犬の関節リウマチ(免疫介在性多発性関節炎)という病気を知っていますか。犬の関節リウマチとは、自己免疫の異常によって引き起こされる関節炎の一種です。
急に愛犬が散歩を嫌がったり、足を引きずったりしている場合には、すでに関節炎を引き起こしているかもしれません。しかし、早期に投薬治療を行うことで炎症を抑え、状態を改善できます。
本記事では、犬の関節リウマチを早期発見につなげる際に知っておいてほしい、症状・治療法・予防について詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
犬の関節リウマチ(免疫介在性多発性関節炎)とは
犬の関節リウマチは、免疫機能の異常によって起こる病気です。遺伝・消化器疾患・腫瘍・ジステンパーウイルスなどが要因と考えられていますが、まだ具体的な原因は明らかになっていません。
また、犬の関節リウマチには2つのタイプがあるとされています。
- 関節軟骨が破壊されるびらん性タイプ
- 免疫疾患に合併する非びらん性タイプ
それぞれのタイプを詳しくみていきましょう。
関節軟骨が破壊されるびらん性タイプ
1つ目は、関節軟骨が破壊されるびらん性タイプです。びらん性関節炎(EPA)とも呼ばれており、関節リウマチや多発性関節炎に該当します。
また「びらん」とは、関節軟骨や軟骨周辺の骨や組織の上層部が破壊された状態を指します。びらん性タイプの発症がよくみられるのは、小型犬です。
また、関節軟骨が破壊されるびらん性タイプはレントゲン検査を行った際に、骨が溶けたようにみえるといった特徴があります。
免疫疾患に合併する非びらん性タイプ
2つ目の免疫疾患に合併する非びらん性タイプは、免疫疾患の合併症として発症する傾向にあります。合併症につながるとされている病気は以下のとおりです。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 特発性多発性関節炎
- 多発性関節炎・筋炎症候群
非びらん性タイプには上記の突発性による発症のほかにも、反応性によって発症することもあります。反応性に該当するものは以下のとおりです。
- 関節外の感染症
- 炎症
- 腫瘍に関連するもの
合併症を引き起こしたもととなる免疫疾患によって、治療方法や予後が異なるため注意が必要です。
犬の関節リウマチにみられる症状
それでは、犬の関節リウマチにみられる症状について解説しましょう。主な症状は以下のとおりです。
- 跛行
- 痛み・腫れ
- 発熱
- 食欲不振
下記で、それぞれの内容を詳しく説明します。
跛行
跛行(はこう)は、足が痛くてうまく体重を乗せられなかったり、バランスを取りにくくなったりする歩行障害を指します。例えば、片足を引きずって歩く・すぐ休憩する・転倒しやすくなるなどの行動が多くみられます。
ほかにも動くのを嫌がる・散歩に行きたがらないなどの運動不耐に陥ることもあるため、注意が必要です。活発だった犬が運動不耐に陥った場合には、跛行を発症している可能性が高いといえるでしょう。
痛み・腫れ
犬の関節リウマチは関節に炎症が起こるため、痛みや腫れが伴います。急に鳴くことが増えたり、まったく動かなくなったりした場合には注意が必要です。
どのように腫れるかというと、関節部分に腫れ・変形がみられたりリンパ節が腫れたりする傾向にあります。愛犬の行動に違和感を覚えたら、獣医師に説明できるよう行動の把握に努めましょう。
発熱
関節が炎症する犬の関節リウマチには、発熱する症状がみられることもあります。犬の発熱を見分ける方法は、以下のとおりです。
- 耳の付け根や足元を触る
- 食欲がない
- 呼吸が荒い
- 動くことを拒む
- 目に生気がない
上記以外にも犬用の体温計を使って、肛門で体温を測る方法もあります。ただし、犬の体温測定に慣れていないとケガをさせる危険性も否定できません。
発熱症状に当てはまる場合には、動物病院へ受診することをおすすめします。
食欲不振
関節リウマチを発症すると、食欲不振に陥る可能性が高くなります。食欲不振はさまざまな病気の症状にも該当するため、注意が必要です。
大好きなお菓子にもまったく興味を示さない・ごはんを2日以上食べないなどの行動がみられた場合には、愛犬がSOSを出している可能性が高いといえます。
また、食欲不振と合わせて貧血や元気がなくなるなどの症状もみられます。食欲不振で懸念されることは、急に動かなくなった場合の水分不足による脱水症状を引き起こす点です。
痙攣や体温低下にもつながるため、食欲不振を発症した場合には速やかに動物病院へ受診することを心がけてください。
