犬を家族として迎えている人も多いのではないでしょうか。しかし犬と人間では、言葉を使って円滑なコミュニケーションを取ることが難しいといえます。
そのため、犬が取る行動などにより、人間が犬の健康状態を汲み取る必要があるのです。
一刻も早く、犬の健康状態を把握するために知っておいてほしい、犬が発する病気のサインについて本記事では詳しく解説していきます。
すでに家族として犬を迎えている人・これから家族に迎え入れようとしている人は、ぜひ参考にしていただけると幸いです。
犬の病気のサインは?
言葉を使ってコミュニケーションを取ることが難しい犬と人間では、一体どのように病気のサインを見抜けばよいのでしょうか。
その点で重要となるのが、犬をよく観察して普段の行動を把握することです。
- 食欲低下
- 毛の様子が変化する(ツヤがない・ゴワゴワ)
- 排泄物に粘液や血が混じり、臭いが強くなる
- 数日間ほど嘔吐を繰り返す
- お腹が膨れて痛がる
- 咳を頻繫にする
- 鼻汁や涙を流す
- 熱が高いまたは低い
- 動こうとしない
- ハウスや暗がりに隠れる
上記のような症状がみられた場合には、犬が何らかの病気を発症している可能性が高い傾向にあります。病気を発症する前の不調を感じている時にもみられる行動です。
少しでも当てはまる行動が2〜3日続けてみられる場合には、動物病院に受診することをおすすめします。
犬の主な病気の原因
犬によくみられる病気は、以下の7つに大きく分類されています。
- 外耳炎
- 皮膚病
- 下痢
- ヘルニア
- 膵炎
- むし歯
- がん
病気の種類によって大きく分類はされていますが、どの病気にも関係性があると懸念されている原因はストレスと老化です。
ただし、ストレスと老化のみが直接的に病気を発症させているわけではありません。1つ目の外耳炎は、犬種を問わずかかりやすい病気です。
犬の耳はL字型になっているため、通気性が悪いといわれています。そのため、耳毛が多い・垂れ耳・耳穴が狭い犬はとくに注意が必要です。
4つ目のヘルニアは、老化や激しい運動によって椎間板に負担がかかることで発症します。老化だけでなく、椎間板に負担がかかりやすい犬種もいることを留意しておきましょう。
椎間板に負担がかかりやすい犬種としては、シーズー・ビーグル・コーギー・ダックスフンドなどです。このようにストレスと老化以外にも病気を発症するリスクがあることは否めません。
しかし、病気の発症リスクを飛躍的に高めてしまう大きな原因はストレスと老化です。
7つ目に挙げた犬によくみられる病気であるがんは、人間と同じく死因の確率が最も高いとされています。さらに、がんを発症するリスクとしてストレスが関係していることも判明しているのです。
犬が発症するがんの原因としては、老化・慢性的なストレス・有害物質・食品添加物・紫外線・ホルモン異常・遺伝が挙げられます。
犬が発症するがんの原因である慢性的なストレスとは、長期間狭い空間に閉じ込められている・大きな音が鳴り響くなど安心できる空間ではない・清潔感が保たれていないなどが該当します。
さらに過度なストレスをたとえるならば、アレルギーによる強烈なかゆみが発生する・小さなケガによる痛みが続く・急激な環境の変化に晒されることです。
慢性的なストレスや過度なストレスはさまざまな病気の原因を招くきっかけとなる可能性が高いことが懸念されています。
もし、ストレスになりそうな事項にいくつか当てはまるのであれば、早急に改善してあげましょう。
環境や清潔感を改善しても、行動に違和感を覚えるのであれば、動物病院へ受診することをおすすめします。
すでに何らかの病気を発症している可能性が高いため、数日間の行動をしっかりと獣医師に伝えるようにしてください。
病気にかかりやすい犬種と特徴を把握し、普段のケアと日常の様子を観察することが非常に大切です。
犬の病気でよくある症状は?
