ペットの健康診断で「抜歯が必要かもしれません」と言われたら、心配になりますよね。
特にはじめてペットの抜歯の可能性を感じた方は「どのような場合に抜歯するの?」「費用は一体いくらかかるのか」と、不安が募ることでしょう。
しかし、抜歯は決してネガティブなだけの治療ではありません。
この記事では、ペットの動物病院での抜歯が必要なケースから料金の内訳、おおよその相場、ペット保険の適用、術後のケア方法まで詳しく解説します。
動物病院での抜歯とは

動物病院での抜歯は、歯周病や外傷などによって機能や健康を損なった歯を、外科的な処置で取り除く治療です。
人間の歯科治療とは異なり、ペットの場合は処置中に動いてしまう危険があるため、基本的に全身麻酔の下で行われます。
そもそも、動物に抜歯が必要なのはどのような状況なのでしょうか。
まずは、抜歯が必要になる代表的なケースを見ていきましょう。
抜歯が必要なケース
特に多い抜歯の原因は、重度の歯周病です。
歯垢や歯石の蓄積によって歯肉炎や歯周炎が進行し、歯を支える骨(歯槽骨)が溶かされたり、歯根膜が破壊されたりすると歯がぐらつき、歯周ポケットに膿が溜まります。
感染拡大を防ぐためにも抜歯が必要になるケースは少なくありません。
また、硬いおもちゃや事故で歯が欠けたり折れたりする歯の破折も、抜歯が必要になる一因です。
神経が露出すると強い痛みや感染を引き起こすため、歯を残す目的で根管治療(歯の神経の治療)を行う場合があります。
根管治療で対応できないほど深刻な場合や歯根まで折れている場合は、抜歯が必要になることが多いです。
そのほかにも、以下のようなケースで抜歯が必要になる場合があります。
- 本来生え替わるはずの乳歯が抜けずに残る乳歯の遺残
- 顎の骨折のような口腔内の大きな外傷
- 歯の周囲にできた腫瘍や嚢胞の治療
犬や猫は人ほどむし歯になりにくいものの、進行して穴が開いた歯は治療が難しく、抜歯が検討されることがあります。
抜歯の流れ
動物病院での抜歯手術は、一般的に以下のような手順で進められます。
- 検査をする
手術前に状態を確認するための血液検査や口腔内デンタルX線撮影を行います。麻酔のリスクを評価するために欠かせない検査です。 - 麻酔をかける
問題がなければ絶食管理のうえで鎮静剤を投与し、気管挿管をして全身麻酔をかけます。 - お口の中を掃除して診察する
麻酔下では、すべての歯と歯茎を洗浄して歯石を除去し、お口の中全体の状態を詳しく診察します。 - 抜歯の有無を判断する
必要に応じてお口の中の写真撮影を行い、抜歯が必要な歯と残せる歯を判断します。 - 抜歯処置をはじめる
抜歯対象の歯肉を切開し、歯根を露出させるフラップ手術を行います。 - 外科的処置を行う
歯が大きい場合はドリルで分割し、歯根周囲の靭帯や骨を慎重に削って歯を抜去します。複数本抜く場合はそれぞれの根を慎重に一つずつ除去する外科的処置が必要です。 - 抜歯後の処置を行う
抜歯した後の穴はきれいに洗浄し、溶ける糸で歯肉を縫合します。後日の抜糸は不要な場合がほとんどです。 - 麻酔から覚醒させる
麻酔から覚醒させ、モニターで呼吸や循環を管理します。
状態が安定すれば日帰り退院も可能ですが、高齢であったり抜歯本数が多かったりする場合は入院して経過を見る場合もあります。
動物病院での抜歯料金に含まれるもの

