シーズー犬は愛らしい見た目と温和な性格の犬種ですが、特有の体質からさまざまな病気にかかりやすい傾向があります。
短頭種特有の呼吸器疾患や皮膚トラブル、眼科疾患など、飼い主が知っておくべき健康上の注意点が多数存在します。
本記事では、シーズー犬によくある病気の症状や治療法、予防のためにできる日常ケアに関して詳しく解説していくので参考になれば幸いです。
シーズー犬がかかりやすい病気の特徴

シーズー犬は短頭種に分類され、鼻が短く平たい顔構造を持っています。また、毛量の多さや突出した眼球なども特徴です。
これらが原因で、呼吸器系や眼科系、皮膚系の疾患にかかりやすくなっています。
遺伝的な要因も加わり、特定の病気を発症しやすいのが特徴です。以下で各器官系統の病気の特徴を詳しく解説します。
呼吸器トラブルが多い
シーズー犬の短い鼻と狭い鼻腔は、呼吸を困難にする要因です。特に暑い季節や興奮時には、ゼーゼーとした呼吸音が聞こえたり、呼吸が荒くなったりする場合があります。
軟口蓋が長く、気道を塞ぎやすい構造のため、いびきをかくことも少なくありません。
運動後の回復に時間がかかったり、暑さに弱かったりする特徴も、呼吸器の構造に起因しています。
重症化すると呼吸困難を起こす危険性があるため、日頃から呼吸の様子を観察し、異常があれば早めに獣医師に相談する必要があります。
皮膚トラブルが慢性化しやすい

シーズー犬の豊富な被毛と皮脂分泌の多さは、皮膚トラブルの原因につながる特徴です。
高温多湿な環境では皮膚の蒸れが起こりやすく、細菌や真菌が繁殖しやすくなります。
アレルギー体質も少なくないため、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎を発症する場合があります。
一度皮膚トラブルが起きると治りにくく、慢性化しやすい傾向があるため注意が必要です。定期的なシャンプーやブラッシング、適切な食事管理により皮膚の健康を維持できます。
獣医師と相談しながら、その子に合ったスキンケア方法を見つけ、継続的にケアしましょう。
目の病気に注意が必要
シーズー犬の大きく突出した眼球は、外傷を受けやすくさまざまな眼科疾患のリスクが高まります。
眼の周りの毛が長く眼球に触れやすいため、角膜炎や結膜炎を起こしやすい特徴があります。涙の分泌異常により流涙症(なみだやけ)を起こすこともあるため注意しましょう。
白内障の発症率もほかの犬種と比べて高い傾向にあります。眼の充血や目やに、涙の増加、まぶしがる様子などの症状が見られたら早めに動物病院を受診しましょう。
日常的に眼の周りを清潔に保ち、毛が眼に入らないよう適切にトリミングを行う管理が大切です。
シーズー犬がかかりやすい病気

シーズー犬特有の体質により発症しやすい病気は多岐にわたります。
呼吸器系、皮膚・耳、眼科系の3つの器官系統にわけて、それぞれの代表的な疾患を紹介します。
呼吸器の病気
シーズー犬の呼吸器疾患は、短頭種特有の解剖学的構造に起因します。
鼻腔の狭さや軟口蓋の長さ、気管の弱さなどが複合的に呼吸困難を引き起こします。
以下で代表的な3つの呼吸器疾患を詳しく見ていきましょう。
短頭種気道症候群
短頭種気道症候群は、シーズー犬を含む短頭種に見られる呼吸器疾患の総称です。
鼻腔狭窄や軟口蓋過長、喉頭小嚢の反転などが複合的に起こり、呼吸困難を引き起こします。
症状としていびきやガーガーとした呼吸音、運動不耐性、チアノーゼなどが見られます。
軽度の場合は体重管理や環境温度の調整で対処できますが、重度の場合は外科手術による気道拡張が必要です。
手術により軟口蓋を短縮したり、鼻腔を広げたりして呼吸を楽にします。暑い時期は特に注意が必要で、熱中症のリスクも高まるため涼しい環境での飼育管理が欠かせません。
気管虚脱

