猫は、見知らぬ環境や人に対して強い警戒心を示す動物であるため、動物病院への通院は猫にとって大きなストレスとなります。慣れない場所への移動、キャリーケースへの収容、そして病院内での診察など、これらすべての過程が猫にとっては不安や恐怖を引き起こすストレスの要因となりえます。しかし、健康管理のためには定期的な検診や必要に応じた通院は避けられません。猫の心身の健康を守るためにも、通院によるストレスをできるだけ抑える工夫が大切です。
この記事では、猫が動物病院へ行く際に感じるストレスの原因をお伝えしたうえで、ストレスを軽減するための効果的な方法や、通院をスムーズに行うためのコツを解説していますので、ぜひ参考にしてください。
猫を動物病院に連れて行くとストレスがかかる?

猫は警戒心が強く、病院に連れて行くとストレスを感じやすいです。慣れない場所や状況に敏感なため、年に数回程度の通院では病院をまったく知らない場所と認識してストレスや恐怖により攻撃的な行動を取ることがあります。具体的には、怒りをあらわにし、猫パンチや引っかき行為、声を出して威嚇する子もいます。そのため、スタッフが力づくで抑えて治療や処置をせざるを得ない状況に陥る可能性もあるでしょう。
飼い主さんも普段と違う鳴き声や恐怖を感じている猫を見ていると辛くなります。このような事態を避けるためにも、3~4ヶ月に1回程度の定期的な通院を心がけることが大切です。予防的な検診も含めて病院に通うことで、猫は徐々に病院を怖い場所ではないと認識するようになり、ストレスを軽減できる可能性があります。
動物病院で猫のストレスを軽減する方法

猫は自分のテリトリーを重視し、知らない場所では緊張してストレスを感じる動物です。野生の性質を残す猫は、家族以外の人やほかの動物との接触に対して敏感なため動物病院は苦手です。
ここでは、猫を動物病院に連れて行く際にストレスを軽減する方法を解説します。
キャリーケースを使う
猫を病院へ安全に連れていくには、適切なキャリーケースを利用するとよいです。 猫は視覚から多数の情報を得るため、病院でほかのペットに驚いてパニックになる可能性や、脱走の危険があります。キャリーケースを使い、視界を遮ることでストレスを軽減できるため、猫が落ち着きやすくなります。上部が開くタイプのキャリーケースを使用すると、無理に引っ張り出す必要がなく、猫のストレスや引っかかれるリスクを減らすことができます。
洗濯ネットを使う
猫を病院へ連れていく際、洗濯ネットの使用も方法の一つです。猫は身体の全体を布のような物で包むとバランスが取りにくくなり、好きなように動けなくなります。しかし、猫によっては逆にストレスを感じることもあるため、性格を見極めたうえで使用してください。洗濯ネットは身体より少し大きめのものを使用し、普段使っているタオルやおもちゃを一緒に入れてあげることで、猫は馴染みの匂いに安心し、落ち着くことが期待できます。ただし、洗濯ネットのみでの通院は避けるべきです。ほかのペットとの接触でパニックになり、洗濯ネットが破れて脱走する危険があるため、キャリーケースと併用するのが理想です。
キャリーカバーを使う
猫を病院に連れて行く際、キャリーバッグにカバーをかけるのもよいです。病院の待合室でほかのペットと目が合うと興奮してストレスを感じやすくなります。カバーをかけることで、そのようなことを避けられるため、猫の緊張や不安を軽減できます。さらに、自宅で使用しているバスタオルをカバーとして利用すると家のにおいで猫を落ち着かせることも期待できるでしょう。
フェイシャルフェロモン製剤を使う
猫が環境に馴染むために役立つフェイシャルフェロモン製剤の使用も方法の一つです。猫は口周りからフェロモンを分泌します。飼い主さんにスリスリしにきているときやご機嫌なときには分泌できますが、恐怖心や緊張状態のときには分泌できません。そのため情緒を安定させ通院時の興奮や鳴き声などを軽減する効果があります。しかし、効果には個体差があり、猫の性格によって効き目が異なるため必ず効果があるわけではありません。
普段から病院に慣れさせる
猫を年に1回程度しか動物病院に連れて行かない飼い主さんもいるかと思います。予防接種や症状が重くなってからの受診が主な来院理由となっており、これでは猫にとって病院は不安や恐怖を感じる未知の場所となってしまいます。一方で、定期的に検診を受けることにより、猫は病院を次第に認識するようになり、「怖い場所ではない」と理解できるようになるでしょう。これにより、通院のストレスも少なくなります。普段から猫を病院に連れて行くことで、猫のストレス軽減だけではなく、病院スタッフと飼い主さんの良好な関係構築にも役立ちます。
抱き方を工夫する
動物病院で猫がキャリーケースから出るのを嫌がる場合、抱き方に工夫が必要です。猫は引っ張られることを嫌い、無理に引っ張ると余計に興奮し診療中も暴れてしまう原因となります。猫を抱き上げる際は、手で引っ張るのではなく、両手で身体全体を優しく支えながら抱き上げます。また、猫の肩甲骨を両手でしっかりと押さえることで、姿勢を安定させられるため、普段から練習しておくと自宅での投薬時にも役立つでしょう。
飼い主さんが平常心を保つ
動物病院では、飼い主さんが平常心を保つように心がけることが大切です。 猫は大きな音や飼い主さんの動きに敏感なため、飼い主さんの声のトーンや行動の変化に過剰に反応してしまいます。そのため、治療中の猫を見て叫んだり、大声で励ましたりすると、猫がさらに不安定になります。診察中は飼い主さんも冷静さを保ち、静かに見守ることが大切です。診療後は優しく声をかけたり、特別なご褒美を用意したりするなどのケアをしてあげましょう。
自宅でできる猫のストレス軽減トレーニング

