猫のトイレを掃除しているときに血を見つけ、不安になる飼い主さんは少なくありません。
猫の血便は色や性状によって原因が異なり、軽い不調で済む場合もあれば命に関わる病気が隠れている場合もあります。
早期発見、早期治療により重症化を防ぐことができるかもしれないので、冷静に観察し受診のタイミングを逃さないことが大切です。
この記事では血便の種類や考えられる病気を解説します。さらに受診時の検査や注意点、予防法についても詳しく紹介します。
血便の分類
血の混じった便を見つけたら、まずは色を確認しましょう。色の違いを理解しておくことが、病気の早期発見につながります。鮮やかな赤色と黒っぽい便では、出血の場所や原因が大きく異なります。
血の色や量は時間とともに変化するため、スマートフォンで記録しておくとよいでしょう。実際の便を持参しなくても、写真があれば獣医師が状況を理解しやすくなります。
鮮血
鮮やかな赤い血が便の表面やトイレに付着している場合は、鮮血便と呼ばれます。
鮮血便は直腸や肛門付近など浅い部分での出血が多く、便の表面に血が付くほか、排便直後に血がポタっと落ちることもあります。
いずれの場合も多くは便秘による粘膜の損傷や肛門の炎症によるもので、便自体は正常な色をしているのが特徴です。
ただし、肛門嚢疾患や細菌感染による大腸炎、直腸や大腸の腫瘍が隠れている可能性も否定できません。
数日続く場合や元気がない、食欲不振が見られる場合には、早めの受診を検討しましょう。
特に便秘が繰り返される場合は、基礎疾患が関わっていることもあります。健康診断を受けて原因を確かめることが大切です。
黒色便
便が黒くタール状になっている場合は黒色便(メレナ)と呼ばれ、胃や小腸など消化管の上部で出血がしていることを示します。
血液が消化液と混ざることで黒く変色するのが特徴で、鮮血便とは異なり血が便の内部に混ざり込むのが一般的です。
一見すると血が混ざっているように見えず軽く考えられがちですが、深刻な病気が隠れている可能性もあります。
原因には胃潰瘍や腫瘍性疾患、消化管出血などがあり、さらに消炎鎮痛剤などの薬剤による副作用で潰瘍や出血が起きている可能性も考えられます。
急に黒色便が出て、さらに元気がなくなったり嘔吐や強い食欲不振を伴ったりする場合には、早めの受診が重要です。
黒色便は猫だけでなく犬にも共通する重篤な症状です。緊急性を意識して対応しましょう。
猫の血便の原因や病気
猫の血便にはいくつもの原因があり、放置すると重症化する場合もあります。原因や仕組みを知っておくことは、病院へ行く判断に役立つでしょう。
以下に代表的な病気や要因を取り上げ、血便が出る理由を整理します。
細菌感染による胃腸炎
カンピロバクターやクロストリジウムなどの病原性のある細菌が腸粘膜に炎症を起こし胃腸炎を発症します。
主な症状は嘔吐や下痢で、進行すると発熱や脱水など全身の不調につながります。特に子猫や高齢の猫では体力が低いため、急速に重症化する危険があるため注意が必要です。
大腸に炎症が広がると、粘液を含んだ軟便やゼリー状の血便が出るのが特徴です。
寄生虫による胃腸炎
回虫や鉤虫(こうちゅう)、条虫などの寄生虫が腸に感染すると、胃腸炎を起こすことがあります。加えて、コクシジウムやジアルジア、トリコモナスなどの原虫も胃腸炎を起こす原因のひとつです。
感染すると下痢や血便のほか、嘔吐や脱水を伴うことが多く、食欲不振や体重減少など全身に影響が及ぶ場合もあります。
特に大腸に炎症が広がると、粘液の混じった便や赤い血が出るのが特徴です。
外に出る機会のある猫や、保護したばかりの子猫、多頭飼育の環境では感染リスクが高まります。
腫瘍からの出血
ほかの原因に比べると頻度は低いものの、腫瘍性疾患も血便の原因です。大腸や直腸に腫瘍ができると、腫瘍部分から出血して血便が見られます。
初期には便の表面に少量の鮮血が付くだけですが、進行すると便秘や排便時に強いいきみが続き、体重の減少や元気がなくなります。
少量の血便でも繰り返す場合は、早めに検査を受けることが重要です。
猫パルボウイルス
猫パルボウイルス感染症は、免疫が不十分な子猫やワクチン未接種の猫に多い病気です。
