去勢・避妊手術は、ペットの健康を守り、快適な生活を送るために重要な選択の一つです。
本記事では動物病院の去勢・避妊手術について以下の点を中心にご紹介します。
- 動物の去勢・避妊手術について
- 去勢・避妊手術が行われる理由
- 去勢・避妊手術後に注意すべき点
動物病院の去勢・避妊手術について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
動物の去勢・避妊手術について

動物の去勢・避妊手術はどのようなものなのでしょうか。ここでは、それぞれの特徴を解説します。
動物の去勢・避妊手術とは
去勢・避妊手術は、望まない妊娠や出産を防ぐだけでなく、生殖器に関連する病気のリスクを軽減し、発情期のストレスを緩和する目的で行われます。
特にメスの場合、未避妊のまま何度も発情を繰り返すと、ホルモンの影響で子宮や卵巣の病気を発症するリスクが高まるため、早めの手術がおすすめされることもあります。
去勢手術の特徴
去勢手術は、オスの精巣を摘出し、生殖能力を取り除く手術です。繁殖を防ぐ目的だけでなく、発情期のストレスを軽減し、縄張り意識や攻撃性の抑制が期待できます。
また、手術を受けることで、ほかの動物とのケンカが減り、不要なケガを防げるだけでなく、精巣腫瘍や前立腺疾患などの病気の予防にもつながります。
さらに、犬のマーキングや猫のスプレー行動の抑制にも効果が期待できます。
避妊手術の特徴
避妊手術では、メスの子宮や卵巣を摘出し、繁殖を防ぐ処置が行われます。この手術は、望まない妊娠を防ぐだけでなく、生殖器に関連する病気の予防や発情期のストレス軽減といったメリットもあります。
特に乳腺腫瘍、子宮蓄膿症、卵巣腫瘍などの疾患リスクを低減できるため、健康面でも有益な選択肢となります。また、犬では発情期の出血がなくなり、猫では発情期の大きな鳴き声が抑えられるため、飼い主の負担も軽減されます。
去勢・避妊手術を行うタイミング
去勢・避妊手術の適切なタイミングは、生後6〜7ヵ月頃、初めての発情期を迎える前が理想とされています。この時期に手術を受けることで、メスは乳腺腫瘍の発症リスクを低減でき、オスはマーキングや攻撃的な行動の抑制が期待できます。
成犬や成猫になってからでも手術は可能とされていますが、TNRを除いては全年齢で術前検査は必要です。なかでも、メスは発情期を避けて手術を行うことが推奨されます。
去勢・避妊手術が行われる理由

去勢・避妊手術は、どのような理由で行われるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
病気を防ぐため
去勢・避妊手術は、望まない繁殖を防ぐだけでなく、生殖器に関連する病気の予防にもつながります。
例えば、メスでは子宮蓄膿症や乳腺腫瘍が発生するリスクがあり、特に猫の乳腺腫瘍の多くは悪性で再発しやすい傾向があります。オスでは精巣腫瘍や前立腺疾患のリスクが高まり、停留睾丸(陰睾)の場合、腫瘍の発生確率が上昇します。
また、繁殖行動をする上での縄張り争いでの咬傷やケンカによるFIVFELVの感染、屋外で生活することでの消化管内寄生虫・外部寄生虫などによる感染症リスクもあるため、手術によってこれらの病気を予防できます。
問題行動を減らすため
去勢・避妊手術は、発情期に見られる問題行動を軽減するためにも行われます。発情すると、猫は大きな声で鳴き続けたり、スプレー行動(尿をかける行為)をしたりすることがあり、犬ではマーキングやマウンティング、遠吠え、逃亡といった行動が増えることがあります。
これはホルモンの影響によるもので、しつけでは抑えられないため、手術を行うことで、こうした行動が軽減され、ストレスの少ない生活を送れるようになります。特に発情によるストレスはペットにとって負担となるため、手術によって心身の安定につながるケースが多く見られます。
殺処分を減らすため
去勢・避妊手術は、望まない繁殖を防ぎ、殺処分される命を減らすためにも重要な役割を果たします。毎年、犬や猫が生まれる一方で、飼い主のいない動物たちが行き場を失い、保健所や動物愛護センターで命を落としているのが現実です。
特に、野良猫の平均寿命は3〜4年とされ、過酷な環境で生き延びることが難しい状況にあります。去勢・避妊手術は、こうした問題を根本から解決し、動物たちが安心して暮らせる社会をつくるための大切な選択です。
去勢・避妊手術で予防につながる病気

