ペットの健康を守るうえで、ノミやマダニの寄生はとても身近で深刻な問題です。動物病院では、散歩中の草むらや意外な室内環境からペットに寄生するノミやマダニを防ぐため、チュアブル錠やスポットオン剤など、さまざまな駆除薬・予防薬が処方されています。
この記事では、ノミやマダニの感染経路や感染しやすい病気、動物病院で扱う駆除薬・予防薬の特徴と選び方、投与時期や注意点を解説します。大切なペットの健康管理を考える際には、ぜひ参考にしてください。
ペットはどこでノミ・ダニに感染する?

ノミやマダニなどの外部寄生虫は、屋内外問わずペットに寄生します。散歩道、草むら、公園、ほかの動物との接触など日常に潜む感染源を理解すると、感染リスクを大幅に軽減できます。まずは具体的な感染場所と状況を理解しましょう。
ここでは、散歩道や草むら、公園、ほかの動物との触れ合いなど、日常生活に潜む感染源を解説します。
散歩コースや草むら、公園などの屋外
散歩道や草むら、公園の芝生、河川敷などの屋外環境はノミ・マダニがもっとも潜みやすい場所です。背丈のある草はマダニの待ち伏せ場所となり、通過した犬猫の体温や振動を感知して飛び移ります。湿度が保たれる日陰の土壌や落ち葉の下にはノミの幼虫やサナギが多く生息し、踏み込むだけでも被毛に付着する恐れがあります。
ノミやマダニは気温13度前後で活動が再開し、春から秋にかけて繁殖スピードが加速し、短時間の散歩でも油断できません。帰宅後は体表を手でなでて異物感がないか確認し、ブラッシングで卵や幼虫を落とし、早期発見と定期的な駆除薬の投与を徹底しましょう。
ノミ・ダニが付着した人や動物、物
ノミには優れた跳躍力があり、マダニには高い吸着力があり、、人や動物の衣類や被毛に付着して自宅へ侵入する可能性があります。感染経路は多岐にわたり、ほかのペットとの接触だけでなく、動物カフェやペットホテル、動物病院の待合室など複数の動物が集まる場所の床や椅子も注意が必要です。さらに、野良猫や鳥の毛・巣材を経由し、ベランダから室内へ入り込むこともあります。
予防には、屋外活動後の衣類の洗濯、キャリーバッグや首輪のアルコール消毒が効果的です。多頭飼育家庭では、帰宅時に玄関ですべてのペットをチェックし、駆除薬の投与時期を揃えるのが大切です。
ノミ感染が原因でかかる主な病気

