犬パルボウイルス感染症とは?その症状やリスク、そのほかの感染症まで幅広く解説

犬パルボウイルス感染症とは?その症状やリスク、そのほかの感染症まで幅広く解説

ペットを飼うにあたって、飼い主の重要な役割のひとつにペットの健康管理があります。犬パルボウイルス感染症は人には感染しませんが、犬にとっては重篤な病気です。この記事では、犬パルボウイルス感染症について、症状や感染経路、かかりやすい年齢やリスクなどを詳しく解説します。また、そのほかの注意するべき感染症についても紹介します。大切な家族である犬の健康を守るために、ぜひ参考にしてください。

犬パルボウイルス感染症について

犬パルボウイルス感染症について

犬パルボウイルス感染症は犬にとって深刻な病気であり、犬アデノウイルス感染症、犬ジステンパーウイルス感染症と共に、予防が特に重要です。ここでは、犬パルボウイルス感染症の特徴や感染経路、かかりやすい年齢やリスクについて詳しく解説します。

犬パルボウイルスとは

犬パルボウイルスは、犬に感染するウイルスであり、主な感染部位は消化器粘膜、骨髄、心筋です。感染力が非常に強く病原性も高く、数ヵ月以上生存できるといわれています。そのため、感染すると重篤な症状を引き起こすことがあるのです。

症状は感染して2日後くらいに普段の元気がなくなり、激しい嘔(おう)吐、下痢、血便、食欲不振が見られ、発熱や腸重積をともなうケースもあります。感染後、およそ5~7日で免疫ができるため、軽度の場合はそのまま自然に回復していきます。

症状が中等度の場合は病院で対症療法、輸液による補助療法を行って3~5日で回復しますが、なかには下痢や嘔吐が続いて死亡してしまうこともある深刻な病気です。

犬パルボウイルスの感染経路

犬パルボウイルスは、感染した犬の排泄(せつ)物や体液を介して感染します。感染した犬が糞(ふん)便や尿を排泄した場所や、口や鼻などの粘膜を介してほかの犬に接触することで感染が広がるのです。また、犬パルボウイルスは数ヵ月以上生存できるため、汚染された環境や水、食物を介して感染が起こることがあります。

犬パルボウイルスにかかりやすい年齢

犬パルボウイルス感染症にかかりやすいのは、若い犬やワクチンを接種していない子犬です。特にワクチンを打っていない子犬は免疫や抗体が未発達のため、感染リスクが高く、重症化しやすい傾向があります。子犬に多い過急性感染では、発症後1日程度で死亡してしまうこともあるのです。生後8週齢未満で感染した子犬は心臓までウイルスが感染し、心筋炎を併発することもあります。

一方、成犬でも感染する可能性はありますが、通常は軽症化しやすく、重篤な症状になることは比較的少ない傾向です。

犬パルボウイルスの感染率と死亡率

犬パルボウイルスは感染率が高く、感染した犬がほかの犬に容易にウイルスを広めることが可能です。報告によると、感染した犬全体のうち発病するのは20%以下で、死亡率は1~5%以下といわれています。特に免疫が未発達の子犬や免疫が弱い犬は、早期に治療が行われない場合に合併症を発症しやすく、最悪の場合、死亡してしまうこともあるのです。

犬パルボウイルス感染症の症状

犬パルボウイルス感染症の症状

犬パルボウイルス感染症は、消化器症状から免疫機能の低下、心臓の影響に至るまで、さまざまな症状が現れます。ここでは、その症状について詳しく見ていきます。

消化器症状

犬パルボウイルス感染症の初期症状のひとつとして、嘔吐や下痢などの消化器症状が顕著に現れます。初めは水様の下痢から始まり、進行するとしばしば血便が見られることもあります。これらの症状が続いて犬が摂取した水分や栄養が失われると、脱水状態に陥るリスクが高まるのです。重篤な脱水状態は犬の生命に直接関わる危険性があるため、消化器症状が現れた場合は速やかな治療と適切なケアが重要です。

