犬や猫は皮膚のトラブルを起こしやすく、かゆみや脱毛、赤みなどの症状で悩む飼い主は少なくありません。
軽度に見えても慢性化し、生活の質を下げる要因になる可能性があります。一般診療で一時的に改善しても、再発や悪化を繰り返す例は珍しくないでしょう。
かかりつけの動物病院で改善が難しい場合、選択肢になるのは皮膚科専門の診療を行う動物病院の受診です。
皮膚科専門の獣医師は症状の原因を突き止め、長期的に改善を目指す治療を提案します。
この記事では、特徴や診療の流れ、受診の目安、代表的な治療法、病院の探し方を解説します。
動物病院の皮膚科専門科の特徴
動物の皮膚科は一般診療よりも、細かな検査や長期的管理が必要となる診療科です。症状を長く安定させるには、原因を見極める検査と生活環境の工夫が欠かせません。
一般診療では改善が難しい症例を対象とし、診断機器や検査手法で原因を特定します。ここでは、治療の目的や専門科の必要性、受診の目安を整理します。
治療の目的
皮膚科専門診療の目的は、症状を一時的に抑えることではなく、原因に基づく治療を行って動物の生活の質を高めることです。
皮膚生検や培養検査などを活用して原因を特定し、内科的治療や生活環境の調整を組み合わせて長期的な改善を目指します。
慢性化しやすい犬や猫の皮膚病では、かゆみや炎症の軽減とともに再発予防も重要です。
動物の性格や家庭環境を踏まえ、飼い主が無理なく継続できるような治療計画を立てます。
継続的なフォローや生活指導を行い、動物と飼い主の双方が安定した日常を送れるよう支援しているのが専門治療の特徴です。
専門的な皮膚科が必要な理由
皮膚の病気は外見の変化だけでなく、かゆみや痛みの持続によって動物の生活の質を大きく下げる要因になります。
一般診療では投薬で一時的に症状が和らぐ場合もありますが、原因を特定しなければ再発や悪化を繰り返しやすいのが特徴です。
そのため、皮膚科に特化した専門的な診療が重要です。
専門診療では細菌や真菌の感染、アレルギー、ホルモン異常など多様な背景を検査で明らかにし、病態に合わせた治療が選ばれます。
慢性化した皮膚病は複数の要因が重なる場合があり、専門的な皮膚科による総合的な診断が治療方針の決定に直結します。
皮膚科専門の動物病院の受診で適切な治療につながり、動物が健やかに生活を続けられる可能性が高まるでしょう。
受診の目安
皮膚のかゆみや発疹は、一時的に治まるように見えても慢性化する危険があります。
特に、数週間以上続くかゆみ、皮膚の赤みや脱毛、フケの増加は、皮膚科専門の診療を検討してもよいサインです。
一般診療で薬を使用しても改善がみられない場合や、症状が再発を繰り返す場合も受診の目安です。
また、外耳のにおいや耳垢の増加、体を頻繁にかく動作も皮膚疾患の可能性があります。
甲状腺機能の低下やアレルギー性皮膚炎など全身疾患が関与している例もあり、皮膚の変化から健康状態の異常に気付ける場合も少なくありません。
皮膚科専門の動物病院での診療の流れ
皮膚科専門の動物病院では、丁寧なステップで診療を行います。診療の流れは以下のとおりです。
- 問診
- 視診や触診
- 検査
- 診断
- 治療
- 飼い主相談
- フォローアップ
初診時は、これまでの治療歴や症状の経過、生活環境などを詳細に聞き取る問診から始まります。
食事内容や生活環境の変化、ストレス要因なども皮膚疾患に関わるため、細やかな確認が必要です。
次に皮膚の状態を観察し、かゆみや赤み、脱毛の範囲などを記録します。
必要に応じて、皮膚生検、細菌や真菌の培養検査、アレルギー検査などが行われ、原因の特定を目指します。
これらの検査は、外見だけでは判断できない病態を明らかにするために欠かせないものです。
検査結果を踏まえて、症状の程度や再発リスクを考慮しながら治療方針を決めます。
さらに薬物療法や食事療法、免疫療法を組み合わせ、飼い主と相談しながら個々の動物に適した計画を立てます。飼い主とともに取り組みやすい治療方法を見つけることが大切です。
また、皮膚疾患は再発や慢性化が少なくないため、定期的な通院やフォローアップが欠かせません。
