犬を飼っていると、犬が病気にかかってしまったり、怪我をしてしまったりすることがあります。
人間と同様に年齢を重ねるごとに病気のリスクは上がり、人間と同じように心臓や腎臓などの疾患にかかってしまうこともあるでしょう。
この記事では、犬が患う可能性のある甲状腺の病気について主な症状や原因、治療法を解説します。
「これから犬を飼いたい」と考えている方や「今飼っている犬の健康リスクを知りたい」という方の参考になれば幸いです。
犬が患う可能性がある甲状腺の病気
犬が患いやすいとされる甲状腺の病気は複数あります。この記事では、主に以下の病気について解説します。
- 甲状腺機能低下症
- 甲状腺機能亢進症
- 甲状腺腫瘍
甲状腺は、気管の両側にある器官です。食べ物に含まれるヨウ素をもとに甲状腺ホルモンを作り出す役割を担い、その役割は人間も犬も同じです。
甲状腺ホルモンは新陳代謝を活発にする働きがあり、分泌量が多すぎると新陳代謝がよくなりすぎて脈拍が速くなりすぎたり、食べても痩せてしまったりといった症状がでてきます。
逆に、分泌量が少なくなると心臓の働きが悪くなったり、食欲がなくなっても体重が増えてしまったりといった症状がでてきます。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、甲状腺が正しく機能しないために起こる疾患です。甲状腺ホルモンが減少するため、代謝が悪くなり食欲不振や体重の増加、便秘などさまざまな症状を引き起こします。
原因としては、甲状腺の自己免疫疾患が挙げられるものの、甲状腺の炎症や腫瘍が原因となることもあります。
血液検査など複数の検査によって甲状腺機能低下症と診断された場合は、薬物療法によって治療を行うことで症状の回復が可能です。
甲状腺機能亢進症
機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで発症する病気です。犬が罹患することは稀ではありますが、甲状腺腫瘍や甲状腺機能低下症の薬物療法で過剰投与された場合に見られます。
甲状腺ホルモンが増えることによって、食欲があるにも関わらず体重が減ってしまったり、水分を多量に飲んで尿が増えたりといった症状が現れます。
場合によっては性格が攻撃的になることもあり、突然落ち着きがなくなった場合なども甲状腺機能亢進症の恐れがあるでしょう。
甲状腺腫瘍
腫瘍は、甲状腺の周囲にできる腫瘍です。腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、そのうち悪性のものを悪性腫瘍(がん)と呼びます。
良性のものは発生した部位にもよりますが摘出の必要がないこともあります。しかし、悪性の場合は周囲に転移し、さまざまな症状を引き起こすため早期発見と治療が必要です。
悪性腫瘍は犬の3大死因の1つでもあり、犬の長寿化に伴って死因の半数以上を占めるようになりました。
犬の場合、甲状腺腫瘍は腫瘍全体の2〜3%を占めており、発生確率は低いといえるでしょう。しかし、甲状腺腫瘍のうち90%が悪性のもののため、治療が必要な可能性は高いです。
また、甲状腺腫瘍のうち病院を受診した段階でほかの部位に転移している可能性は35%以上で、咳や呼吸困難といった症状が見られる前に早期発見することが重要です。
ビーグルやゴールデンレトリバー、ボクサーなどの犬種に発生しやすいため、これらの犬種を飼っている方は定期的に健康診断を受けるなどするとよいでしょう。
そのほかの甲状腺疾患
犬の場合、まれに以下の原因で甲状腺の疾患が生じることがあります。
- 先天性疾患
- 偽甲状腺疾患
- 医原性疾患
先天性疾患は生まれながらに甲状腺の機能が低い犬に現れる疾患です。クレチン病とも呼ばれ、生まれつき甲状腺ホルモンの分泌が弱いことが原因とされます。
また、偽甲状腺疾患は病気の治療による投薬などで擬似的に甲状腺ホルモンが増加しているように見える病気です。実際には甲状腺に異常がないため誤診に注意する必要があります。
医原性疾患についても、ほかの病気の治療などによって甲状腺の働きが抑えられ、甲状腺機能の低下を引き起こした場合に見られます。
甲状腺の疾患は、先天性のものや病気の治療に伴って現れることもあるため、獣医に対して現在治療中の病気で治療を行っていることなど細かく伝えるとよいでしょう。
