関節炎は犬を飼ううえで飼い主が把握しておきたい病気のひとつです。要因はさまざまですが、日頃の飼育環境の改善で防げる要因もあります。
愛犬を守るために関節炎に関する知識を身につけておきましょう。
今回は関節炎の原因・発症時のサイン・発症しやすい犬の特徴などをわかりやすく解説します。
関節炎は運動好きの犬、運動嫌いの犬どちらも気をつけたい病気です。一度発症すると完治しない関節炎はどうやって予防すればよいのでしょうか。
犬の関節炎とは?
関節炎とは骨と骨をつな関節に起こる炎症です。
本来、関節はその弾力性を活かし骨同士を連結させ、体をスムーズに動かす役割を担っている臓器です。関節は以下の組織から構成されます。
- 骨
- 関節包
- 滑膜組織
- 腱
- 靭帯
- 軟骨組織など
関節炎ではこれらの組織に炎症が生じ、痛みが出る・関節可動域が低下するといった症状が表れます。
進行すると失われた関節の弾力性を補うため、関節周辺の骨が過度に増殖する骨棘(こつきょく)が生じます。
犬の場合は関節炎を発症しやすい犬種がいることも知っておきましょう。
例えば、ミニチュアダックスフントはリウマチ様関節炎を発症しやすい犬種です。またラブラトール・レトリバーやゴールデン・レトリバーは肘関節異形成症になりやすい傾向にあります。
愛犬の犬種がなりやすい病気を事前に知っておくこと・病院で定期検診を受けることが必要です。
犬が骨関節を痛める原因
関節炎の原因はさまざまです。以下でよく見られる原因を紹介します。
- 自己免疫異常
- 加齢に伴う関節負荷の増大
- ほかの疾患に伴う関節負荷の増大
- 外傷に伴う関節負荷の増大
- 外傷に伴う細菌感染など
自己免疫異常によって発症する関節炎としては、主にリウマチ様関節炎が挙げられます。
対して負荷の増大によって発症する関節炎は、変形性関節疾患と呼ばれます。細菌感染による感染性関節炎も気をつけたい関節炎です。
以下では発症の原因を大きく2種類に分けて、さらに詳しく解説します。
関節軟骨の異常
関節炎の原因には、以下のような関節軟骨の異常が挙げられます。
- 加齢
- 感染
- 免疫疾患
- 内分泌疾患
- 遺伝疾患
- 骨軟骨症など
細菌感染・免疫疾患は骨びらんがあるかどうかで見分けます。骨びらんとは、レントゲンで関節部分を観察した際に、骨が溶けたように見える症状です。
免疫疾患では関節の内部で炎症が起こりそれが骨まで広がるため、骨びらんが見られます。
関節への負荷
関節炎の原因には、以下のような関節に対する異常な負荷も挙げられます。
- 肥満
- 外傷
- 過度の使役
- 関節の異形成や弛緩
- 脱臼など
犬は人間とは異なり、体を4本足全ての関節で支えなければなりません。そのため常に関節に大きな負担がかかり、軽度の関節疾患が関節炎に発展しやすい傾向にあるのです。
関節に異常な負荷がかかる状態は、飼い主が住環境・運動環境・体重などを管理することで避けられます。特に体重が重い大型犬・超大型犬は気をつけて管理してあげましょう。
犬の関節炎にみられる症状やサイン
関節炎が進行すると、軟骨下の神経・滑膜にまで炎症が広がることで痛みが生じるようになります。
そうなると犬は足を引きずったり、症状のある足を庇って上げたまま歩いたりします。また魚が泳ぐように体をうねらせて歩く様子にも注意が必要です。
これらのような不自然な歩き方をまとめて跛行と呼びます。関節炎において頻出する代表的な症状です。
ほかにも関節炎のサインとなる症状があるため、下記で解説します。
動作が遅くなる
関節炎になるともともとは活発だった犬でも、関節の痛みを庇うために動作が遅くなるケースがあります。以下のようなサインが見られるときは、愛犬が関節に痛みを感じているかも知れません。
- 急に元気がなくなった
- 急に老け込んだように見える
- 動き出しが鈍い
- 立ち上がるときや歩くときにふらつくなど
また関節炎が悪化すると関節の可動域が減少するため、運動能力が低下していきます。
慢性的に様子がおかしい・体の動きが不自然に感じられる時は、関節炎に限らず病気が隠れていると疑うべきです。
該当する様子が見られる場合は、早めに動物病院で診察を受けましょう。
散歩を嫌がる
関節炎になっている犬は、自分から積極的に運動することを嫌がります。ほかに思い当たる原因がないにも関わらず、犬が散歩を嫌がる場合は注意が必要です。
