動物病院で受けられる感染症予防|代表的な感染症やかかりつけ医の重要性についても解説

動物病院で受けられる感染症予防|代表的な感染症やかかりつけ医の重要性についても解説

ペットの健康を守るうえで、感染症の予防は欠かせません。犬や猫に多く見られる感染症は、命に関わるものもあり、早期の予防が重要です。

本記事では動物病院で受けられる感染症予防について以下の点を中心にご紹介します。

  • 動物病院の感染症科とは
  • 動物の代表的な感染症について
  • 動物病院で受けられる感染症予防

動物病院で受けられる感染症予防について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。

ぜひ最後までお読みください。

動物病院の感染症科とは

動物病院の感染症科は、犬や猫をはじめとする動物に発生する細菌、ウィルス、真菌、寄生虫などによる感染症の診断および治療を専門に行う診療科です。これらの感染症のなかには、人にも感染する人獣共通感染症も含まれており、予防対策が公衆衛生上とても重要とされています。

感染症は基本的に予防が優先とされていますが、予防が十分でなかった場合や予想外の感染経路によって発症することがあります。その際には早期の診断と適切な治療が求められます。感染症科では、発症した動物の治療を行うだけでなく、病気の拡大を防ぐための衛生指導や予防策の提案も積極的に行われています。

また、人獣共通感染症に関しては、飼い主さんをはじめとする人への感染リスクを抑えるための対策が不可欠です。ウイルスに暴露した場合は「暴露後免疫」と呼ばれる緊急のワクチン接種が必要です。暴露後免疫は感染リスクを大幅に下げるため、傷口を流水や石鹸で十分に洗浄した後、医療機関を速やかに受診することが大切です。

感染が疑われる場合には、動物と人の双方の健康を守るため、専門的な知識を持つ感染症科への相談が推奨されます。正確な診断と治療に加え、感染予防のための適切な指導が動物病院の感染症科の役割です。

動物の代表的な感染症について

動物の感染症にはどのようなものがあるのでしょうか。代表的な感染症を以下で紹介します。

狂犬病

狂犬病は、狂犬病ウイルスによって引き起こされる人獣共通感染症です。この感染症は、犬やキツネ、アライグマ、コウモリなどの哺乳類に噛まれたり引っかかれたりして体内にウイルスが侵入することで発症します。

狂犬病ウイルスは、哺乳類すべてに感染するといわれており、家畜や野生動物、そして人間にとっても危険なウイルスです。感染後の致死率はほぼ100%であり、公衆衛生上とても重要な疾患です。

狂犬病の発症初期には、発熱や倦怠感、頭痛などの風邪に似た症状が現れることがあります。その後、中枢神経症状として興奮や不安、錯乱、幻覚などが現れ、重症化すると呼吸障害やけいれんが起こり、死に至ることが多いとされています。なかでも、水を飲む際に喉のけいれんを引き起こし水を恐れるようになるため、”恐水病”とも呼ばれています。

狂犬病の予防には、ワクチン接種が大変重要です。日本では狂犬病予防法に基づき、飼い犬に対して年1回のワクチン接種が義務付けられています。また、海外ではアジアやアフリカなどで感染例が多くあるといわれているため、渡航時には予防策の徹底が推奨されます。

万が一感染が疑われる場合は、傷口を流水や石鹸で十分に洗浄し、速やかにワクチン接種を受けることが重要です。狂犬病は発症すると治療が極めて困難なため、予防を第一に考えることが必要です。

犬ジステンパー

犬ジステンパーは、ジステンパーウイルスによる感染症で、若い犬や免疫が低下している犬に見られることが多いといわれています。このウイルスは感染力が強く、呼吸器や消化器、中枢神経系に影響を及ぼします。感染すると、発熱、鼻水、くしゃみ、嘔吐、下痢などの症状が現れ、進行すると痙攣や麻痺などの神経症状を引き起こすことがあります。なかでも神経症状が現れると、致死率が高く、回復しても後遺症が残る場合があります。

