え方を間違えると、ペットがストレスを抱える可能性があるため気をつけましょう。
ここでは、動物病院のフードを与えるときの注意点を解説します。
市販のフードやおやつを控える
動物病院のフードは、特定の病気やアレルギーに配慮した栄養バランスが設計されています。市販の総合栄養食やおやつは塩分、脂質、糖分の含有量が多く含まれているため、療法食と一緒に与えてしまうと、療法食の持つ効果を損なう可能性があります。病気やアレルギーの症状が悪化するリスクも高まるため、注意が必要です。
動物病院からフードを処方された場合は、原則としてほかのフードやおやつは与えないようにしてください。どうしてもおやつを与えたいのであれば、かかりつけの獣医師に相談して、安全性の高いものを選びましょう。
ペットが慣れるまで根気よく与える
動物病院のフードは、市販の総合栄養食やおやつと比べて嗜好性が低く、最初のうちは食いつきが悪くて切り替えに苦労する飼い主さんもいます。メーカーごとに試行錯誤して食べやすい製品開発を目指していますが、慣れるまでは根気よく向き合うようにしてください。
目安としては、今までの食事に療法食を1割ずつ増やしていくことで、フードの切り替えができます。スムーズにいけば10日程度で療法食に切り替えられますが、ペットの性格や好みによっては、さらに時間がかかることもあります。同じ栄養食でもフレーバーやニオイが異なるフードがあるため、切り替えがうまくいかないときは、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
自己判断で中断や変更をしない
動物病院のフードは、病気の進行度や体質などを配慮して処方されるものです。医薬品と同様に治療の一環として取り入れるフードのため、飼い主さんの自己判断で中断・変更はできません。以前よりも症状が緩和されたからといって勝手に市販のフードに切り替えて通院をやめてしまうと、体調不良や病気の再発リスクが高まります。療法食の効果を発揮させるためにも、定期検診を受けながら、獣医師の管理下のもとでフードの中断・変更を行うようにしてください。
まとめ

動物病院で取り扱っているフードは、特定の病気やアレルギー、体質に適した栄養バランスで設計されています。検査・診断結果をもとに獣医師によって適切なフード選びが行われ、定期検診をとおしてフードの継続や切り替えの判断がされます。ただし、嗜好性が低いことから切り替えには根気が必要な場合もあるので、飼い主さんも根気よくペットの食事管理に向き合わなければなりません。大切な家族の一員であるペットを守るためにも、信頼できる獣医師と連携を取り、療法食を取り入れましょう。