散歩は犬健康チェックとしても機能しています。普段から愛犬の運動している様子を知ることで、ちょっとした異変に気付きやすくなるためです。
関節炎のように運動に障害が現れる病気の発見には、特に有用でしょう。
散歩で必要な運動量・頻度は犬種・年齢によって異なります。しかし毎日の散歩は、犬の寿命によい影響を与えることも報告されています。
健康チェック・健康促進の観点から、可能であれば毎日の散歩習慣を持つとよいでしょう。
犬が散歩を嫌がる原因は多岐に渡りますが、病気を疑う視点も持っておくことが重要です。
痛がって鳴く
鳴き声は犬の抱える痛みに飼い主が気がつくための重要なヒントのひとつです。普段の犬の様子をよく把握している飼い主が、担当医に適切に報告しましょう。
報告すべき犬の鳴き声の変化には以下のようなものが挙げられます。
- 機嫌の悪そうな鳴き声
- 攻撃的な鳴き声
- うめき声を上げる
しかし特に関節炎の初期症状は不自然な歩き方に現れることが多いです。鳴き声はあくまで補足的な情報と理解しておきましょう。愛犬の様子がおかしいと感じたならば、早めの受診をおすすめします。
犬が関節炎を発症した場合の治療法
関節炎は長期的には少しずつ悪化していく病気です。一方で短期的に見ると、よくなったり、悪くなったりを繰り返していく病気でもあります。
治療方針としてはその時々の症状を治療で抑えながら、病気とうまく付き合っていくことを目指すのが一般的です。
症状が軽い場合は食事・運動で、症状が現れにくい体づくり・体の動かし方の習得を目指します。
症状が強く出て生活に支障が出てくる場合は、関節を固定する・人工関節に置換するといった整形外科的な選択肢も出てきます。
重要なことは早期から治療を開始することです。早く治療を始められれば、関節炎の進行を抑え重症化を防ぎやすいためです。
また長期的な治療となるため獣医師との相性も重要となります。飼い主にとっては治療の方針・スケジュールをきちんと説明してくれる獣医師、犬にとっては安心して体を預けられる獣医師が理想です。
原因療法
疼痛・機能障害によって日常生活に支障をきたしているケースでは、外科手術を伴う原因療法も選択可能です。
具体的には関節を固定する関節固定術・人工関節への置換術といった手術が想定されます。
ただし手術は犬の負担が大きくなります。手術の必要性について担当医とよく話し合い、資格・経験のある執刀医に手術を依頼しましょう。
また手術以外にも軟骨成分を補う薬剤の投与も原因療法にあたります。治療法を決定する前に、治療の選択肢をよく調べておきましょう。
対症療法
関節炎における対症療法は、主に疼痛緩和を目的に行われます。
消炎剤・鎮痛剤によって痛みを抑え、犬が普段通りの生活を送れるようサポートします。非ステロイド性消炎鎮痛剤が用いられるケースが多いです。
ただし関節炎の種類によって適切な薬剤は異なることも知っておきましょう。免疫介在性多発性関節炎を発症している場合は、ステロイド・リウマチ薬を用いて治療します。
痛みを抑えているに過ぎないため、根本的な治療にはなりません。しかし症状が悪化しないうちは、犬への負担が少ない対症療法で治療を進めるのが一般的です。
食事療法
関節炎の症状を強める原因のひとつに肥満があります。関節に過度に負担がかかることで、痛みが出てしまうのです。
この痛みを体重減量によって軽減するのが、食事療法の目的です。食事内容・量を見直し改善します。
鎮静剤による対症療法と並行して進め、適正体重までの減量を目指します。獣医師・飼い主・愛犬が一体となって取り組む必要がある治療法です。
運動療法
運動療法はリハビリテーション・日頃の運動によって症状の改善を目指す治療法です。
リハビリテーションでは関節炎による機能障害を改善させるために、無理のない範囲で負荷をかけ、運動の訓練を行います。
犬にとっての運動改善は、飼い主による環境改善に近いです。関節への負担を減らすため、以下のように犬の住環境を整えます。
- 自宅のフロアマットを滑りにくいものに変更する
- 散歩コースで硬い路面を避ける
- 過度な運動を避ける
- 体を冷やさないなど
運動療法は対症療法と並行して進められます。関節に痛みを抱える愛犬をサポートする気持ちで、飼い主も積極的に取り組みましょう。
関節炎を発症しやすい犬の特徴
ここまででも随所で触れたように、関節炎は犬種・年齢・体型・体格によって発症のしやすさが異なります。
