動物病院の猫の健康診断では何がわかる?検査項目や検査の流れ、費用相場を解説

動物病院の猫の健康診断では何がわかる?検査項目や検査の流れ、費用相場を解説

健康診断といえば人間が受けるものを連想しがちですが、近年では猫をはじめとする動物の健康診断を受ける機会が増えています。猫の健康診断を通じて、健康状態の確認や注意すべき点を把握することができます。本記事では、猫に健康診断が必要な理由、検査項目、診断の流れ、推奨頻度、費用、注意点について詳しく解説します。

猫に健康診断が必要な理由

私たち人間が健康診断を受ける理由には、生活習慣病やさまざまな病気の早期発見・適切な治療、予防などがあります。これらは猫にも当てはまり、健康診断を受けることで次のようなメリットがあります。

早期発見と適切な治療

定期的な健康診断により、猫の病気を早期に発見して適切な治療を始めることが可能です。例えば、高血圧や慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症などは、初期段階では症状が目立ちにくいため、健康診断によって早期発見して治療することで健康寿命を延ばすことができる可能性があります。

健康状態の変化の把握

健康診断では、前年の状態や同じ世代の猫と比較することで、体調の変化に早めに気付き、適切な対策を行うことができます。特に、加齢により身体状態が大きく変化しやすいため、定期的な健康診断で猫の状態を把握しましょう。体重や血液検査の結果などから猫の現在の健康状態を確認できます。

ワクチン接種の重要性

健康診断はワクチン接種のタイミングとしても有効です。適切なワクチンを接種することで、次のような感染症のリスクを軽減できます。

  • 猫ウイルス性鼻気管炎
  • 猫カリシウイルス感染症
  • 猫汎血球減少症
  • 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)
  • クラミジア病
  • 猫免疫不全ウイルス(FIV)

ワクチンは発症を予防するだけでなく、発症時の症状を軽減する効果も期待できます。大切な猫を感染症から守るため、積極的なワクチン接種を検討しましょう。

健康管理の疑問点を解決する

健康診断の結果をもとに獣医師とカウンセリングを行うことで、生活習慣の改善や健康維持に必要な具体的なアドバイスを受けられます。また、日常の生活や健康管理についての疑問を直接相談することができ、猫にとってもよりよい環境を整える手助けとなります。

動物病院で行われる猫の健康診断の検査項目

猫の健康診断は、動物病院でのみ受けることができ、それ以外の場所で実施することは難しいのが現状です。動物病院では、猫の健康状態を詳しく調べるために、以下のような検査項目が行われます。

身体検査

獣医師が猫の全身を目視や触診で確認する検査です。主な項目は次のとおりです。

体温

猫の正常な体温は38〜39度で、人間よりやや高めです。体温がこの範囲を超えたり下回ったりする場合は、感染症やその他の健康問題が疑われます。体温測定には肛門に体温計を挿入して直腸温を測定する方法が一般的です。

心拍数

猫の正常な心拍数は140〜220回/分です。緊張や環境の変化による一時的な上昇は問題ありませんが、長期間に渡って200〜300回/分以上の心拍数が認められる場合は、心臓の構造と機能に悪影響を及ぼした結果、心不全などを発症する可能性が考えられます。

呼吸数

猫の正常な呼吸数は20〜40回/分程度で、睡眠時には15〜25回/分程度に減少します。

犬の場合は、パンティング(舌を出してハアハアすること)があるため、呼吸数が100回/分を超えることもあります。しかし、猫はパンティングや、口を開けて呼吸する開口呼吸も基本的には行いません。そのため、猫の呼吸数が多い場合は、呼吸器機能の何かしらの問題が疑われます。

体重測定

猫の体重は3〜5kgが生後1年後の平均的な重さです。また、1ヶ月以内に普段の体重に対して5%以上減少する場合は、何かしらの病気にかかっている可能性があります。特にシニア猫では、体重の変化が病気の徴候になることがあります。

また、健康そうに見える猫のうち40%以上が肥満と判定されているデータがあることからも、体格のチェックや定期的な体重測定は猫の健康状態を知るために重要な検査の1つになります。

口腔内検査

獣医師が猫の口の中を診察し、歯や歯茎の状態、口臭、歯垢や歯石の蓄積などを確認します。また、歯周病などの口腔疾患の徴候がないかも併せて確認します。これらが進行すると歯がぐらぐらしたり、最終的には抜け落ちたりすることがあります。また全身の感染症を発症する原因となる可能性もあります。

