猫の腸閉塞は人間と同様に危険で警戒が必要な病気です。原因は誤飲誤食や毛球など、さまざまなものがあります。
症状は嘔吐や痛み、腹部膨満などかなり苦しいものです。治療も手術になる可能性が高いため、早く異変に気付いて病院へ連れて行くのが重要になります。
本記事では猫の腸閉塞に関して、原因・症状・治療法から予防法までを解説します。猫と暮らす方で、もしもの場合はこの記事を参考にしていただければ幸いです。
猫の腸閉塞とは
腸は食物を消化し、栄養を吸収する機能を持つ大切な臓器です。その腸が何らかの原因で詰まり、内容物を流せなくなった状態を腸閉塞と呼んでいます。
栄養の吸収に支障が出るため、状況によっては命に関わる病気です。いったん詰まった状態が自然に回復する場合はほとんどなく、何らかの治療が必要になります。
場合によっては全身麻酔による手術になるため、飼い主が早い段階で気付き、病院へ連れて行くことが大切です。
腸閉塞では元気がないことや食欲低下、嘔吐など普段と違った様子が見られます。猫の嘔吐はよくありますが、繰り返す嘔吐や水の嘔吐、便が出ないなどの症状は要注意のサインです。
機械的腸閉塞と機能的腸閉塞の違い
猫の腸閉塞には、機械的腸閉塞と機能的腸閉塞の2種類があります。腸閉塞のほとんどが分類される機械的腸閉塞は、物理的に腸管がふさがれて内容物が滞る症状です。
猫の腸閉塞では飲み込んだ異物による通過障害がよく見られます。腸の内径は胃よりも小さいため、大きな異物が胃を通過した後腸で詰まった状態です。また、腫瘍や腸重積・ヘルニア・嵌頓なども腸管を狭めて閉塞を引きおこすことがあります。
もう一つの分類である機能的腸閉塞では、腸管に存在する血管や神経の異常が原因で腸管に痙攣や麻痺がおこり、内容物が停滞します。機能の異常はストレスや食事、別の手術の影響などが原因と考えられ、腸のぜん動運動が停止した状態です。
猫の腸閉塞の原因
猫の腸管が狭くなっておこる腸閉塞の原因はさまざまです。いずれの原因であっても、腸閉塞がおこると猫にとっては大変苦しくつらい状態に追い込まれます。
そのような事態を避けるためにも、腸閉塞をおこす原因を把握しておく必要があります。主な原因は以下のとおりです。
- 誤飲誤食
- 毛球症
- 腫瘍
- ストレス
- 腹膜炎
それぞれの原因を詳しく解説します。
誤飲誤食
猫の腸閉塞を起こす原因の大半が誤飲誤食です。食物でない不消化物を飲み込んでしまい、それが小腸内径よりも大きなものだった場合、胃から小腸に移る狭くなった位置で詰まります。
周囲にあるおもちゃ類、ボール、ひもなどをくわえているうちに飲み込んでしまいます。特に子猫のうちは好奇心が強く、何でも口に入れがちです。
特に厄介なのがひも類で、飲み込んで腸内に留まるとエコーやX線でも見つけにくくなります。ひも類は完全に腸管をふさがない不完全閉塞になりやすく、その症状は脱水・便秘・腹痛・食欲低下・体重減少などです。ただし、ひも状異物により腸が裂傷し、腹膜炎から死亡するケースは多いです。決して軽症で済むようなものではありません。
毛球症
猫は習性として毛並みを舐めて整えるグルーミングを行います。その際に抜けた毛を飲み込んでしまい、排泄されずに胃のなかに溜まって毛の塊になったのが毛球症です。
やがて嘔吐して吐き出されますが、逆に腸へ移動して腸管に詰まってしまい腸閉塞をおこす場合があります。
この原因による腸閉塞では強い腹痛が特徴です。それとともに何度も嘔吐を繰り返し、食欲低下とともに急激に体重が減少します。さらに腸壁の血流量が減少して壊死し、腹膜炎を起こして命を落とす場合もあります。
通常の毛球を吐き出すときにも苦しそうにしますが、腸閉塞ではそれとは違う苦しみ方です。軽く考えずに至急動物病院へ連れて行きましょう。
腫瘍
猫の腸閉塞は、腸管内にできた腫瘍が腸管をふさいだ場合にも機能的閉塞がおこります。
腫瘍が成長するに伴って腸管内が狭くなるため、症状の進行は緩やかです。初めは時折の嘔吐だけで食欲もあり元気だった猫が、次第に嘔吐回数が増えるようになります。
完全に腸管が閉塞したのではなく、部分的な狭窄で不完全な腸閉塞です。ここで検査を受けて腫瘍を発見して切除すれば回復できる可能性があります。
処置が遅れた場合は完全に腸が閉塞するとともに、腫瘍が増大して命に危険が及ぶでしょう。また、同じ腫瘍が原因の閉塞でも、腸の周辺臓器にできた腫瘍による圧迫でも腸閉塞がおこります。
ストレス