去勢・避妊手術では、どのような病気が予防できるのでしょうか。ここでは、主な病気を交えて解説します。
去勢手術(オス)
去勢手術では、以下のオス特有の病気が予防できます。
- 前立腺肥大症
前立腺肥大症は、前立腺が大きくなることで尿道が圧迫される病気ですが、去勢手術を行うことで前立腺肥大の原因となる男性ホルモンの分泌が抑えられます。 - 肛門周囲腺腫
肛門周囲腺腫は、肛門の周囲にできる腫瘍で、放置すると腫瘍が大きくなり、化膿や出血を引き起こすこともあります。去勢手術によってホルモンの影響を抑えることで予防や再発防止ができます。 - 会陰ヘルニア
会陰ヘルニアは、高齢のオス犬に多く見られる病気で、重症化すると手術が必要ですが、去勢を行うことで筋肉の衰えを防ぎ、発症リスクを軽減できます。 - 精巣腫瘍
精巣腫瘍は、ホルモンの異常分泌により、脱毛や乳房の腫れなどの症状が出ることもあります。去勢手術を行えば精巣が摘出されるため、精巣腫瘍の発症リスクを防げます。
避妊手術(メス)
避妊手術で予防できる病気は以下のとおりです。
- 乳腺腫瘍
乳腺腫瘍は、乳腺の周辺にしこりができる病気で、進行するとほかの臓器に転移する可能性がありますが、犬の場合、発情前に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍の発症リスクを抑えられるとされています。 - 子宮蓄膿症
子宮蓄膿症は、子宮内に細菌が侵入し、膿がたまることで発症する病気ですが、進行すると子宮が破裂し、命に関わる重篤な状態になることもあります。避妊手術を行うことで、発症を根本的に防ぎます。 - 卵巣腫瘍
卵巣腫瘍は、悪性の場合は転移しやすく、腹腔内のリンパ節や肝臓、肺などに影響を及ぼすことがあります。避妊手術で卵巣を摘出することで、発症リスクを減らせます。
このように、避妊手術は単に繁殖を防ぐだけでなく、生涯にわたる健康維持にも大きく貢献します。
動物病院で行われる去勢・避妊手術の流れ

ここまで、去勢・避妊手術について解説しました。ここからは、動物病院で行われる去勢・避妊手術の流れを以下で見ていきましょう。
術前検査(約1週間前)
術前検査は、動物の健康状態を正確に把握し、全身麻酔や手術に伴うリスクを抑えるために欠かせません。
特に血液検査は基本的な検査として実施されます。
また、超小型犬の場合は低血糖のリスクがあるため、血糖値の確認も必要です。さらに、皮膚病のある動物ではホルモン異常が関与していることもあるため、必要に応じて追加検査を行うこともあります。
手術前日
手術前日は、全身麻酔の安全性を高めるために12時間程度の絶食が必要です。なかでも、胃の内容物が逆流して気道に入り、誤嚥や窒息を引き起こすリスクを防ぐため、夜21時以降は食事やおやつを与えないようにしてください。
子犬や子猫の場合、絶食時間が短めに設定されることもあるため、事前に動物病院の指示を確認しておきましょう。また、手術前日はいつもどおり過ごし、ストレスを与えないように配慮することも大切です。
手術当日(術前準備)
手術当日は以下の流れで進められます。
手術
去勢手術・避妊手術の流れは、以下のとおりです。
【去勢手術】
去勢手術は全身麻酔のもとで行われ、手術前には麻酔前投与薬を投与し、次に麻酔導入薬を使用します。意識が薄れたら気管チューブを挿入し、酸素を送りながら麻酔維持薬を吸入させます。麻酔の処置が完了した後、手術部位の剃毛・消毒を行い、手術が始まります。
犬の場合は、陰嚢の前の皮膚を切開し、精巣を摘出します。猫の場合は、陰嚢自体を直接切開し、精巣を取り出します。猫の去勢手術では、傷口の癒合が早いため、縫合を行わず、自然治癒に任せることが多いとされていますが、病院によって処置方法が異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
【避妊手術】
避妊手術は全身麻酔のもとで行われ、まず麻酔前投与薬を投与し、麻酔導入薬によって意識を低下させます。その後、気管チューブを挿入し、酸素を送りながら麻酔維持薬を吸入させて麻酔を安定させます。手術部位の剃毛・消毒を行い、清潔な状態にしてから手術が開始されます。
手術では、おへそから下の皮膚を切開し、開腹して卵巣のみ、または卵巣と子宮の両方を摘出します。 皮膚・皮下組織・腹筋を順に切開し、摘出後は開腹した順番とは逆に縫合していきます。
なお、使用する麻酔薬の種類や猫の性格などにより手術の流れが異なる場合があるため、事前に確認することが大切です。
再診・抜糸
手術後は、経過観察のため7〜10日後に再診を行い、傷口の状態をチェックします。特に、犬やメスの猫は皮膚を縫合しているため、この時期に抜糸を行います。
一方、オスの猫は去勢手術で縫合を必要としない場合が多いようです。しかし、潜在精巣の場合は、抜糸が必要になることがあります。抜糸がない縫合方法で施術している病院もあるので、事前に調べておく必要があります。
抜糸後は、傷口や体調に問題がなければ通院は終了となります。シャンプーやお風呂は、抜糸後3日程経過してから可能とされているため、それまでは控えることが大切です。
病院によっては溶ける糸や接着剤を使用し、抜糸を必要としないケースもあるため、具体的な処置については、事前に確認しておくと安心です。
去勢・避妊手術後に注意すべき点

