犬の腎臓病を理解する|知っておきたい検査や治療法についても解説します

犬の腎臓病を理解する|知っておきたい検査や治療法についても解説します

愛犬の健康を守るためには、病気の早期発見が重要です。特に腎臓病は犬の健康を脅かす一般的な病気の一つです。この記事では、犬の腎臓病の種類、それぞれの症状、進行の段階、原因、検査方法、そして治療法について詳しく解説します。病気の早期発見や適切なケアが愛犬の健康を支える鍵となります。飼い主が知っておくべきポイントをわかりやすくご紹介していきますので、ぜひ愛犬のために役立ててあげてください。

犬の腎臓病の種類と症状

犬の腎臓病の種類と症状

腎臓は体内の不要な物質を尿として排出する重要な役割を担っており、病気によって機能が低下すると体内の老廃物を適切に排泄できなくなります。排泄できなくなった老廃物は体にとって毒となるため、蓄積されると多くの健康問題を引き起こします。腎臓病は大きく分けて「急性腎臓病」と「慢性腎臓病」の二つに分類され、どちらも最終的には腎不全に至ります。ここでは、急性腎臓病と慢性腎臓病について具体的に解説していきます。

急性腎臓病の症状

急性腎臓病は、数時間から数日の間に腎臓の機能が急激に落ち込むのが特徴で、尿の生成が止まる無尿や、尿量が著しく減ってしまう乏尿の症状が見られるようになります。また、腎臓の機能不全によって老廃物が排泄できなくなったり、電解質のバランスが崩れることで、食欲不振、下痢や嘔吐といった消化器系の症状も起こり得ます。さらに腎臓の機能が低下することで体内の水分バランスが崩れ、脱水症状が見られます。

重度の場合には痙攣や体温の低下が発生することもあり、犬の命に関わる深刻な状態となります。
適切な対応で病気の原因を治療することができれば、腎臓機能の回復が期待できる場合もありますが、慢性腎不全に移行する場合も少なくありません。

慢性腎臓病の症状

慢性腎臓病は長期間にわたってゆっくりと進行します。初期段階では特に症状が見られないことが多く、飼い主は気づかないことがほとんどです。進行するにつれて水を多く飲み、尿の量も増加する多飲多尿の症状が現れます。他に体重減少や嘔吐、貧血がみられることもあります。

病気がさらに進行すると腎臓が老廃物や有害物質を排出できなくなり、尿毒症となります。尿毒症になると活力を失い、下痢や痙攣などの重篤な症状を示すこともあります。

慢性腎臓病の治療の目的は病気の進行を遅らせることであり、低下した腎臓機能が回復することはありません。

犬の腎臓病の進行

犬の腎臓病の進行

犬の腎臓病は、初期から末期まで段階を経て進行します。ここでは、腎臓病が進行する過程をステージごとに分けて解説し、各ステージでの特徴や注意点について詳しく見ていきます。

ステージ1

初期段階ではほとんど症状が現れず、血液検査を行っても異常は見つかりません。しかし、この段階で病気を見逃さないためには、尿検査やSDMAが重要な役割を果たします。

尿検査では尿比重の低下や蛋白尿、腎臓の形状に異常が見られる場合があります。尿比重とは、尿中の水分と水分以外の物質(尿素や塩化ナトリウムなど)の割合を示す数値で、腎機能のチェックに使われます。犬の場合、尿比重が1.030以下に低下していると、腎臓の機能が既に正常の約3分の1程度にまで低下している可能性が高いと考えられています。

ステージ2

慢性腎臓病において初期に現れる「多飲多尿」という症状が目立ち始めます。腎臓の機能が低下することで尿を濃縮する能力が衰えるため、薄い尿を大量に排出するようになります。

外見上は元気で食欲も通常と変わらないため、飼い主は異常に気付きにくいでしょう。しかし、腎機能はすでに正常時の約4分の1にまで低下している可能性があります。

ステージ3

腎臓が老廃物や有害物質を適切に排泄できなくなるため、尿毒症が進行し始めます。血液中に蓄積される尿毒素は、口腔粘膜や胃粘膜に影響を及ぼし、口内炎や胃炎を引き起こす原因となります。犬が食欲不振や嘔吐といった症状を示し始めるため、多くの飼い主はこのステージに入って異常を感じはじめます。