ストレスが原因の腸閉塞は、機能性腸閉塞に分類されます。腸に分布する神経・血管に障害がおこり、その結果腸のぜん動運動が停滞して内容物の滞留が発生するメカニズムです。
猫は本来環境の影響を受けやすい動物で、我慢を強いられると強いストレスを感じます。例えば気に入った場所からの強制移動やトイレの環境など、意にそぐわないことがあればそれがストレスになります。
そして腸の動きに関わる神経の不調につながり、それが積み重なった結果、腸閉塞として現れることがあります。こうした機能性腸閉塞には、神経の働きが停止する麻痺性と不規則に動く痙攣性の2種類があります。対応は点滴や絶食などの内科的な治療が主体です。
腹膜炎
何らかの原因で腸壁が壊死すると、そこから腸の内容物が腹腔内に漏れ出します。内容物には多くの細菌があり、それに腹膜が汚染されると発症するのが合併症としての腹膜炎です。
腹膜炎では激しい痛みや発熱が見られ、さらに細菌が血流にのって全身に回り敗血症の危険性が高まります。ここまで来ると命に関わる危険な状態で、長期間にわたる全身的な管理が必要です。
そのため早期治療によって、合併症に至らない段階でとどめることが大切になってきます。
猫の腸閉塞の症状
猫の腸閉塞はさまざまな原因で発症します。その症状も原因によって違いがあり、また、進行の状態によっても変化します。悪化を防ぐためには、こうした症状に早く気付くことが大切です。腸閉塞でおこる主な症状は以下のとおりです。
吐き戻し・嘔吐
嘔吐や吐き戻しは腸閉塞では代表的な症状です。食べたものが通る腸管が塞がっているので、後から食べたものは奥へ進めず嘔吐します。
嘔吐や吐き戻しの症状は詰まり方によって違いがあり、初期の不完全な閉塞でいくらかでも通過できる状態であれば頻度は多くありません。
進行して完全に詰まった場合は、嘔吐の回数が増えてきます。食べる都度嘔吐したり、水を飲んでも戻したりする状態です。こうなると腸壁の血流も悪くなり、やがては壊死から腹膜炎をおこす可能性が出てきます。
食欲の減退
食欲減退も腸閉塞では一般的でよく見られる症状です。ただし、それは腫瘍や腸重積が原因の場合で、異物を飲み込んでおこる腸閉塞では食欲の減退はあまり見られません。
そのため食べようとはしますが、食べても先へ送られないため結局は吐いてしまいます。痛みも感じていて、腹部に触れられるのを嫌がります。
食欲不振で食べないため、進行するにつれて元気がなくなり活動しなくなるのも特徴です。
排便がない
猫の腸閉塞では腸の内容物が動かなくなるため、排便がない症状が一般的です。嘔吐や食欲がない症状と合わせて、猫のトイレを見ても排便した形跡がない場合は腸閉塞が疑われます。
これに気付いた場合は、できるだけ早く受診しましょう。なお、閉塞が不完全な初期のうちは便が出ますが、その多くは下痢の症状です。
腸閉塞では基本的に排便がなくなりますが、詰まりによる腸への刺激で水様便が出ることがあります。また、閉塞した後も腸の肛門側に残った便やガスが出ることもあるため、注意が必要です。
腹部のふくらみ
腸管が詰まる腸閉塞では腸内で発生するガスや水分の出口が塞がれます。時間の経過とともに溜まったガス・水分の影響で、腹部がふくらんで見えるのが腸閉塞に特徴的な症状です。
初期のうちはあまりはっきりしませんが、進行した腸閉塞ではふくらみが目立ちます。猫自身も不快感や痛みがあるようで、お腹を丸めてじっとしてほとんど動きません。
腹部のふくらみがわかる段階では、嘔吐を繰り返したり食欲がなくなったりといった別の症状を伴い、病状の進行がうかがえます。
猫の腸閉塞の治療法
腸閉塞は猫にとって重い病気です。きちんと治療しないと命に関わることになりかねません。ただ、原因や症状がさまざまなため、対応する治療法もそれぞれ個別の方法に分かれます。それぞれを詳しく解説していきます。
外科療法
外科療法は手術を指し、これが適用されるのは機械的腸閉塞の場合です。具体的には異物・腫瘍・腸捻転・腸重積などが原因で、物理的に腸管が閉塞した場合に開腹手術が行われます。
症例が多い異物の除去では、事前にエコーやX線・CT検査で位置を確認してから開腹します。閉塞部位を切開して、異物が見つかれば取り出し縫合して終了です。
腫瘍の場合は腸管ごと切除、腸捻転はねじれや嵌入を手でもとに戻す手術です。その際腸壁に壊死した部分があれば切除します。手術は閉塞後の時間が短いほど順調に進み、猫の身体的な負担も少なくて済みます。