それでは犬の病気でよくみられる症状を詳しくお伝えしていきましょう。8つの症状に分類してお伝えしていきますので、ぜひ参考にしてください。
目の症状
目の症状でよく挙げられているのは涙やけです。涙やけとは、眼下の毛が犬の涙によって赤褐色に変色する現象を指しています。
多くの犬によくみられる現象ですが、涙やけ以外にも目に現れる病気の症状はいくつかあります。
- 目ヤニが増える
- 目が充血している
- 目が腫れている
- かゆみや不快感から目をよく擦る
- 目が白っぽくなる
- 目が大きく突き出てくる
- がん
上記の症状がみられた場合には、下記の病気を発症している可能性が高い傾向にあります。
- 白内障
- 緑内障
- 角膜潰瘍
- ドライアイ(乾性角結膜炎)
- 眼瞼腫瘤・腫瘍
- 進行性網膜萎縮症・遺伝性網膜変性症
- 鼻腔腫瘍
ほかの病気が隠れている場合もあるため、留意しておきましょう。
鼻・耳の症状
犬の主な病気の原因でも先述しましたが、犬は人間と比べると耳がL字型になっているため、外耳炎の発症リスクが高くなります。
症状としてはかゆみによって搔きむしったり、凶暴化したりといった行動が特徴的です。
ほかにも鼻腔腫瘍という、鼻の中に発生する進行が速い腫瘍性の病気もあります。鼻腔腫瘍は鼻から発生する病気の総称ですが、この腫瘍とはいわゆるがんにかかっている状態です。
先の項でもお伝えしている通り、鼻筋が変形することに伴って目が大きく突き出て来る症状がみられる場合もあります。
- くしゃみ
- 鼻水
- 鼻出血(鼻血)
上記の症状が頻繫にみられた場合には、動物病院へ受診する目安だと認知しておいてください。
口・歯の症状
むし歯にかかっている際は口・歯の症状が顕著にみられます。3〜5歳頃から発症しやすくなり、加齢に伴ってむし歯の発症リスクが増加する傾向にあります。
犬はできれば毎日の口内ケアが望ましいです。
- 歯ブラシで磨く
- 歯みがきシートで磨く
- デンタルガムを与える
- デンタルスプレーを使用する
- 獣医師に歯石や歯垢を定期的に取ってもらう
人間と同じく毎日の口内ケアでむし歯を防ぐことが可能になります。
犬に使用する歯ブラシは、毛が硬くてヘッドが小さく磨きやすい子ども用の歯ブラシを選ぶようにしてください。
呼吸器系の症状
これまで犬にみられていた呼吸器系の症状は、犬の風邪とも呼ばれているケンネルコフが有名でした。
しかし、近年では犬もアデノウイルスやインフルエンザだけでなく、コロナウイルスまで発症例が報告されています。
ケンネルコフは幼若犬で発症することが多く、重症化しやすいといわれています。これは犬型のアデノウイルスとインフルエンザにも該当するため、注意が必要です。
- 呼吸が荒い
- カッカッと乾いた咳が出る
- ヒューヒューと喘息のような音が出る
- ぐったりしている
上記の症状がみられた場合には、速やかに獣医師に相談しましょう。多頭飼いしている方は、感染力も強いため、隔離するなどの対策を取れるようにしてください。
消化器系の症状
膵炎を含む消化器系は、以下のような症状がみられます。
- 嘔吐
- 下痢
- 食欲低下
- 吐出行動
- 流涎
流涎(りゅうぜん)とは、唾液量が増えて口外に垂れる状態を指しています。
食事に関連なく吐出行動をしている際も、腸リンパ拡張症や慢性腸炎などの病気が隠れている可能性が高いでしょう。
嘔吐や吐出行動が1日に3回以上みられた場合には、動物病院へ受診することをおすすめします。
泌尿器系の症状
犬も人間と同様で排出能力に症状が出ることがあります。
- 多尿
- 頻尿
- 尿失禁
- 尿閉
- 乏尿
- 残尿感
- 発熱
急にトイレの回数が増えたり、粗相が増えたりした場合には犬の様子をよく観察しましょう。
獣医師に排泄する時の行動を詳細に伝えることで、病気の早期発見につながる可能性が高くなります。
皮膚の症状
犬にもアレルギーやアトピー性皮膚炎などの皮膚に関する病気が、いくつか存在します。皮膚に異常が発生した時にみられる症状は、以下の通りです。
- 皮膚が赤くなる
- 色素沈着
- 発疹ができる
- フケが出る
- 同じところを舐める行動が増える
- 膿が出る
- 掻きむしる
- 脱毛がみられる
アレルギーやアトピー性皮膚炎であれば、ドッグフードを変更することで症状が落ち着く可能性もあります。
しかし、ドッグフードを替えても皮膚の症状が収まらない場合には、ほかの病気が隠れている可能性を疑いましょう。
アレルギーが多い場合も否定できないため、どのようなドッグフードを与えたのかについても獣医師に説明できるようにしておくことを留意してください。
足の症状
犬の足に出る症状として想像しやすいのは、歩行に異常が出ることでしょう。もちろん、その可能性も大いにあり得ますが、ほかにもみられる症状はいくつかあります。
- 足を引きずる
- 歩くリズムがズレる
- 動かなくなる
- 痛そうに鳴く
- 尿失禁が増える
ヘルニア・骨折・脱臼などを発症した場合には、上記の症状が顕著にみられます。急に散歩へ行きたがらなくなるなどの行動が数日続く場合には、獣医師に相談しましょう。
病気を見分けるチェックポイント
主な症状を紹介したところで、病気を見分けるチェックポイントについても解説していきましょう。
似通った部分もありますが、病気の早期発見と早期治療につなげるために重要なポイントとなりますので、ぜひ参考にしてください。
