大切な家族である愛犬の瞳から輝きが失われる病気に緑内障があります。人間と同様で、犬にとっても早期発見と適切な治療が求められる病気です。
愛犬の瞳が濁っているように感じたり、行動に違和感を覚えたりする場合には緑内障の疑いがあります。しかし、飼い主さんが初期症状に気付きにくいことも少なくありません。
本記事では、犬の緑内障の症状や発症する原因、治療法について詳しく解説します。緑内障を予防する方法もお伝えするので、愛犬の健康を守りたい飼い主さんに一読してもらえると幸いです。
犬の緑内障の症状
早速ですが、犬の緑内障について解説しましょう。
- 犬の緑内障とは
- 犬の緑内障の初期症状
- 初期以降にみられる症状
この3つに分けてそれぞれお伝えしていきます。
犬の緑内障とは
犬の緑内障は、眼球内の圧力(眼圧)が異常に上昇することで、視神経や網膜といった視覚に関わる組織が損傷を受ける病気です。
眼球内では、房水と呼ばれる液体が常に生産と排出を繰り返しています。しかし、何らかの原因によってこの房水のサイクルが滞ると、眼圧が上昇します。
緑内障といっても、その原因や発症するメカニズムはいくつか考えられますが、放置すると痛みや不快感など症状が悪化していくため注意が必要です。また、犬の緑内障には急性期と亜急性期、慢性期の3種類に分けられます。
急性期は緊急性が高い状態を指します。急性期から数日程度で慢性期に移行してしまう場合もあるため、注意が必要です。
亜急性期は急性期を過ぎた状態を指しますが、まだ視覚の回復が見込めるステージになります。急性期と同じく、早期に適切な治療を受けることで、視覚の維持や回復が見込める可能性があります。
慢性期は視覚に障害が出たり、すでに視覚を喪失してしまったりして、視覚の回復や維持は見込めません。緑内障の種類によっては、突如として症状が現れる可能性が高いため、定期的な健康診断を受けることが推奨されています。
犬の緑内障の初期症状
犬の緑内障の初期症状は、眼が充血することが一般的です。しかし、犬の眼の充血は人間と比べてみえる白眼の部分が少ないため、気付きにくい傾向にあります。
普段から注意深く愛犬の行動を観察していれば、わずかな変化にも気付ける可能性があります。初期症状は眼の充血以外にも、涙の量が増加したり眼をしょぼしょぼさせたりすることが特徴です。ほかにも以下のような症状が現れたら、緑内障の疑いがあります。
- 前足で眼をこする
- 物にぶつかりやすくなる
- 朝方になると眼が開いていないことが増える(片方の眼が閉じやすくなる)
これらの症状は、ほかの眼の病気と症状が似ているため、素人では緑内障の判断が難しい状態です。しかし、犬は朝方に眼圧が上昇する傾向にあります。
寝起きや朝方に片方の眼が開いていない場合は、緑内障を発症しているサインであることがほとんどです。症状を確認した場合は、速やかに動物病院を受診することをおすすめします。
初期以降にみられる症状
緑内障が進行すると、初期症状よりも明確な症状が現れてきます。初期症状である眼の充血や涙の量がさらに増えることにプラスして、瞳孔が大きく開くようになります。
ほかにも以下のような症状が現れる可能性が高いです。
- 光に対する反応が鈍くなる
- 結膜が赤くなる
- 左右の瞳孔の大きさが異なる
- 眼球が腫れているようにみえる(牛眼)
- 痛みや不快感が現れる
- 頭を触ると嫌がる
- まぶたが閉じられなくなり眼が乾燥する
さらに症状が重くなると、ものにぶつかる頻度が増えたり段差でつまずきやすくなったりします。急性の場合には、元気や食欲がなくなることも症状の一つです。
これらの症状を経て失明する可能性もあります。進行が早いと数日で失明に至るケースも報告されているため、注意が必要です。
失明すると、視力が回復することはありません。少しでも違和感を覚えたら、動物病院を受診して適切な治療を受けるよう心がけましょう。
犬の緑内障の原因
犬の緑内障の原因には大きく先天性緑内障や原発性緑内障、続発性緑内障の3つに分類されます。それぞれの原因について詳しくみていきましょう。
先天性緑内障の原因
まず先天性緑内障は、生まれたときから眼圧を調整する構造に異常があることが原因で緑内障を発症するものです。