白血球の減少

犬パルボウイルス感染症において、白血球数の減少は重要な兆候のひとつです。白血球は、免疫系の中核となる細胞であり、体内の病原体と戦う役割を果たしています。犬がパルボウイルスに感染すると、ウイルスが白血球を攻撃し、白血球数を減少させます。その結果、犬の免疫機能が低下し、ほかの細菌やウイルスによる二次感染が発生しやすくなるのです。これにより、体全体にさまざまな感染症が広がり、重篤な合併症を引き起こす可能性が高くなります。

心筋炎

犬パルボウイルス感染症が重症化すると心筋炎を引き起こすことがあります。これは生後2~9週齢の子犬に見られるものです。心筋炎とは、心臓の筋肉である心筋が炎症を起こす状態を指します。この炎症によって、心臓のポンプ機能が低下し、血液を十分に体内に循環させることができなくなってしまうのです。

心筋炎が進行すると、心臓の収縮力や拡張力が低下し、血液が体内へ行き届かなくなります。その結果、体の各組織や臓器に酸素や栄養素が適切に供給されなくなるのです。それにより、不整脈や心不全などの合併症が生じるリスクがあります。さらに、心臓のポンプ機能の低下が進むと、最終的にはショック状態に至ってしまいます。

犬パルボウイルスの診断と治療

犬パルボウイルスの診断と治療

犬パルボウイルス感染症は、感染力が強く重篤な病気であるため、犬の健康を守るために早期の治療が必要です。では、医療機関ではどのような検査をするのでしょうか。ここでは診断や治療の方法を解説します。

犬パルボウイルスの診断

犬パルボウイルス感染症の診断には、臨床症状の観察、血液検査、糞便によるウイルス学的検査、エコー検査などを行います。

臨床症状の観察では発熱や嘔吐、下痢、血便などの全身状態を把握し、自宅での様子を飼い主に確認します。血液検査では、白血球数の低下やそのほかの全身状態を見て、犬の状態を総合的に判断します。また、キットを使用し、犬パルボウイルスの抗原や遺伝子が検出できるかどうか糞便検査を行うのです。さらに、エコー検査では腸重積を合併していないか確認します。

犬パルボウイルスの治療法

犬パルボウイルス感染症は、内科的な治療が主体です。症状の軽減と免疫システムの回復を目的として、対症療法や輸液療法、抗生物質の投与、そして必要に応じての入院治療による綿密な医療管理が行われます。また、ほかの感染症と同様に、感染した犬を速やかに隔離し、徹底した消毒での衛生管理が必要です。

抗ウイルス薬の投与

ウイルスの増殖を抑制するために、抗ウイルス薬が使用されます。ウイルスに直接作用し、体内のウイルス量を制御することで回復を促すのです。

対症療法

犬パルボウイルスの治療は、胃腸を休ませるため、投薬は点滴で行うのが基本です。嘔吐による脱水や栄養不良を防ぐ目的で、吐き気止めを投与します。また、下痢に対しては整腸剤、腹痛に対して痛み止めを使用します。 

輸液療法

嘔吐や下痢で水分や電解質が失われるため、点滴で水分と栄養を入れ、体内の水分と電解質のバランスを維持します。脱水症状の予防にもなるのです。

抗生物質の投与

犬パルボウイルス感染症は、しばしば二次感染を引き起こす可能性があります。そのため、細菌感染による悪化を防ぐことを目的に抗生物質が投与されます。

食事療法

嘔吐や下痢の症状が改善してきたら、消化の良い食事を開始し、犬自身の免疫力を高めます。

犬パルボウイルスの予防やリスク

犬パルボウイルスの予防やリスク

犬パルボウイルス感染症の予防は、犬の健康を守るために非常に重要です。清潔な飼育環境の管理を行った上で、ほかにどのような予防方法が有効なのでしょうか? ワクチン接種やリスクの管理など、予防策について詳しく見ていきましょう。

ワクチン接種を受ける

犬パルボウイルス感染症を予防する最も効果的な方法は、ワクチン接種です。子犬期から定期的にワクチンを接種することで、犬の免疫系を活性化させ、感染症に対する防御力を高めることが可能です。ワクチンは、一般的にパルボウイルスを含む混合ワクチンが使用されます。一度のワクチン接種では効果がなくなってしまうため、追加の接種が必要です。獣医師の指示に従い、適切なタイミングでワクチン接種を行いましょう。

