「猫の真菌症って何?」「人にも感染するの?」など、猫が真菌症と診断されると不安になりますよね。真菌症とは、カビが原因で発症する局所あるいは全身の病気で、種類や症状もさまざまです。人にも感染する病気であるため、疑わしい症状があれば早期に発見し、感染を広げないようにきちんと治療することが大切です。この記事では、猫の真菌症の種類や症状のほか、治療方法や人に感染した場合の対処法について詳しく解説していきます。
猫の真菌症の種類
猫の真菌症は、真菌に感染することで皮膚や呼吸器に症状が出る病気です。真菌とはどこにでも存在するカビの一種であるため、どんな猫でも真菌症に感染する可能性があり、注意が必要です。猫の真菌症には複数の種類があります。猫の真菌症の原因となる菌は、皮膚糸状菌、クリプトコッカス、マラセチア、カンジダ、ヒストプラズマなどです。
皮膚糸状菌症やカンジダ症では脱毛やフケ、かゆみなどの皮膚症状が起こります。マラセチア症は、皮膚炎のほか外耳炎を発症します。クリプトコッカス症やヒストプラズマ症では鼻水やくしゃみなどの呼吸器症状や発熱、食欲不振が見られ、重症化すると多臓器感染を引き起こすこともあります。
飼っている猫が不調を訴えていても、何が原因か分からなければそのまま見過ごしてしまうかもしれません。猫の真菌症について今まであまり知らなかったという方も、猫の異常に早く気が付いて早期治療を行えるよう、真菌症の症状について知っておきましょう。
猫の真菌症の症状
猫が真菌症にかかると、皮膚や呼吸器に症状が現れます。症状が進行してから治療を開始すると、皮膚のかゆみがひどく引っ掻き傷ができたり、呼吸器症状が悪化したりして治療期間が長引いてしまいます。
初期の頃は発見しにくいこともありますが、猫の様子がいつもと違うと感じた場合には皮膚や症状をよく観察し、真菌症が疑われる場合には早期に治療を開始しましょう。
かゆみの症状
猫が真菌症に罹患すると、皮膚にかゆみが出ることがあります。ノミやダニのほか、ストレスやアレルギー反応などが原因となっている場合もあるため、かゆがっているからといって必ず真菌症になっているわけではありません。しかし、頻繁に身体をなめる、噛(か)んでいるなど、いつもより身体をかゆがっているときには真菌症の可能性があります。皮膚やほかの症状がないか注意して観察するようにしましょう。ただ、皮膚糸状菌症はかゆみが比較的軽度なこともある病気です。かゆみだけでなく、全身の皮膚の状態や呼吸器症状がないかなどを観察することが早期発見のカギになります。
呼吸器の症状
肺が真菌に感染すると、肺炎などの呼吸器症状が現れます。くしゃみや鼻水などの症状から始まり、呼吸が浅く苦しそうにしていたり呼吸のたびに変な音が聞こえたりするようになります。呼吸器の症状がある場合、興奮すると呼吸がしづらくなります。受診するまでは安静に過ごせる環境を作り、症状が悪化しないように気を付けましょう。肺炎になってしまうと急激に具合が悪くなることもあるため、上記のような症状に気が付いたときには、できるだけ早めに受診するようにしてください。
円形脱毛やフケが出る
脱毛やフケによって、真菌症に気が付くことも多々あります。脱毛しやすい箇所は顔面や手足、しっぽなどで、かさぶたを伴うこともあります。抜け毛が多いなと感じたときにはごそっと毛がなくなっている部分がないか、全身くまなくチェックしてみてください。脱毛が進行すると赤くなり、ただれてしまうこともあるため、悪化する前にケアすることが大切です。
フケは、皮膚の代謝を促すために古くなった皮膚がはがれ落ちる自然な現象で、少量であれば問題はありません。しかし、過剰なフケや、フケに伴い脱毛やかゆみがあるような場合には真菌症が疑われます。
猫の真菌症の原因
猫の真菌症の原因は、主に3つあります。動物や人との接触で起こる「接触感染」、真菌が付着したものを介して感染する「間接感染」、真菌を持っている母猫から生まれることで子猫が感染する「母子感染」です。接触感染や間接感染では、真菌症の猫に触れた手でほかの猫に触れることや、真菌症の猫が使っているベッドやおもちゃを共有することでも感染が広がります。また、多頭飼いをしている場合には、1匹が感染するとほかの猫にも感染が広がることがあります。