ノミは皮膚のかゆみや湿疹だけでなく貧血や条虫、人獣共通感染症まで引き起こし、ペットと家族の健康を脅かします。愛犬愛猫を守るため、通年の駆除薬投与と環境管理を徹底しましょう。
ここでは、注意すべき代表的な疾患の症状と、予防・治療の重要ポイントを解説します。
ノミ刺咬症
ノミに刺されると、その唾液が原因で犬猫や人も強いアレルギー反応(ノミ刺咬症)を起こすことがあります。刺された箇所には赤い発疹が群がり、激しいかゆみから皮膚を傷つけ、脱毛や二次感染に至るケースも少なくありません。アレルギー体質の子は、ノミの数が少なくても症状が重くなり、不眠や元気消失を招く場合も見られます。
治療の基本はノミの駆除で、ステロイドや抗ヒスタミン薬でかゆみを抑える処置を行います。寝床やカーペットに卵や幼虫が残っていると再発しやすいため、こまめな掃除が重要です。
皮膚炎や貧血
ノミに繰り返し吸血されると、唾液がアレルゲンとなり、犬猫は慢性的な痒みと炎症に悩まされます。これがノミアレルギー性皮膚炎です。犬では尾の付け根から腰にかけて、猫では首周りに脱毛や赤みが出やすく、掻きむしって化膿すると細菌感染も伴い治癒が長期化しやすいです。
子犬や子猫の身体が小さい子は、少数のノミでも吸血量が多くなり貧血に陥ることがあります。歯茎が白くなる、呼吸が速い、ぐったりするなどは危険なサインです。室内のノミ(卵や幼虫も)を徹底駆除することが再発防止のポイントです。高齢や持病のあるペットは特に注意しましょう。
瓜実条虫(サナダムシ)
犬や猫が毛づくろいの際、ノミの体内にいる瓜実条虫の幼虫を一緒に飲み込んで感染します。お腹のなかで80cm程に成長することもあり、そうめんのような白い虫になります。実際は、2〜3mmから1cmの大きさの片節が100個以上も連なっています。そのため、肛門から出てくるときは、キュウリの種のような形をした白いものが便と一緒に排出されます。便の出方によってはお尻周りに米粒大の白いものがつくこともあります。。お尻歩きをしたり、軽い下痢や嘔吐、体重が減ったりするのもサインです。放っておくと毛ヅヤが悪くなったり、子犬の成長が悪くなったりする恐れもあります。
診断は便検査で虫や卵を見つけます。治療は駆虫薬の飲み薬か滴下剤や注射で、ほとんどの場合一度で治りますがノミの駆除と寝具の洗浄・乾燥が必須です。
猫ひっかき病
猫ひっかき病は、猫ノミが運ぶ菌が原因で、猫から人にうつる病気です。猫自身は、この菌を持っていてもほとんど症状が出ないか、軽い熱が出る程度です。しかし、人が感染すると傷口周囲が丘疹化し、リンパ節の腫れや発熱、倦怠感が続きます。子どもや高齢の方、持病のある方は重症化するケースもあり油断できません。
予防のためには、年間を通してノミの駆除、屋外の行動の制限、遊びなかの牙爪接触に気をつけるのも有効でしょう。もし傷を負ったらすぐに洗い流し、熱が出た場合は早めに病院を受診してください。
マダニ感染が原因でかかる主な病気

マダニは吸血する際、唾液と一緒にさまざまな病原体をペットや人の体内に送り込み、細菌感染症、原虫症、ウイルス感染症など幅広い健康被害を引き起こします。これらの病気から守るためには、早期の対策が大切です。
ここではマダニ感染が原因でかかる代表的な病気とその症状をお伝えし、早期発見や感染予防のために必要なポイントも解説します。
ライム病
ライム病は、マダニが媒介するボレリア属の細菌によって引き起こされる感染症で、犬にも感染します。感染すると、関節炎による跛行、発熱、食欲不振、元気消失などの症状が現れることがあります。
重症化すると腎炎や心筋炎を引き起こすこともあるため、早期の診断と治療が必要です。予防には、マダニの生息地への接近を避け、定期的なマダニ駆除薬の使用が効果的です。特に、春から秋にかけてはマダニの活動が活発になるため注意しましょう。
日本紅斑熱
日本紅斑熱はリケッチアという病原体を保有するマダニに刺されることで発症する可能性があり、西日本を中心に報告が増加しています。犬猫では高熱・元気消失・食欲不振・リンパ節腫脹・嘔吐下痢など急性の全身症状が起こり、人にも感染する病気です。
倦怠感や発熱、発疹が同時に出たら至急受診し、抗菌薬を早期投与する必要があります。
野山や畑、草むらではマダニに刺されないような対策をしましょう。
犬バベシア症
犬のバベシア症はマダニが媒介する原虫感染症で、赤血球内に寄生したバベシアが溶血を引き起こし、貧血、血小板減少、発熱、脾腫など多彩な症状を示します。西日本を中心に発生し、感染後は血液塗抹検査やPCRで診断し、重症例では輸血や強力な駆虫薬による長期治療が必要です。
母犬から子犬、輸血を介した感染拡大や慢性感染による再発リスクもあるため、飼い主さんは定期的なマダニ予防薬の投与と飼育環境の清掃を徹底しましょう。
貧血や皮膚炎
マダニは病原体がなくても、長時間の吸血だけで失血性貧血や重度の皮膚炎を引き起こします。特に子犬・小型犬・高齢猫では、わずかな血液損失でも体力が奪われ、粘膜の蒼白化や心拍数増加、呼吸が浅く速くなるなどの症状が現れることもあります。
マダニの唾液に含まれる物質によるアレルギー反応で深刻な状態になることもあるため注意が必要です。マダニを見つけたら無理に取らず、動物病院で安全に除去してもらいましょう。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、犬や猫に高熱・嘔吐・下痢・出血といった深刻な症状を急速に引き起こす病気です。特効薬やワクチンはなく対症療法が中心で、致死率が高いため、予防が何よりも大切です。
この病気はペットから人へも感染する可能性があり、両方の命を脅かします。そのため、マダニの生息場所(草むら、山林など)への接近は注意が必要です。通年のマダニ駆除薬の使用や、網戸などで家への侵入を防ぐ対策を徹底しましょう。
ノミ・ダニ予防を始める時期と駆除に必要な期間

