人間と同じように犬も脳梗塞になることがあります。脳梗塞を発症すると、突然症状が現れるため、早期発見・早期治療が飼い主さんに求められています。
では、犬が脳梗塞を発症したときにはどのような症状がみられるのでしょうか。本記事では犬の脳梗塞について・原因・症状・治療法やなりやすい犬種を解説します。
すでに愛犬の様子が気になっている飼い主さんは、ぜひ一読いただけると幸いです。
犬の脳梗塞とは
犬の脳梗塞は、人間の脳梗塞と同じように脳の血流が何らかの原因によって遮断されることで発生する深刻な病気です。
血流が遮断されると、脳の一部に酸素や栄養素が届かなくなり、細胞がダメージを受けることで症状が現れます。
脳に供給されるはずの血液が不足すると、神経機能に重大な悪影響をもたらし、犬の運動能力や感覚に障害を引き起こすことがあります。犬の脳梗塞が発生する部位のほとんどは小脳です。次いで大脳中部とされています。
血流が遮断される前触れがみられることは少なく、突然症状が現れることが特徴です。発見や治療が遅れると神経障害が回復しにくくなる危険性があります。
これまでは人間が脳梗塞を発症することに比べると、犬は発症しにくいとされていました。しかし、近年の獣医療の発展により、高頻度で脳梗塞と診断される犬の数が増えてきています。
脳血管はMRIで検査を行いますが、犬の血管が細いためすべての脳血管を確認できないこともあります。早期発見が難しく、治療が遅れないよう注意が必要です。
犬が脳梗塞にかかったときの症状
さっそく、犬が脳梗塞にかかったときの症状をいくつか解説します。代表的な症状は以下の5つです。
- ふらつく
- 歩行ができない
- 刺激への反応が鈍くなる
- 目が揺れる
- 首が傾げたままになっている
犬が脳梗塞を発症した場合の症状は、脳のどの部分がダメージを受けたかによって異なります。では、それぞれ詳しくみていきましょう。
ふらつく
犬が脳梗塞を起こすと、歩行時にふらつく運動機能障害が現れます。真っ直ぐ歩けなかったり、よく転ぶようになってしまったりといったことが増える傾向にあります。
これは血流が遮断されたことによって、小脳のバランスを司る部位に何かしらの影響を受けているためです。
ふらつく以外にも、急に足を引きずるように歩いたり急に倒れたりすることもあります。これらの症状を確認した場合には、速やかに動物病院を受診しましょう。
歩行ができない
ふらつく症状から脳梗塞が進行すると、犬は歩行できなくなる危険性があります。
歩行ができないこと以前に、足を動かせない・立ち上がれないといった状態になることがほとんどです。
脳の運動機能を司る部位が血流の遮断によって損傷し、体の指令が適切に伝わらない状態になっていることが考えられます。
刺激への反応が鈍くなる
犬が周囲の刺激に対する反応が鈍くなっている場合には、脳梗塞が関係しているかもしれません。
シニア犬にもみられる反応ですが、急に音や視覚的な刺激を無視することが増えたと感じた場合は注意が必要です。
脳が正常に機能しておらず、感覚処理能力が低下している可能性が高いため、まずは獣医師に相談することをおすすめします。
目が揺れる
脳梗塞が疑われる症状のなかには、目が揺れるいわゆる眼振があります。目が揺れる症状は、脳梗塞の典型的な症状の1つです。
目がリズムよく不規則に揺れる現象が現れます。これは脳の平衡感覚や視覚を司る部位が損傷すると現れるものです。
目を頻繁に動かしている・視線を合わせることが難しくなったと感じたら、脳梗塞を疑いましょう。
首が傾げたままになっている
脳梗塞を発症すると、犬の首が一定の方向に傾いたままになることがあります。首が傾げたままになっている症状も、脳梗塞によって脳のバランスを司る部位が損傷し、平衡感覚を失うことで起こるものです。
この申し訳なさそうに首を傾げる症状は、座っている状態や歩いている状態でよく現れます。また、片側に集中して症状が現れ、そのまま動かなくなることが特徴です。これまでに挙げた症状以外にも、さまざまな症状が現れることがあります。
- うつ状態
- 体が震える
- 同じ場所でグルグルと回転する
- 片側不全麻痺
- 嗅覚麻痺
- 四肢の麻痺
- 嘔吐
犬は人間と違って、言葉によるコミュニケーションが難しいです。そのため、人間の脳梗塞で現れる言語障害や手足のしびれといった症状はほとんど認識できません。