再診では症状の変化や副作用の有無を確認し、必要に応じて治療を調整します。
皮膚科専門の動物病院では、初診から再診まで一貫した流れで診療が進められ、犬や猫の皮膚病の変化に応じた治療が続けられるでしょう。
動物病院の皮膚科を受診すべき症状
犬や猫の皮膚病は種類が幅広く、症状の現れ方も異なります。わずかな症状に見えても全身疾患が隠れていることがあるため、動物病院の皮膚科での診察が重要です。
ここでは動物病院の皮膚科で診察を受けるべき代表的な症状と、その特徴を紹介します。
犬アトピー性皮膚炎(CAD)、猫アトピー症候群(FAS)
アトピー性皮膚炎は、ダニや花粉などの環境アレルゲンに免疫が過敏反応を起こすことで生じる慢性的なかゆみ性疾患です。
遺伝的な関与も指摘されており、若齢からの発症が少なくありません。
強いかゆみにより皮膚をかき壊し、赤みや脱毛を伴う皮膚炎へと進行するケースがあります。
季節によって悪化したり、食物アレルギーを併発したりする場合もあるため、原因を丁寧に調べることが必要です。
治療は抗炎症薬や免疫調整薬を中心に行い、スキンケアや生活環境の工夫を組み合わせて管理します。
皮膚炎には、接触性皮膚炎や脂漏性皮膚炎など、刺激物や皮脂分泌の異常を原因とするものもあります。
かゆみや発赤、フケの増加などを引き起こし、二次的な細菌感染への進展もあり注意が必要です。
接触性皮膚炎は発症部位が刺激に触れた範囲に限られますが、脂漏性皮膚炎では皮脂の分泌異常が広範囲に影響するため治療や管理方法が異なります。
いずれも症状だけでは見分けが難しく、皮膚科の診察で原因を明らかにすることが重要です。
外耳炎
外耳炎は耳のかゆみや赤み、耳垢の増加、強いにおいを特徴とする外耳道の炎症です。動物は耳の形や耳道の湿度が影響しやすく、慢性化すると治療が長期におよびます。
細菌や真菌が感染して悪化する場合があり、多剤耐性菌が関わると薬剤選択が難しくなります。
耳を気にして頭を振る、壁に耳をこすりつけるなどの仕草が見られるときは注意が必要です。
放置すると中耳炎や内耳炎に進み、平衡感覚の異常や顔面神経の障害を招くことがあります。
動物病院の皮膚科では耳鏡検査や培養検査を行い、原因を特定して適切な薬を選びます。耳のかゆみやにおいを繰り返すときは、早めの診察で進行を抑えることが大切です。
膿皮症
膿皮症は皮膚に細菌が感染して膿を伴う炎症を起こす病気です。
ブドウ球菌属が主な原因菌になりやすく、湿疹や膿を含む小さな発疹が体に広がります。
表在性膿皮症ではかゆみや赤みを伴い、掻くことで症状が悪化します。慢性化すると皮膚が厚くなり、色素沈着や脱毛が進むでしょう。
抗菌薬の投与と並行してシャンプー療法を行い、皮膚表面の環境を整える治療が一般的です。
耐性菌によって薬が効きにくい場合があるため、培養検査で有効な薬の選択が推奨されます。
膿皮症は体質や基礎疾患に関連するとの指摘もあり、繰り返す皮膚の発疹は皮膚科専門の動物病院に相談しましょう。
早期に受診すれば、飼い主も不安を減らしてケアを続けられます。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症はホルモン分泌の不足で代謝が落ち、皮膚や被毛に異常が出る病気です。
犬によくみられる内分泌疾患で、左右対称性の脱毛や皮膚の乾燥、色素沈着が代表的な症状です。
かゆみは強くありませんが、皮膚が硬くなることがあり、細菌感染を伴うこともあります。
活動性の低下や体重増加、寒がるなどの全身症状が出るため、皮膚病と気付かれにくい例も少なくありません。
診断は血液検査でホルモン値を測定し、他疾患との区別を行います。治療は甲状腺ホルモンの投与で行い、開始が早ければ毛の再生や皮膚の改善が期待できます。
皮膚と全身の異常が同時にみられるときは、内分泌疾患が隠れている場合があるため、皮膚科を受診しましょう。
動物病院の皮膚科で行われる治療内容
犬や猫の皮膚病は原因が複雑で、治療も一つではありません。動物病院の皮膚科では症状や体質に合わせて薬物療法、食事療法、免疫療法を組み合わせて行います。
ここでは代表的な治療法の特徴を紹介します。
薬物療法