ベルギーの大学病院で一見健康そうに見える7〜10歳の成猫と10歳以上の高齢猫に対して調査した結果、35%以上に中等度から重度の歯科疾患があるという報告もあります。口腔内の問題は全身の健康に影響を与えるため、定期的なチェックを行いましょう。

血液検査

血液検査は、猫の健康状態を詳しく把握し、病気の早期発見や予防に役立ちます。以下の項目が一般的に検査されます。

  • 赤血球、白血球、血小板:貧血や感染症の評価
  • 肝酵素(ALT、AST、ALP):肝臓の状態を確認
  • 腎機能マーカー(BUN、クレアチニン):腎臓の状態を評価
  • 電解質:ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの電解質バランスを確認
  • 血糖値:糖尿病や血糖異常の診断
  • 炎症・感染マーカー:感染症の有無を調査

超音波検査

超音波検査では、肝臓、腎臓、膀胱、脾臓、心臓などの体内臓器の状態を評価します。特に、腫瘍、炎症、結石などの異常を早期に検出するのに有効な検査です。

レントゲン検査

レントゲンを使い、骨や臓器の状態を確認し、肺や消化器系の疾患や異常を早期に特定できます。特にシニア猫や健康に不安がある猫の場合は、何かしらの異常が見つかる可能性が高く、有効な検査です。

尿検査

尿中のタンパク、糖、潜血などを調べることで、腎臓や膀胱の状態や、糖尿病の兆候を確認します。特に腎機能の早期評価にも重要な検査です。

血圧測定

猫の血圧を測定し、高血圧や低血圧による健康への影響を確認します。人間の正常血圧は収縮期血圧(最高血圧)が120mmHg程度ですが、猫では収縮期血圧は140mmHg程度が1つの基準で人間よりも高めになっています。

高血圧の状態が続くと、腎臓、心臓、目などの重要な臓器に影響を与える可能性があります。10歳以上猫の約15%が高血圧であったという報告もあるため、可能であれば健康診断以外でも定期的な血圧測定を行いましょう。

猫の健康診断の流れ

猫の健康診断を受ける際は、事前の準備と流れを把握しておくことで、スムーズに進められます。ここでは、予約から診断終了までの基本的な流れを紹介します。

予約をとる

まず、動物病院に電話やオンラインで希望日時を予約します。予約時には、以下の内容を確認しておきましょう。

  • 健康診断の検査内容
  • 検査当日の持ち物
  • 食事制限の有無と必要な時間
  • 健康診断の費用

また、初めて訪れる動物病院の場合、猫の性格(興奮しやすい・怖がりなど)を事前に伝えておくと、検査当日もスタッフが適切に対応しやすくなります。

健康診断前の準備

健康診断の前日から当日にかけて、次の準備を行います。

  • 食事制限(超音波検査・血液検査などを受ける場合)
  • 尿や便の採取(必要な場合)

さらに、猫の普段の様子を記録したり、気になる行動をメモしておくことで、当日に獣医師へ質問しやすくなります。これにより、健康診断後も安心して生活を続けることができます。

検査当日

予約当日は、病院に到着後、受付を済ませたら問診・診察を行います。その後、問題がなければ予約していた健康診断の検査を実施します。健康診断にかかる時間は、検査内容によって異なります。

  • 血液検査や尿検査のみ:約1時間
  • 超音波検査やレントゲン検査を含む場合:半日程度

健康診断の時間内は、猫を病院へ預けることが多いため、健康診断を予約する段階で、お迎えの時間を事前に確認しておくと安心です。

検査結果についての説明

検査結果は、基本的に迎えに行った当日に説明を受けられます。ただし、検査項目によっては結果が後日になる場合もあります。異常が見つかった場合は、獣医師から今後の治療方針や再検査の必要性について説明があります。

フォローアップ

検査結果をもとに、必要に応じて再検査や治療の計画を立てます。また、日常生活での注意点や健康管理についても獣医師から助言を受けることができます。

猫の健康診断にかかる費用

猫の健康診断の費用は、受ける検査の種類によって大きく異なります。2023年に日本獣医師会が調査した結果によると、2021年の健康診断にかかった費用の中央値は16,250円でした。前回調査した2015年の中央値は14,021円だったことから、2,229円の値上がりが確認されています。

