犬のフィラリア症とは、フィラリアという寄生虫が犬の心臓や血管に感染する病気で、呼吸困難、咳、体重減少、倦怠感等の症状を引き起こす可能性があり、放置すると致命的な結果になることもあります。そのため、犬がフィラリア症を発症しないよう、適切な予防を講じることが大切です。
本記事では犬のフィラリア症について以下の点を中心にご紹介します。
- 犬のフィラリア症について
- 犬のフィラリア症予防
- 犬のフィラリア症の治療
犬のフィラリア症について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
犬のフィラリア症とは?
犬のフィラリア症は、フィラリアという糸状の寄生虫が原因で起こる病気です。
フィラリアは、蚊によって媒介され、犬の肺動脈や心臓に侵入し、全身の血液循環や呼吸器、肝臓、腎臓などに影響を及ぼし、重症化すると死に至ることもあります。
犬のフィラリア症の病原体は「犬フィラリア(犬糸状虫)」と呼ばれる種類のフィラリアです。オスのフィラリアは約17cm、メスは約28cmの体長を持ち、オスはメスよりも小さく、尾部に特徴的な渦巻き状の形状です。
フィラリアの成虫は約20〜30cmの長さで、細長く乳白色のそうめんのような形をしています。感染は、蚊が犬の血を吸う際にフィラリアの幼虫を犬の体内に侵入させることから始まり、約6〜7ヶ月で幼虫から成虫へと成長します。
フィラリア症は、犬の種類や年齢に関わらず感染するリスクがあり、深刻な病気とされています。
犬だけでなく猫もフィラリア症に感染する可能性がありますが、猫では主に肺に障害が現れ、診断が難しく、ときには突然死することもあります。猫の治療法はまだ確立されていないため、予防が重要です。
犬のフィラリア症の症状
犬のフィラリア症は、初期症状が軽度ですが、進行すると重度の症状に至り、犬の生命を脅かす可能性があります。
以下で解説します。
初期症状
フィラリアに感染した犬は、初期段階では乾いた咳をしたり、散歩や激しい運動を嫌がったり、元気がなくなったりします。
この初期症状は、軽度の変化に過ぎないため、飼い主の方は気付きにくいことがあります。しかし、軽度の症状が見られた場合は、フィラリア症の可能性があり、動物病院での血液検査が推奨されます。
初期段階で気が付く飼い主の方は、定期的に血液検査等を受けさせている場合も少なくありません。
重度の症状
犬のフィラリア症が進行すると、より深刻な症状が現れ始めます。
咳が慢性化し、ツヤが失われ始め、食欲不振で痩せてきます。また、以前に増して散歩や運動を嫌がるようになり、運動中に失神する場合もあります。
更に腹水の蓄積、貧血、血色素尿等が起こります。この症状は、感染から数年が経過した後に出てくる場合があります。
重度のフィラリア症では、肺の働きが低下し、軽度の運動でも呼吸困難を引き起こす可能性があり、咳をする際に血が混ざることもあります。この段階では、臓器に損傷があるため、治療は困難となります。
また、肺動脈に寄生していたフィラリアの成虫が、右心房あるいは右心房と右心室にまたいで移動して、「大静脈症候群」という急性の症状を引き起こすこともあります。これは、乾いた咳以外の症状が無いまま突然発症します。
大静脈症候群は、血流が乱れ、全身状態が急激に悪化する病気です。急激な呼吸困難、不整脈、重度の貧血、血尿等が起こり、治療が遅れると死に至る可能性がある為、迅速な診断や治療が必要です。
重度のフィラリア症は、治療を受けても一度損傷を受けた臓器は回復しないため、早期発見と予防が重要です。
犬のフィラリア症の感染経路や潜伏期間
ここでは、犬フィラリアの感染経路や潜伏期間について解説します。
感染経路
犬フィラリアは、犬から犬へと感染していきます。
犬フィラリアの感染経路は、以下の通りです。
- 蚊がフィラリアに感染した犬の血を吸う
フィラリアに感染した犬の血液には、小さなフィラリアの幼虫がいます。これをミクロフィラリアと呼びます。
蚊がこの犬の血を吸うとき、ミクロフィラリアも一緒に蚊の体内に入ります。 - 蚊の体内でミクロフィラリアが成長する
