愛猫が突然くしゃみをしたとき、「もしかして自分の風邪がうつったの?」と心配になったことがある飼い主さんもいるのではないでしょうか。人間と猫はともに暮らす家族でありながら、異なる生物種であるため、どの病気が互いに感染し、どれが感染しないのか判断に迷うこともあるでしょう。
こちらの記事では、人間の病気は猫にうつるのかどうかをお伝えしたうえで、猫と暮らす際に注意すべき共通感染症や予防策を解説しているため、ぜひ参考にしてください。
猫にうつる人間の病気

飼い主さんが知っておくべき事実として、人間から猫へ感染する病気が存在します。しかし、飼い主さんが適切な知識を身につけることで、大切な家族である猫の健康を守ることができるでしょう。
ここでは、猫にうつる可能性がある代表的な人間の病気について、特徴や対策を解説します。
ウイルス感染症
人間の風邪やインフルエンザなどの一般的なウイルス感染症は、基本的に猫に感染しないとされています。これは人間と猫ではウイルスの型が異なるためです。しかし、2009年に流行したH1N1型インフルエンザ(豚インフルエンザ)や新型コロナウイルスなど、一部のウイルスでは飼い主さんから猫への感染事例が報告されています。
一方で、猫の風邪は猫同士で、犬の風邪は犬同士で感染します。飼い主さんが外出先でほかの動物に触れた後、愛猫に触れることで間接的に感染するケースもあるため、外出先でほかの動物に接触した後には手洗いや消毒を行ってください。
細菌感染症
結核や非定型抗酸菌感染症、MRSA感染症などの細菌感染症は、人間から猫へ感染する可能性があります。
結核は結核菌による感染症であり、人間から猫へは飛沫感染します。猫が感染するのは稀なケースですが、咳、発熱、食欲不振などの症状が現れることがあります。特に猫が体調不良の時は免疫力が低下しているため、飼い主さんが注意深く見守ってあげることが大切です。
MRSA感染症は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)によって引き起こされます。医療従事者から猫への感染が証明された事例もあり、今後の耐性菌蔓延リスクを示す重要な事例として注目されています。猫への感染は、傷口や皮膚の接触などを介して起こり、皮膚炎や膿瘍などを引き起こす可能性があります。
これらの感染症から猫を守るためには、過剰な接触(キスや添い寝など)を控え、飼い主さんが体調を崩しているときは接触を制限しましょう。
猫の病気が人間にうつることはある?

猫の病気が人間にうつることはあり、動物から人間への感染を意味して動物由来感染症と呼ばれています。また、人間と動物に共通する感染症として、人獣共通感染症や人と動物の共通感染症と呼ばれています。
感染症にはさまざまなパターンがあります。猫も飼い主さんも重症化する可能性があるもの、猫は症状を示さないのに飼い主さんは重症になる可能性があるものや、逆に飼い主さんは軽症でも猫には深刻な影響を与える可能性があるものなど、病原体によって症状の出方が異なります。
適切な予防策と定期的な健康管理を行えば、猫との豊かな暮らしを安全に楽しむことができるでしょう。大切な家族である愛猫との生活では、感染症の正しい知識と予防を行うことで、お互いの健康を守ることにつながります。
人間と猫の共通感染症

