近年、動物医療の現場でもオンライン診療に関心が寄せられています。しかし、人間の医療とは異なり、動物医療におけるオンライン診療は法的な制約が多いといわれ、導入には慎重な検討が必要です。
本記事では動物病院のオンライン診療の法律について以下の点を中心にご紹介します。
- 動物病院のオンライン診療とは
- 動物病院のオンライン診療のメリット・デメリット
- 動物病院のオンライン診療の法律について
動物病院のオンライン診療の法律について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
動物病院のオンライン診療

- 動物病院のオンライン診療について教えてください
- 動物病院のオンライン診療とは、スマートフォンやパソコンを通じて、自宅などから獣医師の診察を受けられる新しい診療形態です。ビデオ通話によってペットの様子をリアルタイムで共有できるため、通院が困難な場合や軽度な症状におすすめです。
インターネット環境があれば場所を問わず利用でき、予約・問診・診察・処方・決済まですべてオンラインで行えます。
移動や待ち時間がないため、飼い主の方だけでなく、ペットのストレスも抑えられる手段です。
- 動物病院のオンライン診療のメリットを教えてください
- 動物病院のオンライン診療には、次のようなメリットがあります。
まず、移動時間や待ち時間がなく、交通費も不要なため、通院の負担が軽減されます。なかでも高齢のペットや持病のある動物にとっては、通院自体が大きな負担になりかねません。
病院嫌いの動物にとっても、自宅からの診療は精神的な負担の軽減に役立ちます。
飼い主の方にとっても、予約時間にビデオ通話で診療が開始されるため、スムーズに相談できるでしょう。
また、特定の症状に詳しい獣医師に相談できる場合もあり、専門的な意見を得やすくなります。地方に住んでいて動物病院が少ない場合でも、オンラインなら診療を受けやすくなる点も見逃せません。
- 動物病院のオンライン診療のデメリットを教えてください
- オンライン診療は便利な反面、いくつかのデメリットも存在します。
主な課題は診断の制限です。オンラインでは触診や聴診、血液検査やレントゲンなどの精密検査が行えないため、診断が不確かになるケースがあります。
皮膚の異常など視覚的に判断できる症状は対応できますが、内臓疾患や骨折などは対面でなければ適切な診断が難しいことがあります。
また、診療の質は通信環境に大きく左右されます。映像や音声が乱れると、獣医師の判断に支障が出る可能性があるため、安定したインターネット環境は必須です。
さらに、初診では処方薬の制限がある点にも注意が必要です。劇薬や抗生物質などは、法律上オンラインでの処方が制限されており、結局は対面診療が必要になるケースもあります。
そして、緊急時にはオンライン診療は不適切です。呼吸困難、痙攣、大量出血など命に関わる症状には迅速な対面処置が不可欠です。
オンライン診療はあくまで補完的な手段であり、状況に応じた使い分けが大切です。
”愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針”について

- この指針の目的はなんですか?
- ペットの診療をインターネットを通じて安全かつ正確に行うためのルールを示したものです。近年、スマートフォンやパソコンを使った医療サービスが広まり、動物医療でも同様のニーズが高まっています。
しかし、対面での診療と比べると、映像だけではわかりにくい点もあるため、正しい方法で行う必要があります。この指針では、診療を受ける動物と獣医師の関係性、診療の進め方、情報管理の方法などについて、具体的な基準を示しています。
なかでも、日頃からその動物を診ているかかりつけの獣医師が対応することが基本であり、必要に応じて対面診療へ切り替えることも重要とされています。
- 指針の基本的な考え方や定義を教えてください
- この指針では、オンライン診療を、映像と音声を使ってリアルタイムに行う動物の診察や処方のことと定義しています。
診療は、普段からその動物を診ていて、病歴や体質などを理解しているかかりつけの獣医師が基本的に行います。
オンラインで診療する場合でも、獣医師は飼い主の方から正確な情報を得て、双方が診療方針に合意する必要があります。もし診療に必要な情報が得られない、または診断が難しいと獣医師が判断した場合には、速やかに対面診療に切り替えることが求められます。
また、診療内容や動物の情報が漏れないよう、情報管理にも十分な注意が必要です。オンラインであっても、診療の責任はすべて獣医師が負うという点が強調されています。
- この指針はどのようなケースで適用されますか?
- この指針は、動物病院の獣医師がペットの診療をオンラインで行う際に適用されます。
特に初診となるケースでは、原則としてその動物の状態や病歴を把握しているかかりつけの獣医師が診療を行う必要があります。
初診とは、これまでに診療したことがない動物に対して行う診察だけでなく、長期間治療を中断していたり、以前とは異なる症状を診る場合も含まれます。
ただし、夜間や休日などでかかりつけ医が対応できない場合、別の獣医師が診療前相談を実施し、必要な情報を得たうえでオンライン診療を行うことは例外的に認められています。その際は、診療記録をしっかりと残し、いつでも対面診療に切り替えられる体制を整えることが条件です。
また、薬を処方する際にも注意が必要です。
オンラインの初診では、副作用のリスクが高い薬や安全性が十分に証明されていない薬は処方できません。
処方される場合でも、原則として7日分までとされ、それで改善しない場合は必ず対面診療へ移行することが求められます。
動物病院のオンライン診療に関する法律