飼い主さんは常日頃から愛犬の行動や習性をよく観察して、異変にいち早く気付けるようにしておくことが求められます。愛犬の普段の動作と違うと感じたら、速やかに動物病院を受診しましょう。
犬が脳梗塞になる原因
ここからは犬が脳梗塞になる原因を解説します。主な原因とされているのは、以下のとおりです。
- 高血圧
- 心疾患や不整脈
- 遺伝的要因
では、上記の3つをそれぞれ詳しくお伝えしていきます。
高血圧
高血圧は、犬の脳梗塞の原因の1つと考えられています。犬の脳梗塞につながるはっきりとした原因は、いまだ解明されていません。
しかし、これまで脳梗塞を発症した犬を調査したところ、血中コレステロール値が上昇していたことが判明しています。
高血圧によって血管が過度に圧迫されると、血管壁が弱まって血液が正常に流れにくくなり、血栓が発生しやすくなったり血管が詰まったりして脳梗塞を引き起こすことにつながります。
特に以下の状態に該当する犬は高血圧を発症するリスクが高いため、注意が必要です。
- 肥満
- ストレス
- 腎臓疾患
犬も人間と同じで、肥満やストレスが大きな病気につながります。愛犬の居住区の管理や健康管理を怠らないように留意しましょう。
心疾患や不整脈
脳梗塞の原因には、心疾患や不整脈が影響していると考えられています。心疾患や不整脈は心臓のポンプ機能が低下し、血流が滞る病気です。
血流が滞ると、脳に十分な血液が供給されなくなります。その結果、血栓が発生して脳の血管を詰まらせるリスクが高まります。
遺伝的要因
遺伝的要因も脳梗塞を発症する原因の1つです。特定の犬種は脳血管疾患にかかりやすい傾向があることもわかっています。脳血管疾患にかかりやすい犬種は以下のとおりです。
- チワワ
- パグ
- ダックスフンド
- ミニチュアシュナウザー
- キャバリア
上記の犬種は、遺伝的に脳の血管構造が弱いと考えられています。また、椎間板ヘルニアにもなりやすい犬種とされており、脳梗塞以外にも神経疾患の発症リスクが高いといった共通点があります。
遺伝的に脳梗塞を発症しやすいというだけで、健康体のまま一生を過ごす個体も存在するため、あくまでも可能性がある程度だと留意しましょう。家系や犬種ごとの発症リスクを意識して、定期的な検診を受けることが重要です。
脳梗塞による治療法
「もし愛犬が脳梗塞を発症したら……」と不安を感じている飼い主さんもいらっしゃるでしょう。脳梗塞は早期発見・早期治療が求められる病気です。
脳梗塞に対する治療法は、症状や発症のタイミングによって異なりますが、一般的な脳梗塞の治療法についても解説します。
利尿剤などの対処療法
利尿剤などの対処療法は、脳梗塞の発症が認められた場合の始めに行われる治療法です。脳のむくみを軽減することを目的に、利尿剤が使用されます。
脳がむくみによって腫れることを防ぎ、神経への圧迫を軽減するためのものです。さらに、血液をさらさらにして脳に十分な血流を促すために、薬物療法が併用されることもあります。
血流を正常に保つためだけでなく、血栓の形成を予防する目的もあると留意しましょう。ほかにも、症状の状況に応じて適用される対処療法には以下のものがあります。
- 低酸素を改善するための酸素吸入
- 循環血流量改善のための輸液療法
これらの対処療法を実施する際には、獣医師から説明があります。治療スケジュールについてはその都度、獣医師と相談しましょう。
神経機能回復のためにリハビリ療法
脳梗塞を発症すると、神経機能に障害が残ることもあります。そのため、リハビリ療法は犬の予後を良好にするうえで重要な治療法です。リハビリ療法には、以下のような種類があります。
- 物理療法
- 運動療法
- 理学療法
- 温熱療法
- マッサージ
上記のリハビリ療法を、犬の状況に応じてトレーニングする必要があります。リハビリ療法は筋肉の衰えを防ぎ、神経の再生を促進することが目的です。
時間を要する治療法ですが、犬が日常生活を取り戻すために飼い主さんの協力が必要となります。またリハビリ療法以外にも、体重管理・適切な運動・ストレス管理を行うことが大切です。
脳梗塞を発症すると、犬が自ら運動することは難しいでしょう。飼い主さんが愛犬にマッサージをしてあげたり、お風呂で四肢をゆっくり動かしてあげたりすることが効果的です。身体を動かせば肥満のリスクを軽減できます。