動物病院の治療費は各病院が自由に設定しており、統一された料金はありません。
ペットの抜歯に関連して飼い主が支払う費用には、手術そのものの料金だけでなく、さまざまな項目が含まれています。
以下では犬や猫、小動物の抜歯費用の内訳の例を紹介します。
犬の抜歯料金に含まれるもの
犬の抜歯治療では、処置当日のさまざまな手技や薬剤の費用が総合的に請求されます。主な内訳項目は以下のとおりです。
- 診察料・術前検査料:手術前の健康チェックや血液検査代
- 麻酔・モニタリング料:全身麻酔の基本料金や麻酔中の監視費用、点滴代など
- 抜歯処置料:実際に歯を抜く手技の費用
また、歯肉を切開または縫合する外科処置加算や、抗生物質や痛み止めなどの薬剤料や処置後ケア、必要に応じて入院料などが加算される場合があります。
猫の抜歯料金に含まれるもの
猫の抜歯も基本的な項目は犬と同様ですが、猫の方が犬より総費用がやや低めに設定される傾向があります。
費用が低めな理由は、猫の体重が軽く麻酔薬量が少ないためです。
犬と同じく、猫の場合も麻酔・検査費として、術前検査と全身麻酔が行われます。
猫は犬に比べて麻酔リスクに繊細な面があるため、より入念な健康チェックが必要です。
抜歯手技料は、猫の抜歯は1本あたり約3,000〜10,000円が相場とされています。
犬歯や奥歯の抜歯は難易度が高く上限に近い費用になることがありますが、小さな切歯の抜歯は安めです。
ただし、口内炎を伴う重度歯肉口内炎では、奥歯をすべて抜く全臼歯抜歯など大がかりな処置となり、トータルの費用は高額になります。
そのほかにも、点滴や縫合、術後の投薬などの処置関連費や薬剤費が発生する場合もあります。
小動物などの抜歯料金に含まれるもの
ウサギやフェレット、モルモットなど小動物の抜歯では、動物種の特性に応じた費用項目が発生します。
麻酔管理費は、小動物は身体が小さいほど麻酔管理がデリケートなため、麻酔管理費が高めに設定されやすいです。
麻酔専門医を招く場合は、追加料金になることもあります。
次にかかるのが、抜歯・歯科処置料です。
小動物は歯が小さく数も違うため一概に比較しづらいですが、ウサギの抜歯は1本数百円から数千円と低めに設定されている例があります。
また、術後ケア費も考慮が必要です。
小動物は術後に自力で食事ができなくなることも多く、強制給餌や流動食による栄養管理が必要な可能性があります。
飼い主による栄養管理が難しい場合は、入院して経過を見る場合が多いです。
動物病院での抜歯料金の相場

動物病院での抜歯料金は、今まで見てきたようにさまざまな要因で変動する費用です。
では実際に抜歯する際には、どの程度の費用がかかるのかを見ていきましょう。
犬の抜歯料金相場
犬の抜歯費用は、麻酔量に影響する体重と、抜歯の本数や難易度によって大きく変動します。
以下では、より具体的にイメージできるよう、小型犬、中型犬、大型犬に分けて料金相場を紹介します。
小型犬の料金相場
小型犬は歯が密集しているため歯周病が重度化しやすく、一度に多くの歯を抜く必要が出てくることも珍しくありません。
そのため、総額は高めになりやすいです。目安の費用は以下のとおりです。
- 抜歯1~2本の軽度処置:約70,000円~100,000円
- 複数抜歯が必要な中程度の歯周病治療:約90,000円~150,000円
- 多数抜歯が必要な重度な外科手術:約150,000円~250,000円以上
麻酔量自体は少なくとも、抜歯本数が多くなったり処置時間が長引いたりする点から、5〜10万円台が一つの相場帯と考えましょう。
中型犬の料金相場
中型犬はお口のサイズが大きく処置はしやすい反面、体重に比例して麻酔費用が上がります。
抜歯の本数は個体差がありますが、小型犬よりは多発しにくいです。
費用相場は小型犬と大型犬の中間で、目安の費用は以下のとおりです。
- 抜歯1~2本の軽度処置:約80,000円~120,000円
- 複数抜歯が必要な中程度の歯周病治療:約100,000円~180,000円
- 多数抜歯が必要な重度な外科手術:約180,000円~300,000円以上
状況によって費用幅は広いものの、20万円未満に収まるケースが多いでしょう。
大型犬の料金相場
大型犬は麻酔を維持するためのコストがかかる一方、歯が大きく丈夫です。
そのため、若いうちから多くの歯が抜けるようなケースは少ない傾向にあります。
しかし抜歯が必要な場合、麻酔費用が中型犬よりも上がるため、目安の金額は、以下のように高額になりやすいです。
- 抜歯1~2本の軽度処置:約80,000円~150,000円
- 複数抜歯が必要な中程度の歯周病治療:約120,000円~220,000円
- 多数抜歯が必要な重度な外科手術:約220,000円~350,000円以上
単独の抜歯処置なら数万円台、中程度から重度の歯周病治療なら10万円以上がひとつの目安です。
猫の抜歯料金相場
猫の抜歯費用は、抜歯する歯の本数と病状の重さによって決まります。
犬よりも歯の数が少ないため、一本あたりの単価は犬より安めです。
ただし、慢性的な歯肉口内炎のような治療で多くの歯を抜く場合は、トータル費用が高額になります。
- 数本抜歯:約50,000円~100,000円
- 全臼歯、全顎抜歯(難治性口内炎):約100,000円~200,000円
猫の抜歯でも麻酔や検査費用も含めると、全額で10万円以上かかるケースは珍しくありません。
小動物などの抜歯料金相場
ウサギやフェレットなどの小動物は症例数が限られるため、抜歯費用の幅はとても広いです。
例えばウサギの不正咬合治療では、通常は定期的な歯の切削(トリミング)で対応し、1回2,000~4,000円程度が相場といわれています。
抜歯手術まで行うケースでは、臼歯の処置/抜歯(全身麻酔下)で約40,000円〜80,000円です。
小動物は保定や麻酔に高度な技術を要するため、対応可能な専門病院ではその分費用も高めになる傾向があります。
抜歯はペット保険を利用できる?