激しい嘔吐や下痢とともに血便が出て、短期間で脱水や白血球の減少が進み、全身状態が急速に悪化します。致死率も高いため、初期から注意が欠かせません。
成猫でも感染しますが、子猫では重症化しやすく特に危険です。感染力がとても強いため、多頭飼育では集団感染につながる恐れもあります。
発症が疑われるときは、すぐに動物病院を受診し、ほかの猫との接触は避けましょう。
肛門嚢
肛門の両脇には肛門嚢と呼ばれる小さな袋があり、強い臭いの分泌液をためています。本来は排便のときに少量が便に付いて、縄張りや個体識別の役割を果たしています。
肛門嚢は、細菌感染や分泌液の出口が塞がることで炎症を起こす場合があり、排便のときに鮮血が便の表面やトイレに付着し気付く飼い主さんも多いです。
炎症が進むと腫れや痛みで排便がしにくくなり、元気がなくなったり発熱を伴うこともあります。さらに悪化すると内部に膿や血膿が貯まる膿瘍が形成され、肛門嚢が破裂する危険もあります。
おしりを床にこすりつける、肛門をしきりに舐めるなどの行動が見られたら、早めに受診しましょう。
肛門嚢のトラブルは再発しやすいため、定期的なチェックも欠かせません。
ストレス
猫は環境の変化や緊張に敏感で、強いストレスが続くと腸の働きが乱れ、一時的に血便が出る場合があります。
引っ越しやペットホテルの利用、家族の生活リズムの変化、新しい動物を迎えたときなどがきっかけになります。
ストレスによる血便は軽度で、多くは一過性です。ただし、繰り返し血便が出る場合は注意が必要です。
食欲不振や嘔吐、落ち着きがなくなるなどの変化が見られるときは、別の病気が隠れている可能性もあります。早めの受診を検討しましょう。
血便がみられたときに行う検査
猫の血便は、見た目だけでは正確に判断できません。病気の種類によって治療が大きく異なるため、動物病院で検査を受けて原因を特定することが大切です。
代表的な検査には、便検査や直腸検査、内視鏡検査などが挙げられます。
便検査
便検査の目的は、血便の原因が細菌感染や寄生虫によるものかを調べることです。顕微鏡で病原性のある細菌や寄生虫の有無を確認するほか、異常な細胞や腸内環境の乱れを推測します。
便の見た目や硬さ、色、臭いも診断の参考になります。特に粘液便や鮮血便、黒色便は重要な手がかりです。
便検査は猫への負担が少なく、初期検査として重要です。新鮮な便を早めに動物病院に持参すると、診断の精度が高まります。
直腸検査
直腸検査(直腸指診)は、指や専用の器具を使っておしりの奥を直接確認する方法です。腫瘍やポリープ、炎症の有無を調べられ、便の通り具合の確認や出血している場所が分かることもあります。
便検査では分からない粘膜の状態や直腸の状態を確認でき、短時間で終わる検査です。
血便や便秘、下痢の原因を探るための初期検査として行われ、画像検査とあわせて診断に役立ちます。
強い痛みや出血がある猫では、麻酔や鎮静を使って安全性を重視して行う場合もあります。
内視鏡検査
腸の内部がどのような状態なのか確認するために行うのが内視鏡検査です。
お口やおしりから細いカメラを入れて胃や腸の中を直接観察し、炎症や潰瘍、できものの有無を調べます。必要に応じて小さな組織を採取して詳しい検査に回すことも可能です。
体を切らずに行えるため猫への負担が少なく、回復も早いのが特徴です。誤飲した異物の除去や慢性的な下痢・嘔吐の原因解明、腫瘍性疾患の診断など幅広い目的で活用されます。
ただし、全身麻酔が必要な検査になるので事前に血液検査や画像検査などで安全性を確認したうえで行われ、猫の体調や病院の設備に応じて慎重に判断されます。
診断の精度が高く、治療方針を決めるうえでも欠かせない検査です。
猫に血便がみられたときの病院受診のタイミング
血便が一度だけで、猫の元気や食欲が普段どおりならもう少し自宅で様子を見ることもありますが、迷うときは動物病院に相談し、受診の必要性を確認するのも一つの方法です。
ただし、繰り返し血便が出る場合や便が黒っぽいときは注意が必要です。さらに、嘔吐や下痢を伴い、ぐったりしているときはできるだけ早めに受診しましょう。
出血量が多い、トマトジュースのような赤い水様便が出る、強い痛みで鳴くといった症状があるときは緊急性が高いと考えられます。
特に子猫や高齢猫、持病のある猫は重症化しやすいため、一度だけの血便でもほかの異常があれば受診が重要になります。
