猫が毎日吐くが受診するべき?危険なサインや原因となる病気や対処法を解説します

猫が毎日吐くが受診するべき?危険なサインや原因となる病気や対処法を解説します

猫は毛玉を吐くなど嘔吐しやすい動物ですが、毎日吐くような場合は注意が必要です。頻繁な嘔吐は体力を消耗させ、脱水や電解質異常を引き起こすおそれがあります。猫の嘔吐がたまたまなのか病気のサインなのかを見極め、危険な症状や原因となる病気を正しく理解して適切に対処しましょう。本記事では、猫の嘔吐の種類と特徴、毎日吐く場合に確認すべきポイント、考えられる病気と治療法、検査内容、さらに病気以外の原因への対処法を解説します。

猫は吐きやすい?嘔吐の特徴や種類

猫は吐きやすいとされていますが、それが実は嘔吐でない場合もあります。本章では、健康な猫が吐く頻度や、嘔吐・吐出・嚥下困難の違いについて解説します。

健康な猫が吐く頻度

猫は毛玉(ヘアボール)を吐くことがあります。長毛種や換毛期(季節の抜け毛が多い時期)の猫では特に毛玉を吐く頻度が高くなりがちです。健康な猫でも週に1回程度、毛玉や食べ過ぎたフードの未消化物を吐き戻すことは珍しくありません。これは生理現象の範囲であり、この程度であれば深刻に心配する必要はないでしょう。

しかし、例えば週に何度も、あるいは毎日の場合は注意が必要です。猫はよく吐く動物だと思われがちですが、頻繁に吐くのは正常ではなく、何らかの異常のサインであることが多いのです。

嘔吐と吐出、嚥下困難の違い

吐くといっても、嘔吐と吐出(としゅつ)では原因も対処法も異なります。また、嚥下困難という、吐くのとは違いますが飲み込めずに戻してしまう状態もあります。それぞれの違いを押さえておきましょう。

  • 嘔吐
    胃や腸の内容物が強い収縮によって口から吐き出されることです。
  • 吐出
    胃に達する前の飲食物が食道から逆流して出てくることです。嘔吐とは違い、お腹の筋肉の力を伴わずほとんど努力なく、スルッと未消化のまま吐き出されます。
  • 嚥下困難
    口や喉の機能障害で飲み込んだものが胃まで到達せず直後に戻ってきてしまう状態です。

飼い主さんは、愛猫が何かを吐いた場合に嘔吐なのか、吐出なのかをまず見極めることが大切です。嘔吐なら胃腸の病気を疑いますし、吐出なら食道や喉の問題の可能性があります。

猫が毎日吐いているときにチェックするポイント

毎日吐くような状態になったら、次のポイントを確認しましょう。嘔吐の状況や猫の全身状態を詳しく観察することで、緊急性の有無や原因の手がかりが得られます。以下の点をチェックし、必要に応じて早めに動物病院を受診してください。

1日に吐く回数

1日のうちに何度も吐いている場合は要注意です。短時間に繰り返し嘔吐するようなら、脱水が進みやすく危険です。急性で激しい嘔吐を繰り返すときは緊急性が高く、すぐに病院に行く必要があります。

一方、1日に1回程度でもそれが連日続く場合は慢性的な嘔吐と考えられ、放置せず受診して原因を調べるべきです。猫が毎日吐いている場合、「今日も1回吐いたけど元気だし大丈夫かな」と思わずに、何日続いているか記録し獣医師に相談しましょう。

食欲の有無

嘔吐があっても食欲が普段どおりにあるかを確認しましょう。吐いた後でもケロッとしていて食欲旺盛であれば、緊急性はそれほど高くないこともあります。しかし、嘔吐に伴って食欲不振や元気消失が見られる場合、全身的な病気の可能性があります。例えば、腎臓病や感染症などで気分が悪く吐いている場合、猫はぐったりして餌を食べなくなることが多いです。元気と食欲がない状態で嘔吐しているときは、できるだけ早めに動物病院を受診してください。

