犬や猫などの動物も、心臓病や血管の病気に罹患することは少なくありません。
動物病院は、何でも総合的に診察できる頼れる動物のお医者さん、というイメージの方も少なくないでしょう。
しかし、さまざまな診療内容があるなかで、獣医師にもそれぞれ得意とする診療があります。
人間の病院のように診療科目を明確に提示している動物病院や、単一の診療科目に特化した専門性の高い動物病院も増えてきました。
今回は循環器科に焦点をあてて、動物病院における循環器科の特徴・受診すべき症状・検査の種類などを解説します。
動物病院における循環器科の特徴
動物病院における循環器科は、犬や猫の心臓と血管の病気の診断・治療を行う診療科です。
犬や猫などの動物にも、心臓病や血管の病気に罹患する動物がいます。
特に心臓病は高齢になると発症するリスクが高まり、死因の上位に挙げられます。
動物の心臓は、人間の心臓と同様の構造と働きをしていますが、人間の心臓よりかなり小さいです。
そのため、動物の心臓病の正確な診断・治療には、獣医師のより専門的な知識と高い治療技術が求められます。
臨床獣医療は循環器科や内科などに関わらず総合的な診療が一般的でしたが、獣医療にも専門医制の導入があり、循環器科医もその一つです。
また、心臓病に苦しむ動物たちを救いたいと動物の心臓病に特化した動物病院が増えています。
動物病院の循環器科で扱う疾患の例
さまざまな循環器疾患があるなかで、動物病院の循環器科でよく診察する循環器疾患をいくつかご紹介します。
- 僧帽弁閉鎖不全症
- 猫の肥大型心筋症
- 心室中隔欠損症
- 大動脈弁狭窄症
上記について一つずつ詳しく解説します。
僧帽弁閉鎖不全症
心臓は、右心房・右心室・左心房・左心室の4つに分かれています。僧帽弁は左心房と左心室の間にある弁のことです。
僧帽弁が正常に働いている状態では、血流は左心房から左心室の一方向に流れるときにしか開きません。
しかし、何らかの原因により逆流を阻止していた僧帽弁がうまく閉まらなくなると、左心室に送ったはずの血液が左心房への逆流を起こしてしまいます。これが僧帽弁閉鎖不全症です。
弁がうまく閉じずに逆流が起こると、全身に送るための血液量が減り、少しずつ身体にさまざまな影響を引き起こします。
心臓のポンプ機能ががんばってくれているうちは、見た目に症状が現れにくいですが、動物病院で聴診すると心雑音が聞こえる時期です。
病状が進み、左心房への血液の逆流量が増えると左心房拡大が起こり、気管を押し上げる刺激によって咳が出るようになります。
さらに症状が悪化すると、心臓だけでなく肺にまで血液が溜まり呼吸困難を招いたり、血流の悪さが腎臓にまで影響をおよぼしたりして最終的には死に至る病気です。
治療は内科治療が一般的で、症状を抑えながら病気の進行を遅らせるために内服薬を処方します。
また、僧帽弁閉鎖不全症への外科手術を行っている動物病院もあります。
猫の肥大型心筋症
肥大型心筋症は、心臓の筋肉が通常に比べ分厚くなり、心臓をうまく動かせなくなる病気です。猫によくみられる病気で、代表的な遺伝性の疾患でもあります。
治療は心臓の状態に合わせて内服薬が処方される内科治療が一般的です。また肥大型心筋症の猫は、血栓症を併発することもあります。
血栓ができる場所はさまざまですが、足の血管に詰まりやすく、突然足が動かなくなるのが特徴です。
また、激しい痛みが特徴で、普段では聞かないような鳴き声で鳴くことで気付く場合もあるでしょう。
血栓症は発症すると致死率が非常に高い病気です。発見したらすぐに動物病院を受診しましょう。
心室中隔欠損症
心室中隔欠損症は、先天性の疾患で、右心室と左心室の間の壁に小さな穴(欠損孔)がある状態のことです。
通常、左心室から全身へ血液を送り出し、右心室は肺へ血液を送り出しています。
しかし、心室中隔に穴が開いていると右心室に左心室の血液が流れ込み、余分な血液が肺に送られることになるため、肺の血圧が上昇し肺高血圧の状態になります。
また、右心室にも左心室にもたくさんの血液が流れ込んでくるため、心臓への負担が大きくなり身体に影響をおよぼす病気です。
治療には、穴を塞ぐ外科治療や症状をコントロールする内科治療があります。
大動脈弁狭窄症
