猫がかかるトリコモナス症とは?症状や感染経路、治療法について解説

猫がかかるトリコモナス症とは?症状や感染経路、治療法について解説

猫の健康を維持することは、飼い主にとって重要な役割です。もし、子猫や老猫の下痢症状が続いている場合、トリコモナス症の感染が疑われるかもしれません。トリコモナス症はトリコモナス原虫という寄生虫が猫の小腸や大腸に感染して起こる感染率の高い病気です。本記事ではトリコモナス症の概要や症状、感染経路、検査方法、予防法、そして治療法について詳しく解説します。大切な家族の一員である猫の健康を守るため、トリコモナス症に関する知識を深めていきましょう。

猫のトリコモナス症について

猫のトリコモナス症とはどのような病気でしょうか?
トリコモナス症とはトリコモナス原虫と呼ばれる寄生虫により、下痢症状を引き起こす感染症です。生後1歳未満の子猫や老猫でかかりやすく、成猫でも症状が出ずに感染していることがあります。
トリコモナス症にかかるとどのような症状が現れますか?
トリコモナス症に感染すると大腸炎を起こし、水様便や血混じりの便、粘液便といった便の異常がみられます。ときには悪臭のある下痢便がみられるケースもあり、下痢症状はよくなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。また、下痢が原因での脱水や活力の低下、食欲低下なども起こり得ます。2ヵ月から2年で自然に治るとされていますが、症状がないもしくは症状が少ない状態で病原体を排出し続ける、慢性感染を患っている猫もいるため注意が必要です。
トリコモナス症にかかりやすい猫の特徴を教えてください
トリコモナス症の原因であるトリコモナス原虫は、生後1年に満たない子猫からやや多く検出されます。子猫の時期はまだ免疫状態が不安定なため、病原体を防ぐ力が弱く、感染して下痢症状などを発症しやすいとされています。老猫でも感染リスクは高く、子猫と同様に重症化につながる可能性があるので注意が必要です。また、成猫でも免疫力が低下していると発症する可能性はあります。ほかにも、雑種猫より純血種の方が感染率は高いという報告がされています。

猫がトリコモナス症に感染する経路

猫がトリコモナス症に感染する経路
トリコモナス症はどこから感染しますか?
主な感染経路はトリコモナス原虫に汚染されている糞便を口にしてしまう経口感染です。汚染された糞便を踏んだ足や毛などを舐めてしまうことで感染します。特に、子猫などの若齢時に繁殖場や保護施設などの多頭飼育を行っている環境化で感染しやすいことがわかっています。また、無症状の猫もキャリア(病原体保菌者)となり、ほかの猫に感染させてしまう恐れがあります。
トリコモナス原虫について教えてください
トリコモナス原虫には多数種類があり、猫が感染しやすいトリコモナス原虫はトリコモナスフィータスと呼ばれる寄生虫の一種です。小腸や大腸で増殖し、一部が糞便とともに排泄されます。長い毛をもち、毛を動かすことにより腸の中を動き回るのが特徴です。サイズは細菌より大きいですが、顕微鏡を使わないと見えない大きさです。乾燥には弱い寄生虫ですが、湿潤状態では体外でも5日間程生存します。
トリコモナス症を予防する方法はありますか?
トリコモナス症は若齢時の多頭飼育を行っている環境で感染しやすい病気です。感染している猫の糞便が口に入ることで感染してしまうため、免疫力の弱い若齢時は糞便の扱いに注意する必要があります。若齢時はほかの猫と接触させないよう個別飼いを意識することや、感染している可能性のある猫と接触させないことが有効な予防法です。個別飼いをしている猫でも、外に出て外猫との接触で感染する場合もありますので、予防のためには室内飼育を徹底するようにしましょう。

ほかにも、排泄をしたらすぐに片付け、清潔な環境を保つことも予防につながります。猫を数匹飼っている場合、トイレの共有でも感染リスクが高まるため、トイレを分けて排泄させる必要もあるでしょう。次亜塩素酸ナトリウムやクレゾール石鹸を使用すると増殖が抑えられることがわかっています。次亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤を使用し、ケージなど猫が使用する箇所を消毒して予防に努めましょう。新しい猫を迎える際は、検便を行い感染していないかの確認を行うことも、感染のリスクを下げるのに効果的です。

猫のトリコモナス症の検査と治療

猫のトリコモナス症の検査と治療
猫のトリコモナス症の検査はどのように行いますか?
トリコモナス症の検査は、直接糞便顕微鏡検査やPCR検査が実施されます。
 直接糞便顕微鏡検査では新鮮な便を採取し、生理食塩水で希釈して顕微鏡にてトリコモナス原虫の有無を観察します。トリコモナス原虫は洋梨のような形をしていて、くるくると回る活発な動きが特徴です。ただし、直接糞便顕微鏡検査の検出率は決して高くなく、トリコモナス原虫がいても採取できない可能性があります。また、排泄後に時間が経過していると、検査をしても見つからないことがあり、お尻から直接採取した便でも検出率は10〜20%とされています。

そのため、検出率が高いPCR検査を行う場合があります。PCR検査は病原体の遺伝子を検出する検査です。顕微鏡では見つけにくいトリコモナスやジアルジアなどの寄生虫やサルモネラ菌、カンピロバクターといった下痢を起こしやすい細菌の検出が可能となります。ただし、すぐに結果が出るものではなく、病原体の検出には数日かかります。また費用も1万〜1万5000円程度かかるので、下痢が長期化し、感染症の有無を確定させるときに有効な検査として行われます。
トリコモナス症の治療法を教えてください
トリコモナス症の治療は薬剤が中心となり、主にロニタゾールやメトロニダゾールといった抗原虫薬が使われます。現在トリコモナス原虫に有効な薬剤はロニダゾールのみとされていますが、それでも完全駆除の割合は60%程度です。また、ロニダゾールは日本で認可されておらず価格も高いため、メトロニダゾールを使用する場合があります。メトロニダゾールは効果がないとも言われていますが、メトロニダゾールで下痢の症状が緩和されることも少なくありません。

トリコモナス症は完治が難しく、抗原虫薬を使用しても完全に駆除することは困難です。症状が出ない状態まで落ち着いたとしても、腸内に残存している可能性があります。また、重症化した場合は点滴や服薬を実施することもあります。そのため、猫の免疫が十分になり、感染していても症状がみられなくなるまでの間、投薬を続ける必要があるでしょう。
トリコモナス症は、自然に治癒することはありますか?
トリコモナス症は2ヵ月〜2年で自然に治癒することがありますが、症状が改善しても再発する可能性は少なくありません。また、治癒後に症状がなくても、排泄物のなかには病原体がいる可能性もあり、多頭飼いをしている場合はほかの猫に感染する恐れがあります。

編集部まとめ

トリコモナス症は子猫や老猫、免疫が低下している猫にかかりやすい病気です。下痢や血便などの症状が特徴で、経口感染によって感染する傾向があります。また、無症状のキャリアも存在し、ほかの猫にうつしてしまう危険性があるので注意が必要です。薬での完治は困難とされていますが、感染している猫を隔離する、飼育環境を清潔に保つなどで予防が可能です。もし愛猫に気になる下痢症状がみられたら、放置せず早急に動物病院を受診しましょう。

参考文献