近年、動物病院でも、レーザー治療が導入されています。特殊な波長を持つ光を照射するレーザーは治療できる疾患や症状が多く、痛みや不快感が少ない特徴があります。とはいえ、ペットに対するレーザー治療を行っている動物病院の数は少ないのが現状です。
レーザー治療に対する知識を深め、万が一に備えて、大事なペットの治療に役立てられるようにしましょう。
動物病院のレーザー治療の基礎知識

レーザー治療とは、レーザーを直接患部に照射する治療方法です。皮膚に照射する人間と、被毛の上から照射するペットに対する照射とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
動物病院で実施されるレーザー治療の基本原理とレーザーの種類、人間と動物におけるレーザーの種類の違いについてみていきましょう。
レーザー治療の原理
レーザー治療の原理は、特殊な波長の光を照射して自然治癒力を高める点にあります。なぜなら、レーザーの光そのものに以下のような効果があるからです。
- コラーゲンの生成を促進
- 炎症の軽減
- 血管や細胞組織、骨の再生を促進
- 神経の再生を促進
- 生体活性物質を生み出す
- 身体が本来持っている傷を治そうとする力(創傷治癒)
また、基本的にレーザーは照射すると痛みを感じる場合がありますが、低出力レーザー(LLLT)については照射時の痛みが少なく済みます。非侵襲的といって、ほかの治療法のように処置のために患部を切ったり縫う必要もありません。
治療行為そのものにストレスを感じやすいペットでも、少ない負担で治療できるのがレーザー治療です。
レーザー治療の種類
動物病院で用いられるレーザーは大きく分けて2種類です。患部に光を照射するレーザー治療用のレーザーと、患部を切るメスの役割を担う手術用のレーザーに分けられます。
- レーザー治療用のレーザー:半導体レーザー・近赤外線レーザー
- 手術用のレーザー:ダイオードレーザー
治療用レーザーには、痛みを緩和したり傷を治す力を促進する効果や、患部の炎症を軽減したり、血流を改善したりするような効果が期待できるでしょう。手術用レーザーについては、シール効果によって患部からの出血を少なく留める働きがあります。
また、レーザーの光には術後のむくみや細菌感染を抑制する働きがあるため、処置によっておこる別のリスクにも対応可能です。さらに、レーザーは血が出づらい、患部が炎症を起こしにくいといった利点から傷の治りも早く、術後の回復をスムーズにさせる効果もあります。
人間と動物のレーザー治療の違い
レーザー治療の根本は、何らかの治癒効果のある光を患部に照射し、傷の平癒や消炎効果のある治療方法です。
動物の場合は、被毛が光を吸収するため、照射部位の毛を分ける・短く刈るなど前処置を行い、エネルギー効率を高めることもあります。
動物のレーザー治療は、症状の状態変化について獣医師による経過観察が欠かせません。日頃の様子は、飼い主さんがしっかりとチェックするようにしましょう。
動物病院でレーザー治療の対象となる疾患・症状と目的