ノミとマダニは気温13度前後で活動が再開するため、春先(3〜4月)から予防を開始し、製剤に応じて1ヶ月または3ヶ月ごとに継続投与することが基本です。また暖房環境下や温暖地では初冬まで、場合により通年投与が必要か検討してください。
ここでは、ノミ・ダニ予防の開始時期、駆除に必要な期間も解説します。
ノミ・ダニ予防の開始時期
ノミは気温13度、マダニは10度くらいで活発に動き始めます。3月下旬から4月上旬が、活動をスタートさせる目安です。冬の間も幼虫やサナギはカーペットやペットベッドに潜んでいます。春の気配を感じたら早めの対策が肝心です。
動物病院で予防薬を処方してもらい、お散歩コースやペットホテルの利用状況、過去の寄生歴を考慮し、その子に合った投薬計画を立てるのが理想的です。
ノミ・ダニの予防・駆除に必要な期間
外部寄生虫駆除薬(内服または滴下タイプ)は、1ヶ月有効製剤なら少なくとも4週間、3 ヶ月有効製剤なら12週間連続して血中濃度を維持することで効果を発揮します。有効期間が過ぎると、再寄生の可能性が高まるため、投薬日を厳守するのが重要です。
ノミやマダニの活動が活発な春から秋の予防はもちろん、室内に卵が残存する可能性を考慮し、初冬までの継続が推奨されます。沖縄や九州地方の温暖な地域や、暖房を使用する完全室内飼育などでは、一年中の投与が推奨されます。投薬を休止する際も、薬剤の残存効果期間を考慮し、必ず獣医に相談のうえ、適切な終了時期を決めましょう。
動物病院で処方されるノミ・ダニの駆除薬・予防薬