嘔吐物への血液の混入

吐瀉物に血が混ざっていないかも重要なチェックポイントです。少量のピンク色の液体が混じる程度でも注意が必要ですが、もし吐いたものに明らかな出血が見られた場合は緊急事態です。消化管のどこかで出血している可能性があり、胃潰瘍や中毒、異物による損傷など重篤な原因が考えられます。嘔吐物に血液が多く混ざっているときは、一刻も早く動物病院へ連絡・受診しましょう。

体重の変化

猫の体重が減少していないか確認してください。毎日吐いていると栄養がうまく摂れず、少しずつやせてくることがあります。嘔吐が続いて徐々に痩せてきた場合は、慢性的な疾患が進行しているおそれがあります。

例えば、甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンの病気)や消化管の慢性疾患では、食欲はあるのに体重が減るということが起こります。また、腫瘍性疾患や重度の寄生虫感染でも体重減少を伴います。体重減少を見逃さず、嘔吐との関連を考慮して獣医師に伝えましょう。
以上のようなポイントに加え、嘔吐以外の症状も併せて観察することが大切です。総合的に愛猫の様子を観察し、少しでも普段と違う異変があれば早めに受診することが肝心です。

猫が毎日吐く場合に考えられる病気と治療法

猫が毎日吐く場合、消化器系のトラブルから全身疾患までさまざまな病気が原因として考えられます。嘔吐は一見すると胃腸の問題のように思えますが、実は内臓の別の病気や全身的な疾患、さらには脳神経の異常まで、原因は多岐にわたります。本章では主なカテゴリ別に、考えられる病気とその治療法の概要を解説します。

消化器系の病気

胃や腸自体の異常によって嘔吐が起きるケースです。代表的なものには以下があります。

  • 胃炎・腸炎
  • 異物誤飲
  • 消化管寄生虫
  • 毛球症(もうきゅうしょう):胃の中に毛玉が溜まりすぎて塊になり、吐き出すこともできず胃腸を塞いでしまう状態です。
  • 炎症性腸疾患(IBD)
  • 消化管の腫瘍(胃がんやリンパ腫)

これら消化器そのものの病気では、嘔吐物にフードや胆汁が混じる、吐いた後もしばしば吐き気が続く、といった特徴があります。

消化器以外の内臓の病気

胃腸以外の臓器の異常でも、二次的に嘔吐が引き起こされることがあります。猫で嘔吐を伴うことの多い内臓疾患には以下のようなものがあります。

  • 腎臓の病気(慢性腎臓病や急性腎障害)
  • 肝臓・胆嚢の病気(肝炎や肝不全、胆管炎、胆石症など)
  • 膵炎
  • 子宮蓄膿症
  • 腹膜炎

これらの消化器以外の臓器疾患では、嘔吐以外に多飲多尿や黄疸、発熱、腹部膨満など各臓器に対応した症状が現れることが多いです。

全身の病気

全身的な代謝異常や感染症など、身体全体に影響を及ぼす病気でも嘔吐が生じます。嘔吐だけでなく、全身状態の悪化として嘔吐が出ていないか考える必要があります。

  • 甲状腺機能亢進症
  • 糖尿病
  • 中毒
  • 重度の感染症

以上のような全身疾患では、嘔吐以外にもさまざまな症状を伴うのが普通です。

神経系の病気

嘔吐中枢がある延髄を含む中枢神経系の異常や、前庭疾患(平衡感覚の異常)でも嘔吐が起こります。またストレスなど精神的な要因も嘔吐に影響することがあります。

  • 脳疾患(脳腫瘍や脳炎など)
  • 前庭疾患(中耳炎や内耳炎など)
  • 心理的ストレス

神経系の問題による嘔吐は見極めが難しいですが、嘔吐以外の神経症状(けいれん発作・麻痺・起立困難・眼振など)があれば早急に専門的な診断が必要です。

お口の中の問題

口腔・咽頭の異常が原因で吐くように見えることもあります。例えば、口内炎や咽頭炎でひどく喉が痛むと、食べ物や毛玉をうまく飲み込めず吐き出すことがあります。あるいは、歯周病や口内の腫瘍で食べ物を飲み込むのが困難になり、食後すぐ嘔吐に似た状態になることもあります。この場合、嘔吐物は未消化のフードそのままであることが多く、吐いた後によだれを垂らしたり口を気にしたりする様子が見られる点で消化器の嘔吐と区別できます。

