犬に話かけても反応がない、大きな音に反応しないなどの症状が現れた場合は、難聴を起こしている可能性があります。
難聴の原因は主に加齢に伴う耳の機能低下が一般的ですが、耳の炎症から引き起こされるケースもあります。
症状があるのにも関わらず放置してると完全に聴覚が失われる可能性もあるため、気になる症状があれば早急に動物病院を受診することが大切です。
本記事では、犬の難聴の原因やなりやすい犬種、治療方法について解説します。予防方法も併せて解説するので、参考にしてもらえると幸いです。
犬の難聴とは
犬の難聴には、生まれつき耳が聞こえづらい先天性難聴と加齢や病気などが原因で難聴を引き起こす後天性難聴があります。
ここでは、それぞれの難聴について詳しく解説します。
先天性の難聴
先天性難聴は、主に遺伝的な異常が原因で起こります。その他にも、妊娠中の異常が原因で、耳の内部がうまく形成されず耳に障害を持って生まれてくる場合もあります。
また遺伝的な関係で先天性難聴になりやすい犬種もいるため、ペットとして飼うときは注意が必要です。
後天性の難聴
後天性難聴は、主に加齢が原因で起こります。その他にも、外耳炎や中耳炎などの炎症で難聴を引き起こす場合もあります。
特に外耳炎は、犬の病気のなかでも発症率が高い疾患です。外耳炎は重症化すると耳の中まで炎症が広がる可能性があるため、耳に異変が現れたら早急に動物病院を受診しましょう。
先天性難聴になりやすい犬種
先天性難聴は主に遺伝的な異常が原因で発症するのが特徴です。そのなかでも、ダルメシアンとブルテリアは先天性難聴になりやすいといわれています。
ここでは、ダルメシアンとブルテリアが先天性難聴になりやすい原因を解説します。これらの犬種を飼うときは、難聴になりやすいことを事前に把握しておきましょう。
ダルメシアン
ダルメシアンは家族に対して愛情深くペットとして飼う方も多くいますが、先天的難聴を発症しやすい犬種として知られています。
聴覚を正常に保つには、内耳(コルチ器)の有毛細胞だけでなく、そこで機能するメラノサイトが不可欠とされています。メラノサイトはメラニンを作り出す細胞です。
ダルメシアンは、体毛が黒色の斑点部分ではメラノサイトは正常に存在していますが、体毛が白色の部分はメラノサイトが存在しないかほとんど機能していません。
聴覚に関連する内耳においても、メラノサイトが正常に機能しないダルメシアンが一定数存在するため、難聴を持って生まれてくる可能性があります。
またメラニンは体毛だけではなく眼の色にも影響するため、眼が青いダルメシアンは聴覚に異常がある状態で生まれてくるリスクが高いとされています。
生まれつき聴覚に異常があるダルメシアンは耳が聞こえない状況に慣れているため、日常生活に影響しないことがほとんどです。
ただし、ペットとして迎え入れる場合は飼い主とうまくコミュニケーションが取れないことがあります。
生まれつき聴覚に異常があるダルメシアンを飼うときは、アイコンタクトを頻繁にとり、信頼関係を築きましょう。
ブルテリア
ブルテリアは、闘犬として活躍してきた犬種です。現在は改良されペットとして飼われていますが、先天性難聴を発症しやすい犬種として挙げられます。
特に体毛が白いブルテリアは、耳に障害を持って生まれてくる可能性が高くなります。その主な原因は、体毛が白いブルテリアを作るためにダルメシアンが交配に使われていたからです。
ダルメシアンは遺伝的要因で内耳のメラノサイトが十分に機能しない個体が一定数存在し、その結果として難聴が生じやすいです。
そのため、先天性難聴になりやすく、交配した際にブルテリアの遺伝子にも影響を及ぼしたといわれています。
ブルテリアも同様に聴覚に異常がある場合は、アイコンタクトを頻繁にとる必要があります。
犬の後天性難聴の主な原因
後天性難聴は、主に加齢や耳の病気によって引き起こされます。呼びかけに答えない、音に反応がないなどの症状が現れた場合は、耳に異常がある可能性があります。
ここでは、さらに詳しい原因を解説します。以下に挙げるような耳の違和感や異常が犬に見られた場合には、早めに動物病院に相談しましょう。
加齢
犬も人間と同様に加齢が原因で耳が聞こえづらくなります。そのため、老犬が呼びかけに答えなかったり、急に驚いた表情を見せたりする場合は加齢による難聴が考えられます。