レーザー治療は、レーザー光をあてる治療法です。投薬治療のように内服する必要がないため、根本的に副作用を気にする必要がありません。薬が服用できないようなペットや、手術に耐えられるような体力のないペットでも治療が可能となります。今まで治療を断念せざるを得なかったペットにとって、新しい治療の選択肢となりうるでしょう。
変形性関節症の疼痛緩和
変形性関節症のおもな原因は、加齢による関節の石灰や自然な摩耗です。変形性関節症が起こると、骨の動きが悪くなり、歩くたびに痛みを感じてしまいます。
レーザー治療は、変形性関節症による痛みの解消に効果を発揮する場合があります。
ただし、痛み軽減の度合いは照射出力や回数で変わるため、あらかじめプロトコルを獣医師と共有してください。
椎間板ヘルニアのリハビリ
レーザー治療は、椎間板ヘルニアのリハビリと再発防止に効果が期待できます。レーザー治療には、すり減った組織の再生を促す役割があるため、ヘルニアの再発防止や抑制効果が期待されています。
もし重度の麻痺がある場合は、外科的減圧が第一選択となり、レーザーは補助療法として併用されるケースもあります。
皮膚疾患の治癒促進
レーザー治療では照射された患部に光化学反応が起こります。皮膚疾患におけるレーザーのおもな効果は、組織の修復力促進・血流改善・炎症の鎮静化などです。
皮膚疾患の治療では、肌が正常に生まれ変わるのを助け、自己治癒力によって症状を軽減していきます。レーザー治療は光をあてて細胞を活性化するため、これらの治療促進にも役立つでしょう。
口腔内疾患の炎症軽減
ペットの口腔内疾患といえば悩まされがちなのは歯周病です。食事のたびに歯を磨けないペットにはある程度つきものとなる病気ですが、口腔内の炎症もレーザー治療で対処できます。
通常、歯周ポケットに溜まった汚れを取り除くには細かい部分まで専用の器具を使って掃除しなければなりませんが、レーザーであれば光をあてるだけです。光をあてるだけのレーザーは、小さな歯と歯茎の間を掃除するよりも手軽で、まんべんなく、短時間で抗炎症または鎮痛効果が期待できるでしょう。
外耳炎など耳のトラブル改善
動物病院で行われるレーザー治療は、外耳炎を始めとしたペットの耳におけるトラブルの改善にも効果を発揮します。耳で発症する病気の多くは炎症を伴うものが多く、炎症を鎮静する効果が期待できるレーザー治療は相性がいいでしょう。特に、ペットの場合、耳そのものを触られるのを嫌がる子が少なくありません。
レーザーであれば、光を照射するだけで耳の深部にある患部に作用できます。直接触れなくても処置ができ、レーザーそのものに炎症を鎮める効果があるため、トラブルを適切に改善できるでしょう。
動物病院でレーザー治療を受けるメリット

動物病院でレーザー治療を受けるメリットは4つです。ペットは私たち人間のように会話ができないため、自分の不調やストレスを伝えられません。また、どれだけ有効な治療法であっても、著しくストレスを与えるような治療法は採用すべきかどうか悩ましいところでしょう。
動物病院でレーザー治療を受けるメリットについて把握すれば、治療を受けさせる判断基準が身に付きます。
痛みやストレスが抑えられる
動物病院でレーザー治療を受けるメリットは、病気や怪我の治療に際して、ペットが感じる痛みやストレスを少しでも軽減できる点にあります。
どの治療方法も、ペットの健康状態をより良くするために確立されたものではありますが、実際に治療を受けるペットにとってはストレスになる点は否めません。とくに、長時間慣れない人に触れられたり、病院に滞在したりするだけでも、ストレスを感じてしまうペットは少なくありません。
レーザー治療は光を照射するだけで終わります。ペットを長時間拘束する必要もなく、入院も必要ありません。病気の治療においてペットに余計なストレスをかけずに済みます。
麻酔が不要で副作用リスクが低減できる
動物病院で行われるレーザー治療の多くは、麻酔不要で処置できます。ペットへの麻酔は、意識がなくなるレベルの強い薬を投与するため、副作用がないわけではありません。
一方レーザー治療は、患部に光を照射するだけです。ペットも体感的に、じんわりと患部の温かさを感じるだけなので、ストレスや副作用のリスクとは無縁といえます。ペットに余計な負担をかけたくないと考える、飼い主さんの強い味方です。
治療後の回復が早い
動物病院で行われるレーザー治療のメリットには、術後の回復が早い点も挙げられます。通常、治療行為であったとしても何かしらの処置をすれば、ペットはそれなりに負担を感じるものです。方法によっては開腹が必要になるケースもあり、処置した後にまた別のリハビリを要するものもあります。
レーザー治療については、治療するにあたって患部を切るような処置は必要ありません。治療のために身体に余計な傷をつけずに済むため負担がかかりづらく、治療後の回復も早いとされています。
治療期間の短縮で通院負担が軽減できる
動物病院で行われるレーザー治療には、治療期間の短縮による通院費用の負担を軽減するといった効果もあるでしょう。レーザー治療にはペットが本来持つ自己治癒能力を促進させる働きがあります。そのため、通常の治療を行うのとセットで傷が癒える速度も速くなり、結果的により短い期間での治療が可能となるでしょう。
入院も通院も、ペットは身体的な、飼い主さんには金銭的な負担がつきもので、特に、治療費が全額自己負担となるペットにとっては大きな問題です。レーザー治療はあらゆる負担が軽減できるため、治療方法として大きな利点があります。
動物病院のレーザー治療の流れと費用相場