人間と動物の間で感染する共通感染症は、ペットとの親密な関係が増える現代社会において健康課題となっています。猫は大切な家族の一員ですが、ときとして知らないうちに感染症を媒介することがあります。
ここでは、人間と猫の共通感染症を解説します。
トキソプラズマ感染症
トキソプラズマ感染症は、トキソプラズマという寄生虫によって引き起こされる病気であり、共通感染症です。猫が固有宿主であり、猫の糞便に排泄されたトキソプラズマの卵を摂取した感染家畜やジビエの肉を不十分な加熱で食べることや、猫の糞に含まれるトキソプラズマの卵の経口摂取、トキソプラズマの虫体の経皮や粘膜感染です。
妊娠中に母親が感染すると、胎内感染した新生児には、深刻な脳障害が生じる可能性があるため注意が必要です。感染すると軽いインフルエンザに似た症状から始まり、重篤なケースでは脳に感染が広がり視力を失うこともあります。免疫力が低下した人間が感染すると命を落とす危険性もあります。治療には駆虫薬が用いられますが、予防ワクチンは存在しません。
猫ひっかき病
猫ひっかき病は、その名のとおり猫にひっかかれたり噛まれたりした後に発症する可能性がある共通感染症です。原因となる病原菌はバルトネラ・ヘンセレという細菌です。主な症状はリンパ節の腫れや発熱で、ひっかかれた1-3週間後に症状が現れ、微熱や倦怠感、関節痛などが伴うこともあります。健常人では自然に回復しますが、糖尿病患者など免疫の低下した人には致死的となりえます。
猫はこの菌に感染しても症状を示さないため、感染した猫は年単位で菌を保有しています。ノミが媒介となって猫同士に感染するため、完全室内飼いの飼い猫ではリスクは低く、より野良猫の方がリスクが高いです。野良猫には引っかかれたりかまれたりしないようにしましょう。室内飼いが徹底できないなら定期的なノミ対策を徹底するのが効果的です。
パスツレラ症
パスツレラ症は、パスツレラ属菌による感染症であり、この細菌は哺乳類や鳥類の口腔内や腸管内に常在する菌のため、犬や猫との接触で人間に感染する可能性があります。特徴的な症状は、咬まれた際に起こる咬傷部位の腫脹と疼痛です。その後急速に皮下組織への炎症が広がり、深部組織に広がる蜂窩織炎(ほうかしきえん)を発症することがあります。
感染から症状発現までの時間が短く、早い場合は1時間以内に症状が現れることもあるでしょう。また、気道から感染した場合は風邪に似た症状や気管支炎、肺炎、副鼻腔炎などを引き起こし、糖尿病、アルコール性肝障害のある患者さんでは敗血症に進行する可能性もあるため注意が必要です。
Q熱
Q熱はCoxiella burnetii(コクシエラバーネティー)偏性細胞内寄生細菌による共通感染症です。宿主はダニ、ヒトへの主な感染源は犬や猫や家畜で、特に出産時の胎盤や排泄物に含まれる病原体をヒトが吸い込むと感染リスクが高まります。
症状はインフルエンザに似た症状などが現れますが、肺炎や肝炎など多様な症状も見られます。急性型の2〜10%は慢性型に移行し、回復後も長期間にわたって慢性疲労症候群のような症状が続くことがあります。Q熱には特徴的な症状がないため診断が難しいです。原因不明の発熱があり、動物との接触歴や流行地への渡航歴がある場合には、Q熱も疑って専門施設へ受診・検査をしてください。飼育動物のダニの駆除、飼育環境の消毒が予防になります。
狂犬病
狂犬病は、狂犬病ウイルスによって引き起こされる致命的な感染症です。感染した動物に咬まれることで人間に感染し、発症するとほぼ100%の確率で、死亡する恐ろしい病気です。日本は狂犬病清浄国であり、猫からの感染事例は極めて稀でほぼあり得ないと言えますが、海外では猫からの感染例も報告されています。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
SFTSは、SFTSウイルスによって引き起こされる感染症で、主にマダニを介して感染します。近年、SFTS感染症に罹患した猫との接触やウイルス保有のマダニが猫に付着することなどで人間への感染事例が報告されており、猫の飼い主やSFTS感染疑い猫を診療した獣医師の死亡例も確認されています。猫は感染すると発熱、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状を示し、重篤化することもあります。重症例では数日以内に死亡します。野外活動の多い猫や、マダニの生息地域での感染リスクが高いため、定期的なダニ駆除が重要です。
ノミ・ダニ
ノミとは、猫に寄生する吸血性の寄生虫であり、体長は約1mmです。室内飼育の猫でも、知らぬ間にノミが家庭内に侵入していて感染することがあります。人間は、ノミを持つ猫と接触することで感染し、皮膚には激しい痒みを伴う症状が現れます。症状が進行すると、噛まれた部位が水ぶくれになったり、赤く腫れあがったりすることもあるでしょう。
また、マダニは前述したSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の媒介となる重要な寄生虫です。マダニに刺咬された猫がSFTSウイルスに感染し、その猫から人間へ感染する事例も報告されています。マダニは野外に生息しているため、外出する猫では特に注意が必要です。
予防するためには、定期的に愛猫のノミ・ダニの駆除をすることで、猫の感染リスクを減らせます。また、室内を常に清潔に保つことも大切であるため、これらの繁殖を防ぐ環境を整えましょう。
皮膚真菌症
皮膚真菌症は、真菌に感染することで発症する病気であり、共通感染症です。主に内臓や血液に広がる深在性真菌症と、皮膚表面に限局される表在性皮膚真菌症に分類されます。深在性真菌症は通常、免疫が低下した患者さんに見られ、例えば、HIV感染者でのカンジダ症などが挙げられます。
一方、皮膚真菌症は、健康な人にも発症することがあり、特に白癬菌(皮膚糸状菌)による感染が一般的です。赤く盛り上がった環状の発疹が現れ、強いかゆみを伴うことがあります。予防するためには、猫の定期的な健康診断と、接触後の手洗いが効果的です。また、早期発見・早期治療により、飼い主さんと愛猫の健康を守ることができます。
共通感染症のワクチン