薬物療法
薬物療法は、主にぜん動運動が阻害される機能的腸閉塞の場合に選択されます。また、軽度な機械的腸閉塞でも選択され、薬剤を投与しながら経過観察で様子を見る治療方法です。
機能的腸閉塞では嘔吐や吐き気の症状を合併する場合が多く、腸管の運動性を高める薬剤とともに、吐き気止めや水分の点滴も行われます。薬剤の経口投与は吐き気があって難しいため、注射や点滴による投与が主体です。
機能的腸閉塞の多くには、ぜん動運動を阻害する原因疾患が見られます。腸管の運動促進に加えて、これらの原因疾患への対応も必須です。
絶食
猫の機能的腸閉塞の場合、治療は投薬や点滴など内科的なアプローチで行われ、絶食もその一方法です。
絶食によって腸の負担を軽減し、腸を休息させるのが目的です。また、検査前や手術前後に絶食する場合があります。
これは治療目的ではなく、検査・手術をしやすくするためと、嘔吐を防いで体力を温存したり誤嚥性肺炎を防いだりするために行うものです。
なお、猫に対する48時間超の絶食は推奨されません。理由は消化機能の回復遅延、腸内環境の悪化、肝臓への悪影響などの懸念からです。
猫の腸閉塞を起こさないために
腸閉塞になると多くは外科手術が必要になり、猫にも飼い主にも大きな負担になります。そのため飼い主としてできる限り避けたい病気です。猫が腸閉塞を起こさないために、考えられる対応をいくつか挙げておきましょう。
長毛種や活発な猫は特に注意する
猫が腸閉塞になる原因に毛球症があります。グルーミングのときに飲み込んだ自分の毛が胃や腸に溜まり、毛球になって詰まってしまい腸閉塞をおこします。
特に長毛種の猫の毛は体内で絡まりやすいし、活発な猫はよくグルーミングするので要注意です。通常は自分で嘔吐して吐き出しますが、うまく吐きだせない猫もいます。また、ストレスなどで過剰にセルフグルーミングを行う猫も要注意です。
心配なら毛球対策用のフードやサプリを使うと、便とともに楽に排泄できます。4~6月は毛替わりの時期なので、日常的にブラシがけを行って体内に毛が溜まらないように配慮しましょう。
小さなものを隠すか片づける
よくある猫の腸閉塞の原因に、誤飲・誤食が挙げられます。おもちゃにするボールや猫じゃらしのほか、ひも類を飲み込む場合が珍しくありません。その他にも木片や石、ヘアバンドやゴムバンドなどがよく誤飲されます。
こうしたものを飲み込んで体内に詰まると腸閉塞になるので、猫の眼につくところに置かないのが大切です。猫が出入りする部屋はいつもチェックして、床に落ちていたらすぐ片付け、咥えられそうなものは隠しましょう。
水を多めに飲んでもらう工夫をこらす
便秘が重症化した状態が続くと腸が伸びて巨大結腸症になり、さらに進んで腸閉塞がおこる場合があります。
便秘がちの猫には、水分を積極的に摂って重症化しないような配慮が必要です。猫はもともと積極的に水分を摂らない動物で、便も硬くなりやすい体質です。
そのような猫に水分を多く飲んでもらうための工夫として、ドライフードの場合は缶詰やレトルトなどのウェットフードに変更します。また、水は常に清潔なものを用意します。猫の興味を引くためにウォーターファウンテンを設置するのも有効です。
トイレがしやすい環境を作る
猫の機能的腸閉塞はストレスも原因になります。猫は我慢が苦手な動物で、気に入らない環境に置かれた場合はそれがストレスになります。
例えばトイレでは、サイズや入りやすさ、清潔さなどが気になる場合です。また、トイレが気に入らない場合、排便を避けるようになります。それが習慣化して便秘から巨大結腸になり、さらに腸閉塞に発展する可能性があるため、トイレの環境整備が重要です。
サイズは体長の1.5倍以上で、砂は頻繁に交換し、猫がまたぎやすい高さにするなどが考えられます。多数飼育ならトイレの共用を避けるため、頭数+1個の数も確保しましょう。
まとめ
猫の腸閉塞は危険で苦しい病気です。そして、大多数が異物の誤飲・誤食と自分の毛を飲み込んでおこる病気です。人間と違って、いつでもどの猫にでも起こる可能性があります。
猫が腸閉塞になると、多くの場合で治療法は開腹手術です。ただし、早いうちに異変に気付いて受診すれば、猫の負担が少なくて済みます。
また、猫の腸閉塞は予防が可能です。誤飲しやすいものの片づけやブラシがけで毛の飲み込みを防げば発症を抑制できるでしょう。日常的な片づけとブラシがけをおすすめします。
参考文献