先天性緑内障を持っている犬は稀ですが、もし発症している場合には子犬期の3~6ヶ月程度から眼圧が上昇することがほとんどです。
生まれつき眼が奇形している状態が先天性緑内障ですが、具体的には房水の排出経路である隅角に発達異常があることが原因になります。房水に発達異常があると、房水が正常に排出されなくなり、眼圧が上昇しやすくなります。
先天性緑内障はほかの緑内障に比べて、若年層で発症することが特徴です。特定の犬種は、遺伝的に先天性緑内障を発症しやすいこともあります。
原発性緑内障の原因
原発性緑内障は、突如として眼圧を調整する隅角の構造的な異常や機能不全を引き起こすことによって発症する病気です。遺伝的な原因が強く関与していると考えられています。
原発性緑内障は、徐々に症状が進行する場合と、急激に眼圧が上昇する急性緑内障になる場合があります。早期発見が難しく、初期症状よりも状態が悪化してから症状に気付く飼い主さんも少なくありません。
また、8〜10歳で発症することがほとんどで、メスの方がオスよりも発症の割合が高いことが判明しています。
原発性緑内障は両眼同時に発症するケースがほとんどですが、片方の眼だけに発症することもあります。しかし、片方の眼だけで終わることはなく、後からもう片方の眼も緑内障になることがほとんどです。
片方の眼だけに緑内障を発症した場合は、もう片方の眼の治療もすぐに受けられるように注意しましょう。
続発性緑内障の原因
続発性緑内障は、ほかの眼の病気や外傷などが原因となって、房水のサイクルが崩されて眼圧が上昇して発症する病気です。ほかにも、病気や外傷によって水晶体が正常な位置からずれてしまい、続発性緑内障を発症することもあります。
続発性緑内障につながりやすい具体的な眼の病気は以下のとおりです。
- ブドウ膜炎(眼内の炎症)
- 水晶体脱臼
- 眼内腫瘍
- 網膜剥離
- 白内障の進行
これらの病気が進行すると、房水の生産過剰や排出不良を引き起こすため、結果として眼圧が上昇します。病気以外にも、外傷によって房水のサイクルに異常をきたす場合もあります。
続発性緑内障の場合は、まず原因となっている病気や外傷の治療を受けることが重要です。また、緑内障は進行が早い病気のため、ほかの病気や外傷の治療と同時に緑内障の治療も必要となります。
緑内障にかかりやすい犬種
先述のとおり、犬種によっては遺伝的な理由で緑内障の発症リスクが高い場合があります。特に原発性緑内障にかかりやすい犬種は、以下のとおりです。
- 柴犬
- シー・ズー
- アメリカン・コッカー・スパニエル
- ビーグル
- バセット・ハウンド
- ボストン・テリア
- ウェルシュ・スプリンガー・スパニエル
- ミニチュア・プードル
もちろん、原発性緑内障を発症するリスクが高いといっても個体差があります。しかし、発症するリスクがあることを知っておくことは大切です。
上記の犬種を飼育している飼い主さんは、日頃から愛犬の眼の状態を注意深く観察して、定期的な健康診断を受けることをおすすめします。些細な変化も見逃さないよう心がけましょう。
犬の緑内障の診断方法
犬の緑内障の診断は、さまざまな検査を組みあわせて行われます。正確な診断と適切な治療方針を決定するために行われる検査方法は以下のとおりです。
- 眼圧測定
- 眼底検査や隅角検査
- 超音波検査
- スリット検査(細隙灯顕微鏡検査)
では、それぞれの検査方法を解説しましょう。
眼圧測定
眼圧測定はその名のとおり、眼球内の圧力を測定する検査です。緑内障の診断においても重要な検査になります。
眼圧測定は、角膜に軽く触れて眼圧を測定します。正常な犬の眼圧は一般的に15〜25mmHg程度です。
この数値よりも高くなれば緑内障と診断されます。しかし、眼圧は時間帯によって変動することもあるため、複数回測定したり日内変動を調べたりすることもあります。
短時間で診断できる検査方法です。
眼底検査や隅角検査
眼底検査は、瞳孔から光を当てて、網膜や視神経乳頭の状態を観察する検査方法です。緑内障が進行すると、視神経乳頭のへこみが拡大したり網膜の血管が変化したりする様子が確認できます。
隅角検査は、房水の排出経路である隅角の状態を特殊なレンズを用いて観察する検査方法です。原発性緑内障の場合、隅角の狭窄や閉塞がみられることがあります。
