内臓破裂とは、文字の通り内臓が破れてしまった状態です。
内臓が破裂することで出血が起きたり、内臓の内容物が体内に漏れ出します。これが原因となり炎症や感染を引き起こすほか、失血・ショック状態に陥る可能性もあります。猫の生命に関係する状態なので、早急に病院を受診することが必要です。
この記事では内臓破裂による症状と、内臓破裂をしてしまう原因について解説します。猫を飼育している皆さんが、少しでも長く猫と楽しい生活を送るためお役に立てれば幸いです。
猫が内臓破裂したときの症状
内臓が破裂してしまったときの症状を紹介します。飼育している猫の様子がいつもと違うと感じたときには早急に病院を受診するようにしましょう。
症状は下記に述べる症状が出現する可能性がありますが、腹腔内出血の場合腹部の腫れ以外症状がないこともあります。異変に早く気付くためにも、普段の猫の様子をよく観察するようにしましょう。
強い痛み
内臓が破裂したときは痛みが伴います。触れると痛いので触られることを嫌がります。呼吸はしているけど、苦しそうにしているという状態も要注意です。
動くことでも痛むので、動きが緩慢になったり、動かなかったりすることもあります。物陰に隠れて出てこないこともあるでしょう。
腹部の膨張・腹腔内出血
皮膚やお腹が膨れている、青黒くなっている場合には皮下出血がある状態なので、病院を受診するようにしましょう。猫が痛そうにしていなくても、お腹の膨れ方や色の変化が広範囲に及ぶ場合にも病院を受診することをおすすめします。
お腹の色に変化がなくても、いつもに比べて膨れている場合には腹腔内出血を起こしている可能性があります。
食欲不振・嘔吐
内臓が破裂したことで食欲不振になる可能性があります。食事動作に痛みが伴うので食事を摂取できないことがあるためです。猫の年齢によって、どの程度食事の間隔が空いたら食欲不振ととらえるかが異なります。
まずは普段の食事を何時間毎に摂取しているのかを目安として考えてださい。一般的に生後1~2ヶ月の猫だと8時間、生後2~4ヶ月の猫ですと12時間、生後6ヶ月以上の猫の場合24~48時間程度食事を摂取しないようでしたら注意が必要です。猫はほかの動物に比べて嘔吐しやすい動物です。
しかし、嘔吐物に血が混ざっていたり元気がなく嘔吐する回数が増えたりした場合には注意しましょう。鮮血でなくても、ピンク色の液体である可能性もあります。飼育している猫が嘔吐してしまったときには、注意深く色も確認するようにしましょう。
呼吸困難・ショック状態
内臓が破裂することで臓器からの出血が続き、血圧の維持が難しくなりショック状態に陥ることがあります。
ショック状態は血圧低下が起こります。診断基準は以下の通りです。
- 収縮期血圧が90mmHg未満、基礎値より40mmHg以上の低下
- 心拍数250/分
- 脈拍は微弱
- CRTが延長している
- 意識障害や興奮状態
- 乏尿や無尿状態である
- 体温が37.2度以下もしくは39.7度以上
これらの項目に複数当てはまるとショック状態と診断できます。出血が大量だと猫のお口のなかを見ると粘膜の色が白くなるので、ショック状態だとわかりやすいです。
その他ご家庭でわかるのは猫の機嫌・心拍数・触れたときの体温変化・排尿状況でしょう。普段の猫の健康状態を確認しておくようにしましょう。
尿・便の異常
前の項目で解説した通り、ショック状態になることで排尿量が減ったり、尿が出なくなったりします。腎臓や膀胱が外傷を受け破裂すると、尿の色が赤くなることがあります。尿や便を出したいのに出せなくなり、苦しんでいたりお腹が膨らんでいたりすることもあるでしょう。
冷や汗・虚脱
虚脱とは意識が消失した状態です。内臓破裂を起こすと大量に出血します。この大量出血が原因で、血圧が急激に低下し虚脱を引き起こす可能性があります。
急に普段の元気がなくなる、大好きなおやつやおもちゃを見せても反応がない、動かないときには血圧が低下しているため注意が必要です。
猫が内臓破裂する原因
猫の内臓が破裂してしまうリスクとなるものは外傷・病気への罹患・病気の進行が考えられます。外傷は猫の飼育環境を整えることで、内臓破裂を起こしてしまうリスクが下がります。
