犬のメラノーマとは?症状と原因、治療法について解説

犬のメラノーマとは?症状と原因、治療法について解説

犬との生活は癒やしを与えてくれるもの。だからこそ、愛犬の健康状態には気を配りたいものですよね。犬の病気の中でも、とくに悪性度が高く、怖い病気と言われているのがメラノーマです。この記事では、メラノーマの基本情報から予防方法まで、愛犬の健康を守るために知っておきたいことをお伝えします。

犬のメラノーマとは

犬のメラノーマとは

まず、犬のメラノーマについて解説します。

メラノーマとは

メラノーマは、犬において歯肉に発生しやすい悪性の腫瘍で、メラノサイトから発生する悪性腫瘍(がん)です。メラノサイトとは、メラニン色素を生成する細胞のことで、皮膚の最外層である表皮やその下の層、真皮に存在します。

犬のメラノーマは悪性の黒色腫として知られ、細胞の形態、増殖速度、周囲の組織への浸潤性や転移のしやすさにより、良性のメラノサイトーマと悪性のメラノーマに区分されます。

悪性メラノーマは主に口腔内(歯肉、舌、硬口蓋)や皮膚、爪床に発生し、稀に他の部位にも見られます。口腔内のメラノーマはとくに転移しやすく、リンパ節や肺のほか、お腹の臓器へ転移することもあります。

メラノサイトは紫外線や外的刺激から体を保護する役割がありますが、ほくろやしこりが徐々に大きくなるなどの変化が見られる場合、メラノーマの可能性があります。

メラノーマは悪性黒色腫と呼ばれ、黒っぽい外見が特徴ですが、良性のメラノサイトーマも同様に黒く見えます。また、色素の少ない無色素性メラノーマや乏色素性メラノーマも存在するため、腫瘍の色だけで判断するのは避けるべきです。

とくに高齢の犬に多く見られますが、若年から中年の犬にも発生する可能性があります。

メラノーマの発生部位と初期症状

悪性度が高いメラノーマは、皮膚と粘膜の境界、口腔内の粘膜、眼球、そして指先の爪の付け根付近に多く発生する傾向があります。被毛がある部分では頭部や陰部周辺に発生することがありますが、これは全体の約1割程度です。悪性腫瘍は、とくに口唇や歯肉に多く見られ、皮膚に生じる黒色腫の多くは良性である場合が多いです。

黒色腫にはメラノーマとメラノサイトーマがありますが、見た目も症状も似ているため、良性と悪性の区別が難しいことがあります。メラノサイトーマは、一見ほくろのような小さい黒い斑点から発見されます。一方、悪性腫瘍であるメラノーマも皮膚に発生し、同様にほくろのような黒い斑点を形成することがあります。しかし、必ずしも黒色であるとは限りません。

犬のメラノーマで最も注意が必要なのは、口腔内に発生した場合です。歯肉、口唇、舌、硬口蓋など、口の中の粘膜のあらゆる箇所に発生する可能性があります。

初期の変化は、正常な粘膜と比較して表面が不整であったり、小さなポリープ状のものが形成されたりすることから始まります。しかし、初期段階での発見は困難であり、多くの場合は症状が進行した後に異変に気づきます。

メラノーマの代表的な初期症状には、以下のようなものがあります。

  • 歯肉や唇、舌、口腔内の粘膜部に黒っぽいしこり
  • 口臭がひどくなる
  • 口からの出血
  • まぶたや眼球に黒いシミのような黒ずみ
  • 爪床部に黒い腫瘍

メラノーマは進行が早くリンパ節や肺などへの転移の可能性があります。これらの初期症状が見られた場合は、速やかに獣医師の診察を受けましょう。

メラノーマが重症化すると

口腔内や粘膜部に発生したメラノーマは悪性度が高く、急速に拡大するのが特徴です。この拡大過程では、腫瘍の一部に潰瘍(表皮が欠損して穴が開いた状態)が生じやすくなり、これが原因で出血や細菌感染を引き起こします。

腫瘍が口腔内で拡大すると、口臭が悪化し、よだれが増え食事を取りづらくなるなどの症状が現れます。さらに、腫瘍の周囲組織への影響だけでなく、全身への影響も現れ始めます。顎の骨が融解したり、リンパ節が腫れたりするほか、気道や食道が閉鎖する可能性や、肺などへ転移することもあります。

メラノーマは増殖能力が高いため、腫瘍の成長に必要な栄養が正常な組織から奪われ、体に必要な栄養供給が行われなくなります。この結果、食欲不振や体重減少といったがん性悪液質(多くのがん患者に見られる合併症の一つ)が引き起こされ、最終的には衰弱し死に至ることもあります。とくに、腫瘍が2センチメートル以上の大きさになると、転移を起こしている可能性が高まります。

犬のメラノーマの原因

犬のメラノーマの原因

犬にとって、非常に怖いメラノーマ。その原因は何なのでしょうか?

