犬のワクチンには、接種義務のあるものから、その他の病気に対するものまでいくつかの種類があります。
本記事では犬のワクチンについて以下の点を中心にご紹介します。
- 犬へのワクチン接種は必要なのか
- 犬のワクチンにはどのような種類があるのか
- 犬のワクチン接種による副作用について
犬のワクチンについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
犬の健康を守る上で、ワクチン接種は非常に重要な役割を果たします。ワクチンによって、犬の体内に特定の感染症に対する防御機能が構築され、もし病原体が体内に侵入しても、感染を防ぎます。特に、生命に危険を及ぼす可能性のある病気に対しては、ワクチンが犬を守る役目を果たします。また、日本の法律で接種義務の定められているワクチンもあります。
狂犬病ワクチンについて
代表的な犬のワクチンである、狂犬病ワクチンについて解説します。
狂犬病とは
狂犬病は、狂犬病ウイルスによって引き起こされる致命的な感染症であり、主に神経系に影響を及ぼします。狂犬病は犬だけでなく、すべての哺乳類に感染する可能性があります。感染した動物の唾液を介して人間を含む他の動物に伝播し、咬傷や傷口への接触が主な感染経路です。
症状は、初期には感染部位の痛みやかゆみ、全身のだるさ、発熱などが見られます。進行すると、恐水症(水が飲めなくなる)、精神錯乱、全身の麻痺、呼吸困難などの重篤な症状が現れ、最終的には昏睡状態に陥り死に至ります。発病から死亡までの期間は通常2日から6日と短く、現在のところ有効な治療法は存在しません。
日本では、狂犬病の発生は50年以上前から報告されておらず、2006年に海外からの帰国者による発症例があったものの、国内での感染リスクは非常に低いとされています。しかし、狂犬病は世界的には依然として深刻な問題であり、WHOによると年間約5万人以上の人が狂犬病によって命を落としています。日本では、狂犬病の予防として、犬に対する狂犬病ワクチンの接種が法律で義務付けられています飼い主は、犬を飼い始めた際には30日以内に市町村に登録を行い、鑑札を受け取る必要があります。また狂犬病ワクチンは年一回の義務があり、接種後に注射済票を受け取ります。
接種時期、回数
日本では「狂犬病予防法」により、登録は30日以内ですが、接種時期は任意です。(一応法律上は4月から6月ですがこの期間以外でも可能です。)犬を所有してから30日以内に市町村に登録を行い、その後狂犬病ワクチンの注射を受けさせましょう。狂犬病予防法は、狂犬病の国内発生を防ぐとともに、近隣諸国からの侵入リスクに備えるための重要な措置です。ただし、子犬の場合は生後91日を過ぎてからが接種適齢期とされており、それまでは免疫が確立されるのを待つ必要があります。犬の健康管理と社会的責任を果たすために、犬の登録と年1回の定期的な狂犬病ワクチンの注射を怠らないようにしましょう。
狂犬病予防のための特別な期間として、毎年4月から6月にかけて「狂犬病予防注射月間」が設けられています。狂犬病予防注射月間中には、市町村主催の集団接種が行われています。
狂犬病ワクチンの費用
狂犬病ワクチンの費用は、地域や動物病院によって異なりますが、一般的には1回あたり約3,000円〜約4,000円が目安です。正確な金額については、事前に市町村や動物病院に問い合わせて確認してください。
狂犬病ワクチンの接種は、犬の健康を守るだけでなく、公衆衛生の観点からも極めて重要な予防策です。
混合ワクチンについて
続いて、犬の混合ワクチンについて解説していきます。
混合ワクチンで予防できる病気
犬の健康管理において、混合ワクチンは多くの感染症から犬を守るための重要な手段です。狂犬病ワクチンとは別に、様々な感染症に対する免疫を一度に形成します。接種義務はありませんが、犬の生活環境や健康状態に応じて、適切なワクチンを選択してください。
「コアワクチン」は、犬ジステンパーウイルス感染症、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス2型、犬パルボウイルス感染症など、致死率が高く感染力の強い病気に対する予防が可能です。これらの病気は、犬の命を脅かす可能性があるため、すべての犬に対して接種が推奨されています。
一方で、「ノンコアワクチン」は、地域や犬のライフスタイルに応じて接種を検討するもので、犬パラインフルエンザウイルス感染症や犬コロナウイルス感染症など、比較的軽度の症状を引き起こす感染症の予防に役立ちます。これらのワクチンは、犬の健康状態や地域の感染リスクを考慮して、動物病院と相談の上で接種するかどうかを決定します。
