愛犬が突然、鼻から激しく空気を吸い込むような音を立てて苦しそうにしていたら、飼い主は驚き不安になるでしょう。
この症状は逆くしゃみと呼ばれ、多くの犬に見られる生理的な呼吸器系の現象です。
通常のくしゃみと異なり、息を吸い込む動作が特徴で、数秒から数十秒間続くことがあります。
ほとんどの場合は生理的な反応のため心配は少ないですが、病気のサインである可能性も否定できません。
本記事では逆くしゃみのメカニズムや原因、関連する病気について獣医学的な視点から解説します。
犬の逆くしゃみとは

犬の逆くしゃみは、鼻腔や咽頭に刺激が加わることで引き起こされる特殊な呼吸反応です。通常のくしゃみは息を吐き出す動作ですが、逆くしゃみは連続的に息を吸い込む動作が特徴です。
発作中の犬は首を伸ばして肘を張った姿勢を取り、「ブーブー」「ガーガー」といった音を発します。多くの犬種で観察される現象ですが、特に短頭種や小型犬での発生頻度が高いことが知られています。
症状は自然に治まることがほとんどで、発作後は何事もなかったように正常な状態に戻るでしょう。
逆くしゃみとは
逆くしゃみは、犬が鼻腔や咽頭部に刺激を受けた際に生じる反射的な呼吸動作を指します。
正式には発作性呼吸とも呼ばれ、鼻から急速かつ連続的に空気を吸い込む現象です。
この際、犬は首を伸ばし、肘を張った姿勢を取ることが多く見られます。音としては「ブーブー」「ガーガー」といった表現が用いられ、飼い主には息ができていないように見えることもあるでしょう。
発作は通常数秒から1分程度で自然に治まり、その後は何事もなかったように正常な状態に戻ります。
くしゃみとの違い

通常のくしゃみは、鼻腔内の異物や刺激物を排出するために息を勢いよく吐き出す動作です。
一方、逆くしゃみは息を吸い込む動作であり、空気の流れる方向が正反対です。くしゃみでは鼻やお口から飛沫が飛び散ることがありますが、逆くしゃみでは外部への飛散は見られません。
また、くしゃみは1回から数回で終わることがありますが、逆くしゃみは連続的な吸気動作が続きます。
発生時の姿勢も異なり、くしゃみでは頭部が下がることがあるのに対し、逆くしゃみでは首を伸ばした特徴的な体勢です。
逆くしゃみをしやすい犬種
短頭種と呼ばれる鼻の短い犬種では、逆くしゃみの発生頻度が高いことが知られています。
具体的にはパグやフレンチブルドッグ、シーズー、ペキニーズなどが該当します。これらの犬種は生まれつき気道の構造が狭く、呼吸器系のトラブルが起きやすい犬種です。
また、小型犬全般でも逆くしゃみはよく観察され、チワワやヨークシャーテリア、トイプードルなどでも報告されています。
大型犬に比べて気道が細いことや、興奮しやすい性質が関係していると考えらます。
犬の逆くしゃみの原因

犬の逆くしゃみには、生理的なものから病的なものまでさまざまな原因が存在します。特に一般的なのは、鼻腔内への異物混入や刺激物による一時的な反応です。
埃や花粉、草の種などが鼻腔粘膜を刺激することで、防御反応として逆くしゃみが誘発されます。
また、興奮やストレスといった感情の変化も、呼吸パターンを乱して逆くしゃみを引き起こす要因となります。
一方で感染症や腫瘍、構造的異常などの病気が背景にある場合もあり、注意深い観察が必要です。
病気
逆くしゃみの原因として、さまざまな呼吸器疾患が挙げられます。鼻腔や咽頭部に炎症が生じると、粘膜が腫れて気道が刺激されることから逆くしゃみが誘発されるでしょう。
感染症による炎症やアレルギー性鼻炎、腫瘍による気道の圧迫なども原因となりえます。
また、気管虚脱や軟口蓋過長症といった構造的な異常も、気道の狭窄を引き起こし逆くしゃみを生じさせることがあります。
病気が原因の場合、逆くしゃみの頻度が増加したり、ほかの症状を伴ったりする傾向が見られるでしょう。
鼻に異物が混入している