動物病院で処方されるノミ・ダニ駆除薬は、速効性と安全性が確認された医薬品で、チュアブル・スポットオン・注射など剤形が豊富です。ネクスガードやブラベクトは短時間で寄生虫を駆除し、3ヶ月程度効果が持続する製剤もあります。
ここでは、主な駆除薬・予防薬の種類と投与方法、効果持続期間を解説します。
動物病院で扱いのあるノミ・ダニの駆除薬・予防薬
動物病院では、ノミ・ダニを即効駆除し再寄生を防ぐ多様な医薬品を提供しています。
種類 | 製品名 | 特徴 |
---|---|---|
チュアブル型 | ネクスガード | 1ヶ月間持続 |
チュアブル型 | シンパリカ | 1ヶ月間持続 |
チュアブル型 | ブラベクト | 12週間(約3ヶ月)持続 |
スポットオン型 | フロントラインプラス | 外部寄生虫に有効 |
スポットオン型 | ブロードライン | 外部寄生虫に有効 |
スポットオン型 | レボリューションプラス | 外部寄生虫および猫用は内部寄生虫にも有効 |
これらの医薬品は市販品より有効成分量が多く、厳格な安全試験をクリアされてるものです。獣医が動物の体重や年齢に合わせて適切に処方するため、安心して使用できます。
薬の投与方法
投与方法は製剤のタイプによって異なります。
投与方法 | 特徴 | 利点 |
---|---|---|
チュアブル | 嗜好性の高いやわらかい錠剤 | 食後におやつ感覚で与えられ、ストレスが少ない。シャンプーや水遊びに影響はない。 |
スポットオン | 肩甲骨の間の被毛をかき分けて皮膚に滴下する。皮脂腺に薬剤を蓄え全身へ広がる。 | 外用が苦手な犬猫でも短時間で完了する。 |
長期経口剤 | 水と一緒に丸飲みさせるか、フードで包んで与える。(例:ブラベクト12週間持続型) | 投薬回数を減らせるため、投薬忘れを防ぐことができる。 |
いずれも体重区分が細かく設定されているため獣医師の指示を守り、吐き戻しや滴下直後のシャンプーを避けるなど適切な管理が重要です。
薬の効果持続期間
効果持続期間は製品によって大きく異なります。
製品名 | 特徴 |
---|---|
ネクスガード | ノミは投与後30分程で駆除効果が現れ、6時間以内にほぼ100%が駆除できる。マダニは投与後12〜24時間以内に駆除する。効果は1ヶ月間持続。 |
フロントラインプラス | ノミは投与後24時間以内にほとんどが駆除できる。マダニは投与後48時間以内にほぼ駆除。効果は1ヶ月間持続。 |
ブラベクト錠 | ノミは投与後8〜12時間以内にほぼ100%が駆除され、効果は3ヵ月間持続する。マダニは投与後4時間程で駆除が始まり、12〜24時間以内にほとんどが駆除。単回投与でノミと大部分のマダニに対して12週間(約3ヶ月)効果が持続。 |
飼育環境やこれまでの寄生状況を踏まえ、毎月投与で安定した管理を行うか、長期持続型製剤で投薬漏れを防ぐかは、獣医と十分に相談して決めるとよいでしょう。いずれの薬も効果期間が切れる前に次回分を投与するのが重要です。
ノミ・ダニの駆除薬・予防薬による副作用

ノミ・ダニ駆除薬は多数の安全試験をクリアした医薬品ですが、まれに嘔吐や下痢などの消化器症状や、塗布部位の発赤・かゆみなどの皮膚反応が発生することがあります。
ここでは、駆除薬・予防薬の主な副作用と注意点を解説します。
経口タイプの副作用
経口タイプのノミ・ダニ駆除薬には嗜好性の高いチュアブル錠がよく利用されています。薬効が速く、シャンプーや雨などの影響を受けないメリットがありますが、ごくまれに嘔吐や軟便、流涎、食欲不振、元気消失など消化器症状が報告されています。さらに神経系に作用する成分を含むため、ごく稀ながらけいれんや嗜眠、震えが現れるケースがあり注意が必要です。
投与後は30分から数時間を目安に様子を観察し、症状が長引く場合は早急に動物病院へ連れて行きましょう。空腹時より食後に与えると副作用のリスクが抑えられ、体重に応じた用量を守ることが安全に使用するためのポイントです。
スポットオンタイプの副作用
スポットオンタイプは肩甲骨間の皮膚に滴下するだけで全身に広がる便利な外用薬です。塗布部位の一過性の赤みやかゆみ、被毛のべたつき、脱毛が見られるケースがあります。
まれにアルコール系溶剤による皮膚刺激でフケや炎症が強く出たり、猫がグルーミングして経口摂取し流涎や嘔吐を起こす例も報告されています。
塗布後24時間はシャンプーや抱っこを控えるのが望ましいです。複数飼育では投与後は薬剤が完全に乾くまで、ケージに入れるか部屋を分けるなどして舐めあいを防ぎましょう。
投与した部分にかゆみや赤みなどの症状が見られた場合は、副作用が出ている可能性があります。早めに動物病院を受診してください。
まとめ

ノミ・マダニは散歩道や衣類などから室内外で寄生し、刺咬症やバベシア症、SFTSなど重篤な病気を媒介します。春先から予防薬を定期的に投与し、ペットの生活環境を清潔に保つことが大切です。
動物病院では月1回型から3ヶ月型まで多彩なチュアブル・スポットオン剤が処方され、副作用は稀ながら嘔吐や皮膚刺激に注意が必要です。感染経路や症状を理解し、子犬や高齢犬では特に慎重な観察と早期対応を心がけましょう。