気管虚脱は、気管の軟骨が弱くなり気管が押しつぶされて呼吸困難を起こす病気です。シーズー犬を含む小型犬に発症し、中高齢期に症状が現れやすくなります。
特徴的な症状として、ガチョウの鳴き声のような咳が挙げられます。
興奮時や首輪による圧迫、気温の変化などで症状が悪化するため注意しましょう。診断は胸部レントゲン検査や気管支鏡検査で行われます。
軽度の場合は気管支拡張薬や鎮咳薬を使用しますが、重度の場合はステント留置術などの外科的治療が検討されます。
首輪の使用を避けハーネスに変更したり、体重管理を徹底したりして気管への負担を減らす工夫が大切です。
慢性鼻炎
シーズー犬の短い鼻腔構造は、慢性鼻炎を起こしやすい要因の一つです。細菌感染やアレルギー、異物の吸引などが原因で、鼻水・くしゃみ・鼻づまりなどの症状が長期間続きます。
透明な鼻水から始まり、細菌感染が加わると黄色や緑色の膿性鼻汁に変化します。
鼻腔内の炎症により鼻血が出る場合もあるでしょう。診断には鼻腔内視鏡検査やCT検査が用いられ、原因に応じた治療が選択されます。
抗生物質の投与や抗アレルギー薬の使用、ネブライザーによる吸入療法などが行われます。日常的に鼻の周りを清潔に保ち、アレルゲンとなる物質を避ける環境整備も重要です。
皮膚や耳の病気

シーズー犬の皮膚と耳の疾患は、被毛の密度や皮脂分泌の多さ、アレルギー体質などが複合的に関与して発症します。
以下で代表的な4つの皮膚・耳疾患に関して詳しく見ていきましょう。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、環境中のアレルゲンに対する過敏反応により起こる慢性的な皮膚疾患です。
シーズー犬は遺伝的にアトピー体質が少なくないため、ハウスダストやダニ、花粉などに反応して症状が現れます。
主な症状は激しいかゆみでお顔や耳、脇の下、足先などを頻繁に掻いたり舐めたりします。皮膚は赤くなり、慢性化すると色素沈着や苔癬化が起こるため注意が必要です。
治療はステロイド剤や免疫抑制剤、かゆみ止めの内服薬を使用し、シャンプー療法や保湿剤の外用も併用されます。
マラセチア皮膚炎
マラセチア皮膚炎は、皮膚常在菌であるマラセチア酵母菌が過剰に増殖して起こる皮膚疾患です。
シーズー犬の皮脂分泌の多さと被毛の密度が、マラセチアの増殖に適した環境を作り出します。
耳の中や指の間、脇の下、首の周りなどに発症しやすく独特の酸っぱい臭いと赤み、べたつきが特徴的です。
激しいかゆみを伴い、掻き壊しによる二次感染も起こりやすくなります。治療には抗真菌薬の内服や外用薬、薬用シャンプーを使用します。
皮脂をコントロールする食事療法も併用され、定期的な薬用シャンプーによる洗浄が効果的です。
外耳炎
シーズー犬の垂れた耳と耳道内の毛の豊富さは、外耳炎を起こしやすい要因です。
耳道内の通気性が悪く湿度が高くなりやすいため、細菌や真菌が繁殖しやすい環境です。症状として耳を頻繁に掻く動作や頭を振る、耳垢の増加、悪臭などが見られます。
慢性化すると耳道が狭くなり、鼓膜の損傷や中耳炎に進行する危険性もあるため注意が必要です。
治療は点耳薬の使用と耳道洗浄が基本となり、重症例では内服薬も併用されます。
定期的な耳掃除と耳道内の毛の処理により、外耳炎の予防が可能です。
膿皮症
膿皮症は、皮膚の細菌感染により起こる化膿性の皮膚疾患です。
シーズー犬では、アレルギーや皮脂の過剰分泌により皮膚のバリア機能が低下し、ブドウ球菌などの細菌が増殖して発症します。
赤い発疹や膿疱、かさぶたが体幹部を中心に広がり、脱毛や悪臭を伴います。表在性膿皮症から深在性膿皮症へと進行すると、皮膚の深部まで感染が広がり治療が困難です。
治療は適切な抗生物質の内服と薬用シャンプーによる洗浄があり、再発の可能性も考慮して一定期間継続して治療する必要があります。
目の病気