薬物療法は動物病院の皮膚科で幅広く行われる基本的な治療法です。
炎症やかゆみを抑えて皮膚の状態を安定させ、動物の生活の質を保つことが目的です。
ステロイド薬や免疫抑制薬は強い症状を短期間で抑える効果があります。
長期的に続けると肝臓や腎臓の機能低下や体重増加を招くおそれがあるため、投与は必要な期間に限定されます。
抗菌薬や抗真菌薬は皮膚や耳の感染症に欠かせない治療法です。膿皮症や外耳炎では培養検査で有効な薬剤を特定します。
甲状腺機能低下症に伴う皮膚の変化ではホルモン補充が基本ですが、細菌感染を防ぐために外用薬を組み合わせる場合もあります。
近年は犬アトピー性皮膚炎に対しての新しい薬が登場し、従来の治療で十分な効果が得られなかった症例への選択肢が広がっている状況です。
しかし、治療方針は症例ごとに異なるため専門的判断が欠かせません。
薬物療法は速やかに症状を軽減できますが体質改善にはつながらないため、食事療法や免疫療法と合わせて長期的に管理します。
症状が落ち着いたように見えても自己判断で中断せず、獣医師の指示に合わせて継続する姿勢が大切です。
食事療法
食事療法は皮膚科に不可欠な治療法の一つで、体質やアレルギーに関わる症状の管理に役立ちます。
アトピー性皮膚炎では食べ物が関与している場合があり、除去食を用いて原因を探します。
原因が見つかって療法食に切り替えれば、かゆみや皮膚炎の再発を抑える可能性があるでしょう。
療法食には加水分解タンパク質を使ったものや、これまで摂取していないタンパク源を使ったものがあります。
膿皮症や外耳炎では直接の原因が感染でも、皮膚の抵抗力が落ちている場合には栄養管理が役立ちます。
オメガ3脂肪酸やビタミンEなどは炎症を和らげ、薬物療法の補助効果が期待される栄養素です。
甲状腺機能低下症で見られる皮膚の乾燥や被毛の変化にも、栄養バランスを整えた食事が重要です。
食事療法は効果が出るまで数週間かかることがあります。途中で中止すると正しい評価ができないため、獣医師の管理のもとで続けることが症状の改善や再発防止につながります。
免疫療法
免疫療法は、過敏になった免疫の働きを調整して長期的な改善を目指す治療です。皮膚科で長期管理が必要な主な治療法です。
アトピー性皮膚炎では花粉やダニなどが原因になりやすく、抗原特異的免疫療法が用いられます。
この方法は原因物質を少量ずつ体に与え、免疫の過剰反応を和らげていく仕組みです。
治療は半年以上かかる場合があり、効果が現れるまで時間を要しますが、かゆみや炎症の軽減が報告されています。
薬物療法のように即効性はありませんが、長期的に再発を防ぐ可能性があり、有用性が高いでしょう。
外耳炎や膿皮症などでも、背景にアレルギーが関与している場合には免疫療法が有効であるとの報告もあります。
副作用は軽度のかゆみや発赤などが中心で、重篤な反応はまれであると報告されています。
甲状腺機能低下症のように原因が内分泌疾患である疾患は、免疫療法の適応になりません。獣医師と相談しながら治療を進めましょう。
皮膚科専門の動物病院を見つける方法
動物の皮膚病に対応できる専門病院は限られており、診てもらう医療機関によって治療の選択肢や効果に差が出ることがあります。
受診先を探す際には、紹介やインターネット検索などの併用が効率的に候補を絞り込める方法です。
ここでは、皮膚科専門の動物病院を見つけるための代表的な方法を解説します。
かかりつけ医に紹介してもらう
日常的に診てもらっているかかりつけ医に相談し、皮膚科専門の動物病院を紹介してもらう方法は信頼性が高い探し方です。
普段から診療を担当する獣医師は、これまでの治療経過や体質を把握しているため、症状に応じて適切な専門病院の獣医師を推薦できます。
紹介状を通して経過が正しく共有されれば、紹介先の獣医師は診断を的確に進めやすくなります。
大学病院や大規模な医療センターなどの皮膚科は、かかりつけ医からの紹介を基本としている場合が少なくないでしょう。
信頼している獣医師を経由すれば、紹介先の病院選びに迷わず受診に進めます。
地域でのネット検索
近隣で皮膚科専門の動物病院を探す場合、インターネットを利用する方法が有効です。