さらに、腎臓はエリスロポエチンというホルモンを産生して赤血球の成熟を助けますが、慢性腎臓病ではこのホルモンの産生が減少し貧血が発生することがあります。

ステージ4

最終段階であるステージ4に達すると強い食欲不振、嘔吐、下痢といった症状を示し、活力が感じられなくなります。積極的な医療介入、特に透析治療や特別な食事療法、薬物療法などがなければ生命を維持することは極めて難しいでしょう。この段階での治療の目的は、主に症状を緩和して苦痛を最小限に抑え、できるだけ快適な状態で生命を維持できるようサポートすることになります。

犬の腎臓病の原因

犬の腎臓病の原因

犬の腎臓病が発症する原因は多岐にわたります。ここでは犬の腎臓病を引き起こすさまざまな要因について掘り下げていきます。

加齢

愛犬が年齢を重ねると、体内の細胞は自然と劣化していきます。加齢によって細胞が劣化することで腎臓の能力が徐々に低下し、結果として慢性腎臓病の原因の1つとなります。7歳以上の犬にとって慢性腎臓病は決して珍しい病気ではありません。

加齢に伴う腎臓の機能低下はどの犬にも起こり得ることですが、犬の種類や個体差、さらには生活習慣や健康状態によってその程度は異なります。

先天性疾患

犬の腎臓病の中には、先天性疾患によって引き起こされるケースがあります。例えば先天的に一方または両方の腎臓が欠如している、細胞レベルで構造上の問題があるなどです。生後数週間という非常に若い時期から症状が始まるケースから、発症が遅れたり比較的症状が軽いケースもあります。先天性疾患を早期発見し、適切な食事療法などを行うことによってより愛犬を少しでも長く生存させられる可能性があります。

歯の疾患

歯周病などの歯の疾患が進行することで、歯茎から体内に侵入した細菌が体内を巡り、腎臓病となることがあります。腎臓はこれらの細菌やその毒素を濾過しようとするのですが、その過程で腎臓自体がダメージを受けてしまうのです。歯の疾患は腎臓だけでなく、心臓や肝臓など他の重要な臓器にも損傷を与える可能性があります。

中毒症

犬にとって有害な一部の植物や食品、人間用の医薬品を摂取することにより中毒症を引き起こし、腎臓病となります。例えば百合の花やブドウなど、犬に対して有毒なものが意外にも身近に存在します。これらは犬の体内で適切に処理されず、腎臓に大きな負担をかけてしまいます。さらに、一部のヒト用の医薬品や化学物質も、犬にとっては有害となることがあります。愛犬の周囲の環境を安全に保ち、有毒となり得る物質に触れたり摂取したりしないよう、常に注意を払うことが重要です。

細菌感染

細菌感染によって腎臓に炎症が起きることも、腎臓病の身近な原因となります。例えばレプトスピラ症は、レプトスピラという細菌によって引き起こされます。感染後、全ての犬が症状を示すわけではありませんが、発症した場合は肝臓や腎臓に損傷を与えることがあり、黄疸や出血、急性の肝不全や腎炎などの症状が現れます。感染経路は、主に汚染された水や土壌、動物の尿や粘膜などです。汚れた池や川、溜まり水で泳いだり飲んだりすることでレプトスピラ菌感染のリスクが高まります。この病気は7種以上の混合ワクチンで予防が可能と言われています。人にも感染する人獣共通感染症ですので、飼い主も用心が必要です。

犬の腎臓病の検査

犬の腎臓病の検査

愛犬の腎臓病を正確に診断するためには検査が不可欠です。ここでは、腎臓病の主な検査方法について具体的に解説します。

血液検査

腎臓病の診断において、血液検査は非常に重要な役割を果たします。慢性腎臓病が進行するにつれて血液中の特定の数値が変化しますが、中でもクレアチニンの数値は腎臓病の診断とステージ評価において非常に重要です。クレアチニンは筋肉の代謝産物であり、通常は腎臓によって血液から濾過され尿として排出されます。したがって、腎臓の機能が低下すると血液中のクレアチニン濃度が上昇します。クレアチニン濃度を測定することで腎機能低下の程度を確認できるため、血液検査は腎臓病の進行度を判断する上で重要な指標となります。

血液検査の大きなメリットは、検査機械を用いて得られる数値により、客観的な結果が得られる点にあります。これにより、病気の状態が安定しているか、あるいは悪化しているかといった判断が可能となります。