猫の血便で受診するときの注意点
病院で正確な診断を受けるためには、事前の準備が欠かせません。血便が出た日時や回数、便の色や状態を記録しておきましょう。
便のサンプルを持参する場合は、排泄後12時間以内の新鮮なものが理想です。可能であれば便だけを先に預けて検査してもらうのもおすすめです。
普段の食事内容や体調の変化、嘔吐や下痢の有無も獣医師に伝えましょう。さらに、持病や過去の治療歴、服薬中の薬があればメモや薬ごと持参すると診断がスムーズに進みます。
通院時は猫が強いストレスを感じやすいため、日頃からキャリーケースに慣れさせておく工夫も大切です。
猫の血便を予防する方法
猫の血便は病気や体質によって避けられない場合もありますが、日常のケアでリスクを減らすことは可能です。
日々の小さな習慣が猫の健康を支えます。食事やトイレの変化に気を配り、遊びやスキンシップのなかで健康状態を観察すれば、血便の早期発見や予防にもつながるでしょう。
定期的な予防接種
猫の血便を引き起こす感染症のなかには、ワクチンで防げるものがあります。
猫パルボウイルスが代表的で、通常は混合ワクチンとして一度に接種されます。
一般的なスケジュールは、生後約8週から始めて2〜3回の初回接種を行い、その後は年1回の追加接種が目安です。
ただし、生活環境や体調によって変わるため、主治医の指示に従いましょう。
ワクチン未接種の猫や免疫力の弱い猫は、病気が流行している時期や多頭飼育環境では特に注意が必要です。もちろん室内飼育の猫でも予防接種は推奨されますので定期的に接種しましょう。
まれにワクチンの接種により発熱や腫れ、食欲低下などの副反応が出ることもあるので接種後は安静にし、体調の変化を見守りましょう。
異物を摂取しないよう環境を整える
おもちゃの破片や糸、ビニール片などを誤って飲み込むと、消化管を傷つけたり詰まらせたりして血便の原因になります。
部屋を整理整頓し、小物は猫の手が届かない場所に置きましょう。ゴミ箱はふた付きにするか、猫が入れない場所に置くとリスクを減らせます。
おもちゃやひも類は遊ぶときだけ出し、終わったらすぐ片付けます。壊れたものは回収し、誤飲の可能性を減らしましょう。
観葉植物や薬、タバコやアロマ、玉ねぎやチョコレートなども危険です。猫が開けられない戸棚に収納し、ペット用と人間用を分けて管理しましょう。
子猫や多頭飼育では誤飲のリスクが高くなります。危険なものを遠ざける習慣をつけ、安全性の高い環境を整えれば予防につながります。
早期に治療を行う
下痢や食欲不振などの症状を軽く見ず、早めの受診が血便の予防には重要です。便の状態が変化したり食欲が急に落ちたりした場合も、受診を検討するとよいでしょう。
小さな不調の段階で治療できれば、重症化を防ぐことができることも多いです。特に子猫や高齢猫、持病のある猫は免疫力が弱く、体調を崩すと回復に時間がかかるため注意が必要です。
定期健診では便検査のみならず血液検査やワクチンの抗体価検査を受けることもできるのでしっかりと健康維持に役立てましょう。
また家庭で体重や食事量、排便の様子を記録しておくと、ちょっとした異変に早く気付けます。
シニア期に入った猫では主治医と相談の上、少なくも半年から1年ごとに健診を受け、早期治療につなげましょう。
まとめ
猫のうんちに血が混ざっているのを見つけると、不安で胸がざわつく飼い主さんも多いでしょう。
血便の原因は軽症のものから命に関わる病気までさまざまで、放置すると重症化につながる恐れがあります。
鮮血便と黒色便では出血している場所が異なり、必要となる検査や治療も異なります。
原因には細菌や寄生虫、腫瘍性疾患、など様々あり、ストレスが原因になる場合もあるので注意しましょう。
大切なのは、症状が継続する場合しっかりと動物病院に相談し、便検査や血液検査、必要に応じて内視鏡検査などで原因を確かめ、できるだけ早く治療につなげることです。
予防接種や生活環境の工夫、日頃の体調チェックを習慣にすれば、血便のリスクを減らせます。
血便を見つけたら慌てずに状況を記録し、必要に応じて動物病院に相談しましょう。小さな気付きと早めの行動が愛猫の健康を守り、飼い主の不安を和らげます。
参考文献