動物病院で行われるレーザー治療の、流れと費用相場を見ていきましょう。
ここからペットの治療費や治療の流れを解説します。
レーザー治療のおおまかな流れ
動物病院で行われるペットのレーザー治療の大まかな流れは、カウンセリング(診察)、レーザー照射、経過観察の大きく分けて3つになります。
カウンセリングでは、ペットの今の状態がレーザー治療を実施してよいかを判断するため、レントゲン検査や超音波検査、血液検査などを必要に応じて実施します。
なお、外科用レーザー手術を行う場合は、全身麻酔または局所麻酔・鎮静を併用するのが一般的です。
レーザー治療にかかる時間
動物病院で行われるレーザー治療にかかる時間は、患部の大きさや、範囲にもよりますが、来院して1時間程度で終わるケースがほとんどです。
ただし、外科手術を伴うケースでは麻酔前後の管理が必要となるため、日帰りできるかは獣医師に確認しましょう。
レーザー治療の費用相場
動物病院で実施されるレーザー治療の費用相場は、1回あたり2,000〜3,000円であり、高くても5,000円程度です。また、部位や照射時間によっても料金は異なります。
ただし、外科用レーザー手術の場合、内容によって数万〜十数万円になることもあるため、検査料・麻酔料込みの見積もりをしっかりと確認しておきましょう。
動物病院のレーザー治療の注意点

動物病院で行われるレーザー治療についての注意点をまとめました。
レーザー治療は、自己治癒力を高める治療法となるため、ありとあらゆる症状に用いられています。ここでは、レーザー治療を受ける際の注意点を解説します。
適応にならない疾患がある
レーザー治療はどの症状にも適用できるものではなく、場合によってはレーザーによる治療そのものが不向きな症状もあります。
レーザー治療の対象となる病気でも、状態次第で見送った方がいい場合もあるでしょう。手術や投薬を併用するなど、ペットに対してどのような処置を行うかは動物病院で直接、治療方針を確認するしかありません。
治療方法をレーザー治療だけと決めつけるのではなく、獣医師による診察とアドバイスを参考に、豊富な選択肢から選ぶようにしましょう。
熱傷や色素沈着など副作用がある
レーザー治療で使うレーザーは、適切な出力で照射しないと火傷によって肌を傷めてしまったり、色素沈着が常態化したりする恐れがあります。
これらのリスクを回避するためには、患部の状態を見極められて、出力を調整できる技術力の安定した獣医師に依頼する必要があります。
なお、照射時はペット・スタッフともに保護眼鏡を装着するなど、眼への安全対策が必須です。
レーザー治療ができる動物病院が限られる
レーザー治療は、導入されている動物病院が少ないため、日頃からかかりつけとして利用している動物病院で気軽に受けられる治療方法ではありません。
場所によっては必要に応じて、近隣の都道府県へと足を伸ばす必要も出てくるでしょう。
レーザー治療は、ペットの体調や様子をみながら出力を調整するなど、獣医師の細かな対応が求められる治療法です。
ペットの身体に与える影響は大きいため、症例や技術力がきちんと確認できる動物病院を選びましょう。
まとめ

動物病院で行われるレーザー治療は、特殊な波長を出す光による化学反応を利用した療法で、全身のあらゆる病気や損傷に対してアプローチ可能な治療法です。
既存の治療法では治療が難しいといわれてしまった、ペットが動物病院嫌いで治療を受けてくれないといった悩みを持つ飼い主さんに一筋の光をもたらすでしょう。
ただし、レーザー治療については取り扱っている動物病院が少ないのが現状です。
レーザーには熱傷や色素沈着といった一定のリスクもあるため、治療は経験豊富な動物病院に依頼することをおすすめします。