ペットを飼っているのであれば、注意しなければならないのがマダニ対策です。マダニに感染すると、さまざまな病気を引き起こす恐れがあるためです。
今回はマダニからペットを守るためにどのような対策を講じるべきか、解説します。自宅での対策だけでなく、動物病院でマダニ予防をするのも効果的です。
いくら注意しても、完全にマダニから守り切るのは難しいでしょう。もしマダニに噛まれた場合、速やかに動物病院で診察を受けましょう。
マダニとは

マダニとはその名のとおり、ダニの一種です。チリダニやツメダニのようなほかの種類とは異なり、体長3~8mmと肉眼で確認できるダニです。
マダニは人間や動物から吸血することで、栄養を摂取しています。満腹状態になれば、10~20mm程度にまで大きくなります。
マダニの活動範囲は日本全国です。特に緑の豊かな場所に多く生息しているといわれています。
活動が活発になるのは、春から秋にかけてです。ただし年間とおして温暖な地域であれば、冬場でも活動している場合もあります。
マダニが引き起こす病気

ペットがマダニに噛まれないように注意すべき理由は、噛まれるとさまざまな病気を発症する危険性があるためです。
マダニに噛まれて引き起こすといわれる主な病気は、以下のとおりです。
- 貧血
- バベシア症
- アレルギー性皮膚炎
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
具体的にどのような病気なのか、個別に解説します。
貧血
マダニに噛まれると、貧血を起こす危険性があります。マダニは大量に吸血するためです。動物の皮膚にとりつくと体重が100倍以上に増加するほど吸血するといわれています。
もし複数のマダニに噛まれた場合、吸血されただけで貧血を起こす危険性も十分考えられます。さらにヘモプラズマ感染症になるのも、貧血になる原因です。
ヘモプラズマはマダニによって媒介され、赤血球に感染します。赤血球に異常が生じ、貧血を起こします。重度になると呼吸困難を起こすので、注意しましょう。
バベシア症
マダニに噛まれると、バベシア症を発症する危険性があるので注意が必要です。マダニが媒介することで、バベシア属原虫がペットの体内に入ります。
バベシア属原虫は動物の赤血球内に侵入して、増殖します。そして動物の赤血球を破壊して、溶血を引き起こすので危険です。
マダニに噛まれると、貧血を起こすと別項で紹介しました。ただし単なる貧血ではなく、このバベシア症による貧血の可能性も考えられます。
バベシア症の病原体は日本を含め世界中で広く分布しているため、マダニに噛まれると発症する危険性はありうるので注意しましょう。
アレルギー性皮膚炎
マダニに噛まれることで、アレルギー性皮膚炎をペットが発症する危険性があります。人間同様、犬や猫もアトピー性皮膚炎になる恐れがあるためです。
どのようなものがアレルゲンとなるか、こちらも人間と同じです。ダニやハウスダストに対してアレルギー反応を出す恐れがあるので、注意しましょう。
マダニに噛まれた際、マダニの唾液に含まれる成分がアレルゲンになる可能性があります。噛まれた後にアレルギー反応を起こし、強いかゆみを感じるかもしれません。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
マダニがSFTSウイルスを保有している場合、噛まれると重症熱性血小板減少症候群を引き起こしかねません。食欲低下や発熱などの症状を引き起こします。
ペットの場合、猫の方が犬よりも重症化しやすいといわれているので注意が必要です。感染しても何も症状がない場合も見られます。
重症熱性血小板減少症候群の厄介なところは、ペットから飼主に感染する恐れがある点です。ヒトに感染すると嘔吐や腹痛、下痢などの消化器症状を引き起こします。
場合によっては重症化する恐れがあるので、注意しなければなりません。致死率はおよそ10~30%といわれているほどです。
マダニからペットを守るための対策方法

マダニに噛まれると、ペットやその飼主にさまざまな病気を引き起こすので噛まれないように常日頃から注意する必要があります。
ではペットからマダニを守るために、具体的にどのような点に注意すればよいのでしょうか。日常からできる対策を以下で紹介します。
屋内や屋外問わず、ペットと一緒に過ごす際には以下のポイントに注意しましょう。
マダニ駆除剤を使用する
マダニに噛まれないようにするためには、ペットとマダニの接触頻度を減らすのが有効です。そのために効果的なのは、マダニ駆除剤の使用です。
マダニ駆除剤を使用すれば、マダニがペットに寄ってきたり、噛んだりするリスクを低減できます。屋外を散歩する際にはマダニ駆除剤を使用しましょう。
またもしかすると屋内にマダニが生息している可能性もあります。屋内でもマダニに噛まれる危険性はあるので、マダニ駆除剤を室内に撒くのも大切なポイントです。
散歩後には必ず全身の確認をする