蚊の体内に入ったミクロフィラリアは、2回脱皮して、犬への感染能力を持った幼虫になります。これを感染幼虫と呼びます。
感染幼虫は、蚊の口吻(吸血針の部分)に移動して、感染の機会を待ちます。この過程には、一定の気温が必要です。そのため、冬の間は感染のリスクが低くなります。 - 蚊が別の犬の血を吸って感染幼虫を移す
感染幼虫に寄生された蚊が、別の犬の血を吸うとき、感染幼虫が犬の体内に侵入します。このとき、犬はまだ感染していません。犬の体内に入った感染幼虫は、約2〜3ヶ月かけて、皮下組織や筋肉・脂肪などで発育を続けます。 - 犬の心臓や肺動脈に寄生する
感染幼虫は、犬の心臓の右心室から肺動脈に移動します。ここで、約6〜7ヶ月後に成熟して、雌雄のフィラリアになります。
フィラリアは、犬の血管を圧迫したり、血流を妨げたりして、犬の健康に悪影響を及ぼします。
また、メスのフィラリアは、新たなミクロフィラリアを産みます。これにより、感染のサイクルが繰り返されます。
犬のフィラリア症は、予防薬や血液検査等で予防や治療につながります。
かかりつけの獣医師に相談して、犬のフィラリア症を防ぎましょう。
潜伏期間
潜伏期間とは、感染から症状が出るまでの時間のことです。
犬のフィラリア症は、感染してもすぐに症状が出るわけではありません。
犬フィラリアの潜伏期間は、以下のように分けられます。
- 感染幼虫の発育期間
感染幼虫とは、蚊によって犬の体内に入ったフィラリアの幼虫のことです。
感染幼虫は、皮下組織や筋肉・脂肪などで生活しながら、2回脱皮して、最終寄生場所に移動できるようになります。この期間には、約2ヶ月かかります。
この間、犬に症状は出ません。
- 心臓や肺動脈への移動期間
感染幼虫が発育した後、血管を通って、心臓や肺動脈に移動します。ここで、約6〜7ヶ月後に成熟して、雌雄のフィラリアになります。
この期間にも、犬に症状は出ません。
- ミクロフィラリアの産生期間
フィラリアが成熟した後、メスのフィラリアは、新たなフィラリアの幼虫を産みます。これをミクロフィラリアと呼びます。
ミクロフィラリアは、血液中に流れて、蚊に吸われることで、次の犬に感染します。この産生期間には、約1年かかります。
産生期間になると、犬に症状が出始めます。
犬フィラリアの潜伏期間は、感染から症状が出るまでに、約1年半〜2年かかるといわれています。
しかし、個体差や感染度によって、もっと早く症状が出る場合や、もっと遅く症状が出る場合もあります。
犬のフィラリア予防
犬のフィラリア症は、1度感染すると駆虫・治療が難しいため、とにかく予防が大切です。
近年では温暖化に伴い冬でも蚊をみかける地域も多くなったことで、通年予防が推奨されています。
予防薬はおやつのように与えられるもの、食べない犬でも投与しやすいものもあるため、以下の内容を参考に、是非かかりつけの病院で相談してください。
フィラリア予防薬
フィラリア予防薬とは、蚊に刺されて体内に入ったフィラリアの幼虫を駆虫する薬です。フィラリア予防薬は、最低でも毎年4月頃〜12月頃まで、毎月1回程飲ませる必要があります。
フィラリア予防薬は、投薬日の約1ヶ月前から投薬日までに犬の体内に入ったフィラリアの幼虫を駆虫します。
フィラリア予防薬は主に、チュアブル(おやつ)タイプ、スポット(点液)タイプ、錠剤(飲み薬)タイプの3種類があります。
フィラリア予防薬のメリットとデメリットは以下の通りです。
【メリット】
・フィラリアのみならず、ノミ、ダニ、寄生虫などの駆虫もできるオールインワンタイプの薬がある
・体重による値段の差が少ない
・通年投与することで、フィラリア感染のリスクを低減させる
【デメリット】
・毎月の投薬管理が必要
・犬が食べてくれない、嫌がる場合がある
・食べ残しや吐き戻しに注意しなければならない
フィラリア予防注射
フィラリア予防注射とは、1年に1回程度動物病院で注射することにより、約12ヶ月、フィラリア症を予防する方法です。
フィラリア予防注射は、フィラリアを駆虫する成分「モキシデクチン」が、小さな粒子状で溶け込んでいます。皮下投与後に徐々に溶けていくため、12ヶ月程効果の持続が期待できるといった仕組みです。
