犬の全身麻酔にはどのようなリスクがある?必要なケースやメリット・デメリット、注意点を解説します

犬の全身麻酔にはどのようなリスクがある?必要なケースやメリット・デメリット、注意点を解説します

犬に全身麻酔を行う際には、手術や検査を円滑に進めるために欠かせない一方で、心臓や肺などへの負担が生じる可能性があります。特に高齢犬や持病を抱える犬ではリスクが高まることが知られており、飼い主さんにとって大きな不安の種となります。本記事では、犬の全身麻酔に伴う代表的なリスクや注意点を整理し、不安なく治療を受けられるようにするために知っておきたい基本情報を解説します。

犬の全身麻酔で起こりうるリスク

犬の全身麻酔で起こりうるリスク

犬に全身麻酔を行うのは、避けられない手術や検査の際です。ここでは必要となる典型的なケースを整理します。

犬の全身麻酔にはどのようなリスクがありますか?
犬の全身麻酔には、循環や呼吸の抑制に伴う低血圧・不整脈・低換気、気道トラブル、嘔吐に伴う誤嚥(飲み込んだものが気道に入ること)、体温低下、覚醒遅延などの合併症リスクがあります。特に高齢・肥満・短頭種や、心臓・肝臓・腎臓の持病、脱水は注意が必要です。薬剤アレルギーや出血傾向、空腹時間の不足、持病薬の影響も関与します。さらに、侵襲の大きい術式や長時間麻酔、全身状態の重さを示す国際的な指標(ASA分類)が高い場合、体制が整っていない環境ではリスクが増します。術前検査とリスク評価、点滴と疼痛管理、適切な薬剤選択、気道確保・体温管理、連続モニタリングを行うことで、麻酔に伴う合併症のリスクを大きく減らせます。
年齢や犬種によってリスクは変わるのか教えてください
犬の全身麻酔のリスクは、身体にかかる強い負担により多岐にわたります。まず心臓や呼吸への影響が大きく、呼吸が浅くなる・血圧が下がるなど血液の流れや循環が不安定になる場合があります。また体温が下がりやすく、低体温による合併症も注意が必要です。肝臓や腎臓に基礎疾患があると、麻酔薬の代謝や排泄が滞り、予期せぬ副作用が出やすくなります。さらに、まれに重篤なアレルギー反応や不整脈、術後の覚醒遅延が起こることもあります。こうしたリスクは獣医師の適切な術前検査と管理で大幅に抑えられるため、事前説明を十分に受け、飼い主さんが納得したうえで判断することが大切です。
持病がある犬の場合、全身麻酔のリスクは高くなりますか?
はい。心臓病や腎臓病、肝臓病、呼吸器疾患、糖尿病などの持病がある犬は、全身麻酔の影響を受けやすく、血圧低下や呼吸抑制、薬剤の代謝・排泄遅延による合併症の確率が上がるとされています。手術前に病状の安定化、血液検査や画像検査によるリスク評価、薬の休薬や用量調整、点滴と体温管理、心電図や血圧などの連続モニタリングでリスクは下げられます。重症度によっては処置の延期や局所麻酔・鎮静への切替を検討します。飼い主さんは既往歴と内服薬を一覧にして伝え、絶食時間の指示も厳守しましょう。術後は痛み止めと酸素管理を含めた観察を丁寧に行います。

犬に全身麻酔が必要なケース

犬が全身麻酔を必要とするのは手術だけではありません。検査や処置など、さまざまな場面で必要となるケースを確認します。

犬に全身麻酔が必要なのはどのような場合ですか?
犬に全身麻酔が必要となるのは、大きな外科手術だけではありません。去勢や小さな体表の腫瘤の摘出、脱臼や骨折の非観血的整復、外傷の縫合など強い痛みを伴う処置のほか、CTやMRIなど長時間の静止が求められる高度画像検査、歯石除去や関節鏡、内視鏡による異物摘出も代表例です。鎮静だけでは動きを抑えきれない場面では、気道を確保し動きを完全に制御して精密に実施するため全身麻酔が選択されます。X線検査で体位保持が難しいときや耳道の精密処置、眼科の細かな縫合でも必要になります。個体差が大きいため、必要性は症状と性格、体格、既往歴を踏まえて判断されます。さらに、体位保持や誤動作の防止の観点からも採用されます。
歯科治療でも全身麻酔が必要になるのか教えてください
犬の歯科治療では、歯石除去や抜歯など口腔内の処置を安全性を保って行うために全身麻酔が必要です。犬は人のようにお口を開けたまま静止できず、痛みや恐怖で暴れてしまうと器具で口腔を傷つけたり、処置が不十分になったりします。全身麻酔をかければ動きを完全に制御でき、歯石を歯周ポケットまで徹底的に除去し、必要に応じてレントゲン撮影や抜歯も正確に行えます。また気管チューブで呼吸を確保できるため、洗浄液や血液の誤嚥を防ぐ利点もあります。術前検査や体調管理を徹底することで、安全性を高めつつ歯科治療を受けることが可能になります。
全身麻酔ができない場合、手術は受けられませんか?
全身麻酔が難しいと判断された場合でも、必ずしも手術を諦めなければならないわけではありません。症例によっては局所麻酔や鎮静処置を組み合わせ、負担を抑えて対応できる場合があります。例えば皮膚の小さな腫瘤切除や浅い外傷縫合などは局所麻酔で行えることがありますし、ぐらついている歯の抜歯など一部の歯科処置や簡単な検査でも短時間の鎮静で代替可能です。ただし心臓病や呼吸器疾患などリスクが大きい場合は、安全性を優先し手術自体を延期または見合わせる判断が必要になります。最終的には全身状態と術式の重要度を総合して、獣医師が適切な方法を提案します。