散歩から戻った際には、ペットの全身をくまなく見てマダニが付着していないか確認しましょう。ほかのダニとは違って、マダニは肉眼で確認できるためです。
もしマダニが見つかったら、つぶさないように除去しましょう。除去する際には素手では危険なので、手袋を装着して採取しましょう。
場合によってはマダニがペットから吸血している途中の可能性もあります。吸血していたり、しっかり食い込んでいたりする際には無理に取らないことです。
速やかに動物病院を受診し、獣医師に取ってもらうとよいでしょう。
室内や寝床を清潔に保つ
マダニは屋内に生息している可能性もあります。ペットの体に付着して、そのまま部屋のなかに入りこむ可能性もあるためです。
部屋にマダニが生息している可能性も想定して、掃除してきれいにしておくことも重要です。定期的かつこまめに掃除しましょう。
ダニは湿気の高いところを好む傾向が見られます。特に風呂場や台所のような水回りの個所は、こまめな換気が求められます。
寝床の衛生管理にも注意しましょう。定期的に屋外に干したり、掃除機をかけたりするように心がけましょう。
動物病院でのマダニ予防と費用

マダニ対策は自身のみで行うだけでなく、動物病院を定期的に受診するのも効果的な対策です。自身で対策しても、どうしても抜け穴が残る可能性もあるためです。
動物病院では、マダニ予防としてさまざまな診療を実施しています。今回は、具体的にどのような診療を実施しているか見ていきましょう。
動物病院で診療を受ける際、気になるのは費用です。おおよその費用相場も見ていくので、参考にしましょう。
注射
ペットの病気予防として、注射を連想する方もいるかもしれません。しかしノミやダニなどは注射で予防できません。
マダニからペットを守るために注射はできないものの、そのほかの病気予防のために注射は必要です。定期的な接種を忘れずに行いましょう。
例えば生後91日以上の犬を飼っている方対象に、年に1回狂犬病注射を受ける義務があります。狂犬病ワクチンの費用はおおよそ3,000円(税込)前後が相場です。
ほかにもさまざまなワクチン注射もあるので、必要に応じて接種することがペットの病気予防につながります。
飲み薬

動物病院ではマダニ対策として、飲み薬をペットに対して処方する場合も少なくありません。犬に対して有効とされているのが、ネクスガードスペクトラです。
ネクスガードスペクトラはアフォキソラネルやミルベマイシンオキシムなどの成分が配合されています。マダニのほかにも、ノミや回虫などの駆除に効果があります。
チュアブル錠の飲み薬で、噛み砕いての服用が可能です。どの程度投与するかは、犬の体重によって変わります。
月に1回のペースで服用させましょう。費用は投与量によっても違ってくるものの、2,000~3,000円(税込)程度が相場です。
スポットタイプ
動物病院によっては、スポットタイプの薬でマダニ予防を行う場合もあります。スポットタイプとは、皮膚に直接塗布するタイプの薬です。
具体的には、肩周辺の体毛をかき分けて塗布します。液を垂らすだけなので、ペットにかかる負担を軽減できるのが特徴です。
マダニ対策の場合、フィプロニルと呼ばれるフェニルピラゾール系の薬剤が効果的といわれています。フロントラインやフロントラインプラスなどです。
マダニであれば、投与後48時間程度で死滅できます。定期的に投与すれば、卵のふ化や成長の阻止もできる薬剤です。
費用はサイズにもよりますが、1,500~2,500円(税込)前後かかると考えておきましょう。
マダニに噛まれてしまったときの動物病院での処置方法

もしペットがマダニに噛まれてしまったのであれば、速やかに動物病院で診察を受けましょう。マダニに噛まれてしまった場合の処置方法をここでは見ていきます。
動物病院によって、若干処置方法の異なる部分はあるかもしれません。しかし大まかな流れとしては、以下で紹介する手順で進めるものと考えておきましょう。
患部の剃毛
マダニに噛まれた場合、患部の体毛を剃る場合があります。剃毛すれば、体毛に付着しているマダニを除去できるためです。
マダニの駆除にスポットタイプの薬剤を投与する場合があると、別項で紹介しました。スポットタイプの薬剤をより皮膚に浸透させるためにも、剃毛は有効です。
剃毛すると、皮膚を清潔にできるのも実施する理由の一つです。ただ剃毛した後で発毛障害を引き起こしたり、体毛が変化したりする場合もあります。
剃毛が適切な処置か、慎重に見極めながら治療を進めていきます。
マダニの除去
動物病院では専用器具を使って、マダニの除去をしていきます。具体的にはプロポスクルやフルメトリンなど、マダニの駆除効果のある成分を使用します。
ペットの体表部分にマダニを発見した場合、自分で処理するのはやめましょう。無理に引っ張ると、マダニの顎の部分を指す口器や頭部が皮膚内に残る恐れがあるためです。
皮膚内に残ったマダニの一部分をきっかけに、炎症や感染症を引き起こしかねません。動物病院で獣医師にお願いすれば、口器や頭部が残らないように慎重に除去します。
皮膚の消毒や薬剤の使用