大動脈は、左心室からの血液を全身に回すために重要な血管で、左心室から大動脈に向かう間にあるのが大動脈弁です。
大動脈弁狭窄症は、何らかの原因で大動脈弁が狭くなったりうまく開かなくなったりする状態のことをいいます。大動脈弁が狭窄すると左心室から大動脈への血流が妨害されるため、左心室に負担がかかってしまう病気です。
大動脈弁狭窄症は、犬のなかでも大型犬種に好発する心臓病といわれています。猫での症例はあまりありません。
狭窄が中程度くらいまでは症状が出ることが少ないため、経過観察とする場合がほとんどでしょう。重度になると、疲れやすさや失神などの症状が現れます。
また、不整脈を併発することがあり、死に至ることもある病気です。治療は内科治療が一般的です。
動物病院の循環器科を受診すべき症状
循環器疾患は初期の場合はほとんど症状が現れない場合がありますが、循環器疾患になると現れやすい症状を知っておくと対処しやすくなります。
以下のような症状が現れた場合は、様子見せずに動物病院を受診しましょう。
- 呼吸の荒さや早さがみられる
- ふらついたり倒れたりする
- 疲れやすい様子がある
- 腹部のハリがみられる
上記の症状について一つずつ詳しく解説します。
呼吸の荒さや早さがみられる
心臓病になると、全身を巡る血液の循環は悪くなります。そして酸素は血液と一緒に循環しているため、血液の循環が悪くなると起こるのが酸素不足です。
酸素不足を感じた身体は、呼吸の回数を増やしたり胸の動きを大きくしたりして酸素を補給しようとします。そのため、呼吸の荒さや呼吸の早さが症状として現れます。
さらに症状が進行して肺水腫という状態になると、肺のなかに血液水(血管からしみ出た水)がたまり水中で溺れたような呼吸困難の症状が現れ、最悪の場合は死に至ることもあるでしょう。
犬の場合、安静時の成犬の小型犬の呼吸数は1分間に20回前後、大型犬では1分間に15回前後です。安静時の猫の場合は、1分間に20〜40回の呼吸数です。
正常時の呼吸数や胸の動きの大きさを知っておくと、異変に気付きやすくなります。呼吸の異変に気付いた場合は、すみやかに動物病院を受診しましょう。
ふらつきや倒れたりする
ふらついたり倒れたりする症状は、脳の酸素不足や不整脈が原因と考えられます。特に不整脈には注意が必要です。
不整脈は正常な血液の循環が行われず、脳や末梢組織に血液が回らなかったり心臓に血液が溜まったりして、ふらつき・失神・元気や食欲の低下などの症状を引き起こします。また、不整脈は突然死を招く恐れもある病気です。
ふらつきや失神の症状が出た場合は病気の進行が考えられるため、すみやかに動物病院を受診し必要な検査と治療をしてもらいましょう。
不整脈かどうかは、心電図検査をすると明らかになります。
疲れやすい様子がある
心臓の機能が低下すると、身体を動かすのに必要な血液や酸素をうまく供給できなくなるため、動きたがらなくなります。
結果として散歩や遊びでそんなに動いていないにも関わらず、すぐに休みたがったりすぐに息が切れたり、さまざまな場面で疲れがみえるようになります。
このことを運動不耐性ともよびます。
疲れやすさは心臓病以外の病気も考えられますが、心臓病を疑う一つの症状です。疲れやすいと感じた際は、動物病院に相談し必要な検査をしてもらいましょう。
腹部のハリがみられる
腹部のハリが見られる場合は、腹水が溜まっている可能性があります。
心臓のポンプ機能が低下すると、血液を全身に送り出せず心臓や臓器に溜まりうっ滞が起こります。処理しきれない血液は、やがて血管の外へ漏れ出し、腹部に溜まったものが腹水です。
腹水以外にも血液のうっ滞によって、全身にむくみが出る場合があります。腹水やむくみが出ると、体重が増加します。
腹水や身体のむくみの症状が出る場合は、右心不全である可能性があるので、すみやかに動物病院を受診し必要な検査と治療をしてもらいましょう。
普段から体重を記録したり、全身を触ったりする習慣をつけると早期発見につながります。
動物病院の循環器科で行う検査の種類
動物病院で循環器疾患に対して行う検査はさまざまです。主に循環器疾患に対して行う検査には、以下の5つが挙げられます。
- 身体検査
- 血液検査
- 血圧測定
- 胸部レントゲン検査
- 心エコー図検査