異物の混入は、逆くしゃみを引き起こす一般的な原因の一つといえます。散歩中に草の種や小さな虫が鼻腔内に入り込むことや、室内の埃や花粉が刺激となることがあるでしょう。
また、急激な温度変化や刺激性のある匂いも鼻腔粘膜を刺激し、逆くしゃみを誘発します。
香水や芳香剤、タバコの煙なども刺激物質として作用することがあり、注意が必要です。異物が原因の場合、逆くしゃみは一時的なもので、排除されれば症状は治まる傾向にあります。
興奮やストレス感情によるもの
興奮状態やストレスも逆くしゃみを引き起こす要因として知られています。遊びに夢中になっているときや、散歩に出かける前の興奮時に発生することが多く見られます。
また、環境の変化や来客などによる緊張状態でも、呼吸が速くなることで気道が刺激され逆くしゃみが誘発されます。
首輪やハーネスによる物理的な圧迫が、興奮時の引っ張りと相まって気道を刺激することもあるでしょう。
これらの場合、落ち着けば自然に症状は消失し、特に治療を必要としないことがほとんどです。
犬の逆くしゃみの原因を調べるための検査

逆くしゃみが頻繁に起こる場合やほかの症状を伴う場合、獣医師は原因を特定するために各種検査を実施します。
まず問診と身体検査により、症状の発生状況や犬の全身状態を評価します。鼻腔や口腔内の視診、リンパ節の触診、聴診器による呼吸音の確認が基本的な検査です。
必要に応じてレントゲン検査やCT検査により、鼻腔内や気道の構造的異常、腫瘍の有無を画像診断します。
鼻腔内視鏡検査では、鼻腔内部を直接観察して異物や炎症の状態を確認できます。感染症が疑われる際には、鼻汁の細菌培養やウイルス検査も行われることがあります。
犬の逆くしゃみが生じる可能性のある病気

逆くしゃみの背景には、さまざまな呼吸器疾患が潜んでいる可能性があります。感染症による炎症性疾患から、腫瘍などの占拠性病変まで、原因となる病気は多岐にわたるでしょう。
特に短頭種では、品種特有の解剖学的異常が逆くしゃみを引き起こしやすい状況を作り出しています。
また、加齢に伴う組織の変化や、慢性的な刺激による粘膜の変性も、逆くしゃみの原因となる病態を形成することがあります。
これらの病気は早期発見と適切な治療が重要です。症状が続く場合には獣医師の診察を受けることが推奨されます。
感染症
細菌感染やウイルス感染は、鼻腔や上部気道に炎症を引き起こし、逆くしゃみの原因となります。
犬パラインフルエンザウイルスや犬アデノウイルスなどの呼吸器系ウイルスは、いわゆる「ケンネルコフ」と呼ばれる犬伝染性気管気管支炎の原因です。
これらの感染症では、咳や鼻水、発熱などの症状が逆くしゃみとともに見られることがあります。真菌感染も鼻腔内で炎症を起こし、慢性的な鼻炎や鼻出血を伴うこともあるでしょう。
感染症による逆くしゃみは、適切な抗菌薬や抗ウイルス薬による治療が必要です。
咽頭炎

咽頭炎は、咽頭部の粘膜に炎症が生じる病態を指し、逆くしゃみの原因となることがあります。細菌やウイルスの感染、異物の刺激、アレルギー反応などが原因で発症します。
咽頭炎では、嚥下時の痛みや食欲不振、咳などの症状が見られることがあり、逆くしゃみもこれらと併発することもあるでしょう。
慢性化すると粘膜の肥厚や気道の狭窄を引き起こし、呼吸困難につながる可能性もあります。
診断には内視鏡検査が有用で、炎症の程度や範囲を確認できます。治療には抗炎症薬や抗生物質が用いられることが一般的です。
鼻腔内の腫瘍や腫瘤
鼻腔内腫瘍は、中高齢の犬でしばしば見られ、逆くしゃみを引き起こす重要な原因の一つです。腺がんや扁平上皮がんなどの悪性腫瘍が多く、鼻腔内で増殖することで気道を物理的に狭窄させるからです。
症状としては、逆くしゃみに加えて鼻出血や顔面の変形、くしゃみの頻発などが見られます。良性の鼻腔ポリープも鼻腔内を占拠し、同様の症状を引き起こすことがあります。
診断にはCT検査やMRI検査が有用で、腫瘍の範囲や周囲組織への浸潤を評価できます。治療には外科的切除や放射線療法が検討されます。
短頭種気道症候群