日本獣医皮膚科学会が公開している認定医リストで、都道府県名や獣医師名から日本獣医皮膚科学会 認定医を調べられます。
同学会の公式ホームページには、アジア獣医皮膚科専門医(ASVD)リストも公開されており、高度な診療に対応できる獣医師を確認できます。
誤った情報に影響されず、診療内容や専門性を確認したうえで判断できるでしょう。
候補の病院を見つけたら、公式サイトで診療科目や在籍獣医師の資格を事前に確認しておきましょう。
コミュニティの人づてに聞いていく
地域の飼い主同士のつながりや、ペット関連のコミュニティを通じて情報を得る方法もあります。
専門病院の受診経験がある飼い主の体験談は、公式情報ではわからない診療の雰囲気や対応を知るのに役立ちます。
インターネット検索や紹介を通じて評価が広まる病院もあり、候補を考える際に活用できるでしょう。
体験談は個々の感じ方に左右されるため、日本獣医皮膚科学会や病院の公式情報と照らし合わせることが大切です。
大切な家族の病院選びに不安を感じる方もいるでしょう。信頼できる情報で、飼い主も動物も無理なく通える病院を見つけやすくなります。
皮膚科専門の動物病院を受診する場合の注意点
皮膚科を受診するときは、事前準備と受診方法の確認が欠かせません。
これまでの治療経過や服薬の記録、食事内容を整理して持参すれば、初診時の問診が円滑に進みます。
予約の際に診察券や紹介状、過去の検査結果などを確認して準備しておくことも重要です。
当日は検査の種類によって絶食や絶飲が指示される場合があります。飲食の制限を守ることは正確な検査結果につながるため、案内に沿って対応しましょう。
また、診察前のシャンプーや外用薬の使用は症状を変えてしまうため、控えるよう求められることがあります。
診察時には、症状の変化を記録した写真や動画が参考になります。経過を客観的に示せることで、診断や治療計画の立案に役立つでしょう。
皮膚科診療は時間を要する検査や再診が前提となることが少なくありません。動物の負担を減らし、継続して治療に取り組むために通いやすい病院を選ぶことが重要です。
まとめ
犬や猫の皮膚病は慢性化しやすく、かゆみや脱毛が続くと生活の質を損なう要因になります。
一般診療での改善が難しい場合は、皮膚科専門の動物病院の受診がおすすめです。
皮膚科専門の診療では皮膚生検や培養検査などを通じて原因を突き止め、薬物療法や食事療法、免疫療法を組み合わせて長期的に管理します。
再発を防ぐためには、生活環境を見直し日常の工夫を重ねることが重要です。
受診先を探す際には、かかりつけ医からの紹介や日本獣医皮膚科学会認定医リストを確認する方法が信頼性が高いでしょう。
地域の飼い主からの体験談も参考になりますが、公式情報と照らし合わせた判断が大切です。
初診に備えて、これまでの治療経過や食事内容を整理して持参し、検査に必要な指示に合わせた対応をとりましょう。
症状が一時的に落ち着いても、治療を続けるかどうかは獣医師と相談することが大切です。 皮膚科専門の動物病院の利用で、動物が健やかに過ごせる日常を目指せるでしょう。
参考文献
- 皮膚科|北海道大学動物医療センター
- 獣医師の専門性認定の現状について
- 皮膚病について|公益社団法人 栃木県獣医師会
- 受診の流れ(動物病院の先生方)|日本獣医生命科学大学
- 犬の外耳炎とアレルギー性疾患
- 多剤耐性緑膿菌により慢性外耳炎を呈した犬の1例
- 犬の表在性膿皮症:治療指針ならびに今後の検討課題
- ロキベトマブのエビデンス ~犬アトピー性皮膚炎に対する抗体医薬~
- 犬の皮膚疾患に対するシャンプー剤(抗過剰皮脂分泌用)の使用
- 犬アトピー性皮膚炎に対する療法食の有用性の検討
- 犬アトピー性皮膚炎に対する 抗原特異的免疫療法の回顧的検討
- 日本獣医皮膚科学会認定医リスト|一般社団法人 日本獣医皮膚科学会
- アジア獣医皮膚科専門医について|一般社団法人 日本獣医皮膚科学会
- ご予約から診療の流れ|北海道大学動物医療センター
- ヒトと共通する犬と猫のCommon Skin Diseases