歯周病は、日本人の国民病といっても差し支えないほど身近な病気です。
厚生労働省の統計調査によれば、歯を支える組織に深い溝ができている方の割合は、国民の半数近くにのぼることが明らかになっています。
人間同様、動物も歯周病に罹患する場合があります。ペットにおいても歯周病は一般的な疾患の一つです。
今回はペットにおける歯周病の特徴や治療方法について、解説します。また、治療する際に気になる費用の目安も紹介するので、動物病院を訪れる際の参考にしましょう。
ペットの歯周病とは

歯周病とは細菌が歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)から侵入して各種症状を引き起こす病気です。
歯周病は複数の疾患の総称として使われます。細菌が歯周ポケットに侵入して炎症を引き起こす歯肉炎や歯槽骨を溶かす歯周炎も歯周病の一種です。
ペットの歯周病には、注意しましょう。動物園や家庭で飼われている動物は野生動物と比較して、より重度の歯周病に罹患しやすい傾向があるためです。
飼育されているペットは、やわらかいエサを与えられることが多いでしょう。硬い食物を食べると、歯や歯茎に付着した食べかすを除去することが可能です。
一方、やわらかい食べ物は、食べかすを落としにくいところがあります。このため、歯垢であるプラークが徐々に蓄積して歯茎が腫れやすくなります。
ペットの歯周病の原因

ペットの歯周病も、人間同様細菌が原因です。歯周ポケットに食べかすが溜まると、それをエサにして細菌が繁殖します。
その結果、歯周病の一種の歯肉炎を引き起こします。ペットは人間と比較して、歯周病になりやすいといわれるので注意が必要です。
人間と比較して、動物の場合、日常的な口腔ケアが困難なためです。知らず知らずのうちに歯周病が進行して、歯の喪失や顎骨が折れる恐れも出てきます。
犬の場合、成犬の大多数が歯周病に関わる細菌に感染しているというデータもあるほどです。日常的に口腔ケアを行って、歯周病予防に力を入れましょう。
歯周病の症状

ペットが歯周病に罹患しているのか、飼い主としては気になるところでしょう。歯周病を発症すると、さまざまな症状が出てきます。
ペットの歯周病における代表的な症状を紹介します。主な症状は以下のとおりです。
- 口臭
- 歯茎の腫れや赤み
- 出血
- 噛み方の変化や食欲の低下
ペットの様子に違和感があれば、以上の症状に当てはまるものがないか確認しましょう。もし該当するものがあれば、速やかに医療機関の診察を受けるのがおすすめです。
口臭
ペットの歯周病の初期症状の一つに、口臭があります。以前と比較して口臭が強くなったと感じるのであれば、要注意です。
歯周病は食べかすがプラークと呼ばれる歯垢になり、これをエサにして細菌が繁殖します。その結果、口臭が強くなるわけです。
口臭が強くなるのは、歯周病以外にも内臓疾患が関係しているかもしれません。また口腔内に腫瘍が発生している可能性もあります。
いずれも放置していると、深刻な状態になりかねません。口臭が気になるなら、早めに動物病院の診療を受けたほうがよいでしょう。
歯茎の腫れや赤み

歯周病の初期段階である歯肉炎に見られる代表的な症状の一つです。歯周病にかかっている歯茎は、全体的に盛り上がっています。
ただ軽度の段階では、正常の歯茎と見分けるのは飼い主には難しいかもしれません。症状が進行すると、腫れや赤みがより強くなります。
歯周病になると、歯茎が赤く変色します。健康なペットの歯茎の色はピンクが一般的です。
先ほども紹介したように、症状が進行すると歯茎の赤みが増し、黒みがかった赤のような色合いに変化していきます。
出血
歯周病になると歯茎が腫れて赤く変色するのは、別項で紹介したとおりです。そこからさらに症状が進行すると、歯茎から出血が見られるようになり、こちらも代表的な症状の一つです。
歯肉や歯根で炎症が慢性的に起きていると、簡単に出血してしまいます。ペットはおもちゃを噛むことがよくあります。
噛んだ後のおもちゃに血が付着していたのであれば、要注意です。また、悪化するに伴い、出血量も多くなる傾向が見られます。
以前よりも頻繁にかつ大量に出血するようになれば、動物病院の診察を受けたほうがよいでしょう。
噛み方の変化や食欲の低下