シーズー犬の眼科疾患は、突出した眼球構造と長い被毛が原因となって発症します。
以下で代表的な3つの眼科疾患を詳しく見ていきましょう。
角膜炎(乾性角結膜炎)
角膜炎は、シーズー犬の突出した眼球が外傷を受けやすいために起こりやすい眼科疾患です。
特に乾性角結膜炎(ドライアイ)は、涙の分泌不足により角膜が乾燥し炎症を起こす病気です。
目をしょぼしょぼさせる仕草や充血、目やにの増加、角膜の白濁などの症状が見られます。重症化すると角膜潰瘍や穿孔を起こし、失明の危険性もある疾患です。
診断はシルマーティア試験により涙の量を測定したり、フルオレセイン検査などで角膜の傷を確認したりします。
治療は人工涙液や免疫抑制点眼薬の使用により涙の分泌を促進し、角膜保護剤で角膜を保護します。
流涙症(なみだやけ)
流涙症は、涙が過剰に分泌されたり涙の排出路が詰まったりして、眼の下が常に濡れている状態です。
シーズー犬では、鼻涙管の狭窄や閉塞、まぶたの形態異常などが原因で起こります。涙に含まれる成分により、眼の下の被毛が茶色く変色するなみだやけが特徴的です。
細菌感染を併発すると、皮膚炎や悪臭にもつながります。治療は原因に応じて、鼻涙管洗浄や抗生物質の点眼、外科的な鼻涙管形成術などが選択されます。
日常的なケアとして、涙で濡れた部分をこまめに拭き取り清潔に保つ管理が大切です。
白内障
白内障は、水晶体が白く濁り視力が低下する病気です。シーズー犬では遺伝的要因により、若齢から発症する場合があります。
初期は瞳孔の中心部が白く見える程度ですが、進行すると水晶体全体が白濁し視力を失います。
物にぶつかる、階段を怖がる、動きが慎重になるなどの行動変化が見られたときは直ぐに受診しましょう。
診断は眼科検査により水晶体の混濁を確認し、眼底検査で網膜の状態も評価します。
初期段階では点眼薬により進行を遅らせる治療を行いますが、根本的な治療は外科手術による人工レンズの挿入です。
高齢期のシーズー犬が注意したい病気

シーズー犬は7歳を過ぎると高齢期に入り、加齢に伴うさまざまな病気のリスクが高まります。
以下で、高齢期に特に注意すべき3つの病気を詳しく解説します。
僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の僧帽弁が完全に閉じなくなり血液が逆流する心臓病です。
シーズー犬を含む小型犬の高齢期によく発症する、進行性の病気です。初期は無症状ですが、進行すると運動時の息切れや咳、呼吸困難などが現れます。
聴診により心雑音が確認され、胸部レントゲンや心臓超音波検査で診断されます。病期に応じて、ACE阻害薬や利尿薬、強心薬などを使用する治療方法です。
定期的な検査により病状の進行を把握し、適切な時期に治療を開始する管理が重要です。
クッシング症候群
クッシング症候群は、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌される内分泌疾患で、下垂体腫瘍や副腎腫瘍が原因です。
特徴的な症状として以下が挙げられます。
- 多飲多尿
- 食欲亢進
- 腹部膨満
- 脱毛
- 皮膚の菲薄化
また、筋力低下により、動きが鈍くなったり息が荒くなったりします。この病気は、ACTH刺激試験や低用量デキサメタゾン抑制試験などの内分泌検査での診断が可能です。
治療は原因により異なり、薬物療法ではトリロスタンやミトタンを使用し、腫瘍の場合は外科手術も検討されます。
高齢犬認知機能不全症(認知症)
高齢犬認知機能不全症は、脳の老化により認知機能が低下する病気で、徐々に進行します。
以下の症状や行動が現れます。
- 昼夜逆転の生活
- 夜鳴き
- 徘徊
- 排泄の失敗
- 飼い主を認識できなくなる
- 慣れた場所で迷う
- 壁に向かって立ち尽くす
- 同じ場所をぐるぐる回る
根本的な治療法はありませんが、環境の工夫や行動療法、サプリメントの使用により症状の進行を遅らせる試みが行われます。
規則正しい生活リズムの維持と、適度な刺激を与える日常管理が大切です。
シーズーが健康で過ごすために飼い主ができること

