狂犬病は、犬という言葉が入っていますが、決して犬だけがかかる病気ではありません。猫はもちろん人間に感染することもあり、日本では2020年にフィリピンからの入国者に狂犬病輸入例があります。1957年以降、日本での発生はありませんが、狂犬病は発症すると100%死に至る危険な病気です。猫の狂犬病とはどのようなものなのでしょうか。原因や予防策とともに猫の狂犬病について解説します。
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猫と狂犬病の関係性
狂犬病は、狂犬病ウイルスによって感染する感染症です。犬をはじめ、猫、キツネ、アライグマなど、すべての哺乳類動物が罹患する可能性があります。猫の狂犬病例はあるのか、また原因や症状はどのようなものなのかを解説します。
- 猫も狂犬病になりますか?
- 猫も狂犬病になる可能性があります。日本においても猫が狂犬病に感染した例が確認されています。日本では動物の狂犬病が最後に発生したのは1957年でしたが、この発生例は猫だったと記録されています。
また、2011年5月にアメリカカリフォルニア州の女児が狂犬病に罹患した例があります。患者さんは狂犬病ワクチンを受けていない複数の猫と接触したため、猫による狂犬病感染が疑われました。結果的に接触した猫に狂犬病は確認されませんでしたが、カリフォルニア州の同郡では2008年にも狂犬病の猫の存在が報告されています。
2010年はアメリカにおいて303例の猫の狂犬病が報告されました。なお、1960年以降の人間に感染した狂犬病のうち、2件は猫に関連していると考えられています。
- 猫の狂犬病の原因とはなんですか?
- すべての哺乳類において、狂犬病の原因となるのは狂犬病ウイルスです。
狂犬病は、狂犬病ウイルスを持つ動物に噛まれることで、体内に狂犬病ウイルスが侵入して感染します。犬や猫のほかにも、野生のキツネ、アライグマ、コウモリ、スカンク、マングースが主な感染動物です。
- 猫の狂犬病の感染経路について教えてください。
- 猫の狂犬病の原因は、狂犬病ウイルスを持つ動物からの感染です。狂犬病にかかった動物に噛まれると、噛まれた部分から狂犬病ウイルスが体内に侵入します。ウイルスは罹患した動物の唾液に含まれています。
なお、蚊に刺されることでの感染や、唾液や咳などの飛沫からは感染しません。
- 猫の狂犬病にはどのような症状がありますか?
- 猫の狂犬病は、狂騒型と沈鬱型の2タイプがあり、多くの場合が狂騒型に分類されます。狂騒型は噛みついたり騒いだりする行動をとり、沈鬱型は逆におとなしくなる傾向にあります。
・前駆期
狂犬病発症から1日程度の初期段階の前駆期には、性格の変化が現れます。普段はおとなしい猫が人を噛むようになったり、あまり懐かない猫がすり寄ってきたりなど、いつもと異なる行動が見られます。また、暗い所に隠れるなど鬱のような症状や、ずっと歩き続けるなどの異常行動、食欲不振などが見られます。
・狂騒期
発症から2~4日程度の狂騒期には、攻撃性が高まります。周りの物すべてに噛みつく、ずっと動き回る、鳴き続ける、眠らないなどの異常行動が見られます。猫の場合はお口から大量のよだれを流すのも特徴です。瞳孔が開く、発熱、軽度の麻痺といった症状が起きることもあります。
・麻痺期
発症から3~4日以降の麻痺期になると、嚥下麻痺によって物が飲み込めなくなるため、お口からよだれが垂れ流しになります。食べ物を食べることもできません。距離感がつかめなくなり筋肉の痙攣なども生じて、まともに歩くこともできなくなります。
麻痺が全身へと進行して、呼吸不全や全身衰弱によって死に至ります。多くの場合は発症から4~5日程度の余命といわれており、7~10日以内にはほぼ100%が死亡します。
猫の狂犬病と人間の関係性
狂犬病が犬から人間にうつることがあるように、猫も人間にうつすことはあるのでしょうか。猫の狂犬病と人間の関係性について解説します。
- 猫から人間に感染することもありますか?
