「歯肉口内炎」の激しい痛みから猫たちを一刻も早く解放し、安心で明るい毎日の暮らしを

春名動物病院

認知度は低いものの、猫特有の慢性炎症疾患に「歯肉口内炎」がある。人間の歯肉炎や口内炎とは全く異なり、ごはんを食べるのも水を飲むのも難しいほどの痛みを伴う非常に怖い疾患だ。しかし、完治も見込めるという。

城下町の岡山県津山市郊外に位置する「春名動物病院」はこの「歯肉口内炎」の治療経験が豊富で、そのほかの診療も幅広く対応している。今回は同院の菱川副院長に、「歯肉口内炎」の病状や治療法、また飼い主の対応などについて話をうかがった。

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愛猫の様子をよく見て変化をいち早く把握

まず、猫の「歯肉口内炎」について簡単にご説明ください

猫の「歯肉口内炎」とは、口腔内の粘膜や歯肉の炎症に加えて、のどの奥に特徴的な強い炎症やただれを引き起こす病気です。放置すると舌や声帯にも炎症が広がり、かなりの痛みを伴います。

「歯肉口内炎」といっても人間の口内炎や犬猫の歯周病とは異なり、症状が重症化しやすいため、早期に発見して積極的な治療が必要になります。主に中年齢(7歳ぐらい)からの猫に多く発症し、犬には少ない病気です。

この病気の治療法はある程度確立されており、適切な診断・治療を受けることで愛猫の健康を回復することは十分に期待できます。

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「歯肉口内炎」は何が原因で起こる病気ですか?

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はっきりした原因はまだ解明されていません。

推定される主な原因としては、猫の口腔内に存在する細菌やウイルス(猫カリシウイルスや猫エイズウイルスなど)、それらに対する免疫反応(アレルギー)などが挙げられ、これらの複合的な要因で起こるのではないかとされています。猫特有というのは、こうした原因が関係しているからだと考えられています。

また歯垢や歯石は細菌の温床となり、細菌に対する過剰反応による炎症を引き起こす可能性があることから、発症要因の一つといわれています。

この病気の猫には、どんな症状や行動の変化が現れますか?

「歯肉口内炎」を発症すると、口腔内、特に歯肉、舌、のどの上皮などに赤み・腫れ・出血などを伴う強い炎症が起きます。これは目で見ればわかる症状といえます。そして病状が進行すると、痛みや不快感などから生活行動に変化が見られるようになります。

例を挙げるならば、「口臭がきつくなる」「よだれが多くなる」「口まわりを前足でこする」「ごはんを食べようとするけれどこぼしたりしてうまく食べられない」「水をあまり飲まなくなる」といったようなことです。
また、「口まわりを触ると嫌がる」「口から出血する」「痛みのため攻撃的になる」などもあります。

飼い主さんはこうした猫の行動の変化に気付いてあげなくてはいけません。

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正常な猫の喉(歯石・歯肉炎はある)

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歯肉口内炎の猫の喉(歯は綺麗)

ただ、猫はなかなか口の中を見せてくれません

そうですね。パンティングする(※口を開けてハァハァ呼吸すること)犬と違って、猫は口の中をチェックしづらい動物です。口に痛みのない健康な子でも、猫にデンタルケアを徹底することはもちろん、口を開けて中を見ることすら難しいケースが多くあります。

まして、猫は自分の痛みや不調を表現しない傾向があります。それもあって、「歯肉口内炎」という病気は飼い主さんでもわかりづらく、病気としての知名度も低いことから、積極的に治療に来られる方は少ないです。

飼い主さんが猫の異変に気付かず、治療が遅れるとどうなりますか?

ひどい痛みのため食事も水も十分にとれず、痩せたり脱水を起こしたりとどんどん疲弊していきます。

その結果内臓にも負担がかかり、腎不全や貧血になった状態でようやくこの病気が見つかることもあります。「たかが口内炎」と思われがちですが、ここまでくると命に関わりますし、実際に助からなかった子もいます。

何より、そんな状況に長期間いる猫はずっとつらい思いを強いられてしまいます。

では、この病気にどのように対処したらよいでしょうか?