猫が毎日吐くときに実施される検査

愛猫が毎日嘔吐する場合、獣医師はさまざまな検査を組み合わせて原因を突き止めようとします。嘔吐は原因が多岐にわたるため、包括的な検査が必要になることも少なくありません。以下に、猫の嘔吐で一般的に行われる主な検査を紹介します。

画像検査

レントゲン検査(X線検査)は嘔吐の診断でよく行われる画像検査です。胸部や腹部のレントゲン撮影により、消化管内の異物の有無や胃腸のガスのたまり具合、臓器の大きさや形などを観察します。

例えば、紐や大きな異物があればレントゲン写真で確認できますし、腎臓や肝臓の大きさの変化から慢性疾患が疑われることもあります。必要に応じて造影検査(造影剤を飲ませてX線撮影)を行うこともあります。造影検査では腸の閉塞箇所や狭くなっている部分を特定できます。

さらに詳しく調べるには内視鏡検査も有効です。胃カメラを用いて、胃や腸の中を直接観察したり、一部組織を採取(生検)して病理検査をしたりすることも可能です。嘔吐の原因として疑わしい病変が見つかった場合、確定診断のために内視鏡や外科手術で組織検査を行うことがあります。

超音波検査

超音波検査(エコー検査)も嘔吐の精査で頻繁に実施されます。X線では平面的にしか写りませんが、超音波なら臓器の内部構造をリアルタイムで観察できます。腹部エコーにより肝臓・腎臓・膵臓・腸管などの状態を確認します。超音波検査は非侵襲的で麻酔も不要なため猫への負担が少なく、安全に詳細な情報を得られる手段です。

尿検査、糞便検査

嘔吐の原因精査には、尿検査と糞便検査も重要です。尿検査では、腎臓の機能や糖尿病の有無、尿路感染などがわかります。一方、糞便検査では消化管の寄生虫や消化不良の有無を確認できます。糞便中に回虫などの虫卵が出ていないか、未消化の脂肪や繊維が多く含まれていないか、さらに潜血反応を見て消化管出血の有無を調べることもできます。また必要に応じて便の培養検査を行い、サルモネラやキャンピロバクターなどの細菌感染を調べることもあります。

血液検査

嘔吐の原因を調べるために血液検査もほぼ必ず実施されます。血液検査では、全身状態や臓器の機能を評価できます。具体的には以下のような項目を確認します。

  • 血球計算
    赤血球や白血球、血小板の数を測定します。貧血がないか、炎症や感染により白血球が増減していないか、血小板減少がないかなどを確認します。
  • 血液化学検査
    肝酵素(ALT、ASTなど)や腎機能値(BUN、クレアチニン)、血糖値、電解質など多数の項目を測定します。これにより肝臓や腎臓の障害がないか、糖尿病はないか、炎症反応(SAAなど)はあるか、などを評価します。
  • ホルモン検査
    症状に応じて甲状腺ホルモン(T4)の測定を行います。
  • ウイルス検査
    若い猫で原因不明の嘔吐や体重減少が続く場合、ウイルス感染症の確認も有用です。猫白血病ウイルス(FeLV)や猫エイズウイルス(FIV)、さらには猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査が行われることがあります。

このように、多岐にわたる検査結果を総合し、嘔吐の原因を探ります。

病気とは関係なく猫が毎日吐くときの対処法

猫が毎日吐いている場合、重大な病気の兆候である可能性を考慮すべきですが、検査の結果特に病気が見つからないこともあります。その場合でも、吐くこと自体は猫にとって負担になりますから、できるだけ吐かせないような工夫をしてあげましょう。以下に、病気以外の要因で猫が頻繁に吐く場合の主な対処法を紹介します。

