猫に感染するダニの種類と健康被害|人間への影響や駆除、予防法も解説

猫に感染するダニの種類と健康被害|人間への影響や駆除、予防法も解説

猫は屋外でマダニを含むさまざまなダニに接触する機会があり、これらの寄生で病気になることがあります。吸血性のマダニや皮膚に潜るヒゼンダニ、耳の中に寄生するミミヒゼンダニなどが主な寄生ダニです。ダニ感染は猫自身に痒みや貧血などの健康被害をもたらすだけでなく、人にも皮膚炎や感染症の原因になるおそれがあります。以下では、猫に寄生するダニの種類とそれぞれの特徴、猫への健康被害、人間への影響、そして駆除・予防法を詳しく解説します。

猫に感染するおもなダニの種類

猫に寄生するダニにはさまざまな種類があり、寄生部位や行動、生息環境によって症状や感染経路が異なります。なかでも、吸血を目的とする大型のマダニ、皮膚にトンネルを掘って潜るヒゼンダニ、耳の中に棲みつくミミヒゼンダニは、代表的かつ注意すべき存在です。いずれも猫の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、ほかの動物や人への感染源となるおそれもあるため、種類ごとの特徴を理解しておくことが大切です。ここでは、それぞれのダニの生態や感染の特徴について詳しく解説します。

マダニ

マダニは成虫で体長3~8mmほどの大型の吸血性ダニで、数十種が日本にも生息しています。草むらや公園などで動物の通過を待ち伏せし、体表に付着して吸血します。咬みつくとセメント様物質で固着し、血を吸うと10~20mmに膨れることもあります。マダニは都市部の公園など身近な場所にも生息し、春から秋にかけて活動が活発になります。

ヒゼンダニ

ヒゼンダニは猫皮膚に穴を掘って寄生するダニで、ネコセンコウヒゼンダニという種が猫疥癬(かいせん)を引き起こします。成虫は肉眼では見えないほど小さく、皮膚表面からすぐに皮下に潜ってトンネルを形成します。寄生すると強い掻痒反応が起こり、激しい皮膚炎や脱毛を引き起こします。ヒゼンダニは猫を中心に感染を起こし、濃密な接触で猫から猫へ伝播します。

ミミヒゼンダニ

ミミヒゼンダニは外耳道に寄生する耳ダニで、Otodectes cynotisという種です。耳の中に寄生して増殖し、強い耳の痒みと真っ黒な耳垢を伴う耳疥癬症を引き起こします。感染猫は絶えず頭を振ったり耳を掻いたりし、耳の周囲に脱毛や発赤が見られます。ミミヒゼンダニはとても伝染性が高く、感染猫との接触で別の猫や犬へうつるだけでなく、環境に持ち込まれて感染が拡大することもあります。

ダニが猫に与える健康被害

ダニが猫に与える健康被害

猫に寄生するダニは、単なる皮膚のかゆみだけでは済まされないさまざまな健康被害を引き起こすことがあります。特にマダニは吸血だけでなく、複数の重篤な感染症を媒介する危険性があり、命に関わるケースもあります。また、皮膚に潜るヒゼンダニや耳に寄生するミミヒゼンダニも、強い掻痒感や炎症を引き起こし、生活の質を著しく損なう原因になります。本章では、それぞれのダニがもたらす代表的な健康被害について詳しく見ていきます。

マダニによる健康被害

マダニは吸血行動に加え、ウイルスや細菌、寄生虫などさまざまな病原体を運ぶことで知られています。猫がマダニに咬まれることで感染する病気のなかには、人にも感染する重大な疾患が含まれており、単なる皮膚の問題では済まされません。ここでは、SFTSをはじめとする代表的な感染症や、アレルギー・貧血などの二次的被害について解説します。