シーズー犬の健康維持には、日々の観察とケアが欠かせません。以下で飼い主が実践すべき4つの重要なポイントを詳しく解説します。
毎日犬の様子と全身状態を観察する
シーズー犬の健康管理には、日々の観察が早期発見の鍵です。食欲や飲水量、排泄の状態、呼吸の様子などを毎日チェックしましょう。
特に呼吸音の変化や咳の有無、眼や耳の状態には注意が必要です。被毛をかきわけて皮膚の状態も確認し、赤みや湿疹、脱毛がないか観察しましょう。
歩き方や動きの変化も病気のサインとなる場合があります。いつもと違う様子に気付いたら、症状を詳しくメモして獣医師に相談しましょう。
早期に異常を発見し治療を開始できれば、多くの病気は重症化を防げます。
スキンケアで清潔にする
シーズー犬の豊富な被毛と皮脂分泌の多さを考慮した、適切なスキンケアが必要です。
週1〜2回のシャンプーで皮脂や汚れを除去し、皮膚を清潔に保ちます。
ブラッシングは毎日行い、毛玉やもつれを防ぎましょう。眼の周りやお口の周りは、涙や唾液で汚れやすいため、ぬるま湯で湿らせたガーゼで優しく拭き取ることが大切です。
耳掃除は週1回程度行い、耳垢の蓄積を防ぎます。爪切りも定期的に行い、肉球の間の毛もカットして清潔を保ちます。
定期的に健康診断を受ける

シーズー犬の健康維持には、定期的な健康診断が欠かせません。
若齢期は年1回、7歳以降の高齢期は年2回の健康診断を受けましょう。血液検査により、内臓機能や内分泌疾患の早期発見が可能です。
尿検査では腎臓病や糖尿病、膀胱炎などを発見できます。胸部レントゲン検査で心臓や肺の状態を確認し、腹部超音波検査で内臓の異常を調べましょう。
歯科検診も重要で、歯石除去や歯周病の治療により全身への悪影響を防げます。予防接種や寄生虫予防も忘れずに行い、感染症から愛犬を守りましょう。
太らせない体重管理と無理のない運動習慣
シーズー犬の適正体重維持は、さまざまな病気の予防につながります。
肥満は呼吸器疾患や心臓病、関節疾患を悪化させる要因の一つです。適切な食事量を守り、おやつは少なめにしましょう。
人間の食べ物は与えず、犬用のフードで栄養バランスを整えます。激しい運動は避け、愛犬のペースに合わせた無理のない運動を心がけましょう。
まとめ

シーズー犬は特有の体質により、呼吸器疾患や皮膚疾患、眼科疾患にかかりやすい犬種です。
飼い主による日々の健康観察と適切なケア、定期的な健康診断により、予防や早期治療が可能です。
愛犬の特性を理解し、その子に合った健康管理を続けることで、シーズー犬と長く幸せな時間を過ごせます。獣医師と連携しながら、愛犬の健康を守っていきましょう。
参考文献