猫が通院でのストレスを感じているのを目のあたりにすると、飼い主さんもどのようにしてストレスを軽減させてあげられるのかと悩む方もいることでしょう。
ここでは、自宅で通院時にかかる猫のストレスを軽減させられるトレーニングを具体的に3つ解説します。
家のなかで散歩をする
猫がキャリーケースに対して少しずつ慣れてきたら、そのなかに入れて家を移動してみましょう。最初から完全にキャリーケースに閉じ込めるのではなく、扉を開けたままの状態でキャリーケースごと優しく持ち上げて、入ったままの状態で少しずつ移動に慣れさせていくことが目的です。
時間をかけて少しずつ慣れさせていくことで、猫はキャリーケースを安心できる場所として受け入れるようになるでしょう。
知らない人に慣れさせる
動物病院では見知らぬ人やほかのペットとの接触は避けられません。そのため、事前に飼い主さんや家族以外の人との関わりに慣れさせておくことで、病院でのストレスを軽減できます。具体的には、知人や親戚などに協力してもらい、定期的に自宅への短時間訪問を依頼します。その際、猫とはできるだけ接触を避け、自然な形で存在するだけにとどめてもらうとよいでしょう。
飼い主さん以外との穏やかな交流を重ねることで、猫は新しい環境や人との出会いにも落ち着いて対応できるようになっていくため、通院でのストレスも軽減できます。
キャリーケースの選ぶポイントと慣らし方

猫は動物病院を嫌がる傾向はありますが、予防接種や定期的な健康チェック、いつもとは違う症状などで通院が必要となるケースがあります。通院の際には、「どのようなキャリーケースが適切なのか」迷う飼い主さんもいるかと思います。
ここでは、キャリーケースを選ぶ際のポイントと慣らしていくコツを解説します。
タイプ別に見るキャリーケースの特徴
キャリーケースにはさまざまなタイプや特徴があり、それぞれに特有の利点があります。プラスチック製のキャリーケースは、丈夫さと安定感により、移動中に猫をしっかりと守ることができます。上下がセパレート可能なデザインは、獣医にとっても診察が容易で、猫がキャリーケースのなかにいる状態で触診や聴診を行うことができるため、猫のストレスを軽減できる場合もあります。布製バッグは飼い主さんにとって持ち運びやすく、大きく開閉できるタイプは使い勝手がよいです。布製バッグタイプも耐久性のある素材を選ぶことで、猫を守る役割を果たせるでしょう。リュックタイプのキャリーケースは、移動が徒歩や自転車などによって選択されることがあるため、丈夫な素材のものを利用することで安全性を高められます。それぞれのタイプには独自の利点があるため、飼い主さんや猫の用途や状況に応じて適切なものを選択してください。
選ぶ際は、猫の体格や性格に適したものを選ぶ方法
キャリーケースを選ぶ際には、猫の体格や性格に合った条件を考慮する必要があります。まず、サイズに関しては、猫がリラックスして過ごせるように、ゆったりとしたスペースが必要です。理想的なサイズは、猫が立ち上がったときに少し頭をかがめる程度の高さと、体長の1.2倍以上の奥行きを持つものが望ましいです。開口部が広いキャリーケースは、スムーズに猫を出したり入れてあげたりできるため、飼い主さんにとってもストレスなく便利です。
さらに、通気性が良く底面が滑りにくい構造であることも、猫の安全性と快適性を確保するうえで欠かせません。移動時の利便性も考慮し、軽量でありながらも頑丈な作りで、完全に閉められる機能を備えているものを選ぶとよいでしょう。
自宅でキャリーに慣れさせるコツ
キャリーケースに無理やり入れられるのは、猫にとってストレスとなります。そのため、日常的に慣れさせておくのが効果的です。最初に、キャリーケースを猫の生活空間の一部とし、お気に入りの場所の近くに置いてみます。なかには普段使っているブランケットやバスタオルを敷き、さらに食事やおやつを与えることで、安全で快適な場所のイメージにしていきます。
キャリーケースへの抵抗が少なくなってきたら、扉を開けたまま短時間の移動を試みるなど、段階的な慣らし方を実践していくと猫にとって安心できる空間として受け入れられるようになるでしょう。飼い主さんは焦らず猫のペースに合わせてあげるのが大切です。
通院時のストレスを抑えるコツ