以下で確認し、愛犬が該当する場合は日頃から定期検診を受けておきましょう。
関節炎は早期治療によって進行を抑えられる病気です。逆に放置すると体の変形・痛みが出てしまい、ひどい場合には手術まで必要になる怖い病気でもあります。
定期検診を取り入れた正しい飼育で、愛犬を守りましょう。
肥満犬
肥満体型は体を支える関節に大きな負担をかけます。適正体重の犬と同じ運動をしても、関節にかかる負担は何倍にもなってしまうのが怖いところです。
食事内容・量を見直し、運動量をしっかり取って適正体重まで減量しましょう。適正体重の維持は関節炎に限らず、さまざまな病気の予防にも有効です。適正体重は獣医師に確認しましょう。
適正体重のほかにもペットの体型評価、ボディコンディションスコア(BCS)も参考になります。見た目・感触をもとに体型を5または9段階で評価し、ペットが理想体重であるか判断する基準とするものです。
老齢犬
老齢犬は特に関節炎になりやすい傾向にあります。加齢に伴い関節軟骨がすり減ってしまうことが原因です。歳をとると以下のような関節軟骨を構成する成分の生成量が減ってしまいます。
- コラーゲン
- コンドロイチン
- プロテオグリカン
これらを補うためにはグルコサミン・コンドロイチン硫酸などを含む関節保護サプリメントの服用が効果的です。
関節炎は完治する病気ではありませんが、老齢犬でも体の負担を減らすことで付き合っていける病気です。
愛犬の様子をよく観察しながら、穏やかに過ごせるよう手助けをしましょう。
大型犬
大型犬はもともと体重が重いため、関節炎を発症しやすい傾向にあります。以下で関節炎を発症しやすいことで知られる大型犬の例を挙げるので、参考にしてください。
- ラブラドール・レトリバー
- ゴールデン・レトリバー
- バーニーズ・マウンテン
- ジャーマン・シェパード
- セント・バーナードなど
いずれも1歳未満から関節炎発症のリスクがあり、治療が遅れると改善が難しくなります。成長痛・一時的な痛みと楽観視せず、早めの受診を心がけましょう。
犬の関節炎を予防するには?
愛犬の関節炎を予防するために、飼い主には何ができるでしょうか。関節炎は原因が多岐に渡るため、完全に予防することは困難です。以下で列挙してみましょう。
- 犬種
- 体型
- 体格
- 年齢
- 免疫異常
- 細菌感染
- ほかの疾患
- 過度な運動など
先天的な要因も含め、加齢・外傷など避けられない要因も多いことがわかるでしょう。それでも日頃からできる取り組みはあります。ポイントは以下の2つです。
- 筋肉で関節を守る
- 関節に負担をかけない
以下でより具体的な方法を解説します。
適度な運動
適度な運動を生活に取り入れて、筋肉をつけましょう。関節に関連する筋肉が育つことで、関節を過度な衝撃から守ってくれます。
ただし過度な運動は関節の負担となるため、関節炎のリスクを高めます。犬種・体格にあわせた運動量になるよう、獣医師と相談しながら運動できるとよいでしょう。
体重管理
関節炎を防ぐために体重管理は重要です。特に太り過ぎは関節に慢性的に負担をかけ続けるため、早急に改善したいものです。
食事量ははじめペットフードのパッケージに記載されている量を目安に与えます。ただしこの量はあくまで目安です。
個体・体格によって適切な量は異なるため、愛犬の様子・体型を観察しながら調整しましょう。
またライフステージごとに食事内容を見直すことも重要です。成長に多くのエネルギーを要する子犬時代と、内臓の機能が落ち着くシニア時代では食事内容も大きく変わります。
定期検診で獣医師のアドバイスを受けながら、飼い主がきちんと体重管理をしてあげましょう。
まとめ
犬の関節炎は関節に痛みを生じる進行性の病気です。特に4本すべての足に体重をかけて生活する犬にとっては、生活の質に直結する重大な病気となっています。
関節炎の要因はさまざまです。具体的には年齢・体型といった個体の特徴に左右される要因から、犬種・先天性の病気など生まれ持った要因などが挙げられます。
完治は難しいですが、早期発見して治療を始められればかなり症状を抑えられる病気でもあります。治療は痛み止めを処方しながらの運動療法・食事療法がメインです。
筋肉をつけ体重を適正まで落として、関節への負担を抑えた生活環境を整えれば痛みを軽減できます。長期的な治療が必要となるため、獣医師と信頼関係を築くことも重要です。
参考文献