人間と猫がともに生活するなかで、一部の感染症を共有する可能性があります。ワクチンは、特定の感染症に対して免疫力を高め、感染リスクを軽減するために使用されます。
ここでは、共通感染症のワクチンが人用と猫用に存在しているのかを解説します。
人用ワクチン
猫との共通感染症の人用ワクチンは、狂犬病ワクチンを除いてほとんど存在しません。狂犬病ワクチンは、感染リスクの高い職業の方や海外渡航者に対して接種が推奨されています。しかし、日本は狂犬病清浄国であり、猫からの感染リスクは極めて低いため、一般的な飼い主さんが接種する必要性は低いとされています。
その他の共通感染症については有効なワクチンが存在しないため、感染予防は衛生管理や猫との適切な接触を心がけることが重要です。
猫用ワクチン
猫には、さまざまな感染症に対するワクチンが用意されていますが、共通感染症を予防するための猫用ワクチンは存在しません。しかし、猫から猫へうつる病気を蔓延させないためにも適切にワクチン接種を検討するとよいでしょう。
ワクチン未対応疾患は生活衛生で予防
猫と人の共通感染症予防に有効なワクチンは現在のところ存在しません。
感染症から身を守るには、日常的な衛生管理がもっとも効果的な予防策となります。飼い主さんは、猫のトイレ掃除後の手洗いを徹底し、特に妊婦は直接素手で触れないようにしましょう。また、猫は室内だけで飼育してノミダニによる感染症の媒介を減らしましょう。共用する生活空間の清潔さを保つことで、ワクチンがなくても感染症のリスクを大幅に低減できます。
共通感染症の予防策

人間と猫がともに健康に暮らすためには、共通感染症への理解と予防策の実践が欠かせません。共通感染症を怖がる飼い主さんもいるかと思いますが、予防対策をしっかりと行うことで、愛猫との幸せな生活を送れるでしょう。
ここでは、共通感染症の予防策を解説します。
室内飼いを徹底する
猫の室内飼いは、人と動物の共通感染症予防において極めて大切です。外出した猫はさまざまな病原体や病原体を媒介するノミやダニを毛や足に付着させて室内に持ち込むことがあり、飼い主さんが感染するリスクを高めます。
特に免疫力が低下している方や高齢者にとっては、ときに共通感染症が重篤になります。愛猫と飼い主さんの健康を守るためにも、室内飼育を徹底することは重要です。
寄生虫予防をする
猫はさまざまな感染経路で寄生虫に感染する可能性があります。予防には毎日のブラッシングで寄生虫の早期発見や猫の異変に気付くことができます。また、低刺激のノミ取りシャンプーの使用、排泄物の迅速な処理と手洗いの徹底も効果的です。
猫の糞便には寄生虫や卵の一部が含まれている可能性があるため、排泄物はすぐに処理し、処理後は手洗いを徹底してください。蚊が媒介するフィラリア予防には、目の細かい網戸への交換や虫除けグッズの活用が有効でしょう。さらに、ノミやダニが繁殖しやすい室内環境を清潔に保つため、こまめに掃除を行い、外から寄生虫を持ち込まないように工夫してみてください。
過度なふれあいを避ける
猫は大切な家族の一員ですが、適切な距離感を保つことで、お互いの健康を守ることができます。特に猫の口周辺には病気の原因となる常在菌が存在するため、キスや顔をうずめるなどの直接的な接触は避けるべきでしょう。
飼い主さんが体調不良時には猫との接触を最小限にし、一人暮らしの場合でも餌やりなど必要最低限のケアに留めることが望ましいです。何よりも飼い主さん自身の回復を優先することが、結果的に愛猫のためになります。
早期発見のための定期検診を受ける
定期検診は、猫の健康状態を把握し病気の早期発見・早期治療につながります。特にシニア猫は免疫力が低下しやすく、感染症にかかりやすいため、定期的な健康チェックがより大切になります。獣医による診察や血液検査、糞便検査などをとおして、隠れた病気を早期に見つけることで、重症化を防ぎ、治療の成功率を高められるでしょう。
また、獣医とのコミュニケーションをとおして、猫に合わせた予防策や健康管理も相談できます。愛猫が知らぬ間に感染症にかかっている可能性もあるため、定期検診を受けることで共通感染症の感染リスクを軽減できることにつながります。
まとめ

人間の病気は猫にうつる可能性もありますが、猫は本能的に体調が悪いのを隠す習性があります。共通感染症の理解を深めて適切な予防策を行うことで愛猫との幸せな生活を長く続けられるでしょう。
飼い主さんと愛猫に心配になる共通感染症の症状が出たときには、かかりつけの病院に行き正確な診断と治療を受けてください。