動物病院の夜間救急とは?受診が必要な症状や持って行く物、利用の注意点も解説

動物病院の夜間救急とは?受診が必要な症状や持って行く物、利用の注意点も解説

ペットの体調不良や事故は、夜間や休日に突然起こることもあります。そんなときに頼りになるのが、動物病院の夜間救急です。

ただし、初めて利用する際は「どのような症状で受診すべきか」「何を持っていけばよいのか」と戸惑う飼い主さんも多いでしょう。

本記事では動物病院の夜間救急について、受診が必要な症状や持参すべき物、利用時の注意点などを詳しく解説します。

動物病院の夜間救急とは

動物病院で猫の顔を診察する獣医師

動物病院の夜間救急とは、通常の診療時間外である夜間や早朝、休日にペットの緊急診療を行う医療サービスです。

一般的な動物病院の診療時間は平日の日中が中心ですが、ペットの体調不良や怪我は時間を選びません。

そのため、24時間体制で対応する夜間救急専門の動物病院や、交代制で夜間診療を行う地域医療システムが整備されています。

夜間救急では、獣医師が常駐し、生命に関わる緊急症状に迅速な診断と治療を行います。

レントゲンや超音波検査、血液検査などの基本的な検査設備を備えており、必要に応じて点滴や手術などの処置も可能です。

ただし、夜間救急はあくまで緊急時の一時的な対応を目的としているため、通常の動物病院と比べて診療内容や対応できる範囲が異なる場合があります。

継続的な治療が必要な場合は、翌日以降にかかりつけの動物病院を受診することが推奨されます。

夜間救急を利用する際は、通常の診療よりも費用が高額になることが一般的です。これは、夜間や休日の人件費や設備維持費などが加算されるためです。

しかし、ペットの命を守るためには、費用面よりも迅速な対応が優先されます。

夜間救急の受診が必要な症状

猫にワクチン・注射を打つ獣医
夜間救急を受診すべきかどうか判断に迷う飼い主さんは多いでしょう。

深夜や早朝にペットの様子がおかしいと気付いたとき、朝まで待っても大丈夫だろうかと不安になるのは当然のことです。

しかしペットは言葉で痛みや苦しさを訴えることができないため、飼い主さんがいつもと違う様子にいち早く気付き、適切に判断することが命を守る鍵となります。

一般的に、呼吸の異常や大量の出血、痙攣などの症状は緊急性が高いとされています。

また、誤飲・誤食や交通事故の場合、外見上は軽傷に見えても重篤な症状が隠れている可能性があるため速やかな受診が必要です。

夜間救急では、こうした命に関わる急性症状に対して迅速な診断と治療を行うことで、ペットの生存率を高めることができます。

判断に迷った場合は、病院に電話で相談することがおすすめです。

多くの夜間救急病院では電話での問い合わせに対応しており、症状を伝えることで受診の必要性についてアドバイスをもらえます。

ここでは、緊急性が高く、すぐに夜間救急を受診すべき代表的な症状を具体的に解説します。

呼吸困難

ペットがお口を開けて苦しそうに呼吸している、または舌や歯茎が紫色や青白くなっている場合は、呼吸困難に陥っている可能性が高いです。ただちに受診してください。

呼吸困難の原因としては、心臓病や肺炎、気管支炎などが考えられます。特に短頭種(フレンチブルドッグやパグ)などは、気道が狭く呼吸器系のトラブルを起こしやすいです。

短頭種気道症候群ではいびきや喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難などの臨床徴候が認められ、重症化すると肺水腫を引き起こす可能性があります。

また、猫でも呼吸困難は命に関わる緊急事態です。呼吸が浅く速い、横になれずに座ったまま動かないなどの症状があれば、夜間でも躊躇せず救急病院に連絡しましょう。

痙攣や発作

突然の痙攣や発作は、脳や神経系の異常の可能性があり、緊急受診が必要です。

痙攣の特徴には、全身の硬直や意識喪失、排尿・排便のコントロールができなくなるなどが挙げられます。特に初めて痙攣を起こした場合や痙攣が5分以上続く場合、または短時間に複数回繰り返す場合はとても危険な状態です。