- 動物病院のオンライン診療に関する法律・指針の背景を教えてください
- 近年、通信技術の進歩とともに医療のオンライン化が進み、ヒトの医療では2018年に指針が制定され、特にコロナ禍をきっかけに遠隔診療の恒久化が進みました。
一方で、動物医療では産業動物に対する指針は存在していましたが、ペットを対象としたルールがなく、法的な解釈に頼った不明確な運用が続いていました。
こうした背景から、愛玩動物の診療においても法令を順守しながら、安心・安全にオンライン診療を行うための明確なガイドラインが求められていました。
その結果、日本獣医師会が2022年に“愛玩動物における遠隔診療の適切な実施に関する指針”を策定し、飼い主の方と獣医師が安心して利用できる仕組みづくりが進められています。
- 動物病院のオンライン診療についての法律の問題点を教えてください
- 動物のオンライン診療には、獣医師法18条が定める“無診察治療の禁止”が大きな課題として存在します。法律では、獣医師が自ら診察せずに診断書を交付したり、薬を処方することは原則として禁じられています。
特に初診の場合、映像や飼い主の方からの聞き取りのみで正確な診断を行うのは難しく、適法な診療行為とみなされないリスクがありました。こうした問題を受けて、日本獣医師会は、獣医師が診療に責任を持ち、必要な情報を適切に得たうえでオンライン診療を行うことを条件とし、その方法を明示することで、法律との整合性を図っています。
今後も技術や制度の進化に合わせ、継続的な見直しが求められる分野です。
- 動物病院のオンライン診療についての法律で遵守すべき事項を教えてください
- 動物のオンライン診療を行う際には、いくつかの重要なルールがあります。
まず、飼い主の方の明確な希望と合意が必要であり、獣医師が一方的に診療を始めることはできません。その際には、診療内容やリスク、情報の取扱いについて事前に丁寧な説明が求められます。
また、初診は原則として対面診療で行うことが基本です。
ただし、へき地や夜間など、通院が困難な場合には例外的に初診からのオンライン診療が許容されることもあります。
さらに、本人確認や動物の個体識別、薬の処方に関する制限も設けられています。
特に初診では、麻薬や向精神薬、未承認薬の処方は禁止されており、安全性と正確な判断を確保するための厳格な基準が設けられています。
編集部まとめ

ここまで動物病院のオンライン診療の法律についてお伝えしてきました。動物病院のオンライン診療の法律の要点をまとめると以下のとおりです。
- 動物病院のオンライン診療とは、スマートフォンやパソコンを通じて、自宅などから獣医師の診察を受けられる新しい診療形態で、ビデオ通話によってペットの様子をリアルタイムで共有できる
- 動物病院のオンライン診療の主なメリットは通院や精神的な負担が軽減されることで、デメリットは診断が不確かになるケースがあること
- 動物病院のオンライン診療の法律において、診療内容やリスク、情報の取扱いについて事前に説明を行い、初診は原則として対面診療や、薬の処方に関する制限などが設けられている
動物病院のオンライン診療を正しく理解し、よりよいペットライフに努めましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。