一刻も早く飼い主さんが愛猫の変化や異常に気付いて、獣医師に診せることに尽きるでしょう。

「歯肉口内炎」は比較的早い段階で治療すれば、完治の可能性がある病気なのです。普段から猫の様子をよく観察し、気になることがあれば早目にかかりつけ医に相談することをおすすめします。

当院でも、猫の定期健診やほかの診察の際に口腔内のチェックを行っています。必要があれば検査を行い、診断がついたら治療法のご説明をしっかりといたします。

完治を目指すなら第一選択は外科療法

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「歯肉口内炎」と診断されたら、どんな治療法がありますか?

「歯肉口内炎」の治療は、大きく2つの治療法に分かれます。内科療法外科療法です。

どのような病状で治療法を使い分けるのですか?

軽度の病状なら内科療法を試すこともあります。内服や注射で投薬を継続し、その後の進行状況も含め、経過観察をしていきます。投薬では感染に対する抗生剤やインターフェロン、炎症を抑えるステロイド剤などを主に使用します。口腔内の症状がなくなれば痛みは消え、食欲が出て、患猫は元気になります。

ただ、内科療法だけでは完治しないケースもあり、数年後に再発したり、一度は回復しても投薬をやめるとすぐに炎症がぶり返したりすることがよくあります。

また外科手術に先立って炎症をおさえておく目的で、内科療法をすることも多いですね。

重症の場合は外科的治療法になるわけですね?

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はい。初めから重症という診断の場合や、歯垢・歯石の付着が重度であるなど口腔内環境の改善が必須であると判断された場合には、すぐに外科療法を行うことになります。つまり口の中の手術を行うわけですが、それには「全臼歯抜歯」と「全顎抜歯」の2種類があります。

「全臼歯抜歯」は、前歯と犬歯だけを残して犬歯より後ろの歯を上下すべて抜く方法で、「全顎抜歯」は文字どおり全部の歯を抜く方法です。

どちらにしても全身麻酔が必要になるので、なるべく短時間でかつ確実に抜歯が終わるよう、術者は技術と経験が求められます。ただ、腎臓病など併発疾患との関係で長時間の麻酔がリスクになる症例では、あえて全顎抜歯を行わないケースもあります。

外科手術のメリットにはどんなものがありますか?

抜歯により口腔内の細菌やウイルスが大幅に減少するため、歯肉やのどの炎症が短時間で改善することが期待できます。

その後も、補助的に内科療法を継続したり口腔ケアやワクチンによって細菌やウイルスを予防したりすることで、ほとんどの猫たちが「歯肉口内炎」の痛みから解放されます。

歯を全部抜いてもごはんを普通に食べられるし、支障はほとんどありません。

外科手術のデメリットについてはどうでしょうか?

高齢の家庭猫が増えている現状で、全身麻酔を必須とする外科手術を行うのは、やはり100%安全とは言い切れない点です。

しかし、当院では麻酔リスクの高い症例には麻酔科の獣医師が立ち合い、猫の年齢や状態に合わせた適切な麻酔薬を選択することで、より安全な麻酔管理を徹底しています。また、安全性を高めるためには麻酔時間が短いに越したことはありません。術者の技術はもちろんのこと、手術を短時間で終えることのできる新しい機器を導入するなど、極力安全対策を講じる努力をしています。

もう一つ、外科手術は前後の検査やケアも含め、費用が少々かさむ点もデメリットといえるでしょう。

費用はどの程度かかりますか?

当院での手術にかかる料金は、術前の検査(血液検査・胸腹部レントゲン検査など)や入院費用も含めて税込10万円前後になることが多いです。患猫の基礎疾患の有無や年齢、歯肉口内炎の重症度によって変わりますので、詳しい見積もりは診察時にお伝えしています。

決して安価ではありませんが、内科療法で通院をしていっても1年ほどで同じくらい費用がかかりますし、何より猫たちはその間ずっと痛みと付き合い続けなければいけないということを考えると、早めに手術に踏み切ってあげた方が良いのかなと個人的には思います。

それでは、手術など治療の流れを教えてください

問診で飼い主さんの話を詳しく聞くことから始まります。患猫の様子を確認したうえで「歯肉口内炎」と診断したら、内科的治療を試すのか手術を計画した方がいいのかを判断して治療を開始します。

症状が比較的軽度で「全臼歯抜歯」(14本抜く)の場合、麻酔時間によっては日帰り手術(※術前の検査、術後の経過観察が必要です)が可能です。ただし、状況によっては1泊してもらうこともあります。

「全臼歯抜歯」であっても症状が重度の場合やすべての歯を抜く「全顎抜歯」の場合には、麻酔をかけた時間に応じて1~2泊してもらい、様子をみます。

手術後は、その日の夕方からやわらかいごはんならOKで、状態に応じて翌日から固形フードも食べられます。

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術後のケアについてはいかがでしょうか?

