トリミングサロンでの肛門腺ケアとは?お手入れ方法や注意点について解説

トリミングサロンでの肛門腺ケアとは?お手入れ方法や注意点について解説

トリミングサロンでは、被毛のカットやシャンプーだけでなく「肛門腺ケア」も大切なお手入れのひとつとして行われています。
肛門腺は犬の肛門の左右にある小さな袋で、独特のニオイを持つ分泌物が溜まるため、ケアすることが大切です。

本記事ではトリミングサロンでの肛門腺ケアについて以下の点を中心にご紹介します。

  • 犬の肛門腺とは
  • 肛門腺ケアが必要な犬のサイン
  • 自宅での肛門腺ケアや予防について

トリミングサロンでの肛門腺ケアについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

犬の肛門腺とは

犬の肛門の周りには、強いにおいのする分泌液をためる「肛門腺」と呼ばれる器官があります。この肛門腺は、肛門を時計の中心に見立てると、だいたい16時と18時8時と4時の方向に位置しており、左右一対の袋状の構造になっています。

肛門腺でつくられた分泌液は「肛門腺液」または「肛門嚢液(こうもんのうえき)」と呼ばれ、排便時に自然と外へ排出されます。

この分泌液は、個体ごとに異なるにおいを持ち、犬同士がお尻のにおいを嗅ぎ合うことでお互いを識別したり、縄張りを示すために使われたりします。性状は液状から粘土状、場合によっては固形のものまであり、色も黄色、茶色、灰色、黒などさまざまです。また、犬の体調や年齢によって変化することもあります。

ただし、なかにはうまく排出できない犬もおり、分泌液が肛門腺内にたまり続けてしまうと炎症を起こすこともあります。そうした場合は、定期的に肛門腺を絞ってあげるケアが必要です。

犬の肛門腺のケアについて

犬の肛門腺のケアは、どのように行えばよろしいのでしょうか?以下で解説します。

犬の肛門腺のケアが必要な理由

犬の肛門腺のケアが必要な理由は、大きく分けて3つあります。
まず1つ目は、「分泌液の排出がうまくできない犬がいる」ためです。肛門腺は排便時に圧がかかることで自然に分泌液が排出されますが、特に小型犬や運動量が少ない犬ではうまく出ずにたまりやすい傾向があります。

2つ目は、「分泌液がたまりすぎると炎症や感染の原因になる」ことです。たまったまま放置すると、肛門嚢炎や肛門嚢破裂などのトラブルを引き起こし、痛みや出血、化膿などを伴うこともあります。

そして3つ目は、「においや不快感の原因になる」ことです。肛門腺の分泌液は独特の強いにおいがあり、体や家具に付着すると不快に感じる飼い主さんも少なくありません。

これらを予防するためにも、月に1回程度を目安に肛門腺ケアを取り入れることが推奨されています。

肛門腺を絞らないとどうなる?

犬の肛門腺を絞らずに放置すると、分泌液が肛門嚢内にたまり続け、炎症を引き起こす恐れがあります。

これを肛門嚢炎(こうもんのうえん)と呼び、進行すると膿がたまって化膿し化膿して膿がたまり、肛門嚢破裂に至ることもあります。破裂すると肛門の皮膚が破れて膿や血が出ることがあり、強い痛みから排便を嫌がったり、食欲が低下したりすることもあります。

また、違和感からお尻を床にこすりつけたり、しっぽを追いかけてぐるぐる回る行動が見られるようになります。

炎症や破裂が起こると、治療が必要になるだけでなく、痛みの記憶が残って今後のケアを嫌がる原因にもなるため、定期的な肛門腺ケアがとても重要です。特に分泌液がたまりやすい体質の犬には、こまめなお手入れを心がけましょう。

肛門腺ケアが特に必要な犬種

すべての犬に肛門腺のケアが必要なわけではありませんが、体質や体格、年齢などの要因によって分泌液が溜まりやすい犬もいます。肛門腺ケアが必要な犬種は、以下のとおりです。

● 小型犬や筋力が弱い犬
チワワやトイ・プードルといった小型犬は、肛門括約筋の力が十分でないため、分泌液を排出しにくい傾向があります。また、運動不足や関節の問題を抱えている犬も排出がうまくいかないことがあります。

● 高齢犬
年をとると筋力が衰えるため、肛門腺の機能も低下しがちです。若い頃は問題なかった犬でも、高齢になると分泌液がたまりやすくなるケースがあるため、定期的なチェックが大切です。