猫にとって通院はストレスになるため、心配になる飼い主さんもいるかと思います。
ここでは、通院時のストレスを抑えるコツを具体的に2つ解説します。
空腹で連れて行き、診察後にごほうびおやつを与える
猫を病院に連れて行く際には、空腹の状態がよいです。おやつを口にする際に副交感神経が働き、リラックス効果が期待できるからです。例えば、注射時に筋肉が緊張していると痛みが増すため、おやつをうまく活用して緊張を和らげてあげられます。特にお気に入りのおやつがあれば、形状は問わずそれを与えるとより効果的です。
このようにすることで、猫は病院でご褒美をもらえる期待感を持てるため、通院の体験がポジティブになりストレスも抑えられるようになるでしょう。
診察で必要以上の負担をかける処置をしない
動物病院に行くための時間を作ることは、飼い主さんにとってもときには大変なことだと思います。しかし、ワクチン接種や採血、耳の処置、爪切り、肛門腺絞り、毛玉のカットなど、さまざまな処置を一度に行うと、猫によっては精神的にダメージを受けることがあります。
ストレスの感じ方には個体差があるため、飼い主さんが猫のことを理解したうえで、無理をさせないようにするのが大切です。これにより、通院の体験が恐怖だけではないと認識できるためストレスも抑えられるようになるでしょう。
通院そのもの以外にも考えられるストレスの要因

猫は自分の不調や不安を言葉で表現できないため、飼い主さんが気付きにくいことがあります。異常行動や攻撃性の原因が単に通院ストレスだけとは限らず、ほかの要因が隠れている可能性もあります。
ここでは、猫が通院そのもの以外にも考えられるストレスの要因を2つ解説します。
テリトリーを荒らされる不安
猫はほかの動物が自分のテリトリーに近づいてくると、そのテリトリーを守ろうとすることがあります。また、自分の食べ物やおもちゃを取られることに対して怒りを見せる猫もいます。通院時にこのような状況が重なることもあり、ほかのペットが目に入るだけでストレスを感じることもあるでしょう。このため、日常生活においてもこうした事態を避ける工夫が必要です。野良猫や散歩中の犬などが生活範囲から見える場合は、カーテンやフェンスを使って視界を遮る方がよいです。猫が感じる不安を軽減し安定して暮らせる環境を整えてください。
基礎疾患や痛みが隠れている可能性
痛みや何かしらの不安などは、転嫁行動を引き起こすきっかけとなる場合があります。例えば、甲状腺疾患や高血圧の影響で猫がイライラすることもあり、注射を受けた部位の痛みや関節炎によって、特定の部位に触れられると反射的に攻撃的な行動を取ることもあります。また、体調が悪く不安を感じる事柄があると、過度に思い悩んでしまうこともあるでしょう。
そのようなときは、かかりつけの病院に相談することで、問題を解決できたり、猫の健康状態を確認することができます。正確な診断を受けることで、必要な治療を施し、安定した心身の状態を取り戻せる可能性もあります。
まとめ

猫は警戒心が強いため、動物病院への通院はストレスとなります。しかし、キャリーケースの選び方や慣らし方を工夫したり、フェロモン製剤を使用したり、ストレスを軽減する方法はあります。
自宅では、キャリーケースに日常的に慣れさせる、家のなかで短時間の移動練習をするなどのトレーニングが効果的です。
通院時は猫を空腹状態で連れて行き、診察後におやつを与えることで病院はよいことが起きる場所として認識させましょう。飼い主さんが落ち着いた態度を保つことも、猫のストレス軽減に大きく貢献します。猫の健康を守るために、ストレスに配慮した通院を心がけてください。