ペットが食事の際に噛み方が変わったり、食べなくなったりした場合は、歯周病が原因の可能性があります。歯周病が進行し、歯茎が弱っているためです。
症状が進行すると歯茎が弱体化し、歯がぐらぐらします。歯が安定しないため、ゆっくりと噛んだり、しっかり噛み込めなかったりします。
食欲がなくなるのは歯がぐらぐらするほかにも、口内炎ができているためかもしれません。この口内炎も歯周病の症状の一つです。
皆さんも口内炎ができると、痛くて食べるのが辛く感じることもあるでしょう。動物も同様で、痛みで食欲を失う場合があります。
犬の歯周病の治療方法と流れ

もしペットが歯周病にかかっている可能性があれば、速やかに動物病院の診察を受けましょう。動物病院に行けば、適切な治療が受けられるためです。
では、犬が歯周病と診断された場合、どのような治療が行われるか気になるでしょう。ここでは歯周病の主要な治療方法を解説します。
歯周病は治療せずに放置していると、症状が進行してしまいます。症状が悪化すると、より大がかりな治療が必要です。
場合によっては抜歯しなければならない可能性もあるので、早めに動物病院の獣医師に診せましょう。
スケーリング
軽度の歯周病であれば、スケーリングで対応できる場合があります。歯周病の原因はプラークといわれています。
超音波スケーラーと呼ばれる器具を使って、プラークを除去していく治療です。プラークは進行すると歯石に変化します。
文字どおり石のように硬くなるため、通常の歯磨きでは除去が困難です。スケーリングであれば、しっかり除去できます。
ルートプレーニング
犬の歯周病の治療の一環として、ルートプレーニングを実施する場合があります。歯根面を処置する治療方法の一つです。
歯周病により汚染や軟化してしまった歯根表面のセメント質や象牙質を除去します。また歯根に付着しているプラークや歯石を除去し、きれいにするのが目的です。
ルートプレーニングで使用するのは、キュレットです。また超音波スケーラーに歯肉縁下部用の専用チップを装着して、治療する場合もあります。
歯根面を滑らかに仕上げるのが目的で、歯肉の再付着を促進します。スケーリングの後にセットで治療を行うのが一般的です。
抗生物質の使用

歯周病の治療方法として、抗生物質を用いる場合があります。特に炎症を起こしている部位や歯周ポケットの深い箇所を対象に実施される治療法です。
歯周病は細菌が繁殖するために起きる疾患です。このため、感染を抑制し、炎症の進行を遅らせるために、抗生物質が使われます。
抗生物質を使用するためには、歯周病の症状や原因菌の検査を行います。そしてそれぞれの症例に合わせて、適切な抗生物質を選定しなければなりません。
抗生物質の使用法は、ジェルを直接塗布する方法もあれば、経口投与する場合もあります。
抜歯
歯周病が進行していて顎骨が溶けてしまったり、歯根周囲で炎症を起こしたりなどの重度の場合、抜歯せざるを得ないかもしれません。
歯科用レントゲンをはじめとして、より詳細な検査をしたうえで抜歯実施の可否を判断します。抜歯後に発生する穴をふさぐためのフラップと呼ばれるふたをまず作ります。
歯茎に埋まっている歯根を分離し、付着している靭帯を削って抜歯するのが一般的です。そしてフラップを縫い合わせて、治療は完了です。
抜歯する場合でも可能であれば、歯根の一部を保存する場合もあります。抜歯手術後4〜5日間は、手術部位に痛みを感じることもあるかもしれません。
犬の歯周病治療にかかる費用

自分のペットが歯周病にかかった場合、動物病院で診療を行うべきです。ここで気になるのは、費用がどの程度かかるかです。
ここでは犬の歯周病治療の相場について、解説します。人間と違って、ペットの治療では保険が使えません。
そのままでは、原則治療費は全額自己負担です。しかしペット保険に加入していれば、保険金で治療費を賄えるかもしれません。
歯周病治療で利用できるペット保険も、あわせて紹介します。いざというときのために、ペット保険に加入するのも一案です。
歯周病治療にかかる費用相場
犬の歯周病にかかる治療費は地域や治療内容によっても変わります。目安として、軽度のスケーリングやルートプレーニングの場合、費用の相場は36,000円(税込)程度です。
もし抜歯が必要な場合、71,000円(税込)程度が相場です。複数の抜歯が必要になる重症だと、93,000円(税込)程度かかるかもしれません。
また抗炎症剤や抗菌剤が処方される場合もあります。このような薬が処方されると、薬代も上乗せされます。
治療費はかかりますが、ペットの健康維持のために早期の歯周病治療は必要です。お口の健康と全身状態は密接に関連するといわれているためです。
歯周病治療で活用できるペット保険
先に紹介したように、犬の歯周病治療には高額になる可能性があります。決して安くはありません。
このようなペットの高額治療費に対応するために、ペット保険に加入するのも一案です。文字どおり、ペットを対象にした保険です。
保険期間中に病気やけがを負ったペットの治療のための費用を担保します。犬や猫のほかにも小動物や爬虫類、鳥類なども対象とした保険もあります。
ただ商品によって、契約内容が異なる点に注意しましょう。歯周病費用を補償する保険プランもあれば、歯科医療は対象外としている商品もあります。
歯周病治療のためにペット保険に加入するなら、補償の範囲内か契約前に確認しておきましょう。
犬の歯周病を予防する方法