感染は、感染した犬の分泌物や排泄物との接触、飛沫吸入によって広がります。予防にはジステンパーウイルスワクチンが効果が期待できるといわれ、初年度から数回の接種を行い、その後も定期的にワクチンを接種することが重要です。混合ワクチンにはジステンパーウイルスに対する成分が含まれているため、適切な接種を行うことで感染リスクを下げることができるとされています。

治療法は対症療法が中心で、ウイルス自体を直接攻撃する手段はありません。抗生物質や輸液療法を行い、犬の体力を維持しながら回復を目指します。一度感染すると回復後に免疫を獲得する場合もありますが、発症を防ぐための予防措置が大変重要です。

犬パルボウィルス感染症

犬パルボウイルス感染症は、パルボウイルスによって引き起こされる感染症で、主に幼犬に多く見られるといわれています。感染は感染犬の糞便を介して広がり、ウイルスは大変強力で、数ヶ月程生存することがあります。感染力が高く、適切な対処を行わない場合、命に関わることがあるため注意が必要です。

主な症状は、感染後2日程度で現れる元気消失、嘔吐、下痢、食欲不振などです。重症化すると脱水や体重減少、腸粘膜の破壊による二次感染が起こり、敗血症を引き起こすこともあります。なかでも免疫のない子犬では、致死率が高いことが特徴です。また、感染後の心筋炎による突然死や慢性的な心筋症を発症する場合もあります。

治療法は、輸液や抗生剤の投与などの対症療法が行われますが、ウイルス自体を排除する治療法はありません。そのため、パルボウイルスに対するワクチン接種が効果的な予防手段とされています。幼犬期に適切な回数で接種を行い、その後も定期的な予防接種を続けることが推奨されています。

感染が疑われる場合は、早期に動物病院を受診し、適切な治療を受けることが大切です。

ブルセラ病

ブルセラ病は、ブルセラ菌による感染症で、人にも感染する人獣共通感染症の一つです。主に犬ではブルセラ・カニスという種類の菌が原因となり、不妊や流産、死産を引き起こします。感染した犬は症状が目立ちにくい場合が多いとされていますが、雌犬では妊娠後期に流産や死産が見られ、雄犬では精巣炎や不妊が生じることがあります。

感染経路には、感染した犬の尿や分泌物への接触、生殖器粘膜を介した交尾、汚染された水やフードの摂取などがあります。多頭飼育や繁殖施設では集団感染が発生しやすいため、注意が必要です。人への感染もあるといわれており、免疫力が低下している場合に注意が求められます。

治療には抗生物質を用いますが、菌をすべて排除するのは難しく、再発のリスクがあります。そのため、治療後も定期的な経過観察や検査が必要です。

予防にはブルセラ菌の検査と感染犬の隔離が重要です。なかでも繁殖施設では、事前に感染の有無を確認し、感染対策の徹底が求められます。

レプトスピラ症

レプトスピラ症は、レプトスピラ菌というらせん状の細菌による感染症で、人にも感染する人獣共通感染症の一つです。犬では主に肝臓や腎臓に炎症を引き起こし、急性または慢性の肝炎や腎炎を引き起こします。症状は、発熱、食欲不振、血尿、黄疸、さらには腎不全や肝不全など重篤なものまで幅広く、最悪の場合は死に至ることもあります。

感染経路は、ネズミなどの媒介動物の尿や、それに汚染された土壌や水との接触が挙げられます。犬同士の接触や、感染した動物の排泄物を介しても広がるため、アウトドア環境にいる犬や、ネズミの多い地域に住む犬は注意が必要です。

治療には抗生物質が用いられ、早期の治療が重要です。重症の場合には入院して点滴や対症療法を行うことが必要になることもあります。また、回復後も腎不全や肝不全が残るケースがあるため、長期的な経過観察が求められます。