身体検査、血液検査、尿検査、便検査など、どの検査を受けるかによって5,000〜15,000円程度と費用は異なります。さらに、追加検査として、レントゲン検査や超音波検査、甲状腺ホルモン検査などを行う場合は、費用が20,000〜30,000円程度になることもあります。

健康診断の費用は、実施する検査項目によって異なりますが、シニア猫や持病のある猫は、健康状態を把握するために、できる限り詳細な検査を行うようにしましょう。

猫が健康診断を受ける頻度

米国動物病院協会から出された2021 年版ガイドラインでは、生涯を通じて年1回以上の健康診断が推奨されています。健康診断を受ける推奨頻度は、それぞれの猫の年齢によって異なります。

また、猫は本能的に病気や痛みを隠すため、外見上は健康に見えても、病気が進行している可能性もあります。そのため、早期の病気発見や、予防的な観点からも定期的な健康診断は重要です。

子猫の健康診断の頻度

子猫(おおむね生後6ヶ月まで)は成長が早く、健康状態が変化しやすいため、生後6〜8週間頃を目安に初回の健康診断を受けるのが理想です。その後は、成長に合わせて1ヶ月に1度程度の通院を行い、生後16週までにすべての初回ワクチン接種を完了させることを目標にします。

成猫の健康診断の頻度

健康な成猫(1〜7歳頃まで)は、年に1回の健康診断を受けましょう。

身体検査、血液検査、尿検査など基本的な検査を実施し、病気の早期発見や早期治療につなげることが重要です。超音波検査やレントゲン検査を追加することでより詳細な健康状態が把握できるため、基本検査と併せて行うことを検討しましょう。肥満、慢性疾患を抱えているなど、健康上の注意が必要な猫の場合は、年に2回以上の健康診断を受けることが推奨されます。

シニア猫の健康診断の頻度

シニア猫(7歳以上)は、年に2回の健康診断を受けましょう。

7歳以上の健康そうな猫を追跡したところ、2年以内に54%の高齢猫が慢性腎疾患や甲状腺機能亢進症などの新たな疾患を発症していたという研究報告もあります。年齢とともに健康状態の変化が生じる可能性が高まるため、若いときよりも頻繁な健康診断が必要です。外見上は健康に見えても病気を抱えている可能性があることに留意しましょう。

猫の健康診断を受ける際の注意点

健康診断を安心して受診するためには事前の準備や配慮が必要です。次の内容に注意しておくことで、健康診断を円滑に進めやすくなります。

検査内容によっては食事が制限される

血液検査や超音波検査など健康診断の内容によっては、検査前に食事を制限する必要があります。絶食期間は検査内容などによって異なりますが、通常8〜12時間程度は食事を制限します。空腹状態で検査しなければ結果に影響が出ることがあるため、食事時間を調整しておきましょう。

服用中の薬の取り扱いを確認しておく

特定の薬を服用している場合、健康診断の結果に影響を与える可能性があります。定期的に薬を飲んでいる場合は、服用の調整が必要かどうかを事前に獣医師へ確認しておきましょう。

猫の体調や機嫌によっては鎮静が必要になる

猫は環境の変化に敏感なため、健康診断時にストレスを感じて興奮したり暴れたりすることがあります。この場合、猫の負担を減らし、診察を円滑に進めるために鎮静剤を投与することがあります。鎮静剤の使用によって、ことが可能になります。

特に超音波検査やレントゲン検査では、正確な検査結果を得るために猫の動きを最小限にする必要があるため、鎮静剤の使用が動物病院から打診されることがあることも念頭においておきまましょう。

まとめ


猫の健康診断は、病気の早期発見や健康状態の把握に効果的な検査です。子猫は生後6〜8週間頃、成猫は年に1回、シニア猫は年に2回の健康診断を受けることが推奨されています。定期的な健康診断を受けることで、病気の徴候を早期に発見し、必要に応じて適切な治療を迅速に始めることができます。これにより、症状の進行を防ぎ、健康寿命を延ばすことが期待されます。

健康診断の費用は年間平均16,000円程度で、検査内容によって増減します。血液検査や尿検査などの基本的な検査から始めるだけでも、猫の健康を維持するための有効な手段となります。定期的な健康診断で、大切な猫の健康をしっかりと守りましょう。

参考文献