混合ワクチンには、3種、5種、6種、7種以上のバリエーションがあり、それぞれ予防できる病気の範囲が異なります。例えば、5種混合ワクチンは、犬ジステンパーウイルス感染症や犬パルボウイルス感染症など、致死率の高い病気を含む基本的な予防が可能です。6種混合ワクチンでは、これに加えて犬コロナウイルス感染症の予防も行えます。7種以上のワクチンでは、レプトスピラ属菌による感染症の予防も可能となります。
犬の健康を守るためには、5種以上の混合ワクチンの接種が一般的に推奨されていますが、犬の健康状態や生活環境、地域の感染状況に応じ、動物病院との相談を通じて、ワクチンを選択しましょう。特定の感染症に対するリスクが高い場合は、11種の接種が推奨される場合もあります。重要なのは、犬の健康を守るために、適切な予防措置を講じることです。
接種時期、回数
犬の混合ワクチンは、幼い犬が健康に成長するために不可欠な予防措置です。世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインに従い、子犬は生後約6週間から8週間の間に初めてのワクチンを受けることが推奨されています。子犬の時期に始めることで、母犬から受け継いだ移行抗体が減少していく中で、新たな免疫を形成します。
初回の接種後、生後4ヶ月までの間に2回目と3回目のワクチンを2週間から4週間の間隔で接種します。これにより、子犬の免疫システムがさまざまな感染症に対する十分な抵抗力を備えます。子犬期の基本的な接種が完了した後は、コアワクチンについては1年から3年ごと、ノンコアワクチンについては毎年の接種が推奨されます。
ただし、ワクチンの接種頻度は犬の健康状態や生活環境、地域の感染症の流行状況によって異なる場合があります。副作用のリスクや既存の免疫レベルを考慮し、個々の犬に合わせた適切な予防接種計画を立てることが推奨されます。
混合ワクチンの費用
犬の混合ワクチン接種にかかる費用は、接種するワクチンの種類や動物病院によって異なります。ワクチンの種類が増えるほど、費用も高くなります。例えば、2種混合ワクチンの場合、約3,000円〜約5,000円が相場です。5種または6種混合ワクチンを選択した場合、その費用は中間ほど、7種以上の混合ワクチンでは約7,000円〜約10,000円が目安となることが多いです。
これらの金額はあくまで目安であり、実際の費用はお住まいの地域や選択する動物病院によって変わる可能性があります。そのため、正確な費用を知るためには、事前にかかりつけの動物病院に問い合わせてください。
フィラリア予防注射について
フィラリアにはワクチンと似たもので、フィラリア予防注射というものもあります。以下にフィラリアについて解説します。
フィラリア症とは
フィラリア症は、犬糸状虫(Dirofilaria immitis)という寄生虫によって引き起こされる疾患で、主に犬の心臓や肺動脈内に寄生します。一般的な腸内寄生虫とは異なり、フィラリアは血管内で生活し、重篤な健康問題を引き起こす可能性があります。日本のような清潔な環境でも、フィラリアは都市部や市街地で見られ、蚊を介して犬に感染します。フィラリアに感染した犬から吸血した蚊が、フィラリアの幼虫を他の犬に伝播させることで広がります。これらの幼虫は、犬の体内で約6ヶ月かけて成長し、最終的には30cm程度の長さに達することがあります。成虫は心臓や肺動脈に寄生し、多数の幼虫を産みます。
フィラリア症は予防可能な病気であり、飲み薬やスポットオンタイプ、注射など、様々な予防薬が利用できます。しかし、既に感染している犬に予防薬を投与すると危険なため、治療を開始する前には必ず検査を行うことが重要です。動物病院と相談し、犬の生活環境や健康状態に合わせた予防計画を立てましょう。
接種時期、回数
フィラリア予防のワクチン接種は、年に一度の接種で、1年間の予防効果が期待できます。特定の接種時期は設けられていないため、いつでも接種が可能です。ただし、フィラリア予防注射は開封後の保存期間が限られているため、動物病院が接種時期を限定している場合もあります。そのため、急な接種希望に対応できないこともあるので、事前に動物病院に連絡を取り、在庫状況や接種可能な時期を確認することが大切です。
また、フィラリア予防注射に使用される薬剤は、体重に基づいて量が決定されるため、成長期の犬には適していません。犬が成犬期に入り、体重が安定した後に接種することが推奨されます。
フィラリア予防注射の費用
フィラリア予防注射の料金は、犬の体重によって異なり、一般的には体重が重いほど価格が高くなる傾向にあります。以下は、体重別のフィラリア予防注射料金の目安です。
体重5kg未満:約7,000円から約8,000円
体重5kg〜10kg:約9,000円から約10,000円