上記の検査方法について詳しく解説します。
身体検査
身体検査は、動物の一般状態を知るために視診・触診・聴診・体温測定などをします。検査のなかでは、身体検査が動物にとって一番負担の少ない検査です。
視診では、動物の活動性や粘膜の色、呼吸の状態などの観察が可能です。触診では、CRTで循環を確認したり股動脈から脈拍の速さや強弱を確認したり、身体を触ることで得られる情報を確認します。聴診では、心雑音や心拍リズム、肺音の聴取が可能です。
獣医師は身体検査をもとに、飼い主からの主訴も含め総合的に判断します。身体検査で異常を確認したら、次に必要な検査を提案します。
血液検査
血液検査は全身状態の把握のために行います。循環器疾患になると、身体のさまざまな部分に影響をおよぼします。
そのため、心臓だけの治療でよいのか、その他の部分に対しても治療が必要なのかを判断するために必要な検査です。
例えば、心不全が悪化すると腎臓の機能に影響します。腎臓の血液上の数値の悪化が認められた場合は、腎臓に対する治療が必要です。
また、心筋に負担がかかったときに放出されるホルモンであるBNPの濃度を測定し、心臓バイオマーカーとして使用できる検査もあります。
BNPの濃度の測定を希望する場合は、獣医師に相談してみましょう。
血圧測定
循環器疾患になると、高血圧の状態になることも少なくありません。動物にとっても高血圧の状態は全身の器官に悪影響をおよぼします。そのため、血圧の評価が必要です。
血圧測定は、動物が興奮している状態では正確な評価が難しいため、できるだけ安静時に実施されます。
犬と猫の正常な血圧は最高血圧が80〜160mmHg、最低血圧が60〜100mmHg、平均血圧が70〜130mmHgとされています。
血圧測定にはオシロメトリック法を採用している動物病院もあり、尻尾や四肢にカフとよばれるものを巻き付けて測定する方法です。
胸部レントゲン検査
胸部レントゲン検査は、心臓の形・大きさや肺・気管の状態を評価するのに有効です。心不全で併発する肺水腫や胸水は、聴診時に聞こえる特有の音により判断することもできますが、レントゲン検査をすると一目瞭然です。
胸部レントゲンの撮影は、基本的に横向き姿勢の画像2枚と仰向けの姿勢の画像1枚を取ります。複数の方向から撮影することでより詳細な評価が可能です。しかし、循環器疾患の動物は状態がよくない場合もあるため、撮影枚数は適宜変更します。
心エコー図検査
心エコー検査で確認できることは、心臓の内腔・弁膜の構造・動き・逆血流の有無・血流の速さなどです。
一般的には、エコー検査中は動物に横向きの姿勢になっていてもらう必要があります。心臓や呼吸状態が悪い動物にとっては、少し負担になる検査でしょう。
そのため、エコー検査を行う獣医師には、画像描出と評価をすることですばやく検査を済ますことができる検査技術が求められます。
循環器疾患を起こさないための予防策
残念ながら循環器疾患にならないための予防は難しいでしょう。遺伝によるもの、加齢による機能の衰えなどが要因と考えられますが、循環器疾患になる原因は不明だからです。
しかし、循環器疾患を早期に発見できれば、重篤化を防げる可能性があります。循環器疾患は初期の頃はほとんど症状が出ないからこそ、定期的に診察や健診を受け早期発見・早期治療ができるようにしましょう。
動物病院はセカンドオピニオンを受けられる?
動物病院でもセカンドオピニオンを受けられます。
二次診療病院や大学病院などは、紹介状や検査データが必要になるので、かかりつけ医に作成を依頼する必要があります。
かかりつけの動物病院で治療しているけど症状が改善されない場合や、もっと循環器に特化した動物病院で相談してみたい場合などがあれば、セカンドオピニオンを利用しましょう。
まとめ
今回は、動物病院の循環器科の特徴や受診すべき症状などについて解説しました。
循環器の治療を得意とする動物病院や循環器に特化した動物病院があることがわかったのではないでしょうか。
困難とされていた心臓に対する外科手術も、医療の進歩と獣医師の探求により、対応できる病院が増えてきました。
循環器は命に関わる重要な器官です。動物の健康を守るためにも定期的に動物病院を受診するようにしましょう。
参考文献