犬の全身麻酔のメリット・デメリット

犬の全身麻酔のメリット・デメリット

犬の全身麻酔には処置を安全性を保って行う利点がある一方、身体に負担をかける側面もあります。ここではその両面について整理していきましょう。

犬にとって全身麻酔を使用するメリットは何ですか?
全身麻酔のメリットは、苦痛と恐怖を抑え身体の動きをよりしっかりと止められるため、外科手術や歯科処置、CT・MRIなどの精密検査を高い再現性で実施できる点です。気管チューブで気道を確保し洗浄液や血液の誤嚥を防げるうえ、体温・血圧・血中の酸素量や二酸化炭素を連続モニタリングでき、処置の精度と安全性が向上します。強力な鎮痛を併用できるため術後の回復がスムーズになり、保定による外傷や強いストレスの回避にもつながります。さらに視野が安定し出血コントロールや縫合が正確になり、撮影や測定のブレが減って所要時間の短縮も期待できます。
全身麻酔を使用するデメリットを教えてください
全身麻酔のデメリットは、循環や呼吸への負担により呼吸や血圧の安定が崩れる、体温低下、嘔吐に伴う誤嚥、覚醒遅延やふらつき、落ち着かない覚醒反応が起こりうる点です。高齢や短頭種、心臓・肝臓・腎臓などの持病がある犬ではリスクが高まります。点滴や気管チューブ挿入など侵襲も伴い、術後の食欲不振や費用・通院負担も生じます。また、術前絶食や採血・画像検査、入院観察が必要になる場合があり、日常生活にも一時的な制限がかかります。安全性を高める管理で多くは抑えられますが、ゼロにはできません。メリットと併せて主治医と判断が必要です。

犬の全身麻酔後の注意点

動物病院での麻酔後に自宅で注意すべき観察点と、受診の目安を整理します。

自宅での過ごし方で気をつけるべきことはありますか?
麻酔後は体力が落ちているため、まずは静かな環境で安静を保ち、身体を冷やさないよう適度に保温してあげることが大切です。食事はむせや誤嚥を防ぐため、少量のやわらかいものから再開し、獣医師の指示量を守りましょう。水分も一気に飲ませず、少しずつ様子を見ながら与えます。術後は特に呼吸が荒い、ぐったりする、痙攣するなど異常が出やすい時期とされ、術後数時間は注意深く観察する必要があります。傷口は舐めたり汚れたりしないよう、エリザベスカラーの装着や包帯を濡らさない工夫を行い、異常があれば速やかに病院へ連絡しましょう。
全身麻酔後にすぐ病院へ連絡すべき症状はありますか?
麻酔後の犬は体調が急変する可能性があるため、少しでも異常を感じたら早めに病院へ連絡することが重要です。具体的には、呼吸が荒い、浅い、あるいは止まりそうになるといった呼吸異常、舌や歯茎が紫色になるチアノーゼの兆候、ぐったりして立ち上がれない、痙攣が出るなどは危険信号です。また、傷口からの出血が続く、強い痛みで鳴きやまない、嘔吐や誤嚥が疑われる場合もすぐに受診が必要です。術後は体温調節が難しく震えや過度な低体温がみられることもあり、身体を温めても改善しないときは連絡してください。これらは緊急対応を要するケースであり飼い主さんの小まめな観察と適切な判断が重要になります。

編集部まとめ

犬の全身麻酔は手術や検査に不可欠な一方、年齢や持病、体質により負担が高まることがあります。メリットとデメリットを理解し、事前検査と術後の観察を徹底することがとても大切です。麻酔がさめて、帰宅後は犬の安静と保温を心がけ、呼吸が荒い・ぐったりするなど異常があれば速やかに獣医師に相談しましょう。主治医と十分に相談しながら治療方針を決めていくことで、飼い主さんは不安なく愛犬に麻酔を受けさせることができます。

【参考文献】