  • SFTS(重症性血小板減少症候群)
    SFTS(重症熱性血小板減少症候群)はウイルス感染症で、マダニに咬まれることで人や猫に感染します。猫がSFTSウイルスに感染すると、40度以上の高熱や嘔吐・下痢、黄疸などを示し、致死率が高いことが知られています。
  • 日本紅斑熱
    日本紅斑熱はリケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonicaによるマダニ媒介性の感染症で、人に特徴的な発疹と発熱を引き起こします。猫も感染源となりうることがわかっています。実際に猫に感染して発症例はまれですが、マダニを介して媒介されることに変わりはありません。
  • ライム病
    ライム病(ボレリア症)はボレリア属の細菌による感染症で、主にライム病ボレリアを媒介するマダニにより発症します。欧米では犬でよく知られていますが、猫で発症することは大変まれであり、猫のライム病発症例はほとんど報告されていません。猫自身がライム病にかかりにくいとされていますが、屋外でマダニに咬まれた場合にはボレリアに感染する可能性が否定できず、咬まれた猫を介して人へ感染する危険もあります。
  • 猫ヘモプラズマ感染症
    猫ヘモプラズマ感染症はマイコプラズマ属(旧ヘモバルトネラ)に赤血球が寄生して起こる感染症で、溶血性貧血を主徴とします。感染した猫は貧血により歯茎や眼の結膜が蒼白化し、発熱や食欲不振、呼吸促拍などがみられることがあります。治療には抗生物質が用いられます。日本の調査では、検査した猫の約39%が何らかのヘモプラズマ病原体の保有者(多くは無症状感染)であることが判明しており、猫同士の接触などで感染が拡大すると考えられています。
  • アレルギー性皮膚炎
    マダニの咬傷や吸血がアレルギー反応を引き起こし、痒みや皮膚炎が生じることがあります。特に感受性の高い猫では、咬まれた部位を繰り返し舐めたり引っ掻いたりすることで、二次的な皮膚感染や脱毛が起こることもあります。ダニが媒介する病原体感染以外にも、吸血そのものやダニの唾液中に含まれる抗原に対する過敏症状として、猫に皮膚トラブルをもたらすことがあります。また、同居猫がダニに寄生されている場合、直接寄生されていなくてもアレルゲンへの曝露により皮膚炎が悪化するケースもあるため、複数飼育の場合には全頭を視野に入れた対応が必要です。
  • 貧血
    ダニによる大量の吸血により、猫の体内から少しずつ血液が失われ、特に体力のない子猫や高齢猫では貧血を引き起こすことがあります。見た目では歯茎や舌の色が白っぽくなる、元気がなくなる、食欲が落ちるといった変化がみられることがあります。また、マダニが媒介する猫ヘモプラズマ感染では、赤血球が破壊される溶血性貧血が発症することがあり、急性の症状や黄疸が現れる場合もあります。

そのほかのダニによる健康被害

マダニ以外にも、猫に深刻な影響を及ぼすダニは存在します。ヒゼンダニによる疥癬や、ミミヒゼンダニによる耳疥癬(耳ダニ症)はいずれも強いかゆみを伴い、猫が落ち着かなくなったり皮膚を傷つけてしまったりする原因になります。症状が進行すると重篤化するおそれもあるため、早期発見と適切な治療が重要です。ここでは、それぞれのダニが引き起こす代表的な症状について紹介します。

  • ヒゼンダニ:疥癬
    コセンコウヒゼンダニは猫疥癬の病原体で、皮膚にトンネルを掘り進んで寄生します。感染猫では激しい痒みとともに皮膚の硬化や紅斑が起こり、掻きすぎて脱毛や皮膚損傷を招くことがあります。症状は頭部や耳から始まり全身に広がることもあり、重度になると栄養状態の悪化や二次感染で命に関わることもあります。
  • ミミヒゼンダニ:耳ダニ症、耳疥癬
    ミミヒゼンダニが寄生すると、耳の痒みや外耳炎が起こります。強い痒みのため猫は頻繁に頭を振ったり耳を掻いたりし、その刺激で外耳道に炎症が生じるほか、黒褐色で崩れやすい耳垢が大量に溜まります。ミミヒゼンダニは猫間で移りやすいため、多頭飼育の場合は全頭を同時に治療し、環境中の卵やダニの除去も行う必要があります。

猫のダニが人間に与える影響

猫に寄生するダニは、猫自身の健康に影響を及ぼすだけでなく、人間にもさまざまな害をもたらすことがあります。特に注意したいのが、皮膚への直接的な被害や、猫を介した人獣共通感染症、そしてダニ由来のアレルゲンによるアレルギー反応です。本章では、猫のダニが人間に与える具体的な影響について、皮膚炎、感染症、アレルギーの三つの側面から詳しく解説します。

皮膚炎

人間もダニに咬まれると発疹や強い痒みを生じます。例えば、ネコノミ(シラミ)やネコセンコウヒゼンダニなどがまれに人に寄生し、赤い発疹やじんましんを起こすことがあります。また、マダニが人に咬みつくと皮膚が炎症を起こし、痒みや痛み、場合によっては発疹が生じます。さらに、猫の体表に付いたCheyletiella属のダニは伝染性が高く、人間にも皮膚炎を起こすことが知られています。