痙攣が起きたら、まず周囲の危険物を取り除き、ペットが怪我をしないよう安全を確保しましょう。痙攣の様子を動画で記録すると、獣医師の診断に役立ちます。

誤飲や誤食

餌を食べる犬

ペットが異物や有害物質を飲み込んだ場合、時間の経過とともに症状が悪化することが多いため、迅速な対応が求められます。

チョコレートやぶどう、ネギ類などはペットにとって有毒な食品です。

人間用の薬やおもちゃの部品、猫に有毒なユリ科の植物なども誤飲すると危険です。誤飲した可能性がある場合は、ただちに夜間救急を受診しましょう。

チョコレートに含まれるテオブロミンは、犬や猫にとって危険な物質です。犬や猫は、テオブロミンを分解する代謝酵素が弱く、ヒトより体内に長く残るため毒性が強く発現します。

チョコレートを摂取すると、通常は数時間から半日ほどで、嘔吐や落ち着きのなさなどの症状が現れます。症状が進むと動悸や神経過敏、痙攣となり突然死に至ることもあるため注意が必要です。

誤飲直後は無症状でも、数時間後に症状が現れることがあります。何をいつ、どのくらいの量飲み込んだかを獣医師に正確に伝えることが、適切な治療につながります。

事故

交通事故や高所からの落下、ほかの動物との喧嘩による外傷は見た目以上の内部損傷がある可能性があります。

特に意識不明や腹部膨張、嘔吐、血尿が見られる場合は、速やかに救急病院を受診することが重要です。

事故直後は興奮やショックで、痛みを感じにくくなっている場合があります。外見が軽傷に見えても、内臓損傷や骨折などの重大な損傷が隠れていることがあります。

移動の際は、ペットをできるだけ動かさないよう板や毛布の上に乗せて運び、首や背骨への負担を減らすことが大切です。

多量の出血やよだれ

止まらない出血や異常なよだれは、深刻な健康問題のサインである可能性があります。

多量の出血がある場合、外傷だけでなく血液凝固障害や腫瘍の破裂、消化管出血などが考えられます。特にお口やお鼻、尿や便に血が混じる場合は、内臓からの出血である可能性が高いです。

出血がある部位は清潔な布やガーゼで圧迫し、できるだけ早く夜間救急を受診しましょう。

また、大量のよだれが続く場合も注意が必要です。口腔内の異物や中毒、熱中症などが原因として考えられます。注意深く観察し、必要に応じて夜間救急を受診しましょう。

夜間救急利用の際に持って行くべき物

おむつをつける獣医さん

夜間救急では、普段のかかりつけ医とは異なる獣医師が診察することがほとんどです。

そのためペットの健康状態や既往歴、現在服用している薬などの情報を正確に伝えることが大切です。

口頭での説明だけでは伝えきれない情報も、書類や記録があれば獣医師に正確に伝わり、診療時間の短縮にもつながります。

また、夜間救急は通常の診療時間外のため、診療費が割増になることが一般的です。

ペット保険に加入している場合は保険証を、加入していない場合でも十分な現金やクレジットカードを用意しておきましょう。

夜間救急を受診する際は、スムーズな診療のために必要な物を持参しましょう。緊急時は慌ててしまい、必要な物を忘れがちですが、事前に準備しておくことで落ち着いて対応できます。