犬の関節リウマチを発見するための診断
ここからは犬の関節リウマチを発見するための診断方法を解説します。主な検査内容は2つです。
- 関節液検査
- レントゲン検査
では、それぞれ詳しくみていきましょう。
関節液検査
犬の関節リウマチを発見するための診断1つ目は関節液検査(関節穿刺)です。関節リウマチを発症すると、関節液が増加する傾向にあります。
まずは、全身の関節を触診して関節液が増加していないか診察します。また、関節液が増加して起こる症状は以下のとおりです。
- 手首が通常の曲がる方向と逆方向に緩む(過伸展)
- 関節が溶けることで脱臼すると、ベタ足(手首や踵などの地面につかない関節が床につくこと)がみられる
- 膝蓋骨脱臼
- 前十字靭帯断裂
- 肘関節脱臼
上記の症状を併発していることが多いだけでなく、関節を動かした際に軟骨が削れたようなギシギシした軋音や捻髪音・関節の疼痛がみられます。
触診後は関節液で腫れている部位の消毒を行い、関節液を採取します。関節液は正常であれば透明ですが、関節リウマチを発症したときは混濁した色で粘稠度が低下していることが多いです。
また、関節液の状態や動物病院の診断基準によっては血液検査を行う場合もあります。関節リウマチだけでなく、ほかの病気を発症していないかを調べるためです。
犬の状態や性格によっては麻酔が必要となる場合もあるため、診断を受ける際には獣医師とのカウンセリングをおすすめします。
レントゲン検査
犬の関節リウマチを発見するための診断2つ目はレントゲン検査です。レントゲン検査では、以下の症状を確認します。
- 関節周囲の軟部組織の腫脹
- 関節液の貯留
- 関節付近の骨粗鬆症
- 関節軟骨の喪失
- 二次性変形性関節疾患
- 亜脱臼
- 関節の角度の変形
上記のようにさまざまな症状がみられるレントゲン検査ですが、軽度の関節リウマチではレントゲンのみで診断できません。
そのため、関節液検査や血液検査と合わせて診断されると留意しておきましょう。
犬の関節リウマチにおける治療法
愛犬が関節リウマチであると診断された場合、どのように治療を行うのでしょうか。治療方法がわからないと不安を感じる方も多いはずです。
ここからは犬の関節リウマチの治療方法を解説します。治療方法は3つあります。
- 投薬
- 食事療法
- 外科的治療
ではそれぞれの治療方法を詳しくみていきましょう。
投薬
1つ目の治療方法は投薬です。犬の関節リウマチの治療には、免疫抑制剤を使用します。
免疫抑制剤に該当するものは以下のとおりです。
- ステロイド
- シクロスポリン
- ブラシミン
- ミコフェノール酸モフェチル
上記の薬を用いて炎症を軽減し、犬の負担を軽くします。早期に投薬治療を行うことで、予後も良好な状態になることが期待できます。
食事療法
2つ目の治療方法は食事療法です。犬も人間と同様に、食べるものによって体が作られているといっても過言ではありません。
関節リウマチを改善するために効果的な栄養素は以下のとおりです。
- オメガ3脂肪酸
- EPA
- ビタミンE
オメガ3脂肪酸とEPAは摂取量を増やしましょう。オメガ3脂肪酸やEPAは魚油やトマトに多く含まれます。
魚油やトマトを含むドッグフードを選んでみましょう。ただし、過剰摂取にならないよう注意が必要です。
また、ビタミンEは日常の食生活では欠乏しやすい傾向にあります。意識してビタミンEを摂取することを心がけてください。
1日に必要なビタミンEの量は体重1キログラムあたり0.03マイクログラムです。例えば、5キログラムの成犬の場合は1日に0.15マイクログラムのビタミンEが必要になります。
子犬の場合は、成犬の約2倍の量が1日に必要な栄養素といわれています。愛犬の年齢や大きさによって必要量が異なることに留意しましょう。
近年では、犬用に特化したサプリメントが販売されています。動物病院によってはサンプルを提供してくれることもあるため、ぜひ獣医師に相談してみてください。
外科的治療
3つ目の治療方法は外科的治療です。外科的治療は、以下の内容になります。
- 関節固定術
- 大腿骨頭切除
- マッサージ療法
関節固定術や大腿骨頭切除は、痛みや関節の変形がひどい場合に行う治療方法です。マッサージ療法は筋肉をほぐすことで状態を改善する治療方法になります。
しかし、マッサージ療法は痛みや腫れが落ち着いている状態で、愛犬が嫌がらないことを前提とした治療方法です。間違ったマッサージでは、状態を悪化させる要因になります。
獣医師や資格がある方に任せることが大切です。
犬の関節リウマチは予防できる?