各種感染症

猫を介した人獣共通感染症の例として、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)があります。猫がSFTSウイルスに感染して発症すると、感染した猫の血液や体液に接触した人にもウイルスが伝播する危険があります。また、マダニを介する日本紅斑熱やライム病(ボレリア症)も人獣共通感染症であり、猫に付着したマダニが人を刺すことでこれらの感染症が人に伝播する可能性があります。これらの感染症は症状が重篤になりうるため、猫のマダニ予防は飼い主さんの健康管理の観点からも重要です。

アレルギー

猫やその住環境に潜むダニ由来のアレルゲンにより、人がアレルギー反応を起こしやすくなることがあります。ダニそのものに咬まれていなくても、ダニのフンや死骸が原因で喘息やアレルギー性鼻炎、皮膚炎を発症するケースも知られています。特に猫を抱き上げたり密接に触れ合った後に皮膚炎が出たりする場合は、猫由来のダニアレルゲンが影響している可能性があります。

猫のダニ対策|駆除、治療と予防法

猫に寄生するダニを防ぐためには、発見後の駆除だけでなく、日頃からの予防と早期対応が欠かせません。特に屋外に出る機会がある猫はマダニなどの寄生リスクが高く、帰宅後のチェックや定期的な予防薬の使用が重要です。また、すでに寄生が疑われる場合には、無理に対処しようとせず、獣医師による診断と治療を受けることが望まれます。本章では、自宅でできる初期対応から、獣医師による治療、そして日常的な予防法まで、猫のダニ対策を総合的に解説します。

自宅でできる駆除の初期対応

猫が屋外から戻った際は被毛や皮膚をよくチェックし、マダニが付着していないか確認します。マダニを発見したら、早めに除去することが重要です。ピンセットなどで皮膚に密着している口器を傷つけないようにまっすぐ引き抜き、取り除いたら消毒します。ダニは脱落してもその場に留まらずはい回ることがあるため、つかまえた後も猫の体表全体を念入りにチェックします。もし大量に寄生していたり、自分で除去できなかったりする場合は無理をせず動物病院を受診しましょう。マダニの口器が残って炎症を起こすと、さらなるトラブルになるおそれがあります。

獣医師による駆除と治療法

獣医師は猫の体重や健康状態に応じて適切なダニ駆除薬を処方します。現在の獣医領域では、スポットオン剤(背中に垂らす液体)、経口薬、首輪型の製剤などがあり、ノミ・マダニの予防・駆除に高い効果があります。猫は化学物質に大変敏感なため、犬用・人用のダニ薬を猫に使用しないよう注意が必要です。また、疥癬や耳ダニ症などの場合は、皮膚の検査(皮膚掻爬)でダニを確認したうえで、専用の駆虫薬や点耳薬を用います。例えば、ヒゼンダニ症にはイベルメクチン系のスポットオン製剤、耳ダニ症には抗ダニ薬配合の点耳薬などが使われます。治療期間中はほかのペットへの感染防止や環境中のダニ駆除も並行し、獣医の指示にしたがって投薬を継続することが重要です。

猫のダニ感染を予防する方法

ダニ感染を防ぐには日常的な予防対策が欠かせません。まず室内はこまめに掃除し、猫が寝るベッドやクッションは定期的に洗濯して清潔を保ちます。猫を外出させる際は、ダニの多い草むらへの接近を避け、帰宅後はブラッシングで付着したダニを落とします。獣医師と相談のうえ、スポットオン剤や飲み薬などのノミ・マダニ駆除薬を毎月投与すると効果的です。また、庭の芝刈りや落ち葉掃除でダニの生息域を減らすこと、飼い主さん自身が長袖・長ズボンを着用するなどして刺咬リスクを下げることも有効です。万が一、猫にダニが寄生した場合には、家庭内で速やかに処理し、環境中の卵や幼体の駆除も徹底して行います。外出先では常に猫の行動に注意し、少しでも不調が見られたら獣医師に相談して適切な検査・治療を受けるようにしましょう。

まとめ

猫に寄生するダニは、マダニやヒゼンダニ、ミミヒゼンダニなど種類によって寄生部位や症状が異なり、痒みや皮膚炎、貧血だけでなく、重篤な感染症を引き起こすこともあります。さらに、猫を介して人に皮膚炎や人獣共通感染症、アレルギー症状をもたらすリスクもあるため、飼い主さんの健康を守るうえでも対策は欠かせません。

ダニによる被害を防ぐには、早期発見と迅速な駆除、そして日常的な予防が重要です。猫の帰宅時には体表をチェックし、必要に応じて獣医師の診断・治療を受けましょう。また、定期的な予防薬の使用や室内環境の清潔維持も効果的です。猫と人、双方の健康を守るためにも、ダニへの正しい理解と継続的なケアを心がけましょう。

参考文献