眼底検査と隅角検査は、緑内障の種類や症状の進行具合を把握と診断するために重要な検査になります。
超音波検査
超音波検査は、眼球の内部構造を画像化する検査です。眼球内の中間透光体(角膜・前房・水晶体・硝子体)が混濁していたり、水晶体脱臼や網膜剝離、眼球腫瘍が確認されたりした場合には超音波検査が有効となります。
眼球内の構造を把握することはもちろんですが、眼球の大きさや形状、眼球内の液体貯留の程度なども調べられる検査方法です。超音波検査は身体を傷付けず痛みも伴わないため、犬への負担が少ない検査でもあります。
スリット検査(細隙灯顕微鏡検査)
スリット検査は、細い帯状の光(スリット光)を角膜や水晶体などに当てて、その断面を顕微鏡で観察する検査方法です。
この検査では角膜の透明度や前房の深さ、虹彩や水晶体の状態を詳しく診察できます。続発性緑内障の発症原因となるブドウ膜炎をはじめとした炎症性疾患や、眼球内の微細な異常を発見するために重要な検査です。
犬の緑内障の治療方法
犬の緑内障治療は、眼圧を下げて視神経の損傷を抑えることを目的としています。治療法は、投薬や外科手術を行い、予後を確認するための経過観察が一般的です。
投薬や外科手術は、緑内障の進行具合や発症原因によって異なります。
投薬
投薬は緑内障が初期段階であり、外科手術が適応とならない場合に行われることが一般的です。主に房水の生産量を抑制する薬や、房水の排出を促す薬が用いられます。
点眼薬や内服薬など、犬の状態にあわせて薬剤が選択されます。ただし、投薬は眼圧をコントロールして病気の進行を遅らせることを目的とした治療法です。根本的な治療法ではありません。
そのため、生涯にわたって継続的な投与が必要となります。定期的な眼圧測定や検査を行いながら、投薬の種類や量を調整していくことが一般的です。
外科手術
外科手術は、投薬で十分な効果が見込めない場合や、緑内障の症状が進行している場合に検討されます。手術方法は以下のとおりです。
- 房水の排出経路を新たに作成する手術
- 房水の生産量を抑える手術
- 眼球摘出手術
外科手術は犬にとって大きな負担になる治療法です。また、眼球摘出手術は、痛みを取るための手術ですが、多少痛みを伴う場合があります。
眼球摘出手術の後に、強膜内シリコン義眼挿入術をすることもありますが、あくまでも緑内障の種類や症状の進行具合によって異なります。
犬の緑内障の予後
犬の緑内障の予後は良好とはいえません。治療によって視力を維持することが可能な場合もありますが、緑内障は進行が早く、早急に治療をはじめていても反応が悪ければ失明に至るケースも報告されています。
早期発見と適切な治療を受けられたとしても、進行性の病気である緑内障は、生涯にわたって定期的な検査と治療が必要です。経過観察はもちろん、愛犬の生活の質を維持するための努力が飼い主さんに求められます。
失明を避けてできるだけ視力を保つためにも、早期発見と早期治療を受けることが重要です。
犬の緑内障の予防
緑内障を完全に予防することは難しいです。早期発見できれば進行を遅らせることは可能なため、定期的な健康診断や日頃から愛犬の眼の状態をよく観察するようにしましょう。
愛犬の様子に違和感を覚えたら、眼圧検査や眼底検査をしてもらうことも視野に入れておきましょう。眼の充血や涙の量が増加するなどの些細な変化にいち早く気付くことが大切です。
もし気になる症状がある場合は、自己判断せずに動物病院を受診することが有効な予防方法になります。
まとめ
今回は犬の緑内障の症状や発症する原因、治療法について詳しく解説しました。緑内障を予防するためには、飼い主さんが日頃から愛犬の健康状態を把握しておくことが重要です。
緑内障は進行性の病気のため、発見や治療が遅れると失明に至る危険な病気です。また、緑内障は完治することが難しく、進行を抑えながら愛犬の視力を保つ必要があります。
長期的な治療や生活の質を保つための努力が、飼い主さんに求められる病気です。些細な変化にも気付けるよう、愛犬とのスキンシップや健康管理を意識的に行い、習慣化することをおすすめします。
少しでも違和感を覚えたら、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。愛犬の健康を守るために、少しでもお手伝いできれば幸いです。
参考文献