● 肥満傾向の犬
脂肪が多い傾向にある犬は、肛門周囲の構造に影響が出て分泌液の排出が難しくなることがあります。脂肪が圧迫を妨げるため、肛門腺が空になりにくく、ケアが必要になることがあります。

● 軟便・下痢を繰り返している犬
健康な便は肛門腺を刺激して分泌液を自然に排出させますが、下痢ややわらかい便が続くとその刺激が不十分になり、分泌液が蓄積されやすくなります。

これらの犬種や状態に該当する場合は、トラブルを未然に防ぐためにも定期的に肛門腺ケアを行うよう心がけましょう。

肛門腺ケアが必要な犬のサイン

犬がどのような状態だと、肛門腺ケアが必要になるのでしょうか?見逃さないためのサインを解説します。

舐め過ぎたりお尻をすりつけたりする

肛門腺に違和感や炎症があると、犬は自身でその不快感を解消しようとして、しきりにお尻や尾の付け根を舐めたり、床や地面にお尻をこすりつけるような行動をとることがあります。

犬は手を使って身体を掻けないため、舌を使って異常を取り除こうとします。このようなしぐさは、肛門腺がたまっているサインのひとつといえるでしょう。

肛門周囲が腫れている

肛門腺に分泌物がたまりすぎると、肛門周囲が赤く腫れたり、触れると硬いしこりのように感じられることがあります。

これらの腫れやしこりは片側だけに出ることもあれば、両側に見られることもあり、触れると嫌がったり、排便時に痛みを訴える様子が見られる場合もあります。さらに、進行すると炎症や化膿を引き起こすこともあります。

肛門周囲を触られるのを嫌がる

肛門腺に分泌物がたまりすぎたり、炎症が起きていると、犬は肛門周囲に痛みや違和感を感じやすくなります。そのため、お尻を触られるのを嫌がったり、逃げたり怒ったりするような反応を示すことがあります。

また、歩き方がぎこちなくなったり、排便時に力む様子や痛がるしぐさが見られることもあります。こうした行動の変化は、肛門腺に異常が起きているサインかもしれません。

肛門周辺の臭いが強いとき

肛門腺に分泌物がたまると、魚のような強いニオイを発することがあります。
このニオイは健康にすぐ影響が出るわけではありませんが、ソファや寝具に移ってしまい、不快に感じることもあります。

このように、お尻まわりから普段とは違う臭いを感じたら、肛門腺のケアが必要なサインかもしれません。

トリミングサロンでの犬の肛門腺ケアについて

トリミングサロンで犬の肛門腺ケアは、どのように行われるのでしょうか。以下で詳しく解説します。

トリミングと同時に肛門腺ケアをする

肛門腺のケアはデリケートな処置であり、無理に絞ったり、頻繁に行いすぎると炎症や痛みの原因になることがあります。ご自宅でのケアに不安がある場合は、トリミングサロンでプロに任せるのがおすすめです。

サロンでは、シャンプーやトリミングのメニューに肛門腺絞りが含まれており、お尻の汚れもその場で洗い流せるため、効率的かつ清潔に処置できます。月に1回のトリミングとあわせて肛門腺のチェックとケアを習慣にしましょう。

肛門腺ケア時に使う道具

肛門腺ケアの際には、犬の体を傷つけないよう道具を選択することが大切です。
まず、肛門周りや肉球の間の毛を整えるにはバリカンまたはハサミを使いますが、誤って皮膚を傷つける恐れがあるため、初心者には安全性の高いバリカンの使用がおすすめです。

また、肛門腺液には特有の強いニオイがあるため、ポリエステル製の薄手の手袋、ウェットティッシュ、ビニール袋なども準備しておくと処理がスムーズです。使用するケア用品は犬の敏感な皮膚に配慮し、アルコール不使用のものを選びましょう。

犬の肛門腺ケアの金額

犬の肛門腺ケアの料金は、地域やサロン、動物病院によって異なりますが、以下のように分かれます。

トリミングサロンの場合は、単体での肛門腺絞りが500円〜1,000円程度です。サロンによってはシャンプーやカットのセットメニューに含まれており、その場合は追加料金がかからないか、+ 500円程度で対応してもらえることもあります。