毛玉対策を行う

猫が吐く原因に毛玉(ヘアボール)が挙げられます。健康な猫でも毛繕いで飲み込んだ毛を吐き出すことがありますが、毛玉の量が多いと吐く頻度が増えてしまいます。そこで、飼い主さんができる毛玉対策をしっかり行いましょう。

  • 定期的なブラッシング
  • 毛玉ケア用フード・サプリの活用
  • 整腸剤やオイルの投与

こうした対策により、毛玉を吐かずに便で出せるようになると嘔吐の頻度が減ります。なお、毛玉対策をしても吐く場合は、毛玉以外の原因がある可能性が高いので獣医師に相談してください。

食事の与え方を工夫する

猫の嘔吐には食事の仕方が関係していることもあります。早食いの猫や一度に大量に食べる猫は、胃に負担がかかって吐き戻しを起こしやすいです。病気でないのに食後すぐ吐くような場合は、食べ方を工夫することで改善できる可能性があります。

  • 少量を頻回に与える
  • 早食い防止の工夫
  • 食器の高さを工夫:地面に置いた器から頭を下げて食べると空気も飲み込みやすく、吐き戻しの原因になることがあります。
  • フードの変更:消化のよいフードに変えたり、ウェットとドライのバランスを見直したりするのも一考です。

以上のような工夫で、食後の吐き戻し(吐出)による嘔吐回数を減らせる可能性があります。食事の与え方を変えても改善しない場合は、やはりほかの原因が疑われますので獣医師に相談してください。

ストレス要因を見直す

猫は環境の変化や精神的ストレスにとても敏感な動物です。ストレスが嘔吐の引き金になることもあるため、生活環境を整えストレスを減らすことで嘔吐が改善することがあります。

  • 環境の変化は徐々に慣らしてあげる
  • 適度に遊んで発散させてあげる
  • フェリウェイ(ストレス緩和のためのフェロモン製剤)などを利用する
  • 猫がリラックスできる高い場所や隠れ場所を用意する

こうした取り組みにより、慢性的なストレスが軽減すれば嘔吐の頻度が下がる可能性があります。

定期的な健康チェックを行う

猫の嘔吐を減らす根本策として、定期的な健康診断を受けることも重要です。嘔吐の原因となる病気を早期発見・早期治療できれば、深刻な症状が出る前に対処できます。特にシニア猫では年に一度は血液検査などを受け、腎臓病や甲状腺機能亢進症など嘔吐の原因となりやすい慢性疾患の有無を確認すると安心です。

まとめ

猫は毛玉を吐く習性があるため多少の嘔吐は珍しくありません。しかし、猫は吐くものだからと安易に考えるのは禁物です。特に、毎日のように吐いている場合、それは明らかに異常であり何らかの疾患が潜んでいる可能性が高いです。嘔吐が続くときは、今回解説した危険なサインがないか注意深く観察し、少しでも疑わしい場合は早めに獣医師に相談するようにしてください。

原因が特定できれば適切な治療や対応策によって嘔吐は改善するケースがほとんどです。消化器の病気であれば食事管理や投薬で嘔吐を減らせますし、内臓疾患でも治療により症状をコントロールできます。ストレスや毛玉が原因なら、飼い主さんの工夫で嘔吐を予防できるでしょう。
大切なのは「おかしいな」と思ったら放置しないことです。猫は身体の不調を隠しがちな動物ですから、元気に見えても実は病気が進行していることがあるのです。「吐いているけどいつもどおり元気だし」と油断せず、日頃から愛猫の様子を注意深く見守ってあげてください。そして、定期的な健康チェックも活用し、早期発見・早期対処に努めましょう。そうすれば、愛猫が毎日吐くような事態も未然に防ぎ、健康で快適な生活を送らせてあげることができるはずです。

参考文献