去勢・避妊手術後に注意すべき点もあります。
傷口のケア
去勢・避妊手術後の傷口は、清潔に保ちなめさせないことが重要です。また、糸を取ってしまい、傷口が開くと再縫合の可能性があるため注意が必要です。特に、抜糸が必要な手術の場合、唾液に含まれる雑菌が傷口に入ると、化膿や炎症のリスクが高まるため、傷口を保護するために、エリザベスカラーの装着を推奨します。抜糸の必要がない埋没縫合の場合でも、気にしてなめるようであれば、エリザベスカラーを活用しましょう。
ストレス・体調管理
去勢・避妊手術後は体調が不安定になりやすいため、獣医師の指示に従い、薬の投与や食事管理、安静に過ごせる環境を整えることが大切です。
また、傷口の影響で違和感を感じたり、環境の変化でストレスを受けやすくなることもあるため、過度な興奮や激しい運動を避け、落ち着ける場所で過ごさせてください。
さらに、食欲不振・元気消失・排泄異常の異常などが見られた場合、「様子を見る」のではなく、すぐに動物病院へ相談しましょう。
肥満になりやすい
去勢・避妊手術後はホルモンバランスの変化により基礎代謝が低下し、運動量も減少しがちです。しかし、食欲は増す傾向があるため、手術前と同じ食事を続けていると体重が増えやすくなります。
また、肥満は関節や心臓に負担をかけ、糖尿病などの病気のリスクを高める要因になります。したがって、手術後の健康を維持するためにも、低カロリーのフードを選ぶ・給餌量を調整する・適度な運動を心がけることが大切です。
犬の散歩
去勢・避妊手術後も、排泄のために外へ出る必要がある犬は無理のない範囲で散歩を継続することが大切です。ただし、手術直後は体力が回復していないため、いつもより短めに、ゆっくり歩くことを意識しましょう。
なかでも、全力疾走やジャンプなどの激しい動きは傷口に負担をかけるため避け、散歩中も清潔を保つよう注意してください。
去勢・避妊手術を受ける動物病院の選び方

最後に、去勢・避妊手術を受ける動物病院の選び方について解説します。
目的の手術を行なっているか
動物病院によっては、すべての去勢・避妊手術を行っているとは限りません。オスのみ対応、限定された条件下でのみ手術可能、そもそも手術を実施していないなど、対応は病院によって異なります。
そのため、事前に問い合わせを行い、希望する手術が可能かどうかを確認することが大切です。
立地や診療時間
動物病院を選ぶ際は、自宅からの距離や通院のしやすさも考慮することが重要です。具体的には、車で10〜15分圏内、または直径3km程度の範囲が通いやすい距離とされています。ただし、通いやすい場所にある病院であっても、診療時間がライフスタイルと合わなければ継続して通うのは難しくなるため、注意が必要です。
また、仕事や生活スタイルに合わせて、夜間診療や予約診療の有無、休日診療の対応も確認しておきましょう。夜間や休日も対応している病院であれば、万が一の際にも安心です。
病院の設備や清潔さ
病院を選ぶ際は、待合室や診察室、入院室が清潔に保たれているかも確認しましょう。衛生管理が徹底されている病院は、感染対策や手術環境にも配慮が行き届いています。 一見すると新しく設備が整っている病院でも、細かい部分まで清掃が行き届いているかが重要です。
親身な先生か
信頼できる獣医師は、診察時にペットの健康状態や手術のリスク・メリットをわかりやすく説明し、飼い主の不安に寄り添ってくれます。一方的に話すのではなく、飼い主の質問に対しても丁寧に答えてくれるかが重要なポイントです。
また、ペットの扱いが優しく、診察時も負担を抑える配慮が見られる獣医師なら安心です。
料金が明確か
手術費用の明細がしっかりと記載されているか、保険の適用が可能か、料金体系が明確かを確認することが大切です。また、健康診断のセット割引や病院独自の特典がある場合、それらを活用できるかもチェックしておきましょう。
まとめ

ここまで動物病院の去勢・避妊手術についてお伝えしてきました。動物病院の去勢・避妊手術の要点をまとめると以下のとおりです。
- 去勢・避妊手術は、病気予防や発情期のストレス軽減につながる重要な処置である
- 去勢・避妊手術は、動物たちが健やかに暮らせる環境を守るとされている
- 去勢・避妊手術後は、傷口のケアやストレス管理が重要だが、肥満を防ぐため食事や運動を調整し、異常があれば早めに動物病院へ相談することが大切である
去勢・避妊手術は、病気予防や問題行動の抑制、殺処分の減少に役立ちますが、適切な時期やリスクを理解し、信頼できる動物病院を選ぶことが大切です。
これらの情報が少しでも動物病院の去勢・避妊手術について知りたい方のお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。