甲状腺の病気になりやすい犬種と年齢
甲状腺の病気として一般的な甲状腺機能低下症の場合、3歳前後で発症することが多いです。性別に関係なく発症しますが、ゴールデンレトリバーなど一部の犬種では特にリスクが高いです。
遺伝的な要因で甲状腺機能低下症を発症するため、リスクの高い犬種を飼う際は血統を確認し、家系のなかで甲状腺機能低下症を発症した犬がいないかどうか確認するとよいでしょう。
また、甲状腺腫瘍を発症しやすい犬種としてはビーグルやゴールデンレトリバー、ボクサーが挙げられます。上位8犬種では、ミニチュアダックスや柴犬が腫瘍リスクの高い犬種として挙げられるでしょう。
犬の死亡原因のうち腫瘍が原因で亡くなった犬の死亡年齢の中央値は13歳です。5歳ごろから少しずつリスクが高まるため、定期的な動物病院の受診と日頃から犬の様子をよく観察する習慣を身につけておくとよいでしょう。
甲状腺機能低下症について
犬の甲状腺機能低下症について、原因と症状、治療法を解説します。
原因
甲状腺の異常によって甲状腺ホルモンの分泌が減少することが原因として挙げられます。
甲状腺の異常が発生する要因としては、自己免疫疾患や甲状腺の炎症や腫瘍、手術などによって甲状腺が傷つくなどの理由が考えられます。
症状
主な症状としては、食欲不振や体重の増加、便秘などが挙げられます。また、心臓の動きが悪くなることによる疲労感から、犬の活動量が減ることもあります。
そのほか、頻尿や皮膚トラブル、目の炎症なども症状として挙げられるでしょう。犬によっては毛の色が変化や脱毛が生じることもあるため、これらの症状が見られる場合は、甲状腺機能低下症を疑ったほうがよいかもしれません。
治療法
治療法としては、薬物療法が主流です。薬によって甲状腺ホルモンを投与することによって、減少した甲状腺ホルモンを補い症状の改善を目指します。
甲状腺ホルモンが過剰となると副作用が現れることがあるため定期的にモニタリングを行い、薬の投与量が適切かどうか見極める必要があります。
症状の改善には数週間から数ヶ月を要しますが、健康な生活を行うためには生涯に渡る治療が必要です。適切に治療できれば、食事療法も取り入れつつ健康な生活を送ることもできるでしょう。
甲状腺機能亢進症について
犬の甲状腺機能亢進症について、原因と症状、治療法を解説します。
原因
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで発症します。原因としては、主に甲状腺腫瘍によるものと、薬物療法による副作用が考えられるでしょう。
甲状腺腫瘍が原因となる場合、甲状腺が正常に作用せずに甲状腺ホルモンが過剰に分泌され甲状腺機能亢進症につながります。腫瘍ができる原因について、詳しいことはわかっていないものの、規則正しい生活習慣を心がけることでリスクを減らすことができます。
また、薬物療法による副作用が原因となる場合、甲状腺機能低下症などの治療のために投与される甲状腺ホルモンを増加させる薬の過剰摂取が考えられるでしょう。かかりつけ医とよく相談をし、甲状腺機能亢進症とみられる症状が現れた場合は速やかに動物病院を受診することが重要です。
症状
甲状腺ホルモンが増加することにより、新陳代謝が高くなり心臓の動きも活発になります。そのため、食欲が異常に増加しているにもかかわらず体重が増加しない、体重が減ってしまうなどの症状がみられるでしょう。
また、犬の場合は多飲多尿の症状が見られることもあります。それに伴って下痢を引き起こすこともあります。病気の早期発見につなげるためにも、普段から犬のトイレ事情はよく観察しておくとよいでしょう。
病状によっては性格が攻撃的になるなどの症状が現れることもあります。突然犬の様子が変化した背景に病気が隠れていることもあるため、早めに動物病院を受診するとよいでしょう。
治療法
甲状腺機能亢進症の治療では、一般的に内科療法が選択されます。過剰に分泌されている甲状腺ホルモンを抑える薬を投与することで症状を落ち着かせることが可能です。
甲状腺機能低下症と同様に症状の改善には数週間〜数ヶ月の時間を要します。また、薬の量が合わない場合は、甲状腺の機能が低下してしまう恐れもあるため定期的なモニタリングが必要です。