- 猫から人間に感染する可能性も十分あります。犬やほかの動物と同様に、狂犬病にかかった猫に噛まれたり傷口を舐められたりすると、狂犬病ウイルスを含む唾液を介して人間に感染します。特に狂犬病が発生している国に渡航する際には、犬だけではなく猫からの感染にも注意する必要があります。
- 人間が感染した場合どうなるか教えてください。
- 人間の体内に狂犬病ウイルスが侵入すると、脳などへの中枢神経へと至り増殖し、症状が出ます。潜伏期間は1ヵ月~3ヵ月くらいです。
症状としては、強い不安感、一時的な錯乱、恐水症、恐風症、高熱、麻痺、嚥下困難、運動失調、全身痙攣などが起きます。その後、呼吸障害や昏睡などの症状が見られ、死に至ります。
なお、呼吸麻痺に対する措置に人工心肺などを用いた例では、発症したが生存できたという事例が過去に6例程報告されています。ただし、これらは大変まれな事例であるため、狂犬病の致死率としてはほぼ100%といえるでしょう。世界では年間約55000人が狂犬病によって命を落としています。
猫の狂犬病の治療法と予防法
狂犬病は致死率100%の危険な病気ですが、治療法や予防法はあるのでしょうか。狂犬病を防ぐ方法や注意すべきことについて解説します。
- 猫の狂犬病には治療法はありますか?
- 猫に限らず、狂犬病は100%死に至るため治療法は確立されていません。
狂犬病にかかってしまってから治療を行う場合は、痛みの緩和や痙攣を抑えるなどの対症療法が基本になります。場合によっては、さらなる感染を防ぐために安楽死が選択されることもあります。
ただし、狂犬病にかかっている可能性がある動物に噛まれてから発症するまでの間に、暴露後ワクチンを複数回接種することで、発症を防ぐ効果があるといわれています。
- 狂犬病ワクチンは猫にも有効ですか?
- 狂犬病ワクチンは猫にも有効な予防方法です。ワクチンを接種すれば、仮に狂犬病にかかっている動物から噛まれたとしても、ワクチン接種済みの猫が狂犬病を発症することはないと言われています。
- 猫が狂犬病にならないようための予防法を教えてください
- 日本国内では、猫を含む動物や人間の発生はありませんが、海外ではたくさんの国で狂犬病が発生しています。猫と一緒に海外渡航する際には、野良猫や野生生物に近づけないようにしましょう。
猫の狂犬病予防法は、ワクチン以外にはありません。海外渡航時や帰国時に、猫の狂犬病ワクチンが義務付けられることもあります。特に海外に猫を連れていく場合には、積極的にワクチン接種を検討しましょう。
- 狂犬病にかからないためにヒトが注意すべきことはありますか?
- 日本や英国などの一部の国を除き、狂犬病は世界中の国で発生しています。海外に行った際には、むやみに動物に近づかないことが大切です。かわいい野良猫であっても狂犬病にかかっているかもしれません。万が一動物に噛まれた場合は、すぐに現地の医療機関を受診し、傷の手当をして、暴露後ワクチンを接種しましょう。また、帰国したら検疫所に相談しましょう。
また、海外渡航の際には人間向けの狂犬病予防接種を受けることもおすすめです。暴露前予防接種によって、狂犬病感染リスクは大幅に減らせます。特に狂犬病リスクが高い国へ渡航する場合には、接種を検討しましょう。
編集部まとめ
狂犬病は犬に限らず、猫や人間にもうつる可能性があります。日本でも過去に猫が狂犬病にかかった例が報告されています。狂犬病にかかった猫は全駆期、狂騒期、麻痺期と症状が進行し、4~5日程度で死に至ります。発症後の治療方法はありません。狂犬病を防ぐ方法は、海外の動物にむやみに触らないことと、予防のためのワクチン接種です。特に海外渡航をする際には、猫も人間も狂犬病予防のワクチンを接種することをおすすめします。