予防にはワクチン接種が有効とされていますが、すべての血清型をカバーするわけではありません。そのため、感染リスクを減らすための環境整備や衛生管理が重要です。また、感染が疑われる場合には、手袋を使用し、排泄物や汚染された環境の取り扱いに注意が求められます。

バベシア症

バベシア症は、バベシアという赤血球に寄生する寄生虫が原因で起こる病気です。この寄生虫はマダニを媒介して犬に感染し、赤血球を破壊することで溶血性貧血を引き起こします。症状は、疲れやすい、元気がない、発熱、濃い色の尿、黄疸、体重減少などが挙げられ、重症化すると腎障害や全身に血栓ができるDIC(播種性血管内凝固症候群)を伴う場合もあります。

一度感染すると、体内からすべての寄生虫を排除するのは難しく、免疫力の低下や脾臓摘出などが引き金となり再発する可能性があります。そのため、症状が治まっても定期的な検査が推奨されます。治療には抗原虫薬や抗生物質が用いられ、場合によっては輸血が必要となることもあります。

予防の鍵はマダニ対策です。マダニは人獣共通感染症SFTS(重症熱性血小板減少症候群)を媒介する可能性があります。人獣共通感染症SFTSはSFTSウイルス(SFTSV)の感染によって発症し、高熱や血小板減少、さらには重篤な出血熱を引き起こす危険な疾患とされています。

マダニ予防薬を定期的に使用するのがおすすめです。ノミ・マダニ予防薬のなかには、1回の投与で最大3ヶ月効果が持続するタイプもあり、定期的な投与を忘れがちな方にもよいです。

定期的な使用により、草むらや山野への散歩を避けることで感染リスクを減らせるとされています。また、感染が疑われる場合は早めに動物病院を受診することが重要です。

動物病院で受けられる感染症予防

さまざまな種類がある感染症ですが、動物病院ではどのような予防処置を受けることができるのでしょうか。以下で解説します。

狂犬病ワクチン

狂犬病ワクチンは、狂犬病予防法に基づきすべての飼い犬に年1回の接種が義務付けられています。狂犬病は人を含む哺乳類に感染し、発症すれば致死率がほぼ100%の危険な病気です。ワクチン接種による予防は、犬自身だけでなく人や社会を守るためにも重要です。

接種は4月から6月が推奨されますが、体調不良や老齢、妊娠中の犬は、獣医師が判断して猶予証明書を発行することも可能とされています。接種後は副作用の可能性もあるため、しばらく病院で様子を見たり、ストレスを避ける生活を心がけることがすすめられます。また、混合ワクチンとの接種間隔には注意が必要です。

また、抗体価の測定を行うことで、犬が狂犬病ウイルスに対する十分な抗体を持っているかどうかを確認できます。抗体価の測定とは、特定のウイルスに対する抗体を獲得しているかを調べる検査で、過去に感染したものか、ワクチン接種の効果なのかを知るために役立ちます。

これは、人間の健康診断で実施される麻疹や風疹の抗体検査と同様の考え方であり、医療関係者以外でも抗体価の確認が推奨される場合があります。

混合ワクチン

混合ワクチンは、ペットが感染症から身を守るために重要な予防策です。犬ではパルボウイルス感染症やジステンパー、レプトスピラ症など、猫ではウイルス性鼻気管炎やカリシウイルス感染症など複数の病気を予防します。子犬や子猫の場合、生後2ヶ月〜1ヶ月ごとに3回程度の接種が推奨され、1歳以降は生活環境に応じて年1回または3年に1回程度の接種が勧められます。

接種するワクチンの種類は、ペットの生活環境やリスクによって異なります。混合ワクチンは命に関わる感染症や人獣共通感染症の拡大を防ぐ役割もあるため、獣医師と相談のうえ、適切な接種スケジュールを守ることが大切です。