耳が聞こえづらくなった老犬は、犬を撫でようとした手に直前まで気付かず、驚いた拍子に手に噛み付いてしまうことがあるでしょう。
老犬の耳に衰えを感じたら、大きな動作を使ったコミニュケーションを心がけ、少しでも不安を取り除いてあげることが大切です。
耳への異物混入
散歩中に虫やゴミが耳に入ると、外耳炎や中耳炎を起こす場合があります。
外耳炎や中耳炎を放置すると難聴や耳の閉塞感につながるため、耳が赤い、耳がただれているなどの症状が現れたら早急に動物病院を受診することが大切です。
また、虫やゴミだけではなく体毛が耳に入り、炎症を起こす場合もあります。
外傷・打撲
耳に外傷や打撲などの強い衝撃を受けると、外耳炎になる可能性があります。外耳道が傷つくとそこから細菌が侵入し、外耳炎を発症します。
また、過度な耳掃除が原因で外耳道が傷つき、耳の炎症を引き起こすケースもあるため注意が必要です。
外耳炎は放置すると中耳炎を併発し、難聴のほかに異常歩行や首を傾げるなどの症状が現れます。
薬の副作用
薬の化学成分による反応が原因で内耳に異常が発生し、難聴を引き起こす場合があります。
犬の点耳薬として処方されるオスルニアの副作用として、聴覚障害が挙げられます。
オスルニアの投与による聴覚障害は、短期間で治まることがほとんどで、主に老犬に起こりやすい副作用です。
また、稀に角膜潰瘍や乾性角結膜炎といった眼の病気を発症することもあります。これらの副作用はオスルニアが眼に直接触れていなくても、発症する可能性があるため注意が必要です。
副作用を引き起こした場合はすぐに薬の投与を中断し、動物病院を受診しましょう。
アレルギー・感染症
アレルギー性皮膚疾患(食物アレルギーやアトピー性皮膚炎など)が原因で外耳炎を引き起こします。外耳炎によって耳の炎症が進むと、鼓膜に穴が開き難聴になる場合があります。
アレルギーによる発症は点耳薬で症状が改善されますが、再発を繰り返すことがあるため、注意が必要です。
再発を繰り返すと、細菌やマラセチアが繁殖しマラセチア性外耳炎や内耳炎などの感染症を引き起こす可能性が高まります。
アレルギーによる外耳炎は、放置すると炎症が耳の奥まで広がり治療が難しくなるため、症状が現れたら早めに治療を開始することが大切です。
耳道の腫瘍
稀に耳道の腫瘍が見つかる場合があります。腫瘍を放置すると重度の外耳炎を引き起こすケースがあり、難聴になる可能性が高いため、必ず治療を受ける必要があります。
耳道の腫瘍は、手術によって切除するのが一般的です。腫瘍が転移していなければ、術後に症状が改善される場合がほとんどで、再発のリスクが低いといわれています。
耳道の腫瘍は見つかりづらく早期発見が難しいですが、進行を抑えるためにも初期段階で手術を実施することが大切です。
脳・神経の異常
犬の後天性難聴には、脳や神経の異常が関係する場合があります。これらは中枢性難聴とも呼ばれ、耳自体に明らかな炎症や損傷が見られないにも関わらず、聴力低下やバランス障害などの症状が生じるのが特徴です。
例えば、脳腫瘍が聴覚を司る脳幹部を圧迫すると、音が伝わっていても脳が正しく処理できず、難聴を引き起こします。
また、髄膜炎などの中枢神経系の感染症が内耳や聴神経へ波及すると、神経から脳への伝達が妨げられ、難聴が生じることもあります。
さらに、前庭・蝸牛神経を攻撃する自己免疫性疾患や、一時的な血流障害による脳梗塞も原因となる可能性として挙げられるでしょう。
いずれも耳の外観からは判断しづらいため、CTやMRIなどの画像検査で脳や神経に異常がないかを調べることが必要です。
中枢性前庭障害が疑われる場合、めまいやふらつきが見られることもあり、内耳炎との鑑別が難しいケースがあります。
このような症状がある際は、獣医師の判断のもと神経学的検査や脳脊髄液検査が行われることもあります。
早期発見と適切な治療により、後天性難聴の進行を抑えることが期待できるでしょう。
後天性難聴になりやすい犬種
後天性難聴は、加齢やアレルギーなどが原因で発症します。ここでは後天性難聴になりやすい犬種を紹介します。
難聴になりやすい犬種が呼びかけに反応しなくなったり、急に驚いたような表情を見せるようになったりする場合は、聴覚障害を引き起こしているかもしれません。
難聴になりやすい犬種を飼うときは日頃から耳に異常がないか確認するようにして、耳の病気の早期発見、早期治療を目指しましょう。