マダニの除去が終了すると、患部の消毒が行われます。慎重にマダニを除去するので、可能性は低いものの口器や頭部が皮膚に残る恐れもあるためです。
もしマダニの口器や頭部の一部が皮膚に残っていると、そこから炎症を起こしたり化膿したりします。治療後消毒すれば、炎症や化膿の予防も可能です。
さらにマダニに再度噛まれないように、ダニ駆除剤を患部に塗布する場合もあります。ダニ駆除剤が使用されるかは、ケースバイケースです。
経過観察と患部の清潔維持方法の指導
マダニに噛まれて動物病院で除去したら、当面経過観察します。別項で紹介したように、マダニに噛まれると感染症を発症する恐れがあるためです。
マダニに噛まれて数週間程度は、感染症が発生するリスクがあります。皮膚に腫れやしこりの有無、発熱していないかなど自身でも日常的にチェックしておきましょう。
また患部の衛生管理もしっかり行わなければなりません。衛生管理をしておかないと、炎症や化膿を起こしてしまうからです。
散歩で外出した際には、患部をシャワーで洗浄したり、マダニ駆除剤や防虫剤を使用するなどの対策を講じましょう。
動物病院を受診すると、普段の衛生管理における注意点に関して指導を受けるはずです。その指示にしたがって、衛生管理をしましょう。
マダニ治療で動物病院を受診するときの注意点

マダニ治療で動物病院を受診する際には、ペットを自由にさせないように注意しましょう。ほかの動物に迷惑をかけたり、誤食したりする危険性があるためです。
リードを短く持って移動を制限したり、キャリーバッグに入れたりしましょう。ほかのペットのそばに移動すると喧嘩する恐れもあるので、むやみに近づけないことも大切です。
もしかすると待合室で排せつする場合もあるかもしれません。その場合には飼主自らが掃除を行いましょう。自力で難しければ、動物病院のスタッフにサポートをお願いします。
排せつ物の処理を自ら行う必要があるのは、感染対策のためです。マダニを媒介した感染症にかかっている恐れがあるので、ほかの動物に病気がうつる恐れもあります。
まとめ

ペットを飼うにあたって注意しなければならないのは、マダニに噛まれることです。マダニに噛まれたことをきっかけに、感染症に罹患する恐れもあるからです。
散歩で外出した際には、ペットの体を全体的にチェックしましょう。マダニはほかのダニと異なり、肉眼でわかるので皮膚についていないか確認します。
もしマダニを発見したのであれば、速やかに動物病院で除去をお願いしましょう。自身で無理に除去しようとすると、口器や頭部の一部が皮膚に残る恐れがあります。
マダニの一部が皮膚に残ってしまうと、炎症や化膿を引き起こしかねません。素手で取ると、飼主自身が感染症に罹患する恐れもあります。
動物病院を受診すれば、マダニが残らないように慎重に除去してくれます。消毒をして、炎症を起こさないように処置してくれるので動物病院を受診しましょう。
参考文献
- マダニにご注意! ~マダニQ&A~|東京都健康安全研究センター
- 病原体の運び屋である吸血ダニに対する生体防御の仕組みを解明|国立研究開発法人 科学技術振興機構
- 乳牛の分娩前後および新生子牛におけるヘモプラズマ感染の実態|J-STAGE
- 犬バベシア病|国立国会図書館デジタルコレクション
- みんなで動植物を守ろう|農林水産省
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について|厚生労働省
- ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に注意しましょう!|群馬県
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A|厚生労働省
- 悪化因子の対策|独立行政法人 環境再生保全機構
- ペットを飼う前も、飼ってからも考えよう。飼い主の「責任」とは?|政府広報オンライン
- ネクスガード スペクトラ 22.5|動物用医薬品データベース
- フィプロニル(案)|厚生労働省
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の現状(動物編)|国立感染症研究所
- 第4章 薬剤感受性試験|農林水産省
- ボルホプラスカラーS|農林水産省
- マダニ対策、今できること|国立健康危機管理研究機構
- 公益財団法人 日本小動物医療センター
- 私たちがつくるペットとのこれから|環境省