食欲がない
ドッグフードをあまり食べなくなるだけでなく、これまで好きだった食べ物にも興味を示さない場合には、病気を発症している可能性が高いといえます。
幼若犬においては食事を1日に3〜4回に分けて与えることが重要とされています。
これは子犬が摂取したエネルギーの約50%が生命維持に使用され、残りのエネルギーが成長に使用されるためです。
さらに、子犬は体脂肪が少なく低血糖になりやすいことからも、6〜10時間以上も食事と水分補給が取れていない場合は命に関わることも少なくありません。
成犬であっても、2日ほど食事と水分補給の量が減った場合には病気の可能性を疑いましょう。
歩き方がおかしい
足を引きずるもしくは歩くリズムがズレている場合には、何らかの病気を発症している可能性があります。
歩き方だけでなく、急に動かなくなった場合にも注意が必要です。歩き方がおかしいと感じたら、速やかに動物病院へ連れていきましょう。
頭を振る
頭を頻繁に振る場合には、外耳炎やミミヒゼンダニに寄生されている可能性が高いといえるでしょう。
ほかにも、耳の中で出血が起こり血液が貯留する耳血腫でも同様の症状がみられます。
ご自身で判断せず、獣医師に相談することが大切です。
震える
震える症状は、老犬であれば、筋力の低下によってよくみられる現象であるといえます。しかし、幼若犬で震える症状がよくみられるのであれば、危険性があるかもしれません。
- 未分化胚細胞腫
- 悪性毛包上皮腫
- 全身性振戦症候群
上記のような病気を発症していることが懸念されます。
もし、寒い日や犬が怯えるような状況ではない時に震えている場合は、動物病院へ受診するチェックポイントであるといえるでしょう。
吠え方がおかしい
鼻腔腫瘍を発症してしまうと、鼻筋の変形に伴って吠え方がおかしくなる場合があります。
ほかの病気でも吠え方が変化してしまうことがあるため、吠え方に違和感がないかチェックしてみてください。
かすれた吠え方の場合はケンネルコフの可能性もあるため、多頭飼いをしている方はほかの犬に感染しないよう注意しましょう。
太った・痩せた
急激な体重変化には注意が必要です。食欲が増す原因としては、ストレスによる過食も考えられます。
素人目では判断が難しいため、動物病院への定期的な健診や獣医師への相談を検討しましょう。
獣医師に相談する目安は?
犬は何か身体に違和感を覚えていても、人間には隠す習性があります。これは動物ならではの習性といえるでしょう。
そのため、私たち人間が犬の行動に違和感を覚えた時には、すでに病気を発症している場合があります。
長期間様子見をせず、違和感を覚えた時点で動物病院へ受診することを心がけてください。
言葉でコミュニケーションを取ることが難しいからこそ、素人が判断することは危険であると留意しておきましょう。
犬の病気を予防するために大事なことは?
犬の病気について、サインや症状についてお伝えしてきました。その中で何度かお伝えしていますが、犬の病気を予防するために大事なことは2点です。
1つ目は普段から犬の行動を観察して、行動パターンを把握することです。2つ目は犬の行動に違和感を覚えたら、速やかに動物病院へ受診することが挙げられます。
かけがえのない家族を守るためにも、犬がみせてくれる行動や表情を読み取ることが、犬の病気を予防するために非常に大切なポイントであると認識しておいてください。
まとめ
犬の病気のサイン・原因・症状・チェックポイント・獣医師に相談する目安について、詳しく解説していきました。
人間とは違い、犬は何か違和感を覚えても隠そうとする習性があります。
そのため、早期治療につなげてかけがえのない命を守るためにも、チェックポイントは常に押さえておいてください。
普段のコミュニケーションを大切にしていれば、犬の変化にもいち早く気づけるでしょう。ぜひ参考にしてもらえれば幸いです。
参考文献
- 飼い主のためのペットフード・ガイドライン
- 動物病院カルテデータをもとにした日本の犬と猫の寿命と死亡原因分析
- 犬の鼻腔腫瘍
- 高齢犬の重度歯周病に対する治療ならびに歯周病関連細菌の分離
- デンタルガムによる犬の口腔内衛生効果
- 国内における犬呼吸器感染症の病原学的調査
- 犬や猫における腸内細菌叢と消化器疾患
- 犬の膵炎に関するアップデート~病態から栄養管理まで~1.病態
- 犬・猫の細菌性尿路感染症の診断管理に関する国際コンパニオンアニマル感染症学会(ISCAID)ガイドライン
- 犬猫の排尿障害を克服する 3.神経疾患以外の腎泌尿器系の異常による排尿障害とその治療
- 犬アトピー性皮膚炎の診断および治療に関する指針作成の試み―現状と課題―
- ダックスフンド犬における重度対麻痺の臨床症状と歩行再獲得への理学療法介入-獣医学分野における理学療法介入の可能性について-
- 犬の成長期整形外科疾患予防のための栄養
- (13)イヌ・ネコのライフステージと栄養(その1)
- 犬49頭耳血腫59例に生じた発生傾向と病因に関する検討
- 犬のミミヒゼンダニ寄生に対する10%フィプロニルの治療効果
- 全身性振戦症候群の犬の1例
- シスプラチンおよび放射線治療が奏功した犬の未分化胚細胞腫の1例
- 骨転移をきたした悪性毛包上皮腫の犬の1例
- 糖尿病動物の栄養管理