メラノーマの原因

犬のメラノーマが発生する具体的な原因は、明確には特定されていません

メラノーマは、メラノサイトという細胞から発生する腫瘍で、これらの細胞は体内でメラニン色素を生産し、外部刺激から保護する役割を持っています。人間における皮膚のメラノーマが紫外線の影響を受けやすいことは知られていますが、犬や猫に関しては、紫外線が直接の原因となっているとは考えられていません。

原因は不明であるものの、高齢の犬でメラノーマの発生がより増える傾向にあり、若い犬に比べてそのリスクが増加することがわかっています。これは、加齢がメラノーマを発症する上での一つの要因であることを示唆しています。

このことから、シニア期に入った犬は、より定期的な健康診断を受けることが重要視されています。

メラノーマにかかりやすい犬の特徴

メラノーマにかかりやすい犬には、いくつかの特徴があります。

まず、年齢に関しては、メラノーマは中高齢の犬で発症が多く見られます。良性の皮膚メラノサイトーマは中高齢犬に多く見られる一方で、悪性腫瘍であるメラノーマも3歳から15歳の間に発症し、発症ピークは約10歳前後とされています。

一方で、若い犬でも発症する可能性があるため、犬の年齢に関わらず、定期的な健康チェックが推奨されます。

犬種による差も顕著です。メラノーマが発症しやすいと報告されている犬種には、スコティッシュ・テリア、ミニチュア・シュナウザー、ゴールデン・レトリバー、ドーベルマン・ピンシャー、アイリッシュ・セッター、ジャーマン・シェパード、ボクサー、プードル、ミニチュア・ダックスフンド、コッカー・スパニエル、チワワなどが挙げられます。

性別については、基本的に男女間での発症率に大きな差はないとされていますが、オス犬での発生率が高いという報告もあります。

犬のメラノーマの検査方法

犬のメラノーマの検査方法

犬のメラノーマを診断するためには、複数の検査方法が用いられます。これらの検査を通じて、腫瘍の存在、性質、および進行状況を評価し、適切な治療計画を立てていきます。

身体検査

身体検査では、犬の体や頭部、口腔内を念入りに視診および触診します。これにより、腫瘍を形成している部位を特定し、腫瘍の大きさや硬さ、周囲組織への影響などを評価します。

細胞診

細胞診は、犬の腫瘍に針を刺して細胞を採取し、メラニン色素を含む細胞を顕微鏡で観察する検査です。この検査により、腫瘍がメラノーマであるかどうか、また悪性度をある程度判断することができます。

細胞診は獣医院内で行われることもあれば、より詳細な分析のために病理検査会社へ依頼されることもあります。

血液検査

血液検査を通じて、犬の全身状態を評価します。これには、血球数、肝機能、腎機能などの一般的な血液成分の測定が含まれます。

血液検査は、外科手術が安全に行える状態かどうかを把握するため、また適切な治療法を選択する上で重要な役割を果たします。

レントゲン検査

レントゲン検査により、胸や腹部の臓器に転移がないかを確認します。また、麻酔を施行する際の安全性を評価するためにも利用されます。

CT、MRI

CTやMRI検査は、腫瘍の正確な位置や大きさ、周囲組織への浸潤の程度を詳細に把握するのに非常に有効です。外科手術を検討している場合には、これらの画像診断が必要になることがあります。

犬のメラノーマの治療法

犬のメラノーマの治療法

犬のメラノーマに対する治療法は、腫瘍の大きさ、進行度、および転移の有無によって異なります。以下で、主要な治療方法を紹介します。

外科療法

外科療法は、肺やリンパ節への転移がなく、腫瘍が小さく周囲の細胞への浸潤が少ない場合に非常に有効です。

腫瘍を完全に切除することが目標ですが、一方で腫瘍が広範囲に及んでいたり、腫瘍の境界が不明瞭で表面が潰瘍化していたりする場合には、切除が困難になることがあります。

場合によっては、上顎や下顎、鼻骨などの大きな手術が必要となり、犬の外見や生活の質(QOL)に影響を及ぼす可能性があります。そのため手術に際しては、獣医師から十分な説明を受けることが重要です。