公的な医療保険制度のないペットの治療費は、全額自己負担です。
しかし、任意で加入するペット保険を利用すれば、その一部が補償される場合があります。
抜歯に関する費用がペット保険でカバーされるかどうかは、その抜歯が病気・ケガの治療として必要かどうかで判断されます。
どのような場合に保険が適用されるのかを具体的に見ていきましょう。
抜歯が保険適用になるケース
病気やケガの治療として行われる抜歯は、ほとんどのペット保険で契約プランの範囲内で補償対象です。
例えば、歯周病治療、歯の破折、根尖膿瘍などは、明確に病気・ケガに該当します。
具体的には、歯周病が進行して抜歯が必要になった場合は疾病治療に該当するため、保険で補償されます。
また、事故で顎の骨を折ったり、歯が割れたりして抜歯が必要な場合も負傷の治療として保険が適用されるケガです。
硬いものを噛んで歯が折れ、根尖膿瘍になった場合の抜歯なども含まれます。
そのほか、お口の中の腫瘍摘出の一環で歯を抜く処置や、炎症や膿瘍が生じた歯根の抜歯など、獣医師が治療上必要と判断した抜歯は基本的に補償されると考えてよいでしょう。
加入している保険会社によって保険適用範囲は異なるため、ご自身の加入している保険の約款を確認しておく必要があります。
抜歯が保険適用にならないケース
代表的な対象外のケースとして、乳歯が残ったまま生え替わらない乳歯遺残の抜歯があります。
また、歯肉炎や歯周病の診断がない状態での予防的な歯石除去も補償対象外です。
一部の保険会社では、歯石除去や乳歯遺残の抜歯であっても、これらが原因で発症した歯肉炎や口内炎のような診断名がつく病気の治療の一環として行われる場合は、補償対象となる可能性があります。
抜歯後のペットのケア方法

抜歯後のケアは、以下のケアが中心です。
- 痛みのコントロール
- 食事や水分の管理
- 傷口の保護と観察
抜歯直後は麻酔の影響と傷の痛みで、食欲不振や元気消失が見られることがあります。
処方された抗生物質や鎮痛剤を獣医師の指示どおり適切に投与することが重要です。
食事管理は抜歯後の傷口に配慮し、やわらかい食事を与えましょう。
硬い粒やおやつは傷を刺激する恐れがあるため、普段は与えていても控えてください。
お口の中の管理も大切です。
抜歯直後は多少の腫れや痛み、少量の出血は正常な経過ですが、出血が止まらない場合や縫合が取れて傷口が開いてしまった場合などは、早急に受診してください。
歯磨きは傷が治るまで再開せず、獣医師の指示に従いましょう。
安静と見守りも欠かせません。
帰宅後は静かな環境で安静にさせ、特に抜歯当日から翌日は激しい運動を避けさせてください。
まとめ

この記事では、動物病院での抜歯や料金相場や内訳、抜歯後のケア方法まで幅広く解説しました。
ペットに抜歯が必要かもしれないと聞けば、誰しも不安になるものです。
最終的に大切なのは、かかりつけの獣医師としっかりとコミュニケーションを取り、ペットにとって適切な選択をしてあげることです。この記事が、そのための判断の一助となれば幸いです。
参考文献