真菌に感染している猫との接触があれば必ず感染するというわけではありませんが、ストレスの多い環境の猫や、高齢の猫、子猫など免疫力が低下している場合に感染しやすくなります。
猫の真菌症の治療方法
猫が真菌症にかかった場合には、早期に適切な治療を開始することが重要です。猫の真菌症に対する治療方法は、主に「内服薬や外用薬の使用」「シャンプーをする」「患部の毛を切る」「ストレス管理をする」の4つです。以下、ひとつずつ解説していきます。
内服薬や外用薬の使用
真菌症の症状に応じて内服薬や外用薬を使用します。真菌症には抗真菌薬が有効です。内服薬の場合は粉薬をおやつに混ぜて与えるなどで内服します。内服薬は全身に薬を届けることができますが、投薬期間が長く内臓への負担や副作用が出ることもあるため、定期的に状態をチェックしながら投与していく必要があります。
内服薬で副作用のある場合や身体に負担がある場合には外用薬での治療が有効です。外用薬での治療は、真菌に感染している箇所の毛をそって、抗真菌作用のある薬を塗ります。かゆみがあったり、塗り薬が気になってすぐになめてしまったりする場合にはエリザベスカラーを付けて対処をします。
シャンプーをする
週1~2回、抗真菌作用がある薬用シャンプーを使用して全身を洗います。ただし、早く真菌症を治したいからといって毎日洗うことはやめましょう。過度なシャンプーは猫のストレスになるだけでなく、皮膚の油分が失われて皮膚炎を起こす可能性があります。病院で処方されたシャンプーを使い、決められた頻度を守って洗うようにしてください。なかには、シャンプーを極度に嫌がる猫もいます。その場合には無理をしてシャンプーを続けると猫のストレスになってしまうため、動物病院の獣医師に相談し、外用薬などのほかの方法で治療ができないか相談してみましょう。
患部の毛を切る
長毛種の場合には、真菌が毛のなかに入り込んで治療がしづらくなるため、患部の毛を切って治療を行うことがあります。また、感染が重度の場合にも、獣医師が毛をそる処置をすすめる可能性があります。真菌は主に毛に感染するため、患部の毛を切ることで治療期間の短縮や、外用薬を浸透しやすくする効果が期待できます。
ストレス管理をする
真菌症にかかるとかゆみや治療によって猫がストレスを抱えることがあります。ストレスは免疫力の低下にもつながるため、できるだけ猫にとってストレスの少ない環境を整えることが大切です。部屋や猫が使用するグッズは清潔に保ち、好きなおもちゃを用意するなど、できるだけ猫が快適に過ごせるように配慮しましょう。抜け毛や猫が使用するベッドやおもちゃには真菌が多く付着しているため、部屋を清潔に保つことは猫のストレス緩和だけでなく真菌症の治療にも有効です。
猫の真菌症の治療期間
真菌症の治療期間は、早くても2~3週間、一般的には1ヵ月程度かかることが多くなります。内服薬は数ヵ月以上続けなければならないこともあります。見た目には治ったように見えても真菌がまだ残存していて症状がぶり返したり、長期間の薬の服用によって内臓に負担がかかったりする場合もあるため、自己判断で治療をやめたり薬を減らしたりせずに動物病院でしっかりと経過観察をしながら治療を続けることが大切です。
猫の真菌症の予防方法
真菌症の原因である真菌は、自然界のどこにでも存在しているため感染する可能性をゼロにすることはできません。しかし、できるだけ感染しないように対策をすることはできます。ここからは、真菌症の予防方法について、解説していきます。
ストレスの抑制
猫の真菌症は、真菌に触れたからといって必ず感染するわけではなく、猫の免疫力が低下している場合に感染しやすくなってしまいます。免疫力を低下させないために、普段から猫のストレスをためないようにすることが大切です。猫が隠れられるプライベート空間を作ったり、キャットタワーや猫用の爪とぎグッズを置いたりと、ストレスを感じたときに発散できる環境を用意しましょう。
ほかには、ボールや動くおもちゃで遊んであげるのも有効です。運動は猫にとってストレス解消になるだけでなく、飼い主と遊んで人や環境に慣れさせることで、家のなかを猫にとって快適な空間にすることができます。