短頭種気道症候群は、短頭種に特有の解剖学的異常による呼吸器疾患の総称です。狭窄した外鼻孔、過長な軟口蓋、気管低形成などの複数の異常が組み合わさって発症します。
これらの構造的問題により気道抵抗が増加し、呼吸時に過度な努力が必要となることから逆くしゃみが頻発します。
症状は暑い環境や運動時に悪化しやすく、いびきや「ガーガー」という呼吸音が特徴的です。
重症例では呼吸困難やチアノーゼを呈することもあり、緊急処置が必要となる場合があります。治療には外鼻孔拡大術や軟口蓋切除術などの外科手術が行われることもあります。
咽頭気道閉塞症候群
咽頭気道閉塞症候群は、咽頭部の軟部組織が気道を閉塞する病態を指します。肥満や加齢に伴う組織の弛緩が原因となることが多く、睡眠時や安静時に症状が現れやすいでしょう。
この症候群では、吸気時に軟部組織が気道内に引き込まれることで閉塞が生じ、逆くしゃみや呼吸困難を引き起こします。
いびきの悪化や睡眠時無呼吸などの症状も伴うことがあり、生活の質を低下させるでしょう。
診断には覚醒時および鎮静下での咽頭部の観察が必要です。治療としては体重管理が基本となり、外科的に過剰な組織を切除することも検討されます。
犬の逆くしゃみで動物病院を受診するタイミング

逆くしゃみの多くは一時的なもので自然に治まりますが、受診が必要な状況も存在します。1日に何度も繰り返される場合や、1回の発作が数分以上続くときは動物病院での診察を検討すべきでしょう。
また、逆くしゃみに伴って鼻血や膿性鼻汁、持続的な咳などのほかの呼吸器症状が見られる場合も注意が必要といえます。
呼吸困難や口腔粘膜が青紫色になるチアノーゼが出現した際には、緊急性が高いためただちに受診しなければなりません。
食欲不振や元気消失、体重減少といった全身状態の悪化が認められる場合も、基礎疾患の存在を疑う必要があるでしょう。
症状を動画撮影しておくと、診察時に獣医師が状況を正確に把握する助けになります。
犬の逆くしゃみの予防法

逆くしゃみを完全に防ぐことは困難ですが、発生頻度を減らすための対策は可能です。環境要因による刺激を抑えることや、気道への物理的負担を軽減することが基本的なアプローチです。
日常生活のなかで実践できる予防策を取り入れることで、愛犬の快適性を向上させることができるでしょう。
特に逆くしゃみを起こしやすい犬種や、すでに症状が見られる犬に対しては、積極的な環境改善が推奨されます。
予防法を実践しても症状が改善しない場合には、獣医師に相談して原因を特定することが重要です。
埃やアレルゲンへの配慮
室内環境を清潔に保つことは、埃やアレルゲンによる刺激を減らすために重要です。定期的な掃除や空気清浄機の使用により、空気中の浮遊物質を減少させることができるでしょう。
カーペットやカーテンなどの布製品はダニやカビの温床となりやすいため、こまめな洗濯や交換が望ましいです。
芳香剤や化学薬品の使用は抑え、犬の生活空間では刺激の少ない製品を選ぶことが推奨されます。
散歩の際には花粉の時期や時間帯を避けることや、帰宅後に足や体を拭いてアレルゲンを持ち込まないことも有効な対策です。
首への負担を軽減する
首輪による気管への圧迫は、逆くしゃみを誘発する要因の一つです。特に引っ張り癖のある犬では、散歩中に首輪が気管を強く圧迫することがあります。
この場合、ハーネスへの切り替えを検討することで、首への負担を大幅に軽減できます。ハーネスは胸部や背中で体重を支えるため、気管への直接的な圧力を避けられるでしょう。
また、リードを短く持ちすぎないことや、犬が急に引っ張らないようトレーニングすることも重要な予防策です。首輪を使用する場合でも、適度な緩みを持たせ、締めすぎないよう調整することが必要です。
まとめ

犬の逆くしゃみは、鼻腔や咽頭部への刺激によって生じる反射的な呼吸動作で、多くの場合は一時的なものです。
通常のくしゃみとは異なり、息を吸い込む動作が特徴で、短頭種や小型犬に多く見られます。
原因としては異物の混入や興奮による生理的なものから、感染症や腫瘍などの病的なものまで幅広く存在します。
頻度が高い場合やほかの症状を伴う場合には、動物病院での検査が必要です。予防には環境整備や首への負担軽減が有効であり、日常的なケアが重要です。
愛犬の呼吸の様子を注意深く観察し、異常を感じたら早めに獣医師に相談することが、健康維持につながります。