ワクチン接種が効かないケース

ワクチン接種をしていても、まれに犬パルボウイルスに感染してしまうケースがあります。これはいくつかの要因によるものです。

免疫の弱い状態

犬の免疫系が弱い場合、ワクチンの効果が十分に得られないことがあります。例えば、病気やストレス、栄養不良などが免疫機能を低下させる要因となります。

ワクチンの接種が不十分な場合

ワクチン接種のスケジュールを守らなかったり、適切なタイミングでの追加接種を怠ったりすると、免疫が適切に形成されません。それによって感染症に対する防御力が不十分になります。まれに、ワクチン接種前に感染が起こってしまうこともあります。

母犬の免疫の影響

母犬が高い免疫を持っている場合、子犬は母乳から母犬の抗体を受け取ります。その結果、ワクチンを接種しても子犬の体内に十分な抗体ができず、ワクチンの効果が得られません。母犬由来の抗体が存在する間は、ワクチンの効果が制限されるのです。抗体が自然に減少するまで、子犬はワクチン接種による免疫を十分に得ることができないため、免疫のない状態になってしまう可能性があります。

新しいウイルス株の出現

パルボウイルスは変異しやすいウイルスですので、新しいウイルス株が出現することがあります。この場合、既存のワクチンが新しい株に対して効果を発揮しない可能性があるのです。

そのほかの犬の感染症の例

そのほかの犬の感染症の例

犬も人間と同様、さまざまな感染症にかかるリスクがあります。ここでは、犬のメジャーな感染症として犬ジステンパー、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス感染症、犬コロナウイルスについて紹介します。

犬ジステンパー

犬ジステンパーウイルスの感染により、呼吸器症状、消化器症状、中枢神経症状を引き起こす病気です。ウイルスの生存期間が長いため、感染してしまうと3ヵ月間の隔離が必要です。人にはうつりませんが、子犬の死亡率が高く、ワクチン接種による予防が重要になります。

犬伝染性感染症

犬伝染性肝炎は、犬アデノウイルス1型が原因となって、肝炎を主とした症状が現れる感染症です。発熱や鼻水だけで症状が済む場合もありますが、急激に悪化が進んだり症状が重かったりする場合には、突然死することもあります。特に致死率が高いのは、1歳未満の子犬です。感染した犬の口や鼻からの分泌物、便や尿などの排泄物を介して感染しますが、近年はワクチンが普及したことによって発症は少なくなってきています。

ただし、肝炎以外にもさまざまな症状が現れ、嘔吐や下痢、腹痛などの消化器症状や、目が青みがかって見える角膜浮腫が起こることもあるのです。このウイルスに対する治療薬はないため、症状にあわせて吐き気止め、胃薬、脱水予防の点滴などの対症療法を行います。また、治療後に慢性肝炎となった場合には、長期間の治療が必要です。

犬アデノウイルス感染症

犬アデノウイルス感染症は、犬アデノウイルス2型による犬伝染性喉頭気管炎のことを指します。発熱、咳、鼻水、下痢などの症状が現れますが、肝炎は引き起こさず、このウイルス単独の感染で症状は重篤化することはありません。感染経路は主に口や鼻からの侵入で、犬が密に飼育されているペットショップやペットホテルなどで感染します。

治療は対症療法がメインで、二次感染を起こさないように抗生剤の投与なども行われます。ほかの細菌やウイルスなどの二次感染が起こると重症化し肺炎になる可能性があるため、それを予防するためです。

犬コロナウイルス

犬コロナウイルスは、犬の消化器系に感染するウイルスです。一般的に下痢や嘔吐などの症状が出ますが、ほとんどの場合軽度から中程度の症状にとどまります。感染していても、症状が出ないことも少なくありません。しかし、その中でも子犬は重症化しやすい傾向があるため注意が必要です。

編集部まとめ

編集部まとめ

犬パルボウイルス感染症は、犬にとって深刻な症状をもたらす病気ですが、ワクチン接種を行い清潔な環境で飼育することで、感染を予防することが可能です。感染拡大を防ぐためには感染した犬との接触を避けることも忘れてはいけません。症状が現れたら専門の医療機関を受診し早期の診断と治療を行うことが重要です。ほかの感染症もワクチン接種で予防できることがあるため、大切なペットの健康を守るために、定期的な健康管理を行っていきましょう。