犬が歯周病にかかった場合、医療機関で適切に治療すれば治癒する可能性は十分あります。ただ、罹患する前に、予防しておくことがより重要です。
ペットの犬が歯周病に罹患しないために、日頃からできることはあります。ここでは歯周病にかからないための主な予防方法を紹介します。
予防方法といっても、それほど複雑なことをする必要はありません。毎日歯磨きを実施し、定期的に動物病院を受診するのが基本です。
また近年ではペットの口腔ケアが可能なグッズも出てきています。口腔ケア用品も活用して、ペットの歯の健康を維持しましょう。
毎日の歯磨きを習慣化する
人間同様、ペットの歯周病予防としておすすめなのが歯磨きです。しかし犬自身で歯磨きはできないので、飼い主が積極的に行いましょう。
歯磨きをする際には犬用の専用ブラシを使用しましょう。ヒト用の歯ブラシではサイズが合わないので、磨き残しが生じるためです。
歯磨きをする際には、まず前歯から行うとよいでしょう。いきなり奥歯にブラシを突っ込むと、ペットが嫌がる恐れがあるためです。
犬は歯垢が2日程度で歯石化するといわれます。人間は1ヶ月弱かかるといわれているため、犬のほうがより早く歯石化します。
このため、こまめに歯磨きすることが大切です。1日1回が理想ですが、嫌がる場合には2~3日に1回くらいのペースで歯磨きしましょう。
定期的な歯科検診を行う
定期的な歯科検診を行うのも、歯周病予防の観点から重要です。自分で歯磨きや口腔ケア用品を使用してケアしても、やはり限界があります。
犬の歯周病に詳しい獣医師に、ペットのお口の状態を定期的に見てもらったほうがよいでしょう。また専用器具でケアすれば、磨き残しによって生じるプラークも除去できます。
獣医師による専門的なケアとホームケアにおける指導を受ければ、犬も歯周病にかかりにくいでしょう。また定期的に健診を受ければ、たとえ歯周病になっていても早期発見が可能です。
動物病院での定期検診は、3ヶ月に1回くらいの頻度で行うとよいでしょう。動物病院で歯のメンテナンスをしても、3ヶ月も経過すると元の状態に戻るといわれているためです。
デンタルガムや口腔ケア用品を使う
別項で紹介したように、歯磨きは歯周病の有効な予防方法です。しかしなかにはどうしても歯磨きを嫌がるペットもいるかもしれません。
現在では口腔ケアが手軽にできるデンタルケアグッズもいろいろと出てきています。こちらで歯周病予防を行うのも選択肢の一つです。
歯磨きガムやジャーキーは、犬が噛むことでプラークを落とせます。やや硬めに作られているので、ガムやジャーキーを噛みながらストレス解消も期待できます。
また歯磨き用のおもちゃもおすすめです。犬がおもちゃで遊びながら歯周病予防も同時にできるため、飼い主の負担も軽減できます。
歯ブラシやガムなど、お口のなかに入れるのを嫌がるペットにはスプレーを使うとよいでしょう。お口のなかにシュッとスプレーをかけるだけで済むので、あまり抵抗もしないでしょう。
まとめ

人間だけでなく、ペットも歯周病に罹患する恐れはあります。歯茎が腫れたり出血したりなどの症状が現れれば、早めに動物病院を受診したほうがよいでしょう。
ペットの歯周病も、放っておくとどんどん進行してしまいます。悪化すれば、抜歯せざるを得なくなる可能性もあるため、飼い主がケアしなければなりません。
歯周病を予防する方法もあります。こまめに歯磨きをし、定期的に歯科検診を受けることで歯周病リスクを低減できます。
歯周病の治療費は、原則全額自己負担です。しかし任意で加入できるペット保険に入っていれば、治療費を保険で賄えるかもしれません。
万が一のために、ペット保険に加入しておくことも検討しましょう。
参考文献