体重10kg〜20kg:約12,000円から約13,000円
体重20kg〜30kg:約17,000円から約19,000円
体重30kg〜40kg:約19,000円から約20,000円
体重40kg〜50kg:約20,000円
これらの料金は動物病院によって変動するため、具体的な金額を知るには、事前にかかりつけの動物病院に問い合わせてください。
フィラリア予防には内服薬もある
フィラリア予防には、様々なタイプの内服薬が存在し、それぞれの犬のニーズや生活環境に合わせて選択できます。主に以下のような種類があります。
- フィラリア専用予防薬:これはフィラリアの予防に特化した内服薬で、他の寄生虫には作用しません。
- マルチ対応予防薬:フィラリアだけでなく、ノミ、ダニ、その他の寄生虫も同時に予防できるオールインワンタイプの薬です。
内服薬の形状も多様で、錠剤タイプやおやつタイプなどがあります。また、スポットタイプで皮膚に直接滴下するタイプもあり、食欲が少ない犬や薬を飲ませるのが難しい犬に適しています。犬の年齢、犬種、体質、持病などに応じた予防薬を選ぶことが大切です。
ワクチン接種後の注意点
最後に、ワクチン接種に関する注意点をいくつか解説します。
接種を控えたほうがいい場合
ワクチン接種は犬の健康維持に欠かせないものですが、犬の体調や健康状態によっては接種を見合わせる必要があります。以下のような状況では、ワクチン接種を控えることが推奨されます。
- 体調不良時:犬が元気がない、食欲が落ちている、排泄に異常があるなど、体調が優れない場合は接種を避けるべきです。これは、ワクチンが体に追加の負担をかけ、副作用を引き起こすリスクがあるためです。
- アレルギー歴がある場合:過去にワクチン接種でアレルギー反応が出た犬は、ワクチンの種類を変更するか、事前にアレルギーを防ぐための薬を投与することが考慮されます。
- 重篤な疾患がある場合:重大な心臓病、腎臓病、肝臓病などの持病がある犬や、妊娠している犬は、ワクチン接種が適さないことがあります。
- 興奮状態の場合:接種当日に犬が過度に興奮している場合は、落ち着いてから接種することが望ましいです。
これらの状況に該当する場合、獣医師は犬の健康状態を慎重に評価し、ワクチン接種の是非を判断します。
当日の過ごし方
ワクチン接種当日は、以下の点に留意して過ごしましょう。
- 新しい食品の回避:接種日には新しいフードやおやつ、サプリメントの導入は避けてください。これは、万が一副反応が起きた場合に、その原因がワクチンかそれ以外のものかを明確にするためです。
- 接種後の観察:ワクチン接種後は、特に最初の数時間は犬をよく観察し、嘔吐、下痢、活力の低下などの異常が見られた場合は、すぐに獣医師に連絡してください。
- 接種のタイミング:予定のない日、特に午前中に接種を行うことが望ましいです。副反応が出た場合に迅速に対応できます。
犬が落ち着いて接種を受けられるように、日頃から様々な環境に慣れさせておくことも大切です。
副作用
犬のワクチン接種は、まれに副作用が発生することがあります。副作用には以下のようなものが含まれます。
- アナフィラキシー:ワクチン成分に対する重度のアレルギー反応で、接種後すぐに発生する可能性があります。症状には呼吸困難、意識障害、血圧の低下などがあり、迅速な治療が必要です。
- アレルギー反応:ワクチンに含まれる成分に対して、顔や体の腫れ、皮膚の赤みやかゆみ、消化器系の不調などの反応が起こることがあります。
- 局所的な反応:注射部位に痛みやしこりが生じることがあります。これらは通常、一時的なもので、時間とともに改善されます。
副作用の発生タイミングは、接種後数分から数時間、場合によっては数日後にも及ぶことがあります。特にアナフィラキシーは接種後すぐに発生することが多く、注意が必要です。ワクチン接種後は、犬の様子を注意深く観察し、異常が見られた場合は速やかに動物病院に連絡しましょう。
まとめ
ここまで犬のワクチンについてお伝えしてきました。
犬のワクチンの要点をまとめると以下の通りです。
- 犬へのワクチン注射は、狂犬病のワクチンの場合は予防接種が法律で義務付けられており、その他のワクチンについても犬の生命を脅かす病気に対する予防として有効とされている
- 犬のワクチンには、狂犬病ワクチン、混合ワクチンがあり、それと似たものとしてフィラリア予防注射があります
- 犬のワクチン接種後、まれに副作用が発生することがあり、アナフィラキシー、アレルギー反応、注射部位の痛みやしこりなどの局所的な反応があり、犬の様子を注意深く観察し、異常が見られた場合は速やかに動物病院に連絡すること
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。