手術後は定期的(2週間、1カ月など)に来院してもらい、口腔内のチェックをしたり、腎臓病を持っている場合は数値を検査したりするなど経過観察を行います。

1年後の健康診断で、元気な姿を見せてもらえるとうれしいですね。

「歯肉口内炎」の予防には、どんな方法がありますか?

原因が口腔内の細菌やウイルスということに限っていえば、猫にも日頃から歯みがきなど(歯ブラシが無理なら歯みがきシートを利用)のデンタルケアを行い、口の中を清潔に保つようにするのが基本的な予防策です。

子猫から飼っている場合には、小さい頃から口の中やまわりを触ったりする習慣をつけることも重要です。デンタルケアがしづらい猫の場合、歯垢がつきにくいごはん(ドライフード)にするなどの工夫もおすすめします。

なお、原因となるウイルスにはワクチン接種が予防になります。どのワクチンを接種するかについてもかかりつけ医に相談してみてください。

手術という対策を迅速かつ丁寧に

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手術などの治療において、菱川先生が特に心がけていることはありますか?

手術については全身麻酔下で行うので、何よりも「丁寧に、そして素早く」を心がけています。歯周病の抜歯では悪い歯だけ抜きますが、「歯肉口内炎」では悪くない歯も全部抜くことが必要となります。それが治療プラス予防になるからです。

どちらの場合も、大事なのは歯を歯根から全部しっかり抜くこと。そのために、抜いている最中に歯が折れたりして残歯がないかどうかを歯科デジタルレントゲンでチェックします。抜歯後の歯槽骨は専用機器を用いて丁寧に削って滑らかにし、将来の口の健康にもつなげていきます。

「歯肉口内炎」を患った猫の飼い主さんには、手術の決断の際、どんな説明をしますか?

患猫の病状にもよりますが、猫が痛くてつらい状況にあるのは飼い主さんもわかっているので、それを取り除くためには「手術が適切」だと説明します。

私の経験上、12歳くらいの比較的まだ元気な猫ちゃんで「高齢だから」と手術をためらう飼い主さんは多いですが、病状がより進行して食べられなくなった頃にはもっと猫は高齢になり体力も落ちていて、腎臓病などを併発すれば手術をしてあげたくてもできないという状況になってしまうかもしれません。そのようなリスクを説明したうえで猫のQOL改善を目指してもらい、「なるべく早いうちに手術を」とお話しします。

若い猫なら骨もやわらかいし、回復も早いので、積極的に手術をおすすめしています。

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これから愛猫の「歯肉口内炎」の治療を考えている方、動物病院サプリのサイトを訪問している読者にメッセージをいただけますか?

「歯肉口内炎」は一般的にまだまだ認知度が低く、そのため飼い主さんが愛猫を連れてくるのが遅くなる傾向があります。実際に来院した猫たちは相当つらそうです。ですから飼い主さんにもこの病気の実態や治療法などの知識を得て、普段から愛猫のちょっとした病気のサインを見逃さず、重篤になる前に動物病院を受診してほしいと伝えたいです。早い段階なら外科治療(手術)もスムーズで、早々の回復が見込めるからです。

当院には、長年「歯肉口内炎」の診療を行ってきた経験の積み重ねがあります。難症例も多く扱っているほか、セカンドオピニオンの引き受けも行っています。私自身も多くの手術数を受け持っております。

気になることがありましたら、当院までお気軽にご相談ください。

【編集部まとめ

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愛猫がごはんを食べない、痛そうにしている…。そんな状態は1日も早く脱して、元気になってほしい。そう願えばこそ、「歯肉口内炎」の外科手術の技術と経験があり、機器も揃っていて、多数の治療実績のある獣医師のいる動物病院におまかせしたいもの。

「春名動物病院」では、そんな飼い主の気持ちを十分理解してこれまで多くの患猫を治療してきたそうです。

いろいろな面で万全に心配りをしてくれる「春名動物病院」なら、さらに多くの猫ちゃんたちが救われるのではないでしょうか。

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※11:30受付終了

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