ここでは受診の際に持って行くべきものを具体的にご紹介します。

ペットの保険証や身分証明書

ペット保険に加入している場合は、保険証を持参しましょう。

夜間救急は診療費が高額になることが多いため、保険の適用で飼い主の経済的負担が軽減できます。

保険証には、契約者情報やペット情報、保険会社の連絡先などが記載されています。夜間救急で保険が利用できるかどうかを事前に保険会社に確認しておくと安心です。

ペット保険に加入していない場合でも、マイクロチップ登録証明書や鑑札などの身分証明書を持参すると、身元確認がスムーズになります。

マイクロチップは、首輪や迷子札のように外れる心配が少なく、よりしっかりした身元証明になります。

直近の血液検査結果

かかりつけの動物病院で定期的に健康診断を受けている場合は、直近の血液検査結果を持参すると診断に役立ちます。

血液検査では、肝臓や腎臓の機能、血糖値、電解質バランス、貧血の有無などを確認できます。

夜間救急では初めて診察する獣医師が担当することが多いため、過去の検査データがあると現在の状態と比較でき、より正確な診断につながるでしょう。

特に慢性疾患を抱えているペットの場合は、普段の数値を把握しておくことが重要です。

可能であれば、検査結果のコピーを常に持ち歩くか、スマートフォンで撮影しておくと便利でしょう。

使っている内服薬や外用薬

ペットが普段使用している薬がある場合は、薬の現物またはお薬手帳を持参しましょう。

薬の名前や用量、服用方法などの情報は、夜間救急での治療方針を決定するうえで重要です。

特に心臓病や糖尿病などの慢性疾患で継続的に薬を服用している場合、薬の情報を正確に伝えることが大切です。薬の相互作用や副作用を考慮し、適切な治療を行うことができます。

また、最近新しい薬を始めた場合や薬の量を変更した場合などの情報も重要です。急な体調不良が薬の副作用や薬剤アレルギーの可能性もあります。

夜間救急を利用する場合の注意点

猫を抱く動物病院の男女の日本人獣医師

夜間救急は緊急性の高い症状に対応する特殊な医療施設であり、通常の診療時間内に行われる一般診療とは運営体制や診療内容が大きく異なります。

まず理解しておきたいのは、夜間救急はかかりつけ医の代わりではなく、命を守るための応急処置を行う場所だということです。

限られた人員と設備の中で、複数の緊急患者に対応しなければならないため、診察の順番や処置内容が通常の動物病院とは異なる場合があります。

また、診療費も時間外料金が加算されるため、通常よりも高額になることが一般的です。

夜間救急を利用する際には、事前に電話で連絡を入れましょう。24時間対応であっても、獣医師が手術中であったり、ほかの重症患者の対応中であったりする場合があります。

以下の注意点を理解しておくことで、スムーズな受診が可能になり、ペットにより適切な医療を受けさせることができるでしょう。

一時的な処置のみになる場合もある

夜間救急は、生命の危機を回避するための応急処置を主な目的としています。

そのため、症状の安定化や痛みの緩和といった一時的な処置に留まり、根本的な治療は翌日以降にかかりつけの動物病院で行うことが一般的です。

夜間救急での処置後は、獣医師の指示に従い、翌日または指定された日にかかりつけの動物病院を受診しましょう。

夜間救急での処置内容や検査結果、処方薬などの情報を持参すると、継続的な治療がスムーズに進みます。

予約や事前の連絡が必要

夜間救急を利用する際は、事前に電話で連絡を入れることが推奨されます。

24時間対応の病院でも、獣医師の人数やほかの緊急患者の状況によっては、すぐに対応できない場合があるためです。

事前連絡をしておくと、病院側が受け入れ準備を整え、到着までの応急処置の指示を受けられます。

また診察の優先順位を判断してもらったり、持参すべき物を確認できたりするメリットもあります。電話では、ペットの種類や年齢、症状、既往歴などを簡潔に伝えましょう。

また、複数の緊急患者が同時に来院することもあり、到着順ではなく症状の緊急度によって診察順が決まります。

感染対策を講じる

ソファーのスーツケースに猫のゲージと上にうさぎ

夜間救急には、さまざまな病気や症状を持つペットが来院するため、感染対策が重要です。

受診時には、ワクチン接種状況や感染の疑いがある場合は電話で事前に伝え、待合室ではほかのペットとの距離を保つことが重要です。

また、必要に応じてキャリーケースに入れるか、リードでしっかりとコントロールするようにしましょう。病院によっては、感染症が疑われる場合、別の待合室や車内で待機するよう指示されることもあります。

