犬の肝硬変とは、肝臓の細胞が線維化して硬くなった状態です。肝臓病の末期状態とされています。
肝臓は再生力がとても高い臓器ですが、肝硬変まで症状が進行してしまうと肝臓を元の健康な状態に戻すことはできません。
そのため、早めに肝硬変を発見し症状の進行を抑えることが重要です。
今回は犬の肝硬変の症状・原因・治療法などについて解説します。
愛犬に肝硬変の疑いがないか確認する際の参考にしていただけると幸いです。
犬の肝硬変とは
犬の肝硬変とは、肝細胞が線維化して硬くなり、肝臓本来の機能を失った状態をいいます。
肝硬変の主な原因は脂肪肝や肝炎などの慢性肝疾患です。肝臓が脂肪肝や肝炎の状態になると、肝細胞に炎症が生じます。この炎症を修復する際に現れるのが線維(コラーゲン)です。
慢性的な肝疾患により肝臓の炎症と修復が繰り返されることで、線維が肝臓全体に広がります。これにより肝臓は硬く小さくなり、本来の機能を失ってしまうのです。
このような状態を肝硬変といいます。
本来肝臓はとても回復力の高い臓器です。そのため、多少の障害であれば回復が見込めます。
しかし、肝硬変の状態にまで症状が進んだ場合には、現代の医学でも元の健康な状態に戻すことは困難です。
また、肝硬変が末期まで進行してしまうと肝不全となり重篤な状態となります。
そのため、肝硬変は早期発見が重要です。
肝硬変となった肝臓を元の健康な状態に戻すことはできませんが、肝硬変の進行を遅らせたり、合併症を和らげたりすることができます。
愛犬に肝硬変を疑う症状が見られた場合には、早めに動物病院で受診して検査を受けましょう。
犬の肝硬変での主な症状
犬の肝硬変では主に次のような症状が現れます。
- 黄疸
- 体重減少
- 出血のしやすさ
- 腹水
これらの症状は肝硬変によって肝機能が低下するために発生する症状です。
それぞれの症状について詳しく解説します。
黄疸
黄疸とは、皮膚や白目などが黄色く染まる症状をいいます。黄疸が発生する原因は、ビリルビンという成分が血液中に増えることが原因です。
ビリルビンは本来、肝臓から胆汁中へと排出されます。しかし、肝臓の機能が低下するなどの影響により、ビリルビンが排出されずに血液中に溜まってしまうことがあります。
これにより血液中のビリルビン量が増えてしまうため、皮膚や白目が黄色く染まるのです。
黄疸の症状の判断には、皮膚や白目を観察するのが一般的です。犬は全身が毛で覆われているため、皮膚を観察する際には毛の少ないお腹や耳を見るとよいでしょう。
このほか、尿の色で判断する方法もあります。
肝硬変などの肝疾患の影響で黄疸が発生する場合、尿中にもビリルビンが排出されるため、尿の色が濃いオレンジ色になるのが特徴です。
水を飲む量が変わっていないのに尿の色が濃いという場合には、黄疸の症状が出ている可能性があるため注意しましょう。
黄疸の症状はまず尿に出るといわれています。尿の色をよく確認して、いつもより黄色い時には注意が必要です。
食欲不振などほかの症状を伴う場合は動物病院で検査してもらいましょう。
体重減少
犬の肝硬変の症状の1つが体重減少です。肝硬変に伴う体重減少の原因として、食欲低下と栄養失調が挙げられます。
肝硬変などが起きると肝臓の機能が低下し、栄養素の吸収や代謝がうまくいかなくなることが原因で体重減少や食欲不振が起こります。
また、肝臓の機能が低下することで、脂肪やビタミン類といった栄養素が吸収されにくくなります。
脂肪や脂溶性ビタミンの消化吸収を助けるのが胆汁です。胆汁は肝臓で作られ分泌されています。
肝硬変で肝臓の機能が低下すると、胆汁の生成・分泌量が減ります。この影響で脂肪や脂溶性ビタミンが消化吸収されにくくなるため、栄養が不足し体重が減少するのです。
また、肝臓は炭水化物やタンパク質の代謝・合成に関係する臓器でもあるため、肝硬変によりこれらの機能が阻害されることも体重減少の要因となります。
このように、肝臓は栄養の吸収・代謝・合成などを担う臓器であるため、肝硬変によってこれらの機能が低下することで犬の体重が減少してしまうのです。
出血のしやすさ
肝硬変の症状として、出血のしやすさ(出血傾向)が見られることがあります。皮下出血や鼻血などのほか、下血が見られる場合もあります。
その原因となるのが血液凝固因子の減少です。
肝臓では血液を固める血液凝固因子が作られています。肝硬変によって肝機能が低下すると血液凝固因子が作られにくくなるため、血液が固まりにくくなり出血しやすくなるのです。
愛犬の皮膚に内出血などが見られる場合には、一度動物病院で検査を受けてみるとよいでしょう。
腹水
肝硬変の症状が進行すると、お腹に水が溜まる腹水という症状が見られるようになります。
肝硬変により腹水が溜まる主な原因として挙げられるのが、アルブミンの減少と門脈高血圧症です。
アルブミンとは血液中のタンパク質の1種類で、主に肝臓で作られています。アルブミンの大きな役割の1つが、血管内に水分を保持して血液を正常に循環させることです。
肝硬変の影響で肝機能が低下するとアルブミンの生産量が少なくなります。アルブミン量が少なくなると血管内に水分を保持できなくなります。
これにより、血管から水分が漏れ出てしまい、腹水としてお腹のなかに溜まってしまうのです。