病気の罹患や進行は防ぐことが難しいこともありますが、早期に病気を発見できれば治療を行うことができるでしょう。具体的な原因について解説します。
外傷・交通事故
内臓破裂の原因として考えられる要因は着地不良や交通事故です。脱走したり散歩を行っていたりすることで交通事故にあう可能性があります。
猫は高いところに上がるのが好きですが、降りるときの着地に失敗すると交通事故にあったときと同程度の負荷がかかり、内臓破裂に至ることがあるので注意が必要です。着地に失敗していなくても、高いところから着地するときに膝がお腹にあたることがあります。このとき、内臓に強い衝撃が加わってしまう可能性があります。
徐々に体調が悪くなることがあるので、猫の様子を観察するようにしましょう。
腫瘍の破裂
脾臓や肝臓などにできた腫瘍が大きくなって破裂する可能性があります。脾臓は血液を豊富に含む臓器ですので、破裂することで大量出血を起こす可能性もあります。
飼育している猫の定期的な健康チェックを行うことで腫瘍の有無について確認でき、進行を防いだり、体調不良の原因として予想をつけたりすることができるでしょう。
尿路結石
トイレで排尿姿勢をとっている猫に排尿が見られない場合、尿路結石を患っている可能性があります。尿路結石の症状は尿道が閉塞しているので、ごく少量しか尿が出ない・尿がまったく出ないという状態です。
尿がまったく出ない状態が続くと、尿量が膀胱の許容量を越えるので膀胱が破裂することも稀にあります。日々、猫の排尿習慣と量を確認するようにしましょう。
感染症・炎症
肛門腺という部位に炎症・感染を起こし、膿が溜まり破裂することがあります。また、内臓破裂の原因として、子宮疾患(子宮水腫や子宮蓄膿症)による子宮破裂もあります。
肛門腺が皮下で破裂したときには見た目にわからないので、発見が遅くなることがほとんどです。猫に現れる症状は痛み・発熱・元気がなくなるという状態です。
場合によっては皮下組織の壊死にもつながってしまう病気なので、飼育している猫のわずかな変化に気付き早期発見できるとよいでしょう。
猫が内臓破裂したときの治療法
内臓が破裂してしまった場合、手術による損傷部位の縫合や摘出の処置が行われます。その後の経過をよいものにするために薬剤の投与や放射線治療といった治療も検討されるでしょう。
猫の全身状態から、治療をどこまで行うか決めます。獣医師とよく相談し納得できる治療を行ってもらいましょう。下記で具体的に説明します。
抗生物質・抗炎症剤の投与
内臓や腫瘍が破裂すると、体内が不潔物質で汚染されます。手術ではそれらを取り除くのですが、完全には除去できないので手術後には不潔物質が原因となる炎症を予防をする必要があります。
手術による創部縫合部位も感染リスクのある部位です。これらの炎症予防のため抗生物質や抗炎症剤の投与が行われます。
手術
交通事故や外傷によって内臓からの出血が認められた場合、外科的な手術を行い迅速に出血を止める必要があります。心臓や肝臓など軟部組織の損傷有無の確認が優先です。
血圧が低下し虚脱を起こしているときには、血圧を上昇させる必要があります。点滴を行い血圧上昇を図り、アドレナリンや電解質補正のための薬剤が投与されます。大量出血の場合、輸血が行われることもあるでしょう。
その後、見た目としてわかる骨折や皮膚損傷の確認が行われます。軟部組織が損傷され出血が大量の場合には輸血が必要になることもあります。腫瘍破裂で行われるのは、腫瘍や溜まった膿を出し、壊死組織があれば除去を行う手術です。
放射線治療
腫瘍が破裂したとき、外科的手術後の治療で行われることがあります。放射線治療はがん細胞のDNAを傷つけることで、腫瘍を破壊していく治療法です。
腫瘍をすべてなくすだけでなく、症状の緩和や痛みの軽減を目的とし使用されることもあります。放射線治療は手術の難しい部位にある腫瘍にも照射ができ、低侵襲な治療法です。