獣医師やスタッフの指示に従い、感染拡大を防ぐため協力しましょう。

ペットのために普段から準備しておきたいこと

愛犬と遊ぶ女性

緊急時は冷静な判断が難しくなり慌ててしまうものですが、事前の準備があれば落ち着いて行動でき、ペットの命を守れる可能性が高まります。

ペットの緊急事態は、いつ起こるか予測できません。いつでも適切に対応できるよう、夜間救急病院の情報収集や基本的な応急処置の知識習得など、平常時にできる準備をしておくことが大切です。

また、夜間救急では診療費が高額になることが多く、予想外の出費に戸惑う飼い主さんも少なくありません。

経済的な理由で必要な治療を受けられないという事態を避けるためにも、ペット保険への加入や緊急時の医療費の備えについて考えておきましょう。

日頃の備えは、いざというときのお守りになります。ここでは、普段から準備しておくべき具体的な項目をご紹介します。

夜間救急外来のある病院の選定

いざというときに慌てないよう、自宅や職場の近くにある夜間救急動物病院を事前に調べておきましょう。選定の際には、診療時間や対応動物の種類、設備、検査項目などを確認しておくことをおすすめします。

複数の夜間救急病院をリストアップし、連絡先や住所、診療時間をメモしておくと安心です。可能であれば事前に見学して場所を確認しておくとよいでしょう。

緊急処置方法の把握

夜間救急を受診するまでの間に、適切な応急処置を行うことで、ペットの状態を一時的に安定させられます。

基本的な緊急処置として、心肺蘇生法や止血、骨折時の固定、異物除去などの方法を学んでおくことをおすすめします。

救急処置に関するセミナーや講習会が開催されていることもあるため、積極的に参加してみましょう。

ただし無理な処置はかえって状態を悪化させることもあるため、できる範囲で対応し、速やかに獣医師の診察を受けることを優先しましょう。

ペット用の救急箱を用意し、ガーゼや包帯、消毒液などを常備しておくことも推奨されます。

また、緊急時にペットに負担をかけない運び方を、事前に確認、練習しておきましょう。

ペット保険への加入

ペット保険5

夜間救急の診療費は、通常より高額になることが多いため、ペット保険への加入を検討しておきましょう。

ペット保険に加入していれば、突然の高額医療費にも対応しやすく、経済的な理由で治療をためらうことなくペットに適切な医療を受けさせられます。

保険選びの際は、補償割合や1回あたりの限度額、夜間救急の対応範囲などを確認しましょう。若いうちに加入すると、保険料を抑えられる場合があります。

複数の保険会社のプランを比較し、ペットの年齢や健康状態、予算に合った保険を選びましょう。

夜間救急受診の費用相場

ペットの医療費イメージ

夜間救急の診療費は、診療時間外の対応や緊急処置が必要となるため、通常の動物病院より高額になるのが一般的です。

初診料や時間外料金は5,000~15,000円(税込)程度が相場となっています。また、点滴は3,000~10,000円(税込)程度、注射は2,000~5,000円(税込)程度です。

入院費は1泊あたり10,000~30,000円(税込)程度、手術は50,000~数十万円(税込)程度かかることもあります。

症状が軽度で診察と薬の処方のみであれば、15,000〜30,000円(税込)程度で済むこともありますが、検査や処置が必要な場合は50,000円(税込)以上かかることも珍しくありません。

費用に不安がある場合は、診察前にスタッフに概算を確認できる病院もあります。ペット保険に加入していれば、保険が適用されることで自己負担額を軽減できます。

まとめ

ペットに関わる仕事をする男女

夜間救急は、ペットの命を守るために欠かせない医療サービスです。呼吸困難や誤飲、事故、出血などの緊急性の高い症状が見られた場合は、躊躇せず夜間救急を受診しましょう。

受診の際には、ペットの保険証や血液検査結果、使用中の薬を持参し、事前に電話連絡を行うことが大切です。

夜間救急は応急処置が中心となるため、翌日以降はかかりつけの動物病院で継続治療を受けましょう。

日頃から夜間救急病院の情報を確認し、基本的な応急処置方法を学んでおくことが重要です。また、ペット保険への加入など、経済面での備えも整えておきましょう。

大切な家族であるペットの健康を守るために、夜間救急に関する正しい知識を持ち、いざというときに落ち着いて対応できるよう備えておきましょう。

参考文献