また、肝硬変などの肝障害を発症すると、門脈高血圧症という症状を発症します。
門脈とは肝臓に流入する太い血管のことです。肝硬変によって肝臓が硬くなると、門脈の血液が肝臓に流れ込みにくくなります。これにより門脈圧が上昇してしまうのです。
この影響により、門脈から水分が染み出し、腹水として水分が溜まる症状が現れます。
腹水の症状が見られる場合、そのまま放置してはいけません。
最近愛犬のお腹がぽっこりと膨らんできたなと感じたら、すぐに動物病院で受診して検査を受けましょう。
犬の肝硬変で行なわれる治療法
犬の肝硬変で行われる主な治療方法は対処療法と食事療法です。
肝硬変の根本的な治療方法はないため、犬の状態や症状に対する対処療法を行うのが一般的です。
また、肝臓の機能を維持・回復させるには十分な栄養が必要なため、食事療法は肝硬変治療において大変重要だと考えられています。
以下で対処療法と食事療法について詳しく解説します。
対処療法
犬の肝硬変を完治させることは難しいため、肝硬変に伴う合併症の緩和を目的とした対処療法が主な治療方法となります。
対処療法では犬の症状や状態に合わせ、以下を使用します。
- 利尿薬
- ステロイド
- 抗生物質
- 下剤
- ビタミン剤
- サプリメント
利尿剤は腹水の予防・改善のために使用されます。余分な水分を尿として排出させ、お腹に水分が溜まるのを防ぎます。
ステロイドは肝臓の炎症を抑えるのが目的です。肝臓の炎症により進行中の肝硬変の場合、炎症を抑えることで肝臓の再生が促される可能性があります。
肝硬変の犬は肝機能が低下しているため、アンモニアを分解する能力も低下します。そのため、血中のアンモニア濃度が高まり肝性脳症を発症する危険があるのです。
アンモニアは主にタンパク質を分解する過程で産生されます。このタンパク質の分解とアンモニアの産生には腸内細菌が関わっています。
腸管内のアンモニア産生に関わる腸内細菌を抗生物質を使って抑制することで、犬の体内のアンモニア濃度を減らす効果が期待できるのです。
また犬が便秘の場合、腸内に便が溜まることでアンモニアの産生が増えてしまうため、下剤を投与して排便を促す場合もあります。
肝機能が低下するとビタミン類が吸収されにくくなるため、ビタミン剤を投与して補う場合もあります。
血液凝固作用に必須なビタミンKや、肝機能の正常化に役立つビタミンB群などのビタミン剤が使用されるでしょう。
また、肝臓の機能維持には必須アミノ酸のBCAAが欠かせません。しかし、肝硬変などの肝機能障害を発症すると、タンパク質合成や栄養の貯蔵ができなくなるためBCAAが不足します。これを補うために、BCAAサプリメントを用いる場合があります。
このように、犬の状態や合併症に合わせて必要な対処療法を行っていくのが一般的です。
食事療法
食事療法は肝硬変治療においてとても重要です。残された肝臓機能を回復させるには、十分な栄養素の摂取が不可欠です。
肝臓の修復にはタンパク質が欠かせません。しかし、肝硬変で弱っている肝臓に健康な状態と同じ量のタンパク質を与えると、かえって負担となり逆効果となる場合があります。
そのような場合にはBCAAサプリメントなどで必須アミノ酸を補うようにするとよいでしょう。
愛犬の状態によって食事管理方法が異なりますから、獣医師とよく相談しながら食事療法を行ってください。
愛犬が肝硬変にかからないために気を付けたいこと
犬が肝硬変を発症する原因は、慢性的な肝炎などの肝疾患です。
肝炎などの肝疾患を発症する原因は、食事の影響・ウイルスの感染・拾い食いによる中毒などさまざまです。
以下で、愛犬が肝硬変にかからないために気を付けたいことについて、詳しく解説します。
食事管理
慢性的な肝炎につながる可能性のある状態として脂肪肝が挙げられます。
脂肪肝とは肝臓に脂肪が蓄積した状態です。主に脂肪分の多い食事を頻繁に摂っている犬や、肥満体型の犬に見られます。
脂肪肝をそのまま放置していると、肝炎から肝硬変へと進行する可能性もあるため注意が必要です。
脂肪肝を予防するには食事管理が効果的です。おやつの与え過ぎに注意し、食事も適量を守りましょう。
去勢手術などの影響で太りやすい犬の場合には、ダイエット食に切り替えるなども効果的です。
適正体重を維持できるように、食事内容を見直してみてください。
感染症対策
犬の肝硬変につながる肝炎の発症原因として、ウイルスや寄生虫などの感染症が挙げられます。
例えば、犬の肝炎の発症原因の1つとして犬アデノウイルス1型が知られています。
犬アデノウイルス1型に感染すると犬伝染性肝炎を発症することがあり、突然死する場合もある疾患です。特に、子犬が感染すると致死率の高い疾患なので注意しましょう。
犬アデノウイルス1型に感染したからといって必ずしも肝炎を発症するわけではありませんが、感染対策をしておいたほうがよいです。
犬アデノウイルスはワクチン接種で予防ができます。適切なタイミングでワクチンを接種して感染症を予防しましょう。
拾い食い対策
犬の肝疾患の原因として、拾い食いによる中毒などが挙げられます。
人間用の鎮痛剤や風邪薬、植物のソテツなどを食べることで肝疾患を引き起こすケースがあります。
散歩中はもとより、室内でも犬が届く範囲に中毒を起こすような物を置かないように注意しましょう。
犬の肝硬変を早期発見すると?