フィラリア予防注射のメリットとデメリットは以下の通りです。
【メリット】
・1回の注射で毎月の投薬管理が不要
・フィラリアだけを予防したい場合に向いている
・飼い主の方が高齢である場合など、投薬管理が難しい場合に便利
【デメリット】
・副反応の危険性がはっきりしていない
・老犬、子犬、妊娠中の犬には使えない
・ノミ、ダニ、寄生虫の駆虫は行えない
・体重による値段の差が大きい
・接種時期が動物病院によって異なる
犬のフィラリア症の治療法
犬のフィラリア症の治療法は主に、外科手術・駆虫薬・予防薬の3つの方法がありますが、いずれの方法も犬の体にかかる負担は免れません。以下で治療法について解説します。
外科手術
外科手術では、心臓に寄生したフィラリアの成虫を直接摘出します。外科手術は、「大静脈症候群」という急性症状を起こしている場合、フィラリアの成虫が大量に寄生している場合、緊急を要する場合に行われます。
外科手術は、首の血管から細い器具を入れて、心臓内のフィラリア成虫を引き出します。この方法は、成虫をすぐに駆除できるという利点がありますが、以下のような欠点もあります。
- 対応できる動物病院や獣医師が少ない
- 手術を受ける犬の体に大きな負担がかかる
- 成虫を完全に摘出できない場合がある
- 摘出する際に死亡したフィラリアの欠片が強い症状を起こすことがある
因みに外科手術は、犬の場合に限られます。
猫の場合は、心臓が小さく血管が細いため、手術が難しく、犬以上に負担が大きいため、手術することはほとんどないとされています。
駆虫薬
駆虫薬とは、体内にいるフィラリアを薬で駆除する方法です。この方法は、外科手術ができない場合や、成虫の数が少ない場合に行われます。
駆虫薬には、成虫用とミクロフィラリア用の2種類があります。
成虫用の駆虫薬は、約2〜3回に分けて投与し、数週間で成虫を死滅させます。
ミクロフィラリア用の駆虫薬は、成虫用の駆虫薬と併用して、成虫が産んだミクロフィラリアを駆除します。
駆虫薬による治療は、成虫を駆除できるという利点がありますが、以下のような欠点もあります。
- 駆虫薬の投与後数週間は、散歩も控えて安静にしなければならない
- 駆除された成虫が肺動脈に詰まることがある
- 死滅した成虫やその欠片が強い症状を起こすことがある
- 犬の場合は行われるが、猫の場合は推奨されない
駆虫薬は、犬の場合に行われますが、猫の場合は推奨されません。
猫の場合は、駆虫したフィラリアが細い血管に詰まって、突然死等を起こす可能性があるためです。
予防薬
フィラリア予防薬を投与して、新たなフィラリア感染を防ぐ方法があります。この方法は、寄生しているフィラリアの寿命を待つ必要があり、フィラリアが心臓に寄生している場合は、同時に心臓のケアも必要です。
予防薬による治療は、新たな感染を防げるという利点がありますが、以下のような欠点もあります。
- 寄生しているフィラリアの寿命を待たなければならない
- フィラリアが心臓に寄生している場合、心臓のケアも必要になる
- 犬の場合は治療として行われるが、猫の場合は症状緩和として行われる
予防薬は、犬と猫の両方に行われますが、目的が異なります。
犬の場合は、治療として行われますが、猫の場合は、症状緩和として行われます。
猫の場合は、予防薬と併用して、ステロイドや気管支拡張剤なども使用して、症状を和らげます。
まとめ
ここまで犬のフィラリア症についてお伝えしてきました。
犬のフィラリア症の要点をまとめると以下の通りです。
- 犬のフィラリア症は、病原となる寄生虫が蚊によって媒介され、犬の肺動脈や心臓に侵入し、全身の血液循環や呼吸器、肝臓、腎臓などに影響を及ぼし、重症化すると死に至ることもある病気
- 犬のフィラリア症は、1度感染すると駆虫・治療が難しいため予防が重要となり、近年では温暖化に伴い冬でも蚊をみかける地域も多くなったため、通年予防が推奨される
- 犬のフィラリア症の治療方法は、主に外科手術・駆虫薬・予防薬の3つ
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。