犬の関節リウマチはなぜ発症するのか、その原因はいまだに解明されていません。しかし、犬の関節リウマチはこれまで先述しているとおり、早期に投薬治療を行うことで状態を改善できます。
早期発見と早期治療が犬の関節リウマチ重症化の予防につながるでしょう。そのためにも、愛犬の健康診断を定期的に受診することが大切です。
健康診断以外にも、愛犬の行動に違和感を覚えたら動物病院に駆けつけることを心がけてください。犬とは言葉でコミュニケーションを取ることが難しいです。
愛犬の行動を把握して、愛犬が不調を知らせてくれる信頼関係を築くことで犬の関節リウマチは予防できるのではないでしょうか。
犬が関節リウマチと診断されたら飼い主にできること
愛犬が関節リウマチを発症したからといって、ご自身を責める必要はありません。まだ原因がはっきりとしていない病気だからこそ、発症した後の対策が大切になります。
ここからは、犬が関節リウマチと診断されたら飼い主にできることを解説します。できることは以下のとおりです。
- 適度な運動
- 関節の負担が少ない環境づくり
では、それぞれ詳しくみていきましょう。
適度な運動
犬が関節リウマチと診断されたら飼い主にできることの1つ目は、愛犬の運動量です。小型犬が発症しやすいとされている関節リウマチは、運動量が関係しているのではと懸念されています。
なぜなら、大型犬に比べると小型犬の運動量が低い傾向にあるためです。大型犬は毎日1時間の散歩が必要と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
小型犬も1時間まで行かずとも、毎日の散歩は必要です。犬の時間軸は人間の時間軸と比べると、人間の1日が犬の3日分に相当します。
もしご自身が3日も家から出ていないと考えると、外に出ようかなと考える方も多いはずです。室内飼育で散歩の頻度が少ないといった報告もあるので、適度な運動を習慣に取り入れることを心がけましょう。
関節の負担が少ない環境づくり
犬が関節リウマチと診断されたら飼い主にできることの2つ目は、関節への負担が少ない環境を作ってあげることです。具体的に関節の負担を少なくする方法は、以下の内容になります。
- 適正体重を維持する
- 毎日の適度な運動
- ジャンプをさせない
- 足が滑らないようにする
- バランスのよい食事を心がける
- なるべく段差をなくす
上記のなかでよくある犬の関節に大きな負担がかかってしまう環境は、足が滑ってしまうフローリングです。
犬が歩いたり走ったりする際には、爪が重要な役割を果たしています。人間が足の指に力を入れて踏ん張るように、犬は爪を引っかけることで肉球を床に接地させてバランスを取っています。
しかし、フローリングは滑りやすく、爪を引っかけることができません。そのため、滑り止めの役割を持つ肉球と爪の接地バランスが崩れて転びやすくなるのです。
また、筋力やバランス能力が未熟な子犬や能力が衰えるシニア犬は、フローリングだと関節にかかる負担が大きくなります。滑らないマットを設置したり、段差がある所にはステップやスロープを設置したりと工夫しましょう。
食事療法で体の内側から栄養素のバランスを整えることはもちろん、愛犬が過ごしやすい環境を整えてあげることも大切です。
まとめ
犬の関節リウマチを早期発見につなげる際に知っておいてほしい、症状・治療法・予防について詳しく解説しました。
犬の関節リウマチとは、自己免疫の異常によって引き起こされる関節炎の一種とされていますが、その発症原因はいまだ解明されていません。
急に愛犬が散歩を嫌がったり、足を引きずったりしている場合には、関節炎を引き起こしている可能性が高いです。速やかに動物病院へ受診することを心がけてください。
犬は人間に弱みをみせないようにする習慣があります。言葉でコミュニケーションを取ることが難しいからこそ、些細なSOSを逃さないように留意しましょう。
犬の関節リウマチは早期の投薬治療で、予後が良好になることが期待できます。愛犬の行動に違和感を覚えたら、獣医師に相談できる環境を整えておくことがおすすめです。
参考文献