シェパード
シェパードは、主に警察犬や救助犬として活躍している犬種です。さまざまな場面で活躍するシェパードですが、後天的難聴になりやすい犬種として挙げられます。
シェパードは後天性難聴の原因であるアトピー性皮膚炎になりやすく、外耳炎や中耳炎を引き起こす可能性が高い傾向にあります。
アトピー性皮膚炎の症状が現れたら動物病院に相談し、耳の炎症を未然に防ぎましょう。
テリア
テリアもシェパードと同様にアトピー性皮膚炎になりやすく、耳の炎症が起こる可能性が高い犬種です。
後天性難聴は主に加齢が原因で起こりますが、アトピー性皮膚炎によって引き起こされる場合、若年のうちから難聴になることがあります。
特にテリアは、0〜3歳の発症率が高いため、若年から皮膚のケアを行うことが大切です。
またテリアがアトピー性皮膚炎を発症した場合、皮膚にかゆみや発赤が出る可能性が高いため、これらの症状が現れたら注意が必要です。
かゆみや発赤の症状に加え、呼びかけに答えない、大きな音に反応しないなど耳に異常がある場合はアトピー性皮膚炎による後天性難聴が疑われます。
このような場合は、外耳炎や中耳炎による聴覚障害を引き起こしている可能性があるため、早急に治療をする必要があります。
コリー
コリーは頭がよく、しつけがしやすいためペットとして飼う方もいますが、難聴になりやすい犬種として挙げられます。
コリーは後天性難聴の原因となる食物アレルギー性皮膚炎を発症しやすい犬種です。
食物アレルギー性皮膚炎は、食べ物の摂取によって起こる皮膚炎で季節に関係なく発症するのが特徴です。
主な症状は、皮膚のかゆみや発赤などが挙げられます。食物アレルギー性皮膚炎が原因で耳にも炎症が広がり、外耳炎や中耳炎などにつながります。
また耳の炎症が内耳まで進行すると、内耳炎を発症し重度の難聴になる可能性があるため、早期治療が必要です。
食物アレルギーが疑われる場合はアレルギー検査を実施し、原因となる食物を突き止め皮膚や耳の炎症を防ぎましょう。
犬の難聴の治療方法
先天性や加齢に伴う難聴には、治療方法がないとされています。しかし、外耳炎や中耳炎などが原因で起こる難聴には治療方法があります。
耳の炎症が軽度の場合は、点耳薬の投与や耳の洗浄を行うのが一般的です。
炎症が耳の内部に広がり中耳炎を併発しているときや重度の感染症を引き起こしている場合は、注射や内服薬を使用して治療するケースもあります。
また症状が悪化しているときは、外科的治療に切り替えることがあります。
病状が進行している場合は長期間の治療が必要になるため、我慢強く病院に通わなければなりません。
犬の難聴の予防法
先天性や加齢による難聴を予防するのは難しいですが、難聴の原因となる耳の炎症を未然に防ぐことで、炎症に起因する難聴を予防することができます。
ここでは耳の炎症に対する予防方法を紹介します。難聴を防ぐためにも、予防法を実践し犬が不安なく過ごせるような環境を作りましょう。
耳の内部を清潔に保つ
耳の炎症を防ぐためには、耳の内部を清潔に保つことが大切です。清潔に保つことで外耳炎の進行を防ぎ、難聴も起こりづらくなります。
耳垢がいつもより溜まっていたり、耳内が赤くなっていたりすると、すでに耳の炎症を起こしている場合があります。
このような症状があれば外耳炎や中耳炎の可能性があるため、動物病院を受診し適切な処置を受けましょう。
ストレスを緩和させる
犬のストレスを緩和させることで、難聴を予防できます。いつもより落ち着きがない、過剰に吠えるなどの状態が続けば、犬がストレスを抱えているサインです。
このような状態が続いている場合は、ストレスになっている要因を見つけ早めに対処することが大切です。
まとめ
犬の難聴には、遺伝的な要因で発症する先天性難聴と加齢や病気が原因で発症する後天性難聴があります。
犬種によっては聴覚障害を引き起こしやすい場合もあるため、ペットとして飼う際は事前に把握しておくことが大切です。
先天性や加齢による難聴には明確な治療方法はないですが、耳の炎症で起こる難聴の場合は、点耳薬や耳の洗浄により治療できます。
また、耳を清潔にしたりストレスを緩和させたりすることで、難聴を未然に防ぐことが可能です。
外耳炎や中耳炎は治療せずに放置すると重度の難聴を引き起こし、治療が長引く可能性が高いため、耳に異変があれば早急に動物病院を受診しましょう。
参考文献