猫はもともと縄張り意識が強く、敏感な動物であるため、突然のインターホンや掃除機など大きな音がストレスになることもあります。猫が怖がって警戒している様子があれば、猫のお気に入りのスペースやほかの部屋に連れていくなど、安心させてあげましょう。また、猫は環境の変化にも敏感です。模様替えで家具の配置ががらりと変わったときにもストレスを感じることがあります。模様替えを行うときには一気に変えずに、少しずつ家具の配置を動かす、普段使っているグッズは変えずにそのまま使用するなどの配慮をするようにしましょう。
室内を清潔に保つ
真菌はカビの一種であるため、室内を清潔に保つことも真菌症の予防に効果的です。
室内が汚れていると真菌症だけでなく、ほかの感染症の原因にもなり、猫のストレスを引き起こしてしまいます。また、人間にとってもアレルギーや病気を引き起こす原因になることもあります。こまめに抜け毛やほこりを掃除し、毎日使用するトイレやベッド、飲み水場やえさのお皿などは、きれいに洗っていつも清潔な状態を維持するようにしましょう。もし、飼っている猫が真菌症に感染してしまったときには、猫や猫が使用している物品を触った後に手を洗うことはもちろん、掃除のときに手袋を着けるなどの対策をして、感染を広げないように注意しましょう。掃除の際には、掃除機を使用すると抜け毛が舞い上がってしまうため、粘着テープや水拭きなどがおすすめです。特に、複数の猫が同じ環境を共有している場合には、より衛生管理に注意が必要です。
しかし、部屋をきれいにしたいからといって芳香剤やアロマを置くことはNGです。猫は匂いに非常に敏感であるため、人間にとってよい匂いでも猫にとっては不快な場合があります。また、皮膚に付いたり口に入れたりしてしまうことで体調不良や命を落とす事故も報告されています。猫を飼っている場合はこれらの芳香グッズは家に置かないように気を付けましょう。
猫の真菌症は人に感染する?
飼っている猫が真菌症と診断されたら、人にも感染するのか不安になりますよね。結論からいうと、猫の真菌症は人にも感染する可能性があります。猫の真菌症が人に感染するとどのような症状が出るのか、対処方法はあるのか詳しく説明していきます。
人に感染する可能性がある
皮膚糸状菌症やクリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラズマ症などの猫の真菌症は人に感染する可能性があります。皮膚糸状菌症は人に感染すると皮膚のかゆみ、フケ、脱毛、かさぶたや水ぶくれ、リングワームという円形の皮膚炎などの症状が出ることがあります。カンジダ菌は口や食道などに人間が本来持っている常在菌ですが、異常に増殖した場合に発症し、患部の赤みやかゆみ、水ぶくれなどが見られます。ヒストプラズマ症は日本での感染例は少なく、感染しても無症状や風邪症状のみで自然治癒することも多いのですが、抵抗力の弱い子どもや高齢者、持病のある方などが重症化すると呼吸不全などを起こすことがあるため注意が必要です。
人に感染した場合の対処方法
真菌症を疑われる症状が現れた場合は、早めに病院を受診するようにしましょう。皮膚に症状がある場合は抗真菌薬の塗り薬や場合によっては内服薬を使用して治療を行います。感染してしまうと治療にも時間がかかり、周囲に感染を広げる可能性もあるためできるだけ感染予防をすることが大切です。猫を飼っている場合は、こまめに掃除をして室内を清潔に維持することが大切です。また、真菌症の疑いで皮膚科などを受診する場合は、医師に動物を飼育していること、またその動物が真菌症と診断され治療していることを伝えるようにしましょう。真菌症は猫だけでなく、犬やウサギなどほかの動物からも感染します。むやみに動物と接触することを避け、動物を触った後には必ず手を洗うことを徹底しましょう。
編集部まとめ
猫の真菌症は種類が多く、症状もさまざまですが、猫が身体をかゆがっている、なんだか呼吸がしんどそうなど、いつもと違う様子があれば早めに動物病院を受診しましょう。早期に治療を開始することで治療期間を短縮できます。
また、猫の真菌症は人にも感染する病気であり、抵抗力や皮膚の弱い子どもや高齢者がかかると症状が悪化したり治療が長引いたりすることもあります。手洗いや掃除などを徹底し、感染しないように気を付けましょう。