さらにストレスは病気を悪化させることもあるため、静かな環境を整えたりストレス発散になる遊びを取り入れたりするようにしましょう。犬が歩いてお散歩することが難しくても、定期的にお外に連れていってあげることもストレス緩和に有効な手段です。
脳梗塞になりやすい犬種や状態
犬が脳梗塞を発症する遺伝的要因でも触れていますが、犬種や犬の状態によっては脳梗塞のリスクが高い場合があります。
ここでは、もう少し深掘りして解説します。
ミニチュアシュナウザー
ミニチュアシュナウザーは脳梗塞を発症しやすい犬種とされています。特にシニア期に入ると、もともとの血管が脆弱なため、脳への血流不良が起こりやすくなります。
シニア期でなくても、脳梗塞を発症する可能性は否定できません。すべてのミニチュアシュナウザーが発症するわけではなく、個体差はもちろんありますが、飼い主さんは定期的な健康診断を受けることに留意しましょう。
キャバリア
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルも、脳梗塞にかかりやすい犬種として挙げられます。心疾患や脳血管障害を発症するリスクが高いとされている犬種です。
そのため、定期的な血圧測定や心臓の状態チェックが必須になります。
シニア犬
犬も人間と同じように、年齢を重ねるごとに血管や心臓に負担がかかりやすくなります。
特に遺伝的要因があると考えられている、チワワ・パグ・ダックスフンドは注意深く行動を観察することをおすすめします。
遺伝的要因がなくとも、加齢に伴う血管の劣化や心臓疾患によって血流が悪化するため、脳梗塞を発症するリスクが高まることに留意しましょう。
基礎疾患にかかっている犬
基礎疾患にかかっている犬は脳梗塞を発症するリスクが高くなります。基礎疾患に該当する病気は、以下のとおりです。
- 糖尿病
- 腎臓病
- 高血圧
- 甲状腺疾患
上記の基礎疾患は血液循環に悪影響を及ぼすため、脳梗塞のリスク因子になります。しかし、基礎疾患と脳梗塞の関与は不明な点がほとんどです。
これまでの脳梗塞を発症した犬の検査結果から、基礎疾患にかかっている犬の報告がいくつかあるといった程度になります。
これまでの検査から基礎疾患にかかっている犬が脳梗塞に発展している報告がある以上、注意するに越したことはないといえるでしょう。なるべく早めに基礎疾患を完治して、脳梗塞の発症リスクを抑えることが大切です。
脳梗塞と脳卒中との違い
脳梗塞と脳卒中はしばしば混同されがちな病気ですが、厳密には異なります。混同されやすい原因は、脳卒中が脳の血管に障害が起こる病気の総称となっているためです。
脳梗塞は脳の血管障害の1つに該当します。脳の血管が遮断されることによって、発生する障害が脳梗塞です。一方の脳卒中には、脳梗塞のほかにも脳の血管が破裂して出血することによる、脳出血やくも膜下出血などの障害が含まれています。
この脳出血やくも膜下出血は脳梗塞と同じように、急激に発症して重篤な症状になることがほとんどです。
脳梗塞は血流遮断による栄養と血液量の不足で、脳機能を損傷して発症することが原因なため、出血はありません。脳梗塞は血管が詰まって血流が遮断されるもの、脳卒中は脳梗塞も含めた脳の血管障害の総称だと覚えておきましょう。
まとめ
今回は犬の脳梗塞について・原因・症状・治療法やなりやすい犬種を解説しました。これまでは犬が脳梗塞を発症する可能性は低いと考えられていましたが、実際には高頻度で診断されている病気です。
急に症状が現れる傾向にあるため、びっくりされる飼い主さんも少なくありません。症状が現れている場合には、すでに脳に何かしらのダメージを受けている可能性が高いです。
危険な状態なため、速やかに動物病院を受診し、発症時の様子をなるべく細かく獣医師に伝えることを心がけましょう。すぐに治療を受けられれば、予後不良の予防にもつながります。
脳梗塞の早期発見と予防には、定期的な健康診断が必要不可欠です。特に脳梗塞を発症しやすい犬種・シニア犬・基礎疾患にかかっている犬は、定期的な健康診断を受けて早期発見・早期治療に努めるよう留意しましょう。
犬の脳梗塞で不安を抱えている飼い主さんが、本記事で少しでも不安を和らげられることにつながれれば幸いです。
参考文献