動物病院でのケアは800円〜1,500円程度が相場です。病院ではトラブルが起きている場合の処置も可能なため、分泌物のたまり具合が気になるときや、お尻に腫れやにおいがある場合などには、相談しやすい場所といえます。

なお、大型犬や分泌液が出にくい犬では、処置に時間や手間がかかることから、追加料金が発生するケースもあります。また、愛犬の体格や状態によって必要な処置が異なるため、迷ったときは事前にトリマーや獣医師に確認するとよいでしょう。

自宅での肛門腺ケアや予防について

自宅でも肛門腺ケアが行えたらいいですよね。以下でケア方法を確認しましょう。

お尻に異常がないか確認する

犬が“お尻歩き”をするような行動が見られたら、まずは肛門やその周囲に異常がないかを丁寧に確認しましょう。

お尻の皮膚に赤み・腫れ・湿疹・できものなどがないか、また便や異物が付着していないかもチェックが必要です。においが強い場合や、肛門嚢がふくらんでいるようであれば、分泌物がたまっている可能性があります。

肛門腺のケアが自宅でできる場合は、犬の様子を見ながら無理のない範囲で肛門腺絞りをしてあげましょう。ただし、異常や悪臭があるときは、動物病院を受診するのがおすすめです。

体重を管理する

肛門腺の健康を保つためには、日頃の体重管理が重要なポイントになります。肥満になると肛門腺周辺に余分な脂肪がつき、排便時の圧力が十分にかからず、分泌物が排出されにくくなることがあります。

その結果、肛門腺に分泌液がたまりやすくなり、炎症や化膿のリスクが高まります。適正体重を維持することで、自然な排便が促され、肛門腺のトラブル予防につながります。定期的な体重測定と、バランスの取れた食事管理を意識し、愛犬の健康を守りましょう。

日頃から排便を確認する

自宅での肛門腺ケアや予防として、日頃から排便の様子を確認する習慣をつけることが大切です。便の形や色、量、出方には健康状態が反映されやすく、異常の早期発見につながります。

例えば、便が細くなったり平たくなったりする場合は、肛門やその周辺が圧迫されている可能性があります。また、粘液だけが出る、何度も排便姿勢をとるのに便が出ないなどの症状があれば、肛門まわりの異常を疑いましょう。

月に1回肛門腺絞りをする

犬の健康を守るうえで、月に1回程度の肛門腺絞りはとても大切なケアのひとつです。肛門の両脇にある肛門腺には分泌物がたまりやすく、特に小型犬や排泄時に圧力がかかりにくい子は自然に排出されにくい傾向があります。

しかし、そのまま放置すると炎症や腫れ、感染の原因になるため、定期的にチェックしたまり具合に応じて頻度を調整しましょう。

絞る際はしっぽを持ち上げ、肛門の左右を優しく圧迫して分泌物を排出しますが、強く刺激すると痛みやトラウマになることもあります。そのため、無理に行わず、やり方に不安がある場合はトリミングサロンや動物病院でのケアをおすすめします。

まとめ

ここまでトリミングサロンでの肛門腺ケアについてお伝えしてきました。トリミングサロンでの肛門腺ケアについての要点をまとめると以下のとおりです。

  • 犬の肛門の周りには、強いにおいのする分泌液をためる「肛門腺」と呼ばれる器官があり、この肛門腺は、肛門を時計の中心に見立てると、だいたい4時と8時の方向に位置しており、左右一対の袋状の構造になっている
  • 肛門腺ケアが必要な犬のサインには、しきりにお尻や尾の付け根を舐めたり、床や地面にお尻をこすりつけたりする行動や肛門の周りに腫れや硬いしこりがみられること挙げられる
  • 犬の肛門腺トラブルを防ぐためには、日頃の観察とケア、お尻の異常や排便の変化、体重管理を意識し、月1回の肛門腺絞りも習慣にすることが大切だが、異常が見られる場合は無理をせず、専門機関でのケアを検討しよう

犬の肛門腺は、体質や年齢、生活習慣によって分泌液がたまりやすくなることがあります。放置すると炎症や感染、においの原因になるため、月に1回程度のケアが大切です。

また、肛門まわりの異常や行動の変化が見られたら早めに対応し、トラブルを防ぎましょう。トリミングサロンや動物病院の利用、自宅での観察と予防を取り入れ、愛犬の快適な生活を支えてあげてくださいね。

これらの情報が少しでもトリミングサロンでの肛門腺ケアについて知りたい飼い主さんのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献