犬の肝硬変は完治させるのが難しい病気です。しかし、早期発見することで肝硬変の進行を抑えられる可能性があります。
また、食事療法を行うことで、自宅で肝機能を回復させる治療ができる可能性もあるのです。
以下で詳しく解説します。
早期発見にて進行を薬で抑えられる
犬の肝硬変を早期に発見することで、薬を使って進行を抑えられる可能性があります。
胆汁の流れを促し肝機能を改善させるウルソや、線維化を遅らせるためのステロイドなどが使用されるでしょう。
早期に発見する程残された肝臓の機能が回復する可能性がありますので、肝硬変を疑う症状が見られたらすぐに動物病院で受診しましょう。
自宅でも食事療法で治療できるようになる
薬で肝硬変の進行を抑えるのと同じくらい重要なのが食事療法です。
肝機能の回復を促す栄養素にはタンパク質・炭水化物・脂質・BCAA・ビタミン類などがあります。
しかし、これらの栄養素をどれだけ与えればいいのかは、愛犬の病状などによって異なります。
例えば、軽度〜中度の肝疾患では良質なタンパク質を適量与えたほうがよいでしょう。しかし、重度の肝疾患では肝性脳症の危険があるため、タンパク質の摂取を厳しく制限する必要があります。
そのため、獣医師とよく相談しながら食事療法を進めるのが大切です。
自宅で食事療法を行う際には肝臓病用療法食を利用すると便利でしょう。
各メーカーから肝臓病用の療法食が販売されています。種類ごとに特徴が異なるため、獣医師に相談しながら愛犬の状態に合った療法食を選ぶようにしましょう。
犬の肝硬変の検査方法
犬の肝硬変を調べる主な検査方法として超音波検査と血液検査が挙げられます。
それぞれの検査方法について以下で解説します。
超音波検査
超音波検査では肝臓の大きさや形を確認します。
必要に応じて被毛を少し切る場合がありますが、麻酔なしで検査が行えるため、愛犬の負担が少ない検査です。
超音波を送受信するプローブ(探触子)をお腹に当て、肝臓の断層像を描出します。
プローブを当てる角度を変えることでさまざまな角度から肝臓を観察できるので、レントゲン検査よりもさらに詳しい肝臓の情報が得られます。
しかし、超音波検査だけで肝硬変と肝炎を区別するのは難しいため、血液検査などほかの検査も合わせて行われるでしょう。
血液検査
血液検査では肝臓に関係する数値を確認します。肝臓の数値として代表的なのが肝酵素と呼ばれる次の4つの物質です。
- GPT(ALT)
- GOT(AST)
- ALP
- GGT
これらの数値の増減を確認することで、肝臓の状態把握に役立ちます。
ただし、これら肝酵素は肝臓以外の病気でも増減することがあるため、血液データだけで肝硬変を確定させることはできません。
超音波検査などのその他の検査結果も参考にして判断します。
まとめ
犬の肝硬変は肝臓病の末期症状であり、完治が難しい病気です。無治療のまま肝硬変の症状が進行してしまうと、肝臓の機能が著しく低下して肝不全などの重篤な状態となってしまいます。
たしかに肝硬変は完治が困難な病気ですが、早期に発見して治療することで症状の進行を遅らせることができます。
もし愛犬に肝硬変を疑う症状が見られたら、すぐに動物病院で受診して検査を受けましょう。
肝硬変に至る原因はさまざまですが、食事や感染症などが起因となる場合があります。
肥満にならないように食事管理を行ったり、定期的にワクチンを摂取して感染症対策をしたりすることで、肝硬変の発症リスクの低減が期待できるでしょう。
日頃から愛犬の健康管理に注意し、気になる症状があればすぐに獣医師に相談することが大切です。
参考文献