獣医師と相談しつつ投与する薬の量を調整していきます。適切な診断のためにも普段の犬の様子をよく観察し獣医師に伝えるとよいでしょう。
また、甲状腺腫瘍が原因の場合は、腫瘍を外科的に除去する選択肢を取ることがあります。
甲状腺腫瘍について
犬の甲状腺腫瘍について、原因と症状、治療法を解説します。
原因
甲状腺腫瘍は、遺伝子の変化などによって細胞ががん化することによって発生します。細胞ががん化すると、細胞の数を適切に保つための機能が失われ、際限なく細胞増殖が行われます。
それによって、体内の機能が低下したり、神経を圧迫して痛みが発生したりとさまざまな全身症状を引き起こすでしょう。また、腫瘍自体がほかの臓器を圧迫するなどして症状が出ることもあります。
細胞ががん化する原因については、ほかの腫瘍と同様に明確な原因は判明していません。人間の場合は、喫煙や飲酒などの外的要因が考えられています。
犬も同様に生活習慣が原因となる可能性があるため、食生活や運動などの生活習慣を見直すことでリスクを軽減することができるでしょう。
症状
初期の段階では症状が見られないことも多いものの、喉の周辺に現れる硬いしこりが症状として挙げられます。
腫瘍が大きくなると、腫瘍の位置によっては喉を圧迫して咳や呼吸困難を引き起こすこともあります。
ほかにも10%程度の割合で甲状腺機能亢進症が現れることもあり、その場合は食欲があるにもかかわらず体重が減少したり、すぐに喉が乾くため多飲多尿などの症状が見られることもあるでしょう。
甲状腺腫瘍の初期症状は目に見えないことが多く、症状が見られてから病院に行くとすでにがんが転移しているケースも多いようです。
5〜15歳で病気にかかるケースが多いため、年齢や犬種を考慮したうえで、腫瘍マーカーなどを使用し早期発見できると早期治療につなげられるでしょう。
治療法
腫瘍の治療法としては、外科療法と化学療法、放射線療法が挙げられます。
甲状腺腫瘍の場合は、腫瘍が喉を圧迫して症状が出ることもあるため、まずは外科療法で腫瘍を取り除くことが一般的です。
甲状腺の周囲には血管や神経、食道など重要な臓器が密集しているため、腫瘍が取りきれなかったり別の場所にがんが転移していたりする場合は化学療法を行う場合もあります。
犬の場合、放射線療法は実施できる施設が限られていることなどから、人間の場合と比べて一般的な選択肢ではありません。
もし、かかりつけ医や身近な病院で放射線療法による治療が可能な場合は選択肢に含めるとよいでしょう。
また、外科療法も化学療法も治療にあたって犬の身体に負担がかかるため、犬の健康状態を踏まえたうえで治療方法を決める必要があります。
犬の甲状腺の病気を予防する方法
犬が甲状腺の病気にかかる明確な理由はわかっていません。そのため、確かな予防方法がないのが現状です。
しかし、ゴールデンレトリバーのように一部の犬種では遺伝的な要因で甲状腺の病気にかかりやすい傾向が確認されています。
病気のリスク軽減や早期発見のためにも、犬を飼う際には血統を確認し、親族のなかで甲状腺の病気にかかっている犬がいないか知っておくことが有効です。
また、甲状腺腫瘍など加齢とともにリスクが増える甲状腺の病気もあります。腫瘍は早いと5歳頃から確認されることもあり「まだ若いから大丈夫」といった油断は禁物です。
疲れやすさや食欲の減退など、甲状腺の病気に関する一部の症状は加齢に伴う体調の変化に隠れて発見が遅れることもあります。
毎年の健康診断は欠かさずに行い、年齢を重ねた際は獣医師と相談のうえ、定期的に動物病院を受診するなどして早期発見できる体制を整えておくことが重要です。
まとめ
犬がかかりやすい甲状腺の病気としては、甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症、甲状腺腫瘍が挙げられます。
甲状腺ホルモンの異常な増加や減少が食欲や体調に影響を及ぼし、さまざまな症状を引き起こします。
甲状腺の病気にかかる明確な原因はわかっていないものの、犬種や年齢によってリスクが増えるため、飼い犬のリスクを知っておくことが重要です。
また、動物病院を定期的に受診したり、日々のスキンシップを大事にしたりすることで早期発見につなげられるでしょう。
参考文献