フィラリア予防

犬フィラリア症は、蚊が媒介する犬フィラリアという寄生虫が肺動脈や心臓に寄生することで発症します。この病気は血液の流れを妨げ、咳や呼吸困難、体重減少、赤色尿などの症状を引き起こし、放置すれば死に至ることもあります。
予防には内服薬と注射薬があり、内服薬は5月〜10月末までの期間、月1回の投与が推奨されます。注射薬では年1回の接種で予防が可能とされています。
猫にも感染する場合があり、予防が重要ですので、獣医師と相談して適切な方法を選びましょう。

外部寄生虫予防

ノミやマダニなどの外部寄生虫は、犬や猫の皮膚に痒みや炎症を引き起こし、吸血による貧血や感染症の媒介となることがあります。これらの寄生虫が原因で、人にも感染する病気が広がる可能性もあるため、定期的な予防が重要です。


予防方法は、犬には内服薬や滴下薬、猫には滴下薬が推奨されます。なかでも草むらや屋外での散歩が多いペットは注意が必要です。月に1回の予防薬の使用で大切なペットを守りましょう。

かかりつけの動物病院を見つけておこう

狂犬病はなぜ怖い?狂犬病の感染経路や症状、日本での発生状況について解説

感染症を予防するには、かかりつけの動物病院を見つけておくことがとても重要です。
かかりつけの動物病院を見つける際のポイントを以下で解説します。

ペットのかかりつけ医があるメリット

ペットにかかりつけ医があることは、急な体調不良にも慌てずに対応できる点が大きなメリットです。

普段から予防接種や健康診断で通院していれば、ペットの体質や性格を病院側が把握しやすくなり、より適切な治療やアドバイスを受けられます。また、病院に慣れていることで、ペットが”病院=怖い場所”という印象を持ちにくくなり、治療をスムーズに進めやすくなります。

さらに、病院によっては緊急時の相談が可能な場合もあり、飼い主さんの安心感にもつながるでしょう。

かかりつけ医を探す時期

ペットのかかりつけ医を探す時期は、飼い始めた直後、子犬や子猫を迎えた際が理想的です。この時期は体調を崩しやすく、また予防接種なども短期間で複数回必要なため、早めに信頼できる病院を見つけることが重要です。

かかりつけ医がいることで、不調があった際に迅速に対応でき、定期的な健康管理もスムーズに行えます。病院選びでは、自宅からの距離や獣医師との相性も大切なポイントです。万が一、相性が合わない場合は別の病院を検討してもよいでしょう。

動物病院を選ぶポイント

動物病院を選ぶ際のポイントは、ペットと飼い主さんに合った環境や対応を見極めることです。

まず、病院が自宅から通いやすい距離にあるか、診療時間が生活スタイルに合っているかを確認しましょう。清潔感や設備の充実度も重要で、適切な検査や治療を安心して受けられる病院を選ぶことが大切です。

また、獣医師やスタッフの対応が親切でわかりやすい説明をしてくれるかどうかも信頼につながります。これらの情報を参考に、ペットの健康管理を任せられる病院を見つけてください。

まとめ

ここまで動物病院で受けられる感染症予防についてお伝えしてきました。動物病院で受けられる感染症予防の要点をまとめると以下のとおりです。

  • 動物病院の感染症科は、動物の感染症診断・治療と人獣共通感染症の予防対策を専門とし、公衆衛生にも重要な役割を果たしている
  • 動物の代表的な感染症には狂犬病や犬ジステンパー、パルボウイルス感染症などがあり、いずれも予防が優先で早期診断と適切な対策が重要である
  • 動物病院では狂犬病や混合ワクチン、フィラリア、外部寄生虫予防が受けられ、感染症からペットと人を守るため定期的な予防が推奨されている

感染症の予防は、大切なペットの健康を守るだけでなく、飼い主さんや社会全体の安心にもつながります。動物病院で適切な予防やケアを受けることは、日々の健康管理で欠かせない一歩です。

予防接種や定期的な健康チェックを通じて、ペットと飼い主さんがともに健やかに過ごせる環境を整えていきましょう。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献