尿検査

尿検査によって、腎臓の機能低下の程度を評価することができます。

尿検査で尿比重を測定することにより、腎臓が尿をどれだけ濃縮できているかを知ることができます。慢性腎臓病が進むと尿中の廃棄物を濃縮する能力が衰えるため、尿比重は徐々に低下します。尿比重が低下すると尿の色が通常よりも薄くなり、匂いも少なくなる傾向があります。また、腎臓の濾過機能が低下することで尿中に蛋白質が見られるようになります。

尿検査には様々な方法があり自宅で尿を採取することも可能ですが、病院での採取が望ましい場合もあります。採取方法には尿道からカテーテルを挿入して行うカテーテル採尿や、膀胱に針を刺して行う穿刺採尿があります。どちらの方法もメリットとリスクがあり、犬の状態や性格に応じて最適な方法を選択します。

血圧測定

慢性腎臓病を抱える犬では、血圧の上昇がしばしば見られます。高血圧は腎臓にさらなる負担をかけ、病状を悪化させる可能性があります。収縮期血圧が160 mmHgを超える場合、高血圧と診断されることが一般的です。

高血圧の治療は腎臓病の進行を遅らせる上で重要な役割を果たしますが、高血圧の診断には注意が必要です。診察時の緊張や不安などにより、一時的に血圧が上昇することがあるためです。1度の測定で高血圧と判断するのは適切ではなく、別の日に再度血圧測定を行い一貫して高血圧の状態が確認された場合に治療が必要となります。

エコー検査

エコー検査によって腎臓の形や大きさ、構造などが観察でき、腎臓病の原因や程度を評価する上で重要な情報を得ることができます。特に慢性腎臓病においては腎臓の萎縮が見られます。

この検査は愛犬に痛みを与えることなく行えるため、定期的な健康診断や実施中の治療のフォローアップにおいて有効と言えます。

犬の腎臓病の治療法

犬の腎臓病の治療法

ここでは、透析、食事療法、薬物療法、点滴など、犬の腎臓病に対する様々な治療について詳しく解説していきます。これらの治療法は腎臓病を完全に治癒させるものではありませんが、病状の進行を遅らせ、愛犬の生活の質を向上させることができます。

透析

腎臓病の治療法の一つとして、人間では血液透析がよく用いられます。しかし、犬の場合、透析治療をするにはいくつかの問題があります。

まず、透析を行える獣医施設が限られているためすべての地域で受けられる治療ではありません。さらに、透析治療は定期的な通院と、毎回全身麻酔が必要となるため、飼い主にとっては大きな負担となります。

以上の理由から、犬における透析治療は一般的な選択肢とは言えない状況にあります。しかし腎臓病が進行し他の治療方法が効果を示さない場合には、愛犬の延命と、生活の質を維持するための選択肢として検討されることもあります。

食事療法

犬の腎臓病に対する最も一般的な治療法の一つが食事療法です。食事療法では、腎臓に負担をかける可能性があるリン、タンパク質、ナトリウムなどを制限した療法食を用います。これにより腎臓の機能をサポートし、病状の進行を遅らせることができます。

薬物療法

腎臓病に対する特効薬は存在しませんが、症状に応じて様々な薬物が治療に用いられます。吐き気を抑える薬、リンの吸着剤、高血圧やタンパク尿を抑制する薬などです。薬物療法によって腎臓病に伴う症状を軽減し、愛犬の快適さを保つことができます。

点滴

腎臓病を患っている犬にとって、適切な水分量の維持は非常に重要です。そのため、腎臓への血流の安定化や脱水の改善を目的として、静脈点滴や皮下点滴が行われることがあります。点滴治療により体内の水分量を増加させることで、結果的に尿量も増加します。すると体内に蓄積された老廃物の排出が促進されるため、腎臓への負担を軽減することができます。

また、犬の脱水状態を予防するために水分摂取することが重要になります。常に新鮮な水が飲めるように配慮すると良いでしょう。

まとめ

まとめ

本記事では犬の腎臓病の種類と症状、検査方法、治療手段について解説しました。腎臓病は種類や進行度によって異なる症状を示し、検査による早期発見が鍵となります。

この記事が、愛犬の健康を守るための一助となり、腎臓病に直面した際の適切な対応や、日頃の予防策の参考になれば幸いです。愛犬の健康と幸せを守るために定期的な健康チェックと適切なケアが欠かせないことを、改めて心に留めておきましょう。

参考文献