放射線療法

放射線療法は、放射線を腫瘍に直接照射して、腫瘍を縮小させたり、進行を遅らせたりする方法です。

治療期間や頻度は、使用される設備や具体的な治療プロセスによって異なりますが、一般的には数週間にわたる治療が必要となります。

放射線療法は特殊な設備を要するため、実施できる施設は限られており、費用も高額になるケースが少なくありません。外科手術や化学療法と組み合わせて行われることもあります。

化学療法

外科手術が難しい場合は、抗がん剤による化学療法が選択されることがあります。

化学療法は、腫瘍の成長を抑えたり、転移を制御したりすることを目的としています。治療期間は数週間から数ヶ月にわたることがあり、副作用の管理も重要になります。

免疫療法

近年、犬のメラノーマ治療において免疫療法が注目されています。

免疫療法は、体の免疫システムを活性化させてがん細胞を攻撃することを目的としています。がんワクチンをはじめとする様々な免疫療法が研究され、一部は臨床現場で利用され始めています。

犬のメラノーマの予防と予後

犬のメラノーマの予防と予後

メラノーマは予防が難しい病気ですが、早期発見は治療成功率を高めるために非常に重要です。ここではメラノーマの予防方法と、予後について解説します。

メラノーマの予防方法

ここでは、メラノーマの予防方法を紹介します。

・日常的に犬の様子をチェックする

犬の皮膚、口腔内、四肢、爪床など、メラノーマが発生しやすい部位を中心に、日常から念入りに観察しましょう。腫瘍が小さい段階で異変に気づくことが、早期発見につながります。

・口腔内のチェック

口腔内のメラノーマはとくに悪性度が高いため、毎日の歯磨き時には、唇や舌、口腔粘膜の変化に注意を払ってください。

・早めに獣医師に相談する

もし犬にメラノーマが疑われるような症状が見られた場合は、早めに獣医師の診察を受けることが重要です。自己判断せず、専門家の意見を仰ぎましょう。

メラノーマ治療後の生存率と再発リスク

犬のメラノーマ治療後の生存率と再発リスクは、その腫瘍が発生した部位や進行ステージ、そして選択された治療法によって変わります

とくに口腔内メラノーマの場合、ステージ1では根治的な治療により比較的良好な予後が期待でき、数年の生存が可能となることが多いです。

しかし、ステージが進むにつれて予後は悪化します。ステージ2や3では生存期間の中央値が約1年に落ち込み、ステージ4に至ると多くの犬が数ヶ月以内に亡くなってしまいます。根治治療を行わない場合、生存期間はさらに短くなりますが、緩和ケアを通じて生活の質の向上は可能です。

一方で、皮膚に発生したメラノーマや爪床メラノーマの場合は、根治治療を行えば良好な結果が得られることがあります。とくに皮膚メラノーマは、治療により腫瘍の完全な治癒を期待できるケースが多いです。爪床メラノーマでは根治治療後の平均生存期間が約1年となります。

治療後の再発率は0〜40%の範囲で変動し、全体として見ると治療後の平均生存期間の中央値は半年から1年です。1年生存率は35%以下となっており、これは、治療を受けた犬の多くが1年以内に亡くなることを意味しています。

実験レベルの免疫療法は存在するものの、広く認められた有効な内科療法はまだ見つかっていません。

健康的な生活習慣と定期検診の重要性

メラノーマは悪性度が高く、化学療法(抗がん剤)に対する高い反応もそこまで見込めません。根治が難しい疾患の一つです。

だからこそ、早期に発見し治療を開始することが、病気の進行を遅らせ、愛犬の生活の質を維持する鍵となります。

また定期検診は、メラノーマのように根治が難しい疾患の早期発見に不可欠なものです。飼い主が日頃から気をつけて見てあげること、獣医師としっかり連携することが、愛犬の健康を守る上で最も効果的な手段といえるでしょう。

編集部まとめ

編集部まとめ

犬のメラノーマに対する理解と適切なケアは、愛犬の健康を長く維持するために不可欠です。早期発見と適切な治療への迅速な対応が、この疾患との戦いで最も重要な武器となります。

愛犬の日常の様子を観察し、定期的な健康チェックを怠らないこと。そして獣医師と連携しながら、愛犬が健康で幸せな生活を送れるようサポートしたいですね。

参考文献