しかし、治療には麻酔を使用するので麻酔を使用してもよい全身状態でないと治療を行うことができません。また、正常組織にも影響を与えてしまう可能性があるので、皮膚や粘膜に炎症が起きてしまうこともあります。
内臓破裂が疑われる場合の診断方法
内臓破裂の診断には下記の検査が行われます。
- 問診
- 視診・触診
- レントゲン検査
- 超音波検査
- CT検査
- MRI検査
問診ではどのような経緯で内臓破裂が疑われる状態になったのか、どのような症状がいつから出現しているのか確認があります。持病を患っていると病気による内臓破裂の可能性がありますし、交通事故や感染など別の要因で内臓破裂に至る場合もあるからです。
視診と触診では見た目として猫に異常がないか、触れることで猫が嫌がったり痛がったりする部位がないか確認が行われます。撫でるように触れるだけでは何もなくても、少し圧迫をすることで痛むという場合もあるでしょう。猫の体内の状態を正確に知る獣医師による触診が大切です。
レントゲン検査・超音波検査・CT検査・MRI検査は、体内の状態を正確に知るために有効な検査です。見た目ではわからない内臓や体内の出血状態などを観察することができます。これらの診察や検査を総合的に判断し、内臓破裂の診断が行われます。
猫の内臓破裂を予防する方法
猫の内臓破裂を予防するためには、内臓破裂をしてしまう可能性を低くすることが大切です
。交通事故に関しては、室内から猫が出ないよう対策を行い、散歩のときにも逃げ出さないよう注意をするようにしましょう。
去勢手術や避妊手術を行うことで、猫の行動範囲を狭めることができます。そのような手術をしたことがない場合、去勢手術・避妊手術を検討するのもよいでしょう。
高所からの落下による内臓破裂リスクについては、キャットタワー以外の足場の悪い高所には上らないよう対策をするのがよいでしょう。床が滑りやすいことも、猫の思わぬ怪我につながります。絨毯やマットレスを敷き、滑らないように環境を整えるのもおすすめです。
感染症や腫瘍によって内臓が破裂することを予防するためには、猫の定期的な健康診断を行い健康を維持することが有効です。たとえ病気が見つかっても早期に治療を開始できるので、内臓が破裂するといった重篤な状態は避けることができるでしょう。
猫の内臓破裂後のケアと管理
交通事故にあった猫を発見した、飼育している猫が高所から落下してしまった場合、猫が痛みにより激しく動かないようタオルや毛布を使用し優しく包んであげましょう。このときに周囲が何も見えなくなるとパニックになる可能性があります。しかし、猫の様子によってはむしろ布で視界を遮ることで落ち着くこともあります。
交通事故の場合、安全な場所へ移動し猫の全身の観察をしてください。もし外傷があり出血しているようであれば止血処置が必要です。少量の出血であれば、きれいなガーゼやハンカチで創部を保護し包帯で固定します。大量の出血の場合には止血処理をして局所圧迫をしてください。そのうえで、病院を受診するようにしましょう。
見た目に外傷がなくても、内部臓器や骨などが損傷していることも考えられます。猫が交通事故や高いところから落下したときには念のため病院を受診するようにしましょう。このときに水や食べ物を与えないよう注意が必要です。
病気を患っている猫の場合、元気がなくなったり飲食ができなくなったりしたときには、すぐに病院を受診するようにしましょう。腫瘍が破裂した可能性があります。いつから体調が悪そうにしているのか、食事量や尿量など細かく観察し、獣医師に伝えるようにしましょう。
まとめ
猫の内臓が破裂してしまう原因について説明しました。交通事故や高いところからの落下によるものだけでなく、病気が進行することで腫瘍細胞が破裂してしまうこともあります。
猫が怪我をすることなく生活できる環境を整える必要がありますし、猫が脱走しないよう注意が必要です。病気による内臓破裂は、猫の日々の様子をきちんとチェックし、体調変化がないか確認しましょう。定期的に健康診断を行い、病気がないことを確認しておくことも有効です。
飼育している猫と長い時間をともにできるよう、全身状態や室内環境のチェックを行ってみてください。
参考文献